チャリンコ☆クリスマス2
「メリークリスマース!!」
パン、パン、パーンッ。
一斉にクラッカーを鳴らした。乾いた音と共に紙テープが宙を舞い、薄い火薬の匂いがした。中野君が視聴覚室から拝借したラジカセからは、同じく拝借されたクリスマスソングのCDが流れている。シャンシャンと響く鈴の音が、まさにクリスマス!
「おい、トナカイ。」
トナカイ…。結局、あたしはトナカイのカチューシャをつけている。山崎くんのコスプレBOX。色々入っていたはずなのに、なぜかこれが残っていた。あいかわらず、ペコはネコミミ。イッキは魔女の帽子。マナは、キラキラでっかい蝶ネクタイをかわいく頭につけ、ウララはなぜか妖精のようなスティックを持っていた。
「おい、トナカイ。聞いてんのか?」
あたしをトナカイ扱いする男…。憎きイケメン。ヤツはしっかりサンタの帽子をかぶっている。
「何??」
「あの箱なんだ?」
あの箱…。リーゼントがサプライズって言ってたやつだ。
「後藤君、アレ開けていいの?」
「はい。持ってきます。」
悪魔の角が似合いすぎるリーゼントが、ギャルみたいにミニの帽子(ギンガムチェックにレースのついた)を頭の端につけた中野君と箱を持ってきた。
大きさの割りに軽そう…。
「じゃあ。みんなでせーので開けて下さい。」
みんなの手が箱にかかる…。
『せーの!』
OPEN!
「うわぁ…。」
箱いっぱいに詰め込まれていたのは、小さな風船。開けた瞬間に、ゆっくりと浮かんでいく…。
「昨日用意したから、長くは浮かんでいられないかも。」
リーゼントが言った。
ガスの威力が弱まっているのか、ゆっくりと飛び出す風船。小さくて、頼りなくてカワイイ。
「後藤君。アリガトウ。」
気が付くと、顔が綻んでいた。こんな風に、素直に笑顔になったのはいつ振りだろう?
「カワイー!」
ペコも喜んで、畳の上の風船も拾って宙に投げた。それをきっかけに、みんなで風船投げ(?)が始まった。教室の中。色とりどりの風船が、宙を舞う。拾っては投げ、拾っては…。仕舞いには、ぶつけ合いにまで発展して…。
なんだか。おもちゃ箱。
そう、おもちゃ箱みたいだ。タイプの違うあたし達が、1つの教室に集められているんなんて。ゴチャゴチャしたおもちゃ箱。
チキンを食べ、ケーキを食べ。大きな声で、はしゃいだ。ずっとこんな時間が続けばいいのに…。
でも。
終わりは案外あっけない。タイムリミット。
あんなにキレイだった風船も、パーティが終わるとただのゴミになってしまう…。
なんだか…寂しい。
掃除を終えゴミ袋の口をしばっていると、ウララが近づいてきた。
「委員長。あたし、この後彼とデート。結婚話は保留にしてもらったの。」
「えぇ!それって良かったって言っていいの?」
ウララは無言で頷いている。
「あたし。両方取るの。彼にはもう少し、あたしに合わせてもらう事にしたの。心配しないで。ラブラブなんだから。」
ウララは超笑顔だった。これで、もう心配いらないって事かぁ。恋するウララは幸せそうで…羨ましい!!
「じゃあ、俺先に帰るわ。あとよろしくー。よいお年をー。」
イケメンが、テーブルの上の荷物を持って帰って行った。
『良いお年を。』かぁ。今年は今日で終わりだもんね。楽しい共学クラスも、冬休み明けまでおあずけだぁ。
「ゆーい。この後、恋人いないチームでカラオケでも行かない?」
「…うん!行こう、行こう。」
恋人いないチームって誰だ??ウララとイケメン以外じゃん。
部屋の最終チェックをして、荷物を持ち部屋を出る。
「じゃあ、行こうか!…ん?ゆい。何してるの?」
「…。」
テーブルの上を再度チェックする。
「ねぇ。この携帯あたしのと一緒だけど、何か違う!」
そう。何かが違う。超違和感。
「木村。お前の携帯コレと一緒のやつ?」
「…うん。あたしもストラップ付けてないけど、待ち受け画面違うし…。」
「俺、これ見覚えがある。」
そう言って柴田の口から出た名前は…。
「リョウのだ。」
「えぇー!!」
だってさっき帰ったじゃん。ヤバイ。すぐ追いかけなきゃ!アイツこれからデートでしょ??
「あたし、追っかけて取り替えてくるー!」
荷物を持ち、全速力で走った。きっとまだ追いつける!駅にいるはずだ。
でも。
この時はすぐに追いつけると思っていた。それが、まさかあんな事になろうとは…。




