戦う委員長と6人の…4
「さて…。」
残りの4人を数えてみる。
ウララに柴田、かわいい何とか君と、山崎君…。
ウララは簡単にOKしてくれるだろうから…。
残りは男子かぁ。
どこにいるんだか、見当もつかない。
窓の外を見る。
ここは、女子の校舎の一番端っこ。
その向こうは大学の校舎。たしか、研究室だかなにかで人通りが少ない。大学生が女子高生と接触しない為らしい…。
そこを越えると男子の校舎。
今まであたし達は、この大学の校舎というベルリンの壁に遮られていたのだ。
それが、やっと崩壊する。
あたし達はそれを見る事はないけれど…。
「おい。お前、絶対ワザとだろ?よくもそこまで、俺の存在を無視できるな。」
あ…。そうだった。
「イケメン…。まだいたの?」
せっかく、窓の外を見てたそがれていたのに…。
「あれ。ベルリンの壁見てたの。」
窓の外を指差す。
フェンスとその向こうの大学の校舎。
レンガ造りみたいな、オレンジ色。
カチャリ。
冷たい風が吹き込む。
イケメンが窓を開けたのだ。
「ベルリンねぇ。でも、それって古い話だろ?」
確かに、古い話。
「ずっと、そう言われていたんだって。ここは、ベルリンの壁が崩壊する前からあったんだから。みんなが、そうやって呼び続けたんじゃないかな。」
窓から風が吹き込む。前髪が冷たい風にさらされて、ぐちゃぐちゃになってしまう。
横のイケメンを見上げたら、やっぱりイケメンだった。
サラサラとゆれる前髪、色素の薄い髪色。
コイツの容姿は、グチャグチャになることなんて知らないんだろうな。
あたしとは違う、選ばれた人間だ。
こんな事でもなければ、2人で話す機会なんてなかったハズだし。
「…山崎君。どこにいるか知らない?あたし、謝るっていうか…。話がしたいんだ。」
きっと、山崎君もあたしと同じ。
選ばれたことのない人間。
傷つきたくないから、先に逃げ出す…。
そうやって、やってきたんじゃないかなぁ。
「2次元の世界じゃねーの。」
窓を閉めながらイケメンが言った。
「あのねぇ。こっちは真面目に聞いてんの!漫画の中にどうやってはいるの!バッカじゃないの。」
人が真面目に話していたのに!!
やっぱり嫌なやつ!
「バカってなんだよ!お前の方がバカだよ。よく考えろよ!漫画の中ってどういう事か…。」
カチャリ。
「もう。俺、知らねーからな。自分で考えて下さい。賢い委員長サン!」
窓の鍵を閉めると、イケメンは廊下を歩きだした。
こちらに背中を向けたまま、手を振りながら。
残されたあたしは…。
「何よ。漫画の中って!」
イケメンにイラっとしながら、腕を組む。
漫画の中…。
訳がワカラナイ。
「ていうか、これってヒントなの?アイツの言う事、信じていいワケ??」
イケメンの去った方向を見ながら、一人呟いた。
漫画…。まんが…。
漫画…。おたく…。
「あ、アニメ!アニメのイラストと言えば!」
いるじゃん!すぐ近くに。あれは絶対アニメのイラストだったハズ。
さっき出てきた美術部の扉を、また開ける。
ガラガラガラッ。
「イッキー!ちょっと、お願い。」
勢い良く開けたせいで、美術部員さんを驚かせてしまったみたい。
イッキが、顔を赤くさせながらダッシュで出てきた。
「き、木村さん。声。大き過ぎ!目立つ!!」
再びイッキを連れ出して話を聞く。
彼女は去年の文化祭で、多数の絵を出展していた。
美術部としての油絵、そしてイラスト部からの…。
「イッキさぁ。アニメ好きだよね。文化祭のイラストもアニメのやつだよね??」
「う、うん。そうだけど…。」
「教えてほしい事があるんだけど…。」
この辺りで漫画の世界に浸れる場所。
きっと、山崎はそこに出入りしているはず。
最近、アニメブームだし。
きっとどこかにアニメ好きの集まる場所が…あってもおかしくないなかぁって。
「それだったら…。駅前の漫画喫茶か、その近くの大きな本屋さんあるでしょ?そこのアニメコーナーかとか。…描く人だったら、その上の階の画材コーナーとかも出入りしているかも…。」
どっちにしても、駅前かぁ…。
「イッキ。行くわよ。」
「え?まさか、今から??」
行く。決めた。あたし達は自由なんだから。
今から帰ったって、いいじゃない。
「行こう。寂しがりやのオタクを助けに行くのよ!イッキ、学校サボった事ないでしょ?あたしもないのよ…。一緒に行ってくれない?イッキだって今日、男としゃべれたでしょ?今日探しにいくオタクも女が嫌いって言うの。絶対嘘よ!」
なんだか、支離滅裂。
勝手にヒートアップしていくあたし。
昨日の山崎君の事を、イッキに説明し続けた。
…イッキはあっけにとられてみていたけど。
でも…。
「わ、私。彼の気持ちわかるかも。上手く話す事はできないけど…。木村さん。なんか、これって現実じゃないみたい。私が学校サボって男の人を探しに行くなんて…。」
あたしはイッキの腕をつかんだ。
「じゃあ、カバン持って玄関に集合ね!!」
2人で、大きく頷いた。
気分はアニメの登場人物??
なんて、おおげさだけど。
真面目なあたし達には一大事。
『学校から抜け出そう!』
カバンを持って、マフラーを風になびかせて。
息は白くて暖かい。
軽くなった足で、走り出す。
あたし達はまだ高校生だ。
街の中を走り抜けても、きっと大丈夫。
恥ずかしい事なんて、まだ知らない。
やっと走り出しました。
下手くそですが、感想頂けたらとってもうれしいです。