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第15話『にゃーん』

「なるほどね。そういうことだったんだ……」


 咲夜と関わるようになってから佐藤先輩の件が解決するまでの流れを一通り話すと、小雪は納得した様子でそう呟いていた。とりあえず、これで咲夜と俺が友達であることや、訳あってキスをしたことを理解してもらえたか。

 依然として、咲夜は俺のベッドに顔を突っ込んだまま。そんな彼女の側まで小雪が近寄っていく。


「本当にごめんなさい、咲夜さん。あたし、色々なことを言っちゃって……」

「……いいんだよ、小雪ちゃん。颯人君とはこの1週間の中で色んなことがあったから、あたしも過剰に反応しちゃった」


 すると、咲夜はようやく俺のベッドから顔を出してくれた。さっきほどではないけれど、彼女の顔にはまだ赤みが確かに残っている。


「颯人君や紗衣ちゃんが話してくれたように、颯人君とはキスしたことがあるけれど、今は大切な友達として付き合っているんだ。それを覚えておいてくれると嬉しいな」

「分かりました。お兄ちゃんのことをよろしくお願いします!」

「もちろんだよ。もちろん、小雪ちゃんともお友達ね」

「はい!」


 今度は咲夜から小雪に握手を交わした。そのときの笑みは朗らかなもので。それを小雪だけではなく、紗衣や俺にも見せてくれた。そんな彼女を見て一安心した。


「あと、颯人君。ありがとね、ベッドを貸してくれて。その……ふわふわしていて、いい匂いがしました」

「……そ、そうかい」


 ふわふわしているだけならともかく、いい匂いがしたと言われるとどう返事をすればいいのやら。臭っているとか言われないだけ良かったと思っておくか。


「じゃあ、飲み物を持ってくるけれど、みんなは何がいい? コーヒーか紅茶、緑茶、麦茶ならすぐに出せるけれど」

「私はアイスコーヒーで。あと、行くときにピュアスイートでマカロンを買ってきたから、みんなで食べよう」

「ありがとう、紗衣ちゃん! あたしはアイスティーがいいな、お兄ちゃん」

「あたしはカフェオレがいいな。コーヒーの苦味で気分を落ち着かせたい」

「……分かった。じゃあ、ゆっくりとくつろぎながら待ってて」


 俺は自分の部屋を出て、みんなから注文された飲み物を用意するために1階のキッチンに行く。俺は紗衣と同じアイスコーヒーにしようかな。

 キッチンに行くと、そこには母さんがいた。コーヒーの匂いがして、マグカップが2つあるってことは自分と父さんの分のコーヒーを淹れたのか。


「あら、颯人」

「みんなから注文された飲み物を作りにきた」

「そうなの。颯人があんなに可愛いお友達を連れてくるなんてね。人それぞれだけれど、クラスに友達がいるっていうのもいいものだとお母さんは思うわ。咲夜ちゃんのことを大切にしなさいね」

「……ああ」


 母さんに言われて思い出すのは、俺に向けられた咲夜の笑顔。友達になってから数日ほどなのに、それまで関わりが全然なかったことが嘘だと思えるほどに、たくさん俺に笑顔を見せてくれている。母さんの言うように可愛い友達だなと思いながら、みんなから頼まれた飲み物を作っていった。


「よし、これでいいか」

「颯人、マシュマロを持っていって。咲夜ちゃんが遊びに来るから、午前中にスーパーに買い物に行ったときに買ってきておいたの」

「そうだったのか。紗衣がマカロンを買ってきてくれたけど、それもいただくよ。咲夜、甘いものが大好きだから。ありがとう。それじゃ、俺は部屋に戻るよ」

「はーい。紗衣ちゃんや咲夜ちゃんと楽しい時間を過ごしてね!」


 母さんはとても楽しそうな様子でリビングへと戻っていった。まったく、何を想像しているんだか。

 4人分の飲み物とマシュマロを乗せたお盆を持って、俺は自分の部屋へと戻り始める。扉の前に行くと、何やら盛り上がっているようだ。特に咲夜と小雪の声が聞こえてくる。


「お待たせ。飲み物を持ってきたぞ。あと、母さんからマシュマロをもらった」


 部屋の扉を開けると、3人はテーブルの上に猫の写真集を広げて見ていた。


「あっ、颯人君が戻ってきた」

「その写真集……俺の本棚にあったやつか」

「うん。昨日、紗衣ちゃんの本棚を見たから、その本棚も気になっちゃって。紗衣ちゃん同様に綺麗に本やCDが並んでいるなと思って見ていったら、この猫の写真集を見つけて」

