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一の段

 どうやら私は好きな人に嫌われているらしい。

 ……いや、らしいなんて不確定要素はないね。

 嫌われている! と断言出来てしまう。


 私の好きな人はご近所さんだ。

 可愛らしい表現だと幼馴染みってヤツだ。

 この何とも甘酸っぱい感じの『幼馴染み』という言葉だが、今の私と彼には足枷にしかならない。


 私の家の三軒隣に彼の一家が引っ越して来たのは、私がまだ三才の頃らしい。

 その頃近くには年の近い子がいなかったため、同じ年の私たちが遊ぶようになるのは必然だった。

 昔はどちらかというと彼の方が私に引っ付いていたと思う。

 子供ながらに整った顔立ちの彼に懐かれた私は、いつの間にか彼のことを好きになっていた。

 それでも小学生ぐらいまではお互いの家を行き来し、仲良く過ごしていたのだ。

 その頃の私は自惚れではなく彼に好かれている自信があった。

 それが変化したのは中学に入学してから、初めてクラスが離れてからだ。


 彼は中学に入って野球部に入部した。

 私は正直やめておいた方が良いと思っていたのだが、どうやら私の目は節穴だったらしい。

 彼はアレヨアレヨと言う間に、総部員数五十人の野球部で一年生で唯一レギュラーとなった。


 別に意地悪で入部をやめた方が良いと思ったわけではない。

 私はずっと彼が『運動音痴』だと思っていた。

 いや、正直今もそう思っている。

 だから野球部のレギュラーと聞いた時は、部員数がギリギリだったんだな〜と勝手に勘違いもしていた。

 まあ、それも間違っていたんだけどね。


 私がどうしても彼が運動音痴だと思ってしまうのには理由がある。

 しかもすごく簡単な……だって、私、未だに一度も彼が活躍している姿を見たことがないんだもん。

 これってどうなのよ?

 私が見る彼の姿は大抵すっ転んでるところと、尻もちをついているところ。

 しかも全ての競技でそれだ。

 どう考えても運動音痴だと思うだろう。



「あら? 理沙ちゃんじゃない。 久しぶり〜」


「 お? 本当だ、久しぶりじゃん」


 帰り道、自宅近くで出会ったのは幼馴染みの兄と姉、まあ二人も私にとって幼馴染みと言うのかな?


「アキ姉、ナツ兄、久しぶりだね」


 三つ上の二人は仲良し双子。

 揃って美形だ。


「もう〜、理沙ちゃんどうして最近遊びに来てくれないの? 私、理沙ちゃんとお菓子作りしたいのに」


「そうだぞ。俺もお菓子食べたいぞ」


 二人が揃って何で来ないのか質問してくる。

 そう言われてもな〜。

 まあ、ここで変に隠してもどうせいつかはバレるし……言っとこうかな。


「あのね、何ていうか自分で言うのも悲しくなるんだけどちょっとハルに避けられてまして……」


 私の言葉に二人は首を傾げている。

 さすが双子、動きがシンクロしているね。


「喧嘩でもしたの? 」


 アキ姉が心配そうに聞いてきた。

 喧嘩……いや、いっそ喧嘩なら良かったんだけど。


「うーん、違う……と思う。なんかね、ハルに近付いちゃ駄目みたいなの。私が近づくとハルは力が出ないんだって。野球部の人達にも練習や試合は見にこないで欲しいって言われてて、ハルも私と目が合うと怖い顔になるから……」


