戦う委員長と6人の…3
美術部の教室前。辺りは静かだった。
中の様子がワカラナイ。
「ちょっと、失礼しますよ…。」
教室の後ろの入り口。
ドアを少しスライドさせて、中を覗く。
1人…、2人…、3人…。
イッキは…、いた。
大きなキャンバスの向こうに、イッキの後ろ頭が見える。
「すごく、静かなんだけど…。お邪魔しま~す。」
ガラガラガラ。
出来るだけ、静かに開けた…。つもりだったのに、古い校舎のせいでしっかり目立ってしまった。
ま、いっか。どうせちょこっとしか人はいないんだから。
「あの。本城さんに用があるんですけど…。」
誰にってわけじゃないけど、とりあえず数人のみなさんに呼びかけてみる。
そのうちの一人がイッキの方を指差した。
入ってもいいけど、こんな静かなところじゃ話もできないし…。
イッキがこっちを見た。
あたしに気付いたみたいだ。
右手で手招きをする。
こっちに来てもらった方が、話しやすそうだ。
「木村さん…。」
イッキを廊下に連れ出す。
あたしはこの人を説得できるのかしら…。
「あのね、話があるんだけど…。」
イッキに話をしようとした時、急にイッキの表情が変わった。
なにか、驚いたような。
視線をたどって、振り返る。
「初めまして。」
イケメーン!!さっき別れたつもりだったのに、奴はあたしの後をつけてきていたらしい。
「は、はじめまして…。」
イッキは真っ赤な顔でイケメンを見ていた。
それもそのはず。
イケメンのやつ、見た事ないような超笑顔。
白くてつるんとした肌。サラサラと日に透ける色素の薄い髪の色。
大きな目を少しだけ細めて、好意的な笑顔を振りまいていた。
こいつ…そんな顔できるのかよ!
「き、木村さん。こちらは…。」
イッキは真っ赤になりながらも、一生懸命に会話していた。
「僕の名前は、佐伯リョウです。木村さんと同じ共学クラスのメンバーです。あなたが昨日も今日も現れないから、心配になってしまって。木村さんに無理を言って、ここまできたのですよ。」
…??
こちらのイケメンさんは誰?
あたしの知ってる、性悪イケメンと同じ人なのかしら??
何これ?演技?
怖い!!このイケメン怖い!
「わざわざ、ゴメンナサイ。私…。知らない人が苦手で…。特に、男の人が苦手で…。」
笑顔で首を振るイケメン。今日は本当にイケメンだ。
笑顔のまま、イッキに右手を差し出した。
握手しろって事らしい…。
どうする?
どうする、イッキ!
恐る恐る、イッキは右手を出した。
そっとイケメンは両手で、イッキの右手を包み込んだ。
「よろしく。これで、僕はあなたの知らない人ではないでしょう?これからゆっくり友達になりましょう。大丈夫ですよ。僕達は友情を求めているんです。共学クラスは仲良しクラブみたいなものです。それに、恋愛は禁止なんですから。」
さっきからイケメン、別人のような話し方なんだけど…。
あたしは漫画のワンシーンを見ている気分だった。
「僕達は友達になれますよね?」
イケメンはイッキの手を、まだ話していない。
イエスと言うまで逃がさないつもりなのかしら??
「は、はい。お友達ですよね。わ、わ、私。がんばります。明日からちゃんと行きます。」
イッキは真っ赤な顔で、何度も頷いていた。
あたしはなんだか、イッキに悪い事をしたような…少し罪悪感。
「待ってますよ。今度はあなたの絵を見せてくださいね。絵が得意なのでしょう?木村さんから聞いていますよ。」
イケメンはイッキにOKをもらうと、手を離した。
真っ赤な顔のイッキは小さな声で、別れを告げて教室に戻っていった。
しかし。
「コラ。あたしイッキの絵の話なんてしてないけど。」
「はぁ?お前ここ、美術室って書いてあんじゃん。美術室に下手くそな奴が来るかよ。もう少し頭つかえよ。」
確かに。
こいつ、なんなんだ。
顔だけのイケメンだと思っていたのに…あんな顔できるんだ。
「ていうか、ホラ。何かないのかよ。」
「何かって何?」
「お礼だよ。お礼。今、聞いただろ?明日から来るって。」
う…。確かに、イッキは明日から来るって言った。
それも、多分イケメンのおかげ…みたい。
「…ザイマス。」
「はあ?聞こえね~。」
「ドウモアリガトウゴザイマシタ。」
悔しいから、感情入れないでしかも高速で言ってやった。
「素直じゃねえの。」
うるさい。このイケメン!
でも、おかげで残り4人。がんばりますわ。