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第38話『決意を唇に乗せて』

 麗奈先輩に手を引かれる形で2階にやってきた俺は、彼女の部屋へと案内される。

 麗奈先輩の部屋に来るのは2回目だけれど、今回は俺1人だし、勉強会などの目的もないからか、この前とは違った印象がある。


「はやちゃん、飲み物は何がいい?」

「お構いなく」

「……はやちゃんはコーヒー好きだから、アイスコーヒーを作ってくるよ。適当なところにくつろいでね。ベッドで寝てくれてもいいからね!」


 そう言って、麗奈先輩は部屋を後にする。

 適当なところと言っていたけれど、この前と同じようにクッションに座って待っているか。可愛いねこのぬいぐるみを抱きしめるのもいいけれど、それは止めておこう。

 ただ、ベッドで寝てくれていいというお言葉も頂いているので、ベッドの近くにあるクッションを動かして腰を下ろし、ベッドに寄り掛かる形でゆっくりすることに。


「これはいいな」


 ベッドのおかげで背中は気持ちいいし、麗奈先輩のいい匂いも香ってきて。両脚を伸ばすとさらに気持ちがいい。段々と眠くなってきた。


「はやちゃん、おまたせ……って、ふふっ。そういう風にくつろぐことにしたんだね」


 気付けば、麗奈先輩が部屋に戻ってきていた。先輩は優しい笑みを浮かべながら俺のことを見ている。


「ベッドで眠るのはさすがにダメな気がしたんですけど、会長の言葉に甘えたい気持ちもありまして。こうして座るのも結構気持ちいいですね」

「気持ちいいよね。うちに来ると決まってそういう風にくつろぐ友達がいるの。……せっかくだから、私もそういう風に座ろうかな」


 麗奈先輩はアイスコーヒーを乗せたトレイをテーブルの上に置くと、クッションを俺の左隣に持ってきて、俺と同じようにベッドに持たれる形で座る。そのことで、ベッドから香ってきた先輩の甘い匂いがより確かなものに変わった。


「あぁ、気持ちいい。はやちゃんと一緒だからかより気持ちいいよ」

「……そうですか」


 すると、麗奈先輩はゆっくりと俺に寄り掛かってくる。そのことで彼女から温もりと柔らかさを感じ、ドキドキしてくるな。


「期末試験の間に生徒会の仕事が溜まってて、今週は毎日放課後に生徒会のお仕事があったからさ。その間、咲夜ちゃんや紗衣ちゃんは、はやちゃんと遊んだり、お昼ご飯を食べたりしたから羨ましくて。それもあって、はやちゃんと2人きりの時間を作りたかったの」

「そうだったんですか。……今週も生徒会のお仕事お疲れ様でした。あと、期末試験の結果も良かったそうで。ささやかですが、俺からご褒美です」


 俺は麗奈先輩の頭を優しく撫でる。先輩の髪ってとても柔らかいんだな。あと、撫でることでシャンプーの甘い匂いが感じられて。

 麗奈先輩と目が合うと彼女は頬を真っ赤にするけれど、とても嬉しそうだった。


「えへへっ、まさかこういうご褒美をもらえるとは思わなかったよ。……凄く幸せ」

「それは良かったです」

「……もしかしたら、明奈ちゃんは私がこういう時間を過ごせるようになったらいいなって思ってくれていたのかも」

「……かもしれませんね」


 きっと、幼なじみである麗奈先輩の幸せを純粋に願い、叶えさせたかったと思った時期もあったはずだ。ただ、俺が告白を断ったことをきっかけに、それを口実にいじめをした。彼女の抱く正義の暴走とも言えるかもしれない。


「あの日、俺達が去った後、先輩が少しの間、叶の側にいたんですよね」

「うん。一緒にいた子達には、はやちゃん達に何もしないようにキツく注意して、約束させた。明奈ちゃんを入口から一番近いベンチに座らせて、気持ちが落ち着くまで側にいたの」

「そうでしたか。……お手数かけてしまって、申し訳ないです」

「いいんだよ。……明奈ちゃん、30分くらいずっと泣いてて。それで、ようやく気持ちが落ち着いたところで、はやちゃん達には何もしないようにって、明奈ちゃんにも約束させたの。明奈ちゃんは一度頷いて帰っていったわ」

「そうでしたか」


 さすがに麗奈先輩の言葉だと叶達も素直に受け入れるんだな。まあ、俺達と話す中で、叶はようやく3年前にしてしまったことがどんなことかが分かったようだが。


「ねえ、はやちゃん。私のことを抱きしめてくれるかな? この前、勉強会のときは抱きしめてくれなかったから」

「……あのときは咲夜と紗衣がいましたからね。今は2人きりですし、いいですよ」

「ありがとう!」


 すると、麗奈先輩はゆっくりと立ち上がって、俺の伸ばした両脚に跨ぐ形で座ってくる。そのことで視界のほとんどが麗奈先輩に。

 俺は麗奈先輩のことをそっと抱きしめた。寄り掛かったときとは段違いの温もりや柔らかさを感じる。抱きしめたことによって激しくなった鼓動は麗奈先輩に伝わってしまっているんだろうな。

