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三の段

「おいおい、またもや面倒くさいのに捕まってるじゃねえ〜か〜。本当に俺のこと崇め奉った方がイイぜ、俺ってばカッコイイ〜」


おどけたように相良先輩は私にそう言った。

自分で自分を褒めるところがやっぱり相良先輩だなぁと思うけど、今回は、いや今回も本当に助かったと感じている。


「……ホント、相良先輩様様です。ありがとうございます」


素直に私が頭を下げてお礼を言うと


「っは! 何かしこまってるんだよ。あれ〜もしかして俺に惚れちゃった? おいおい俺に惚れるとヤケドするぜぇ〜〜」


うん、安定の相良先輩だわ。


「あ、惚れてはいないんで大丈夫です」


私のあまりに早い否定の言葉に相良先輩は


「おい、そこは嘘でも『相良先輩、カッコいい! 惚れちゃう〜』って言うところだろう? 」


とおどけて見せてくれる。

先輩はいつもそうやってサラッと助けては、助けた人の負担にならないようにしてくれているって最近になって気付いた。

なので私はそんな先輩の行動に、先輩が望んでいる態度で返す。


「あ、ハイ。…………わあ、センパイカッコイイ、ホレチャウ〜〜」


「あ〜〜、うん、アレだな、嘘で言われてもまったく嬉しくないことが判明したわ。お前、そのクネクネした感じでそのセリフ言うのヤメろ」


先輩はそう言うと私の頭に手を置いて、髪の毛をグチャグチャにした。

そして何もなかったかのように


「んじゃ、部活行くか。ちょっと遅れちまったから走るぞ! ほれ、荷物貸せ。んで、全力疾走しろ」


私の荷物をひったくると先輩は、私の前を駆け出した。

……やっぱり相良先輩は、相良先輩だ。

私は顔がニヤつくのを無理やり抑えて相良先輩の後を一生懸命追いかけることにした。

私に出来ることはバスケ部の為にマネージャー業に精を出すことだ、それが相良先輩への恩返しになると信じて。



ーー数日後


「ねえ、ナツ。なんか思ってた展開と違うような気がしない? 」


「まあな。勝手にちょっと手出ししちゃったけど、やっぱりうちの愚弟の態度が悪いからだろう? 」


「そうよね〜、相良からの情報を聞く限りは本当に態度が悪いわよね〜。そして、野球部が馬鹿だわ。特に部長とマネージャーはなんなのかしらね」


「ハルもなんか拗れちゃってるし、アレじゃあ理沙ちゃんは愛想尽かすだろ」


「ハルには悪いけど、もう結構気持ちは離れていると思うわよ。って言うか、あんなにひっついていたくせに自分から近寄るなオーラ出しといて、ちょっと自分から離れすぎたら機嫌が悪くなるなんて、我が弟ながら何様なのよ! 同じ女としてあんな扱いされたら普通嫌悪感しかわかないわよ」


「確かにな〜。でもどうする? ハルに『お前は理沙ちゃんのことが好きなんだぞ』なんて言って今のハルが素直に応じると思うか? 」


「うーん、たぶんうすうす自分でも気付き始めていると思うんだけど、やっぱり野球部に入って理沙ちゃんが近くに居ない時に活躍出来ちゃうところがネックよね〜。それも勘違いなのに。野球部のユカイな仲間たちが余計に拗らせているから」


「だな。とりあえず理沙ちゃんが傷付くのは嫌だからこのまま相良に見守りはお願いしよう」


「そうね、あの子は喋れば軽いのに面倒見がやたら良いから」




季節は変わって、秋。

あっという間に夏が終わってしまった。

ちなみに野球部は地区予選三回戦敗退だったそうだ。

もちろん私は見に行ってないし、結果は学校新聞で知った。

そして部活は三年生は引退、私をバスケ部に突っ込んだ相良先輩も受験勉強に本腰を入れるべく引退……


「相良先輩、また来たんですか? 」


そう、引退したはずの相良先輩は結構な頻度でバスケ部に顔を出す。


「お前、もっと喜べよぅ〜」


「あ、ハイ。ワーイ、相良センパイがキテクレテ、ウレシイナ〜〜」


ベシッ

無言で叩かれた、痛くはないけど。

これがいつもの流れだ。


「実際問題、センパイ勉強大丈夫ですか〜〜? いつもの感じを見ると私、心配で心配で」


いや、ホント、結構ガチで心配している。

先輩が受験に失敗しないように神社巡りしようかと本気で考えるぐらい。

うん、実はもう一回行ってお守りも買ってある。


「おい、お前、絶対俺のこと誤解しているだろう? 」


誤解も何も普段の様子から判断してますけど。

するとそこに珍しく違う引退したバスケ部の先輩もやって来た。


「おーい、お前らまた漫才しているのか? そんな暇あるなら相良、俺に勉強教えろ! 」


「え、相良先輩に教えてもらうんですか? 」


私の言葉に相良先輩が無言で頭を鷲掴みしてきた。

私の頭はバスケットボールではけっしてない。

そんなやり取りの中


「そっか、三年の成績なんて理沙ちゃんわかんないもんな。あのな、本当に納得できないけど、こいついっつもテストの順位、学年五位以内なの。ホント、世の中わかんないよな〜〜」


「おい、お前には絶対勉強教えないからな」


相良先輩が目が笑っていない笑顔でそう宣言した。


「センパイ……賢かったんだ……」


「え、何その言い方。俺、マジでへこむよ」


そう言った相良先輩はちょっと涙目だった。

本当に感情豊かな人だ。


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