白い歯と黒い腹2
「ウララ、ただの貧血だって。」
保健室に行っていたリーゼントとマナは、その後すぐに戻ってきてウララの無事を知らせてくれた。
「なんか、寝不足もあったみたい。マナ、すっごく心配して先生に救急車呼んでもらおうかと思ってたのに。でも、ほんとーに大した事なくて良かった。」
みんなそれぞれに、心配していたみたいで暗かった教室の雰囲気がいっきに明るくなった。
「でもさー。本当に良かったよ!俺いなかったから、話だけですっげー心配しちゃったよ。」
そうそう。
男子は、あの場に2人も居なかった。
2人して、初日から遅刻!!
しかも理由が…1年女子に話しかけられていただけなんて。
全く…。
こっちは大変だったのに!
「でもひゃぁ。ゴトー君。王子様みたいだったねぇ。」
「そうそう!マナもびっくり。しかも…。」
「お姫様だっこ!」
そこだけペコとマナの意見が一致したらしく、2人できゃあきゃあ言っていた。
当のリーゼントは…。
「…そんな…当然の事しただけで…。」
正座したまま、真っ赤な顔で答えていた。
そのうえ、
「これで後藤、モテモテじゃね??」
なんて、イケメンに肩を叩かれ冷やかされていた。
「木村さん。どうかしたの?何か…。」
イッキが、あたしの横に座って尋ねる。
…脳裏に焼きついている、あの笑い顔。
「べ、別に。」
でも、そんなこと人には言えない。
何も確かな事はわからないんだから。
「そ、それよりさ~。山崎君って優しいの!心配してたら励まされちゃった。」
イッキの方を見ないで、みんなに向かって話した。
「しかもさぁ~。意外と歯がキレイなの!なんか芸能人かっていうくらい。」
「うっそ~!見せて!」
「やーだー。これ本物??」
みんなの視線が山崎君に向けられ、イッキもそれ以上何も聞いてこなかった。
「歯っていえばさぁ。高橋さんっていつも何か食べてるけど、虫歯にならないの?」
柴田があたしと話す時とは違う、ちょっと丁寧な話し方で聞いた。
「そういえば…。」
イッキがそう言ったまま、みんなが無言になった。
だって…。
女子の間でも疑問だったけど、何か聞くタイミング逃しちゃったし…。
何か聞けないオーラがあるんだよね…。
「え?俺、何か悪い事言った??」
焦る、柴田。慰めるイケメン。
「お前はお母さんか!食べていたって、このスタイルなら文句ねーだろ!」
あ、慰めたんじゃないみたい。
やっぱり、イケメンは優しくない。
思わず注目を集めてしまった女、ペコ。
本人と言えば、気にする様子も無くクチャクチャしていた。
テーブルの下に手を伸ばし、
「はぁい、どうじょ。」
ドンッ。
それは…お徳用ですか?
テーブルの上にのせられたのは…。
赤いふたのついた、駄菓子屋にありような透明なプラスチックの容器。
中には大量の…昆布。
「おしゃべり昆布。」
違う!!
「おしゃぶりだろ!」
「おしゃぶりだよ!」
なんと、イケメンと同時につっこんでしまった…。
ペコは笑って、
「2人は仲良しさんですね~。」
なんて言いやがった!
仲良くないっての!!
「別に、仲良くなんか…。」
「…はぁ?お前が仲良くしたいって言い出したんだろ?」
「それとこれとは、話が…!」
違うわい!!
「まあまあ。」
イッキが、赤いふたを開けた。
「せっかくだから、いただきましょ。」
そう言ってみんなに配ってまわった。
あたしは怒りを昆布にぶつけて、食いちぎった。
「ゆいったら、激しいよ。それより、中野君かわいいの。カミカミしてる~。」
カミカミって…。
伏せ目がちに、昆布を噛んでいる中野君。
長いまつげが、人形のようでカワイイ。
人形のようで…。
「いっぱいあるから、食べてね。ペコはこれで、歯の健康に気をつけてるの。ダイエットにもなるし。」
歯の健康。
ダイエット。
ていうか、ペコ。まともにしゃべれるじゃん!!
「えぇ!ダイエットになるの!」
すぐにマナが食いついた。
マナは、太ってはいないけど胸がデカイ。
本人いわく、体重より太って見えるらしい。
ダイエットという言葉に弱い。
ペコが、口を開けて歯を見せた。
「ペコ、歯科衛生士になるの。それで、歯医者と結婚する!」
これにはみんなが驚いた。
歯科衛生士になりたいのは良いとして…歯医者と結婚って…。
「だから、歯は大事。スタイルも大事。ほんわりカワイクしてなきゃね♪」
笑顔のペコ。
「…女は怖い…。」
「騙されてた…。」
誰かが呟いた。
まったくその通り。
あたし達女子は、今日までペコはカワイイ天然美少女だと思っていたのに!
「なんか…マナ。ショック。」
そうだよね…。
あたし達、男の子の外見ばかり気にしていたけど…。
ペコの野望?の前では、みんなお子様だ。
結婚するには、顔より…。
アレって事だよね。
なんだか、イケメンの顔が誰よりも引きつって見えた。
「…あのぉ。僕の家、歯医者なんだけど…。」
えぇ!!
みんなの注目が集まる。
そこには、汗を拭きながら困っている山崎君がいた。
きっと今。
女子の頭の中では、色んな事を考えているはず。
アリかナシか…。
なんて、葛藤。
顔より、経済力。
そう思えるようになったら、大人なのかもしれない。
みんながどう思ったか、知らないけど。
あたしは…。
って、恋愛禁止だからね!!