二の段
目の前にいる幼馴染みはこっちを睨んで私の答えを待っているようだ。
しかし何でバスケ部のマネージャーやってるの? と言われても、巻き込まれたからとしか言えないんだよね〜、どうしたものかな。
私がどう答えたら良いのか迷っているうちに、幼馴染みの彼は勝手に答えを導き出したようだ。
「……そうか、バスケ部に気になるやつがいるんだな。……何で……俺は……」
よく聞こえないけどものすごく怖い顔でブツブツ何か言っている。
美形が怖い顔するとなんかすごくゾワゾワするんだけど。
私は無意識に自分の腕を摩って暖めていた。
とりあえずこの状況を何とかしたいんだけど目の前の幼馴染みがブツブツ言いながらも動かない。
さすがにこのままの状態で置いていけないしどうしよう、と悩んでいるところに救世主が現れた。
「お〜〜い、もう部活始まるぞ〜」
この空気を読まない間延びした声は、バスケ部部長の相良先輩の声!
私はいつもは厄介ごとしか持ってこない先輩を初めて拝みたくなった。
「うん? 取り込み中か? でも、もう部活始まるからまた今度にしてくれな。 というわけで、行くぞ」
先輩はハルにそう言うと私の腕を掴んで歩き始めた。
「え、あ、ま、まだ話は終わっていない!……じゃなくて、終わっていないんですけど! 」
先輩ということから口調を改めて私たちの方へ声をかけてきたけど、先輩は振り向かずに
「あ〜〜、また今度にしてくれないか? こっちも試合が近いから忙しいんだ。……それに何で今さらこいつに話があるとか言ってんのかね〜。まあ、いいや。じゃあ、忙しいから行くわ」
今度こそ先輩は片方の手でハルにヒラヒラと手を振り、もう片方の手で私の腕を掴んだまま歩き出した。
先輩のそんな態度に諦めたのかハルからの追加の言葉はなかった。
「は〜〜、何アレ? 一年なのに超顔怖いんだけど。怒った時のアキ先輩とナツ先輩にそっくりだし。ねえねえ、俺偉くない? あの状態からお前のことを助けた俺ってば凄いよね? もう、俺のことは救世主様って拝むしかないよね? 」
「……自分でそこまで言わなければちょっとは尊敬出来たと思うんですけどね〜。相変わらず残念ですね、先輩」
「ヒドっ! 助けたのにヒドっ! 」
隣でワーワー言っている先輩には言わないけどかなり感謝している。
あのままあそこで一方的に言い募られていたら泣いていたかも……いや、ギリでした、本当に、あとちょっと先輩が遅かったらマジで泣いていた。
素直に言うことなんて出来ないけど先輩は本当に救世主様ですよ、今度先輩が困っていたら全力でお助け致します。
そんなこんなで数日後、またもや面倒なことに巻き込まれた。
「なあ、君からハルに謝ってくれないか? 」
「そうよ、ハル君ずっとふさぎ込んでいるんだからね! 」
私の目の前には野球部部長とマネージャー。
放課後、部活に行こうとしているところで捕まった。
なんていうか、この人達あまりにも一方的過ぎて嫌になる。
「何故私が謝るんでしょうか? ハルが謝罪を求めているんですか? 私には何のことで謝れば良いのか全くわからないんですけど」
私の言葉に部長は困った顔をし、マネージャーはキツく睨んでくる。
そんな様子をチラチラと通り過ぎていく人が眺めていく。
なんか本当に嫌になる。
「だって、ハル君が調子が悪くて、機嫌も悪かったから何でってチームメイトが聞いたらあなたのことで悩んでいるって言ってたもの! 」
ええ〜、それだけで部長とマネージャーが出張ってくるの?
どれだけ過保護なのよ。
私はますますモヤモヤしたものがこみ上げてきた。
この人達はどうしても私を悪者にしたいらしい。
「悩んでいるっていうことで私が悪いということになるんですね? 私は野球部の皆さんから再三忠告されたので自分からハルに近づいたり、話しかけたりはしていません。それでも私に非があるというのであればその理由を教えて下さい。理由もわからないで謝ることなんて出来ませんよ? 」
私はハッキリと言った。
だいたい今までそっちが近づくなって言ってたのに、調子が悪いって私のせいにするなんてふざけているとしか思えない。
私の言葉にマネージャーが真っ赤になって怒っている。
そして怒りのままにその手を振りかざして、『叩かれる』と思い目をとじて衝撃に備えた。
しかし、思っていた衝撃が来ず不思議に思って目を開くと
「……相良先輩」
マネージャーが振りかざしたその手を相良先輩が握っていた。
「ふう〜〜、間に合ったな」
先輩はそう言うとマネージャーの手をはなして、私を庇うように立った。
「あのさ、今俺が止めなかったらどうなっていたかわかる? 野球部部長とマネージャーが一方的に一生徒を問い詰めて暴力振おうとしたんだぜ? それって野球部の活動にも影響が起きるし、最悪どうなるのかわかるだろ?」
相良先輩の言葉に今さら自分達が何をしていたか気づいたらしく、顔色が悪い。
普通に目撃者もいるから尚更だ。
「わかったんだったらこれ以上こいつに構うな。こいつは今バスケ部のマネージャー業で大忙しなの。そっちの問題をこいつに押し付けるな」
怒鳴りはしないけど、しっかりきっちり言ってくれた。
しかも、バスケ部のマネージャーとして認めてくれている、嬉しい。
相良先輩の言葉に野球部コンビは走って去って行った。
 




