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第33話『七夕祭り』

 俺は咲夜、紗衣、麗奈先輩と一緒に七夕祭りの会場へと向かう。

 日が暮れる前にも関わらず既に多くの人が訪れている。食べ物系の出店も多いからか美味しそうな匂いがしてくるな。これも夏らしい風景の1つだ。

 去年までもそうだったけど、今年も俺が現れたことによって結構な数の人が俺の方を向いているな。ただ、咲夜達が一緒にいるからか何か言ってくる人は今のところいない。


「みんな、あそこにチョコバナナがありますよ」


 咲夜の指さす先にはチョコバナナの出店が。たくさん作られているけれど、人気の食べ物の一つなのかどんどんと売れていく。


「チョコバナナって意外とこういうところでしか食べないよね」

「紗衣ちゃんの言うこと分かるなぁ。そう思ったら私も食べたくなってきた! みんなで買おうよ!」

「そうですね、買いましょうか」


 俺達はチョコバナナの出店に行き、チョコバナナを1本ずつ買う。普通のチョコだけじゃなく、いちごチョコもあったので俺はそれを買うことにした。咲夜もいちごで、紗衣と麗奈先輩は普通のチョコバナナを買っていた。


「うん! チョコバナナ美味しいね!」

「ですね。さっそくお祭り気分になりますね」

「いちごのチョコバナナも美味しいですよ! 2人もどうですか?」

「ありがとう。じゃあ、私のチョコバナナを一口あげるよ、咲夜」


 咲夜達は互いのチョコバナナを一口交換し合う。美しい光景だな。

 俺はいちごのチョコバナナを一口食べる。咲夜の言う通り、いちごも結構美味しいな。いちごの酸味もあるので普通のチョコよりもさっぱりしている。


「は、はやちゃん! 私の一口いかがですか?」


 麗奈先輩はそう言うと食べかけのチョコバナナを差し出してくる。


「じゃあ、お言葉に甘えて一口いただきますね」

「うん。はい、あ~ん」


 俺は麗奈先輩のチョコバナナを一口いただく。いちごのチョコバナナを食べた直後だからか、それとも彼女の唾液が残っているからかとても甘く感じられた。


「美味しいです。ありがとうございます」

「……えへへっ」


 麗奈先輩、幸せな表情で俺のことを見つめている。お祭りではこういうことをしたかったのかな。


「あれ、もしかしてアドルフじゃないか?」

「可愛い女子達と一緒だぞ。見間違いじゃなければ、そのうちの1人って皇先輩じゃないか?」

「何があったんだろうな?」

「脅迫したんじゃね? 奢れって」


 あの男子達は中学で見たような記憶がある。地元の祭りだし、同じ中学出身の奴らを見かけるのは仕方ないか。

 色々と言われるのは慣れているけれど、脅迫はさすがに言い過ぎなのでは。というか、幸せそうな麗奈先輩を見て脅迫されていると考えるとは。どういう思考回路をしているのやら。彼らのことを睨むと、


「うわっ! こっちを睨んできたぞ!」

「逃げようぜ!」


 そう言って、俺の視界から消え去っていった。まあ、ここはお祭り会場なので、これ以上何かするのは止めておこう。


「はやちゃん……」

「……俺は慣れてます。それに、ここは地元です。小学校や中学校が同じだった人と出くわすだろうと思っていますよ。叶と会うことも覚悟しているくらいです。それに、先輩達がお祭りを楽しんでいるのは分かっていますから」


 麗奈先輩の頭を優しく撫でると、彼女は柔和な笑みを浮かべて、ゆっくりと頷いた。


「でも、颯人君に何かしてくるようなら、あたしがぶっ飛ばすから!」

「ぶっ飛ばすのはまずいけど、颯人の力にはなりたいね」

「2人の言うとおりだね!」

「……どうもありがとう」


 自分の力になりたいと言ってくれる人が近くにいるっていうのは心強いな。しかも、3人もいるなんて。


「今はいい気分なので、あそこで売っているたこ焼きを俺が奢りましょう。金はそこまで多く持ってきていないので、1人1パックずつじゃなくて、1パックをみんなで分ける形になりますけど」

「それでも十分だよ! ありがとう、颯人君!」

「ごちそうになるよ、颯人」

「ありがとう、はやちゃん」


 俺は宣言通りにたこ焼きを1パック買う。そこのおじさんは俺のことを特に恐がることなく、いい面をしていると言ってくれた。あと、咲夜達が可愛らしいからと4個もオマケしてくれた。見た目も心もかなり太っ腹なおじさんである。