 至近距離にある麗奈先輩の顔を見ると、先輩ははにかんだ。


「……はやちゃんに抱きしめられて幸せです」

「それは良かったです」

「……こういうはやちゃんとの幸せを、いつかはずっと感じられるようになりたいって思ってる。それははやちゃんを好きになった瞬間から考えていることだから。この前、明奈ちゃんに言ったように、私の幸せを掴みたいし、笑顔になりたいの」

「先輩……」

「……咲夜ちゃんや紗衣ちゃんが、はやちゃんのことをどう思っているか分からない。でも、放課後に生徒会の仕事をしていると、たまに胸が苦しくなるの。きっと、それもはやちゃんのことが好きだから感じることで。恋しているんだなって実感する。私、本気だから。はやちゃんと恋人になりたいって思ってるよ。これが……その証拠です」


 そう言うと、麗奈先輩は俺にキスをしてきた。

 麗奈先輩の唇の柔らかさと温もりは、俺の唇を優しく包み込んでくれているようで。これは夢じゃなくて現実なのだとも教えてくれて。彼女の甘い匂いが鼻腔を刺激し、ドキドキさせてゆく。

 麗奈先輩の体が熱くなっていくのが分かるけど、その熱を追いかけるようにして自分の体も熱くなっていった。それはこのキスだけじゃなくて、佐藤先輩からの告白の際にした咲夜とのキスを思い出したからでもあるだろう。

 麗奈先輩の方から唇を離すと、そこにはうっとりと俺のことを見つめる彼女の顔があった。


「はやちゃんとのキス、とても気持ち良くて幸せな気分になれたよ。事情があるとはいえ、はやちゃんとキスをしてこの感覚を知っている咲夜ちゃんが羨ましいよ」

「……そうですか」


 以前から俺のことが好きだという気持ちを知っているからこそ、麗奈先輩とのキスの方が優しさや温かさが感じられた。ただ、あのときに咲夜としたキスも正直、悪くはなかった。


「あと、キスをすると、はやちゃんの顔もさすがに赤くなるんだね。かわいい」

「……キスはまだ2度目ですからね。顔も赤くなりますって」

「そっか。これで、私のことをこれまでとは少し違って見えるようになるかな?」

「……もちろんですよ」

「ふふっ、良かった。はやちゃんなら、いつでも私にキスしていいからね。私がするかもしれないけど」


 軽く唇を触れるだけだが、麗奈先輩は再びキスをしてきた。その嬉しそうな彼女の笑みを見るとキュンとなって。キスって凄いことだなと改めて思う。

 そういえば、麗奈先輩の御両親は今の俺達のやり取りをのぞき見していないだろうな? そう思って、部屋の扉の方をチラッと見ると扉はしっかりと閉まっていた。多分、キスは見られていないだろう。聞き耳を立てて、今の会話を聞かれている可能性はあるが。


「あっ、ちなみに今回のはやちゃんとのキスが、私にとってもファーストキスだからね。それをはやちゃんにあげることができて嬉しいな。はやちゃんのファーストキスは? 咲夜ちゃんとのキス?」

「……ええ」


 佐藤先輩の目の前でしたファーストキス。咲夜にとってもファーストキスだった。

 ワケありなので、個人的にはノーカウントでもかまわないと思っていたが、咲夜が寂しいと言っていたし、キス自体が嫌ではなかったとも言っていたので、俺はあれが自分のファーストキスであると考えることにした。


「そっか、例のキスがファーストキスだったんだね。ううっ、ますます咲夜ちゃんのことが羨ましくなったよ」


 麗奈先輩は悔しそうな様子。好きな人のキス事情だからな。その内容によっては羨ましかったり、悔しく思ったりすることは当然あるだろう。


「キスの初めてはもらえなかったけれど、これからはやちゃんの色々な初めてをもらいたいな。そのために頑張らないとね。もちろん、はやちゃんになら私の色々な初めてをあげるからね」


 麗奈先輩の部屋で2人きり。しかも、先輩のベッドに寄り掛かり、とても豊満な胸を当てられながらそう言われると、どうしても厭らしい方向に考えてしまう。それもあってか、目の前にいる麗奈先輩がとても艶やかに見えてきた。1つしか歳が違わないのが信じられない。


「はやちゃんと抱きしめてキスしたら、とても体が熱くなっちゃった。アイスコーヒーを作ったから一緒に飲もうよ」

「そ、そうですね」


 俺もかなり体が熱くなっていたのでちょうどいい。アイスコーヒーを飲んで気持ちをクールダウンさせよう。

 俺は麗奈先輩が作ってくれたアイスコーヒーを飲む。コーヒーの味が美味しいのはもちろんだけど、ここまで冷たいものが美味しく、癒しに感じたのは初めてかもしれない。

 その後、麗奈先輩のアルバムを見たり、先輩と俺が好きなアニメ作品のBlu-rayを観たりして、彼女との時間をゆっくりと過ごした。ただ、2人きりでキスもしたからか、麗奈先輩は常に俺に寄り添っていたのであった。

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