戦う委員長と6人の…1
共学生活二日目。
千葉ちゃんへの報告に向かった、あたしの足取りは重かった。
「あたし……。自信がありません」
昨日はがんばろうって思った。
でも、何をがんばればいいかわからない。
うつむいたまま、千葉ちゃんとはなすのがやっとだった。
「木村。そんな事はないぞ。お前だから任せたんだ」
あたしの目を見ながら、熱心に話す千葉ちゃん。
「そんな……。自信ないです、あたし」
「お前もっと軽く考えていいんだぞ。活動の報告だって、毎日しなくてもいいから。お前達は自由登校だろ?先生の顔色を伺うことはないぞ。自分達のやりたいようにやりなさい。」
肩を落としたままのあたし。
先生はどうしてこんなに、あたしを励ますのだろう。
あたしはただ、地味で真面目にやってるだけ。
自由、自由って……そっちの方が難しいよ。
ふと、昨日の先生の事を思い出した。
強引だけど、説得力のある言葉。
『主人公になって頑張りなさい。』
主人公??
こういう時、主人公ならどうする??
「わかりました。」
あたしの一言に驚いたのか、千葉ちゃんは目を見開いた。
「自由でいいんですよね。だったら、仲良しクラブみたいなノリでもいいんですか?」
「ん?」
「悪い事はしませんが、為になる事もできませんよ。」
「あ、ああ。それでもいいぞ……」
「わかりました。では、失礼します。」
千葉ちゃんに一礼して職員室を後にする。
為にならなくてもいい。
仲良しクラブでいい。
それなら、気負わなくていい。
あたしは、茶道教室に向かって歩き出した。
「……これでよかったのか?でも、本当の目的なんて知ってても言える訳ないだろ……。」
あたしの後姿を見つめながら、千葉ちゃんが呟いた。
この時のあたしには何も聞こえていなかったし、それが何の事かなんて知らなかった……。
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「さぁて。何から始めようかしら…。」
すっかり、主人公気取りのあたし。
期待をこめて、教室のドアを開けた。
なのに……中にはただひとり、リーゼントだけが正座して待っていた。
「おはよ~。」
「お、おはよう。」
沈黙。
「きょうは……。」
話し始めて気が付いた。
彼の名前なんだっけ?
リーゼントとしか、記憶してない……。
「何ですか?」
いや、だからリーゼント君。
きみの名前忘れちゃったなんて、失礼かしら??
「あのね、リーゼン……」
言いかけて、口を手で覆った。やっぱ、リーゼントなんて呼んじゃ……やばいよ、ね。
「え?後藤ですけど。リーゼントって言いました?」
あ、そうそう。思い出した、後藤英二。
「え。いやぁ……。何でもないよ……。後藤くん。今日は他の人来てないの?」
白々しく、教室を見渡す。何度見ても、結果は同じなんだけど。
「佐伯はいつも遅いから、まだ来ないと思うっス。残念ながら、あとは誰の事も知りません」
そうだ、柴田。サボったな!
リーゼントはピンと背筋を伸ばし、はきはきとあたしの話に答えていた。
なんて、好青年。親が厳しいって本当かも…。
高音の笑い声と共に、ドアが開いた。
あの声はマナかな?
「ゆ~い。遅れてごめんね~。ペコも連れてきたよ。朝の電車で一緒になったから、そのまま捕獲しちゃった。」
「みゃ~」
ペコがマナに連れられてやってきた。捕獲の言葉が気に入ったのか、ペコは謎の鳴き声をあげていた。
これで、残りは6人。
「ウララは?」
彼女は、遅刻と早退の常連。
でも、このクラスには来てくれそうな気がしていたんだけど。
マナもペコも知らないのか、首を振るだけ。
ウララは相変わらずマイペースってことか。
しょうがない。
今日はこのメンバーで始めようか。
あたしは、軽く座りなおして姿勢を正す。
一応、代表って事で話を始めた。
「今日は、みんなに提案があるの。このクラスの事なんだけど……。せっかくだから、仲良しクラブみたいなものにしない?なんていうか、せっかく出会ったんだし。終わりにするのもったいないじゃない?」
憧れの共学生活。
女子校生活で、何度か思ってたはず。
共学だったらよかったのになって。
「でも、恋愛は禁止。そういう目で見るとダメになると思うから……。昨日、山崎君の話を聞いていてそう思ったの。そういう目で見るから、嫌な思いをする人がいるんだって。いいじゃない。色んなキャラの人がいて。だって、10人の仲良しグループなんてすごくない?絶対、楽しいって」
友達は何人もいても、本当の友達なんてほんの少しだ。
まして、人数多い時はすぐバラバラになってしまう。
10人で仲良しである事は、絶対楽しいはず。
「OK!わかった。マナもゆいに賛成。恋愛は大学まで我慢する。それか、他でみつける!」
手を振るマナ、ペコも笑顔だ。
「ペコもさんせー。女子校も楽しかったけど、退屈だったもん。」
恋愛禁止の仲良しクラブ。
あ、リーゼントに悪かったかしら??
恋愛禁止なんて。
「お、俺も……。」
賛成してくれた、リーゼントに横で呟いた。
「恋愛禁止は卒業までだから。」
後はあなた次第だよって。
リーゼントはあっという間に真っ赤になってしまった。
「いいんちょーに恋でもしちゃったの?」
ひとり気付いていないペコが言った。
何だか可笑しくて、みんなで笑った。
「じゃあ、あたし。他のメンバー説得してくるね。」
全員揃わなきゃ意味がない。
揃わなきゃテンション下がっちゃう。
「後藤くん。山崎くんの行きそうな所教えて。」
キモイとか、もう思いたくない。
きっと話せば、仲良くなれるはずだ。
あたしが最初に、山崎くんの魅力を見つける。
絶対、全員集めてやるんだから!!