白い歯と黒い腹1
10月7日に最後の部分を書き直しました。それ以前に見た方、スミマセン。
茶道教室前。
あたしは深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
つまり深呼吸。
緊張しているワケじゃないけど、なんとなく…ね。
今日は、やっと全員揃う日。
マナには先に教室に行ってもらっているから、遅刻者がいない限り全員いるハズ。
でも、いなかったら…。
「そこの女子。百面相って言葉を知ってる?」
「はぁ?」
振り返るとそこには、保健の先生。
そういえば、あたし先生の名前知らない。
たしか去年やってきた新米だったような…?
「知らないの?百面相。今のあなたにぴったりの言葉よ。」
「…嘘!」
思わず両手で顔を覆う。
あたし、今そんなにコロコロ表情変えてたの??
「いいじゃない。若いんだから。」
「先生だって、じゅうぶん若いと思いますけど。」
いつだってキレイに化粧されているし。
長くて茶色い髪だって、いつもツヤがあってパサついていない。
地味だけど、派手。
「当然じゃない。いくらかけてると思ってるの?高いわよ。…そんなことより、あなたどうなったの?このクラス。」
「え。えぇっと。大丈夫です。みんなに、あたしの気持ちを話したらOKくれました。みんな共学クラスをやってくれるって。」
「そう。よかったじゃない。じゃ、コレ。」
先生はそう言って、1冊のノートを差し出した。
何の変哲もない、横書きのノート。
「今日から、何でもいいから書きなさい。話し合った事とか…。あと、思い出の写真とか貼ってもいいわよ。何でもいいのよ。頼んだわよ。」
何でもいいから書くノート?
「何で、先生がそんなの頼むんですか?」
くるりと、背を向けて帰っていきそうな先生に聞いた。
だって、先生は保健の先生なのに…。
「あ。違うわよ。頼まれたのよ。千葉に。暇だったから、持ってきてあげたの。それだけ。じゃあね、先生も用があるから…。」
なんじゃそりゃ…。
「先生。神出鬼没って知ってます?」
「…何が言いたいの。」
「いえ。思いついただけです。」
カツカツカツ…。
ヒールの音を響かせながら先生は歩き出した。
「私は神なのかしら?それとも…。」
なんてブツブツ言いながら、今度こそ帰って行った。
あたしに1冊のノートを残して…。
「お~い。おはよ~。」
「ウララ~。遅刻だよ~。」
ウララが手振りながら走ってきた。
「ぎゃああ!!」
走ってきたウララが、急にあたしに飛び込んできた。
いくらウララが、スキンシップ好きっていっても…。
こんな激しく押さえ込まれるなんて…。
「…?ねぇ。ウララ?ちょっと…。」
ウララの顔色が変だ。
なんだか血色が悪い。
「ウララ。ねぇ、大丈夫??」
返事がない。
「ちょっとー!!だれかー!!」
すぐそばの教室に向けて叫ぶ。
スキンシップなんかじゃない。
ウララは、あたしに倒れこんでいる。
すごく、具合が悪そう。
教室のドアが開き、中からみんなが出てきた。
「どうしたの?って、ゆい。何コレ。」
マナが駆け寄る。
「ウララ!どうしたの?」
「わかんない。さっき、ここまで走って来たのに…。」
イッキとマナが、あたしの上に乗ったままのウララを抱き起こそうとした。
その横で、ペコはウララの荷物をどけていた。
「とりあえず、先生呼びに…。」
イッキとマナでウララを抱き起こす事はできたけど、動かないウララをこれ以上女の力じゃ動かせない。
「俺。運びます。」
リーゼントが、真剣な顔でそう言った。
「俺、力には自信があるんです。大丈夫です。」
あっというまに、ウララを抱きかかえた。
「後藤君!こっちよ!」
マナが走ってリーゼントの前に行き、保健室に誘導した。
残されたあたし達は、ウララの荷物を拾い教室に戻った。
心配だけど、今は何も出来ることがない。
「きっと貧血よ…。ねぇ、ゆい。」
あたしはただ、頷いて畳の上にペタンと座り込んだ。
「い、委員長さん。し、心配しなくてもきっと大丈夫ですよ。」
今日、山崎君が初めてしゃべった。
顔をあげて山崎君を見た。
「本当に?」
「ほ、本当です。」
山崎君が初めてしゃべった。
すごくがんばって、口角をあげていた。
ガチガチに緊張した笑顔。
変な顔。
でも、優しいスマイル。
「あ、山崎君ってすごく歯がきれいなんだね。」
「ははっ。」
やっぱりガチガチの笑顔だ。
笑顔…。
笑った顔。
ふと、よみがえった記憶。
さっきのは、何だったのだろう?
ウララが倒れて、みんなが教室から出て来た時。
ひとりだけ異質な空気。
すぐに手で口を覆ったけど…。
冷たく笑った口元が、指の間から見えていた。
何故?
見間違い?
いや、はっきり見た。
みんなの一番奥にいて、笑いを堪えていた人が…。