オトナの思惑コドモの憂鬱1
白くて清潔なベッド。
消毒液の匂い…。
なんて。
保健室ってそういうものだと思ってたのに…。
「コラ。そこの女子。ちゃんとやってるの??」
保健室と言えば…先生。
「結城先生。委員長に厳しくないですか?」
すっかり元気なウララが、笑いながらそう言った。
結城先生。
そうだ、先生そんな感じの名前だった!
良かった思い出せて。
個人的にムカつく中野君は、保健室に荷物を置くとすぐに帰ってしまった。
女子の寝ている保健室に入るのは、失礼だからって。
ウララが元気な声で、お礼を言っていたから彼も安心したと思うけど…。
なんか、ムカつく。
「本当に、心配したんだからね!」
「ははっ。ゴメンゴメン。昨日夜更かししちゃって…。」
ニコッと笑うウララ。
でも、良かった。
中野君の発言で、余計に心配していたから。
「若いからって調子に乗って夜更かししていると、すぐにシワクチャになるわよ~。それで、高い化粧品を買わされるわよ~。あ~恐ろしい。」
先生。
絶対買ってるでしょ…。
『♪♪♪♪♪』
聞きなれないメロディー。
誰かの着メロ。
「あ、来た。」
ウララの携帯かぁ。
「そう。じゃあ気をつけて。」
ん?何が…?
「委員長。ゴメンネ。今日は先生が帰れって言うから帰るよ。」
「えぇ。大丈夫??」
もう少し寝ていた方がいいんじゃ…。
「彼氏が車でお迎えに来てるのよ!」
えっ…。彼氏??
「いたの?彼氏?っていうか、車でって…。」
彼氏って、おいくつですかー!!
「じゃあね。委員長。また来週。」
ウララのスマイル。
驚くあたしをその場に残して、さっさと帰って行った。
「うそぉ…。」
あたし、全然知らなかった。まあ、聞かなかったけどさぁ…。
「お~い。そこの女子。」
「…木村です。」
「コーヒー飲んでいきなさい。」
強制ですか??
「でも、あたし…。」
「飲んでいきなさい。」
強制ですね…。
大人の女はコワイです…。
先生はまた、あたしにコーヒーをいれてくれた。
甘くて、白くて、甘すぎるコーヒー。
「お子様スペシャルよ。」
「先生、あたしこんなのばっかり飲んでたら太ります。」
先生。さっき、砂糖を山盛りにいれてたでしょ?
「そんな、少年みたいな体で何言ってんの。社会に出たらね、目上の人に注がれたら飲まなきゃいけないのよ!」
先生。それは何の話ですか?
あたしは未成年ですよ。
それじゃあ、少女Aになってしまいますよ…。
「じょし…。」
「木村です!」
いい加減に名前を覚えてください。
「木村ちゃんは彼氏いるの?…違うわね。できた事あるの?」
「な、何を失礼な。好きな人がいなかっただけです。」
どうせ、あたしは今まで誰とも付き合った事ありませんよーだ!
「やだ。怒らないでよ、木村ちゃん。私は真面目に話しているのよ。」
「はいはい。」
「…浦沢の事だけど。」
浦沢。ウララの事?
「なんですか?」
先生はじっとこっちを見ていた。
「だから、なんですか?ウララがどうかしたんですか?」
コーヒーを飲み、先生はため息をついた。
大人の女だ。
そう思うようなため息だった。
「木村ちゃんを見ていて思うんだけど。あなた良い子よ。」
「えぇ。いつも先生にけなされていますけど、あたし。」
また、沈黙。
「今から話すこと。誰かにしゃべったら、許さないわよ。」
「えっ!そんなの聞きたくないです。」
浦沢。
先生はそう言った。
ウララの話。
そう言われると気になるじゃない…。
あたしは、好奇心に勝てず話を聞いてしまった。
「あなたが力になってあげて…。浦沢は、誰にも相談できないのよ。」
でも、あたしには荷が重くって…。
「木村ちゃん。浦沢がどうなってもいいの?」
それはひとつの脅迫では…。
「わかりました。でも、あたし…。何も経験ないから。相談なんて…。」
「一生懸命がんばりなさい。それでも無理なら、またここに来なさい。」
先生が笑顔でそう言った。
ウララの悩みは、あたしにはどう解決すればいいかわからない。
恋愛とか、彼氏とか…。
ふと、ウララの笑顔がよぎる…。
あんなスマイルするくせに、心の中では迷っているなんて。
わかんないけど…なんか切ない。
「わかりました。やるだけやってみます。」
「そう。よろしくね。木村ちゃん。」
笑顔の先生。
逆に恐ろしいかも…?
先生と約束して保健室を出る。
「木村ちゃん。誰かにしゃべったら合格取り消すわよ。」
「えぇ!できるわけ…。」
さすがにそれは出来ないんじゃ…。
「私を誰だと思っているの。不祥事ぐらいいくらでも捏造できるわよ。」
お、オニー!!
「じゃあね。木村ちゃん。ベストを尽くしてね。」
はい…。口が裂けても言いません。
でも、これっていわゆる…。
脅迫。
ですよねぇ。




