夕暮れの逃亡者1
パーティの後で、男女が消えた。
そうなると。待っているのは後日おこなわれる、女友達からの尋問。
なんちゃって…。
「で、実際の所はどうなの??リョウ君なの?柴田君なの?」
おきまりのファストフード店。マナが興味津々で、あのクリスマスの出来事を聞いてくる。そんなたいした事はなかったのに、マナのなかでは妄想が広がっているらしい…。
「だーかーらー。何にもなかったんだって。リョウはさっさと帰っちゃったし。」
結局、イケメンは一度もこっちを振り返らなかった。家に帰ったってメールだって、柴田にだけ送ってたみたいだし!
「え~。じゃあリョウくんはやっぱりあの後、誰かと…だったのかなぁ??」
どうもマナの頭の中では、クリスマスは恋人と必ず過ごすものらしい…。
「さあね。あいつはすっごーくモテるらしいからね。」
「そっか~。じゃあ、ゆいの相手は柴田くんってこと?」
なんで?ただの幼なじみですけど…。ていうか、2択で選ばなきゃいけないの??
「ちょっと、マナ。柴田はありえないよ!あたしは、あいつが声変わりする前から知ってるのよ。高い声しちゃって、なかなか声変わりしなかったんだからね!」
「声変わりって…。ヤダ。想像できない。ソプラノの柴田君なんて。」
ランドセルに、細くて長い手足。子供の柴田。真っ黒でサラサラの髪をした、少年だったのに。いつからあんなに大きくなったんだろう?中学の時は、あたしの方が背が高かったのに…。いつの間に、あんな…。
「じゃあ、最初の予想通り中野君?」
「もう…。絶対に誰か選ばせる気?…でも。中野君は、マナみたいな人がいいって言ってたよ。」
わかりやすい人が好きですって、言ってたもん。あたしは胸が無いからね!
「うっそー!でも、中野君なんかダメ。裏がありそう。お母さんが言ってたもん。悪そうな匂いのする男はダメだって。やっぱ、堅実に選べって!自分は失敗してるくせにね!」
笑えない…。マナの家は母子家庭。明るく言うけど、そこは触れにくいよ!
すっかりぬるくなったコーヒーに口をつける。最近あたしは、何も入れないコーヒーを飲むようにしている。結城先生にも、柴田にもコーヒーを通して子供扱いされている気がするから。
「マナ達は、あの後どうしたの?」
「…カラオケ行ったよ。柴田君は店に着く前に帰っちゃったけど。誰かさんの為に。」
誰かさんのところを強調して、マナが意味ありげに笑う。やっぱり、あたしを誰かとくっつけたいのか??
「ウララは?」
「ウララは彼氏がいるでしょ?すぐに帰っていったよ。」
そうだった。彼氏とデートって言ってた。と言う事は…。イッキとペコと、中野君とリーゼントと山崎君で行ったのかぁ。
「なんか、面白い事あった?」
「う~ん。あったけど、教えない!ゆいもなんか怪しいし。」
「だから、なんにもなかったってば!」
「はいはい。」
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「じゃあ、何か進展したら必ず連絡してね!」
「…だから、しませんって。」
店を出て、マナと別れる。働き者のマナは、今日もこれからバイト。コンビニは年中無休、マナは暇さえあればシフトを入れてしまう。あたしはマナを見送ると、あても無く歩き出した。こういう時、彼氏がいる人はいいなぁ。なんて、別にひとりでも平気だけど…。
本屋に寄り、駅ビルで買い物して…。お決まりの買い物コースを回り、適当に買い物をして…家に帰る。手に持った紙袋をブラブラさせながら。でも、なんだか家に帰るにはもったいない。今日はそんなに寒くないし…遠回りして帰ろう。
レンガの並木道は中学生の頃に出来た道で、少し遠回りになるけどちょっとお洒落な感じでお気に入り。夏は日陰になって涼しいけど、冬は少し寒い。今日はずっと歩いていたから体がぬくもっているし、ちょうどいい。すっかり葉を落とした木から、陽が射していて本当に気持ちいい。
しばらく歩くと、向こうに人影が見えた。狭い並木道を、ぶつからないように避けて歩く。
「…。」
直前まで気付かなかった。伏せ目がちに歩いていたあたしは、傍にくるまでその人影がだれか気付かなかった。向こうも驚いたような目でこっちを見ている。
「…。」
言葉が出なかった。だって、横には彼女らしき女の子が立っていたから。よりそうように、腕に小さくつかまった彼女の手。これって友達じゃないよね…。
あたしは走り出した。
別に意味なんか無いけど、家とは逆の方向に向かって走った。行き先なんか決めてない。ただ、この場を見たくない。逃げ出したい。
両腕を振り、陸上競技のように走った。息が苦しい。あたしは…。とにかく走った。




