甘い制服と白衣のブラック
「はぁ。」
ため息。さっきから、ずっとため息をついている。
なんだかおかしな事になっちゃった……。
「ちょっと、委員長言い過ぎちゃったみたいね。」
「ウララ……。」
「ああいう見た目のいい子は、意外とデリケートかもよ?女の子にキツイ事なんて、言われ慣れてないんじゃないの?」
「そうなのかなぁ?」
でも、なんかそれってムカつく。
「いいなぁ。ゆい。イケメンと仲良しになって。リョウくん、マナの事ちゃんと見てたかなぁ?」
恋するマナ。
あぁ。やばい。
マナが恋愛モード!
「い、いやぁ。仲良しじゃないよ。ケンカよ、ケンカしたのよ?嫌いなもの同士のケンカよ!」
「うそ~。じゃあリョウくん、ゆいよりマナの方が好きかなぁ?」
えぇ?
そんなの知らない……。
恋するマナは、正直面倒くさい。
友達だけど、時々ウザって思う。
マナは恋をすると、とんでもなく妄想狂。
相手に電話が繋がらなかったくらいで、浮気だとか嫌われただとか……。
とにかく大騒ぎする。
「おい。木村!どうするんだよ。リョウの奴、本気だぞ、絶対。」
「しーばーたー。どうしよう?」
幼なじみなら助けてよ!なんて、こういう時だけ頼っちゃう。
手を合わせて柴田にお願い。
「えぇ!知らねぇよ。でも、あいつすっげーモテるから。お前なんて一発だよ。バレンタインだって、駅で何人に告られたことか……。」
駅で告白。
イケメンの奴、なんてうらやましい。
あたし達が議論をしていると、山崎君が負のオーラ全開で話しかけてきた。
「あの……。もういいですか。僕は先生に言われてるからここにきているだけで、用が終わったなら帰りたいのですが……」
山崎くんの一言で、なんとなく場がシラけた。
言われているからここに来ているだけ。
そうだ。
最初からそうだった。
あたし達、なにをはしゃいでいたんだろう。
「それと……。僕は、もう明日から来なくてもいいですよね。どうせ、いてもいなくても同じだし……というより、いない方がいいでしょうし。」
山崎君はメガネのフレームに右手を掛けたまま、下を向いてしゃべり続けた。
「先生も、強制じゃないって言ってたし。僕は女子が苦手なんです。好き勝手にしゃべるし。ぼ、僕の事だってキモイとか……お、思ってるだろう……し。僕は家で大人しく、2次元の世界にいた方が……楽しいんです!」
汗を流しながら話す山崎君、顔はどんどん赤くなっていった。
山崎君は、言うだけ言ってそのまま出て行った。
「なんだあいつ……。そこがキモイんじゃね?つか、面倒くさい。俺も帰ろー。」
柴田も出て行こうと、カバンを掴んだ。
「ちょ、ちょっと待って!これって強制じゃなくて自由って本当?」
山崎君……確かにそう言ったよね。
「そうだよ。リョウは先生に借りがあるから、強制みたいなもんだけど。あとの真面目なやつらは先生に頼まれただけ。じゃ、俺行くわ。」
柴田は後姿のまま、手を振り出て行った。
ひとり、またひとり。
口実を見つけては出て行った。
最後にあたしとマナが残ったけど、「バイトがあるから。」というマナを帰らせてひとりになった。
あたしは山崎の発言が引っかかって、そのまま何もできずに座り込んでいた。
「今日が最後になるのかなぁ……」
……憂鬱。
……あたしバカみたい。
ずっと女子校で、共学に憧れてたのに。
共学なら見た目だけじゃなく、性格で勝負できるとか思ってたのに……。
結局は見た目で判断しちゃって……山崎君に悪い事しちゃったなぁ。
彼は、何もしていない。
ただ、そこにいただけ。
なのに。
あたしも思ってた『キモイ』って。
山崎君は2次元の世界にいた方が楽しいっていってた。
平面の世界。
アニメの事かしら??
でも、それって作り話じゃん。
現実で楽しい事……探さないのかなぁ。
思い出とか……。
欲しかったなぁ。
マナだって、これに参加できてうれしいって言ってたのに。
「あ~もう。全然うまくいかないよ~!」
なにもかもバラバラ。
あたしは何もできず、叫んでいた。
「いいわね~。青春。」
誰もいないと思っていた教室から、声が聞こえた。
「誰?」
入り口に立っていたのは、女教師。
白衣の……保健の先生。
「ポットの回収に来て上げたわよ。ついでに冷やかしてやろうと思っていたのに……。残念だわ。」
冷やかしにって……。
保健の先生は、いわゆる大人の女ってかんじの人。
いつも白衣で、胸元には小さい石の付いた本物っぽいネックレス。
きっと男子がいたら、大人気。
その分、ケバイって女子には嫌われているけど。
「そこの女子。コーヒー作ってあげるから、飲みなさい。」
先生はブラックのコーヒーを、あたしにはやたらと白いコーヒーを作ってくれた。
「おこちゃまスペシャルよ。ぞっとするくらい砂糖も入れてあるから。あなたにお似合いよ。」
「そんな……。」
「いいじゃない。甘いの好きでしょ?私は甘いものが嫌いだけど。」
和室でコーヒータイム。
畳と制服と白衣。
なんだか変な組み合わせ。
「あなた。どうするの?」
ドウスルノ?って言われても……。
「何がですか?」
「このクラスの事よ。やるの、やめるの?」
「やるとか、やめるとか……。あたしひとりが決めることじゃないし……。」
あたしはなんとなく気まずくて、うつむいた。
「あなたが決めるの!」
ビシッ。
「!!」
先生は、人差し指をあたしのおでこに突き刺しそのまま持ち上げた。
「自分の事は自分で決める!ひとり、ひとりが自分で決める。そして、やりたいならやればいい。やりたくない人がいたら、やりたくなるように自分が動きなさい。」
先生は、真っ直ぐにあたしの顔を見ていた。
「でも……。」
「で、も、じゃ、な、い。」
ツンツンツンって人差し指で、あたしのおでこを叩く。
「やりたくないの?」
「……できるなら……やりたい……かもしれません。」
先生は、あたしのおでこから指を離した。
「よし。決めたわ!あなたは、あたしに選ばれたのよ。卒業まで、このクラスの主人公になって頑張りなさい。」
先生は自分の発言に満足したようだった。
ウンウンって、何度もうなずきながらしゃべっていたから。
「きっとみんな、心の底ではあなたと同じ事を思っている。でも、素直になれないだけなのよ。いいわね、あなた。やりたいって言ったんだから、やってもらうわよ!」
「そ、そんな……。」
ポンって先生が、あたしの肩に手を置いた。
いってる事が無茶苦茶だ。
「きっと上手くいくわ。それにうまくいったら、みんな幸せじゃない。」
みんな幸せ。
そういえば……。
マナは「うれしかった。」って言ってた。
あのサボってばっかりのウララだって、ちゃんと来てくれた……。
「先生。あたし、やってみます。」
先生は、にっこり笑ってくれた。
「やっぱり、あなたは素直ね。単純な人に悪い娘はいないわよ。」
最後の一言がちょっと気になるけれど……。
あたし、がんばってみる!!
あたしは純粋にそう思った。
でも、あたしはすっかり忘れていた。
イッキの事も、イケメンとの変なやり取りの事も……。