 近くに休憩できるスペースがあるので、そこでさっそくたこ焼きを食べることに。


「熱っ! でも、美味しい!」

「アッツアツだね! 咲夜ちゃん!」

「……熱っ。うん、こういうところで食べるたこ焼きって美味しいよね」

「そうだな。でも、あのおじさん、結構上手だ」


 外はカリッとしていて、中はトロッとしている。大粒のタコも入っていて。露店のたこ焼きにしてはかなりレベルが高いと思う。

 咲夜も紗衣も麗奈先輩もたこ焼きに満足してくれて良かった。


「ごちそうさま。……そうだ。みんな、向こうに見える笹の近くに短冊コーナーがあるから、そこでお願い事を書いて短冊を笹に飾ろうか」

「やりましょう! あたし、このお祭りに来たら欠かさずにやっているんです」

「私も書くことが多いなぁ。颯人は?」

「必ず行ってたな。去年まで小雪達の付き添いをしていて、短冊コーナーは必ず行きたいって言っていたから」


 そうは言うけど、俺自身、願い事を書いた短冊を笹に飾らないと七夕祭りに来たって感じがしないんだよな。

 俺達は短冊コーナーの方へと向かう。

 叶えたい願い事のある人が多いのか、短冊を書くコーナーには待つ行列ができている。俺達はその最後尾に並ぶ。2列なので、咲夜と麗奈先輩の後ろに紗衣と一緒に並んでいる。

 前方には大きな笹があるけれど、高いところまで短冊が飾られているなぁ。短冊の色のバリエーションが豊富なこともあってなかなか綺麗だ。

 夜空を見上げると、綺麗な星空が広がっている。これなら短冊に書かれた多くの願いも叶いそうな気がしてくる。


「颯人、列が進んでるよ」


 気付けば、紗衣が俺の左手を握っており、俺のことを軽く引っ張ってくれた。そのことで咲夜のすぐ後ろに再び立つ。


「ありがとう、紗衣」

「いえいえ。でも、珍しいね。颯人がぼおっとしているなんて」

「今日の夜空は結構綺麗だからさ。今の時期は梅雨だし、こういう星空を見ることができるなんて運がいいと思って」

「言われてみればそうだね」


 そう言って夜空を見上げている紗衣の姿はとても美しい。同い年の従妹で、小さい頃から頻繁に会っているけれど、こうして見てみると紗衣も立派な女子高生なんだよな。法律上、結婚も許される関係だし。

 ……って、何を考えているんだ。ひさしぶりに、紗衣としっかりと手を繋いだからだろうか。結構ドキドキするな。熱くなって、手も汗ばんできた気がする。


「颯人の言う通り、綺麗な夜空だったよ。……あっ、ずっと手を繋いでいたままだったね」


 紗衣はパッと手を離すと、いつになくはにかみながら俺のことを見る。近くにある提灯の灯りのせいか、彼女の顔は赤く見える。でも、頬はそれだけじゃない気がした。そのことにドキッとした俺の顔は、紗衣にはどう見えているのだろう。

 夜空を見上げた俺や紗衣の並ぶ列はどんどん前に進んで行き、並び始めてから10分ちょっとで俺達の番がやってきた。

 笹の横に長いテーブルが置かれており、そこに短冊と油性のマジックが用意されていた。俺は咲夜と紗衣に挟まれる形に。


「颯人君、書き終わったら見せ合おうか」

「分かった。それまでは咲夜達の短冊を見ないように努力するよ」


 俺は緑色の短冊を取って、願い事を書いていく。

 とても幼い頃の記憶はないけれど、物心がついてから俺の書く願い事は毎年変わらない。それもあってか、4人の中でも俺が最初に書き終わった。笹に飾るところにも行列ができているので、行列の近くで3人を待つことに。


「書き終わったよ」


 最初に俺のところにやってきたのは紗衣。その後に麗奈先輩、咲夜と続いた。


「みんな書き終わりましたね。じゃあ、見せ合いましょう。せーの」


 咲夜の合図で、俺達は自分達の書いた短冊を見せ合うことに。


『赤点なく夏休みに突入できますように! お願いします! 月原咲夜』

『忘れられない夏になりますように。 天野紗衣』

『友人や生徒会の子達と楽しく過ごせますように! 皇麗奈』

『毎日を穏やかに過ごすことができますように。 神楽颯人』


 麗奈先輩は先輩らしい願い事だなと思う。紗衣も高校生になって最初の夏だから忘れられない時間にしたいのだろう。咲夜は……咲夜らしいかな。金曜日の終礼後は赤点はないだろうと胸を張って言っていたけれど、ここに来て願いたくなったのだろうか。ただ、そのお願いを赤い短冊に書いたことが果たして吉と出るか凶と出るか。


「みんな素敵な願い事ですね。あたしだけ、直近の切実な願い事を書いちゃったよ」

「咲夜の気持ちは分かるよ。私も赤点は嫌だもん。夏休みも謳歌できなくなるし。赤点を取ったらある意味では忘れられない夏になりそうだけど」

「ふふっ。テストの結果を問わず、特にこの3人とは楽しい時間を過ごしたいな。それがはやちゃんにとって穏やかな日になるといいけど」

「俺にとって楽しいのは穏やかという言葉の範疇ですよ。嫌なことがなければOKです」


 小さい頃から色々と言われ、小中といじめに遭ってきたからな。特に3年前には放火事件に巻き込まれたし。そういったことがあって、俺は毎年『毎日を穏やかに過ごすことができますように。』と短冊に書くようにしている。受験生だった去年でさえもそう書いた。

 俺達は笹を飾る行列に並ぶ。さっきと同じように、咲夜と麗奈先輩の後ろに紗衣と隣り合う形で。


「せっかくだから、4人の短冊は近くに飾ろうか」

「いいね! 紗衣ちゃん」

「より願いが叶いそうな気がするよ」

「麗奈先輩の言う通りかもしれませんね」


 叶いそうだと思うことが、もっとも願いを叶えさせる近道かもしれない。3人の笑顔を見てそう思う。

 俺達の番がやってくると、さっき話したように近くに短冊を飾る。こんなにも綺麗な夜空が見えるので、今年の願いは叶いやすくなっているといいなと思う。

 出店の方に戻ろうとすると、短冊コーナーの待ち行列に並ぶ小雪達の姿があった。彼女達の話だと、出店でたくさん食べたり、遊んだりしてお祭りを楽しむことができているらしい。

 俺達高校生もこの後も七夕祭りを楽しむのであった。

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