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チャリンコ☆クリスマス5

全く…。男はどうして、胸の事ばかり言うんだろう??


「そんなに、ないのかなぁ?」


女子校だと、胸の有る無しなんてそんなに気にならなかったのに。胸の大きさなんて、よほど大きい人がいないかぎりみんな気にもしないのに。大きな人はそれなりに悩みもあるわけで、これくらいの方がちょうどイイと思ってた。


「お前。クリスマスなのに、こんな事してていいのか?」


イケメンは前を向いたまま、自転車をこいでいる。クリスマス。そうよ。今日はクリスマスじゃない。こんなところで、何やってるんだろう。こんなクリスマス、イケメンに申し訳ない。きっとイケメンには、デートの相手の1人や2人いたっておかしくない。


「あたしは、どうせ予定なかったから。ここにいなかったら、今頃女同士でカラオケ行ってたんじゃないの?」

「…。」

「そっちこそ。…なんかゴメンネ。せっかくクリスマスなのに。彼女とか、大丈夫なの?」


さっきだって、女の子に囲まれていたし。


「別に。俺んち田舎だから。どうせ、遅くまで遊んでいられねーし。それより、お前。柴田とか、いいのかよ。」

「えっ。何で、柴田の名前がここで出てくるのよ!」


あいつはただの幼馴染だよ。小学生の頃からずっと。


「何でもねーよ。そんな事より飛ばすぞ!」


向かい風が強くなり、自転車の速度が上がった。イケメンはそれっきり黙ってしまった。


日はだんだんと落ちてきて、辺りはすっかり夕暮れ。ハンドルを握るイケメンの手が、少し赤くて寒そう。白くて、骨ばった長い指。あたしとは違う、大きな手。この手がさっき、電車の中であたしの頭に触れていた。なんて…嘘みたい。あたし、今。すっごく貴重な体験をしているのかもしれない。男の人と自転車に2人乗りするのも初めてだし、こんなに密着しているのだって初めてだ。しかも、相手はイケメン。去年のあたしからみれば、夢のような体験だ。


「はぁ…。」


冷静にイケメンの事を考えると、ちょっとだけ辛くなる。イケメンは、どうしてあたし達につきあってくれているんだろう?彼は、すっごくモテる人だ。あたしとは違う。共学クラスで出会っていなかったら、彼はあたしとこんな風に仲良くなる事なんてなかったんじゃないかな。それどころか、話しかけても話すら聞いてくれなかったかもしれない。


見えない壁。


きっとあたしとイケメンの間には、壁がある。今は、彼の気まぐれか何かで仲良くしてもらっているけど…。きっと、あたしとイケメンは住む世界が違うんだ。釣り合わない。イケメンの隣にはもっと、キレイな女の子がよく似合う。今、2人乗りしてくれてるのはここが田舎だからだ。誰も見ていないから。こんな所、イケメンの友達に見られたら迷惑になるよね…。


「ゴメンネ…。」


白い息。イケメンの肩が揺れている。どうして?彼は、一生懸命自転車をこいでいる。あたしのため?それとも、携帯を間違えた責任から?それとも…あたしに早く帰って欲しいから?


「ゴメンネ…。」

「…何が?」

「こんな…ブッサイクな女が後ろに乗ってて!!」

「はぁ??」


自分でも信じられないくらい大きな声で、そう言った。こんな事言うつもりじゃなかったんだけど、つい口から出てしまった。


「バーカ。」

「…。」

「お前、本当におもしろいやつだなぁ。」


思いっきり、イケメンが笑っている。


「心配するな。お前、カワイイよ。」

「な、なにを?そんな冗談を…。」

「顔は美人じゃねーけど。お前。しゃべってる時はそこそこカワイイぞ。表情がコロコロ変わって。見てて飽きねー。」


それって…。褒めてる?けなしてる??でも、美人じゃねーって言ったよね…。


「お前さぁ。最初会った時に、俺の悪口言っただろ?」

「…そうだっけ。」

「何、忘れたフリしてんの?」


だって、あの時はイケメンが超感じ悪かったんだもん。


「お前、俺の事好きになってんじゃねー?」


はぁ!?何をいきなり。ワケのわからない事を!?


「ぜ、全然なってない。あたし、好きな人とか全然いないし。そ、それに顔のイイ人はなんか苦手だし。あたしは、地味に道の隅を歩くタイプだし。」

「はぁ?意味わかんねーの。」


イケメンはそう言うと、また黙って自転車をこぎ続けた。向かい風が冷たい。あたしの顔は熱くてたまらない。神様。イケメンがこっちを見ませんように。通行人が誰もこっちを見ませんように。あたし、今どんな顔してるんだろう?なんで、こんなに顔が熱いの?


あたし、イケメンが好きなのかなぁ?いや。やっぱり好きじゃない。ただ、この特別な状況に心が混乱しているだけだ。今は、2人きり。誰にも見られていない。だから、対等に話せているだけ。あたしとイケメンじゃ釣り合わないんだから…。



自転車の速度が急に落ちた。さっきまで揺れていた世界が止まった。


「木村。」


名前を呼ばれた。イケメンじゃない。声の方を向くと、そこには。


「柴田。」


なんで?なんで柴田がここにいるの?


驚いて、固まったままのあたし。柴田が、イケメンの肩にのせたままのあたしの手を取った。さっきまで、しっかりつかまっていたのに。あたしの手はスルリと解けてしまった。


「リョウ、悪かったな。こいつ、連れて帰るよ。昔から方向音痴だし、迷子になりやすいやつだから。」


イケメンは何も言わず、柴田にあたしの荷物を渡した。自転車の方向をくるりとかえて、今にも帰ってしまいそうだ。


「…リョウ!」


「良かったな。お迎えが来てくれて。じゃ、俺は帰るよ。」


なんて、そっけない。さっきまで、あんなに仲良く話していたのに…。でも、これが現実なのかな。


イケメンの自転車が、走り出す。さっきまであんなに近かった背中が遠い。


「行くぞ。」


柴田はなぜか不機嫌で、あたしの腕を掴んだまま歩きだす。あたしは、ただそれに引きずられるようについていった。なんだかわからない、変な気持ちが胸の中に広がる。押さえつけられたような、不快感。


わからない。どうして、こんなに胸が重いの?こんな複雑な気持ち、面倒だよ…。

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