 うう、言葉にするとちょっと辛いわ。

 泣く気なんて全然なかったのに勝手に涙腺が緩む。

 こんな乙女な自分に正直ひく。

 こんなことで泣くなんて……なんて馬鹿なんだろう。


「「ちょっとハルをシメル」」


 そんな恐ろしい言葉が耳に入った。

 私の涙をアキ姉が拭いて、私の頭をナツ兄が優しく撫でながらそんな恐ろしいことを言う二人。

 おそるおそる二人を見ると私には優しい笑顔だが、なんかちょっと……いや、かなり怒りオーラを纏っていらっしゃる。


「え? い、いや、シメルって。い、いいよそんなことしなくても! それにそんなことしたら余計ハルが怒りそうだし」


 私は心配してくれる二人には悪いと思いながらも断った。

 だって二人がハルを叱ったらハルはますます私を嫌いになる。

 そんな自分本位な考えで言った言葉だったが二人はそうは思わなかったようだ。


「もう、理沙ちゃんったらハルのこと心配してくれているのね? こんな優しい子にあの愚弟は……。どうするナツ? たぶんハルはまだ自分の気持ちに気付いていないわ」


「うーん? そうだな、本当は本人達の問題だけど理沙ちゃんは俺たちにとっても妹みたいなものだし……。ちょっとぐらい介入しても問題ないんじゃないか? 」


 私にはよくわからないことを二人で話し合って、なんか解決したらしい。




「ねえ、理沙。またこっち『睨んでるよ』」


 友達の凛が私へそう声をかける。

 私はまたか、という感じでその方向へは視線は向けず


「あ〜、うん、いいよ気にしなくて。たぶんもうそろそろ飽きるだろうし」


 私と凛は次の授業が音楽のため、教室移動の最中。

 そしてちょうどハルの教室の前を通りかかったところだった。

 見なくてもわかる、非常に鋭い視線がこちらに向けられているのを。

 犯人はハルとその仲間たち。

 そんなに睨むくらい嫌ならこっちを見なきゃいいのにね。

 他にも登下校の最中や休み時間でも気付くと睨まれていることが多々ある。

 正直泣きたくなるけど、泣いたら負けだと妙に意固地になっている自分もいるのだ。


 そんなこんなで季節は夏。

 野球部といえばアレでしょ、選抜予選。

 もちろん私は見に行きませんがね、行きたい気持ちはほんのちょっとあったけどそのほんのちょっとすら、野球部の面々に潰されましたから。

 部長とマネージャー、それからチームメイトとこれでもかと釘を刺しに来やがりましたよ。

 後半、これはいっそ来いってことなのかと思って行ってやろうかと思ったけど、やっぱりこれ以上嫌われたくない弱い私は見に行くことは出来なかった。


 そんな私に声をかけてきたのがバスケ部の部長だった。

 まあ、ネタバレするとナツ兄の差し金だったんだけどね。


「ねえ、暇ならマネージャーやらない? 」


 私が返事をする前に強制連行され、いつの間にかバスケ部のマネージャーになっていた。

 まあ、でも……気晴らしにはなる。


「これも洗っといて〜〜」

「マネージャー、ボタンとれた! 」

「ハラヘッタ〜〜」

「オレ、赤点の大ピンチ! どうすれば良い? 」

「私の眼鏡を知らないかい? 」


 ……おい。

 いやいや、つい頭の中で突っ込んでしまったよ。

 赤点とか自分でなんとかしようよ、眼鏡って……あなたはバスケ部の部員じゃなくて顧問なんだからしっかりして下さい先生。

 でも、忙しいおかげで嫌なことも忘れられた。


「はいはい、洗濯するものはまとめて置いておいて下さい」


「先輩、この間もボタンとれましたよね? 本当に気をつけて下さいよ」


「しょうがないなぁ〜、これ調理実習の残りだから食べても良いですよ」


「赤点って……せっかくレギュラーとったのに何やってるのよ。とにかく今からでも間に合うからこのノート見て全部覚えて! 先輩達から試験対策に借りてきたから」


「……先生、眼鏡は頭の上にのってますよ」


 いや〜〜、自分でも呆れるくらい頑張ったわ。

 その甲斐あって件の幼馴染みのことは思いっきり忘れていたりして……。

 だから突然巻き込まれると対処できないというか、何というか。



「なんでバスケ部のマネージャーとかやってるの? 」


 久しぶりに正面に立った幼馴染みが睨みをきかせて質問してきた。

 何故に私はこいつにここまで睨まれなきゃならんのでしょうか?

 だいたい今まで睨むか無視のどっちかだったのになんで今になって来るのよ。





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