戦う委員長と6人の…5
駅前。大型書店。
入り口から入り、エスカレーター付近で立ち止まる。
アニメのフロアは…。
案内板に従い、エスカレーターで5階まであがる。
「あたし、5階までくるの初めてかも。」
いつも、放課後はだいたいマナと過ごしている。
駅前のファストフードや、ショップをまわって買い物したり…。
ここでは、1階で雑誌を見たり買ったりするだけ。
受験前に、チラッと参考書を見に2階へは行ったけど。
5階って、なんかスゴそうなんだよね…。
って。いかん、いかん。
偏見は良くないのだ!
「!!」
エスカレーターが4階を過ぎると、雰囲気が一変した。
知らないけど、有名なのであろうキャラクターのでっかいポスター。
一度も聞いた事ない、甘い歌声のメロディー。
引くな!あたし!
「イッキは、こういうのわかるんだよね…。」
「だいたいは…。」
やたら胸のデフォルメされた、女の子のキャラクター。
ありえないくらい、派手な制服。
背中に翼の生えた人間。
男も女もこれでもかっていうくらい、美形。
「あ、これイッキのイラストに似てる…。」
繊細なライン。細部にまで、細かく書き込まれたイラスト。
「よく見ると、スゴいよね。あたしには絶対、描けない。」
感心してしまう。
「それより…木村さん。ちゃんと探してます?私は、彼の顔を知らないのよ。」
あ…。
そうだった。
イッキはあの日来てなかった。
「えっとねぇ。男子部の制服で、メガネ。で、ぽっちゃりしてる人。いたら呼んで。」
他に手がかりは…ない。
「…ずいぶん大雑把なんですね…。」
「ははっ。」
笑って誤魔化す。
「でも、大丈夫かしら?」
「何が?」
「彼は、私達に心を開いてくれると思う?そう、簡単にはいかないかも…。」
口を尖らせていた山崎。
あの場でずっと、不機嫌だった。
疎外感とか、感じていたのかなぁ…。
「…イッキは何でOKしてくれたの?まさか、イケメンに恋を!!」
「ちょ、ちょっと!!…違います。」
イッキはまた顔を赤くしながら、答えた。
「私は絵ばっかり描いていた、暗い子供だったから…。男の子は、そういう子に意地悪するものでしょ?だから、苦手だったの。私は静かにしているのに、勝手に寄ってきて意地悪していく…。本当に理不尽。でも、あの佐伯君は優しく接してくれたから。あんなにカッコイイのに…。」
大人しい女の子。
それをからかう男の子。
そんなの、よくある話で想像するのは容易だ。
あたしだって、似たようなものだったんだから。
イケメンの優しさが、本物かどうかはこのさい置いといて。
カッコイイ男の子に、優しくされることもなんてないよね…。
だから…イッキの気持ちが…少しわかって、切ない。
「女子だって、こういうイラスト描いていたら変な風に言うでしょ。好きな人は好きだけど…ね。私達は、アニメの嫌いな人の事悪く言わないのに…アニメに興味ない人は私達をみると気持ち悪いって…。心無い事言うのよ…。」
うつむきながら、話すイッキ。
「でも、木村さんはそんな事なかった。油絵も、イラストも両方を褒めてくれた。憶えてる?あの日。木村さんは私のイラストの前で、記念写真撮っていったのよ。そんな人、初めてだったわ。」
文化祭の日。
あたしは、いろんな所で写真を撮っていた。
イッキのイラストの前でも、写真を撮った。
でも、そこまで思われていたなんて気付かなかった。
だって、デジカメじゃん。
失敗しても、いらなくなってもすぐに消せる。
軽い気持ちで、シャッターを切っていた。
限りあるフィルムだったら、あの場で写真を撮っていただろうか?
いけないなぁ、便利って…。
いろんなものを軽くしてしまう…。
「そ、それじゃ…。あたし良い人みたいじゃない。違うわよ…。あたし…。」
あたしは、良い人なんかじゃない。
だから、山崎くんも逃げていったんだ。
「実はすっごく腹黒いんだからね!!」
力いっぱいそういうと、イッキが笑い出した。
ツボにでもはまってしまったのかしら…?
「ははっ!そんな事…。自慢げに言う人初めてよ!木村さんっておもしろい!」
笑顔のイッキ。
複雑なあたし…。
いけない、こんなことしてる場合じゃ…。
「そ、そんなことより。山崎君!絶対捕まえてやるんだから!ねぇ、イッキ。あたし思いついた事があるんだけど、どう思う??」
アニメのフロアで騒ぐ女子高生。
周りはどうみているかしら?
あたしは、この雰囲気に便乗して、突拍子も無いことを思いついた。
「…木村さん。そんな勇気あるの?」
「だから一番簡単で、山崎くんの心を掴めそうなやつ。何かない??」
「だったら…。」
イッキに連れられ、アニメグッズのコーナーへ。
その中から、イッキに教えてらったものは…。
「これ??まぁ、これが一番簡単で、恥ずかしくないか…。よし。出直すわよ。これを探しに行かなきゃ。」
あたし達は、また走り出した。
あれをゲットして、山崎くんをゲットしなきゃ…ね…。