「そういうことか」


 てっきり、成人向けの本を隠しているんじゃないかと考えて、本棚を調査した中で見つけたのかと思った。そんなもんないけど。過激な一般漫画はあるけど。


「これだけじゃなくて、他にも何冊か猫の写真集があるけれど、颯人君って猫が好きなの?」

「ああ、大好きだ。うちにもノラ猫が来るんだけど、この目つきや髪型のせいか、触らせてくれるまで時間がかかったな。小雪や紗衣や母さんにはすぐに触らせるのに」


 鋭い目つきを見て、猫にも俺は人間じゃなくて狼だと思われているのかと。今もたまに遊びに来るノラ猫も、触ることができるまで3ヶ月くらいかかったな。


「お兄ちゃん、特に出会って間もないノラ猫に触ろうとすると、必ずと言っていいほど手を引っ掻かれるよね」

「私が初対面で触れたのに、颯人が触れずに顔を引っ掻かれたことがあったっけ」


 小雪と紗衣は昔話で盛り上がっている。俺にとっては痛い話だが。

 そういえば、手や腕に負った猫の引っ掻き傷を見られて、周りの生徒に恐がられることもあったな。


「なかなか触れないこともあって、猫の写真に凄く興味を持って。スマホやパソコンで検索すればいくらでも見られるけど、紙の本でも持っておきたくて。その中でも、世界で猫中心に撮影する動物写真家さんの写真集が一番好きなんだ。今見ている写真集も、その写真家さんの出しているものだ」

「そうなんだ。颯人君がそこまで猫好きなのは意外だな。あたしも猫が好きだよ」

「そうなのか」


 猫好きだと言われると、咲夜に親近感が湧くな。

 俺はテーブルに4人の飲み物とマシュマロを置く。すると、3人は声を揃えて「いただきまーす」と言って、さっそく俺が持ってきた飲み物を飲む。


「カフェオレ、甘くて美味しいね。甘めに作ってくれたんだね、颯人君」

「一昨日、俺のタピオカミルクコーヒーを一口飲んだとき、苦そうにしていたからな」

「……うん。だから、とても嬉しい。ありがとう」


 咲夜は再びカフェオレを美味しそうに飲んでくれる。カフェオレを甘めに作った甲斐があるな。


「今日のアイスコーヒーも美味しいよ、颯人」

「あたしのカフェオレも甘くて美味しい!」

「そりゃ良かった。紗衣が買ってきてくれたマカロンや、母さんがくれたマシュマロもいただこうか。……いただきます」


 俺は紗衣が買ってきてくれたマカロンを食べる。さすがにスイーツ店で作っているマカロンだけあってとても美味しいな。前にコンビニで買ったマカロンを食べたことがあるけれど、それよりも断然美味しい。


「マカロン美味いな」

「そうだね、お兄ちゃん」

「本当に美味しいよ。買ってきてくれてありがとね、紗衣ちゃん」

「いえいえ。明日バイトがあるから、お店のみんなに伝えておくよ」


 そう言って、紗衣は笑顔でマカロンを食べている。その姿を見ていると、小さい頃の彼女を思い出すな。


「そういえば、小雪ちゃんは美術部に入っているんだよね。部活ではどういったことをするの?」

「油絵を描いています。今は9月中旬に締切の環境についての絵画コンクールに出す作品について考えているところです。なので、夏休みも部活ではそのコンクールの作品を描いていくつもりです」

「そうなんだ。あたしは絵があまり描けないから尊敬するよ。頑張ってね!」

「はい! あたしも絵を描くのが好きですが、お兄ちゃんも絵がとっても上手なんですよ! アナログだけじゃなく、デジタルでも絵を描いていますし」

「そうなの?」


 咲夜は驚いた様子で俺のことを見ている。絵を描くことが趣味だっていうのは話してなかったか。そういえば、芸術科目で俺は美術を選択しているけれど、その授業に咲夜はいなかったな。


「ああ。友達と遊ぶなんてことがなかったからな。ノラ猫や俺が育てている花をスケッチブックで写生することもあれば、好きな漫画のキャラクターや自分で考えたキャラクターをペンタブで描くこともある」


 絵を描くと楽しくてあっという間に時間が過ぎていくんだよな。だから、課題が早く終わった平日の夜か休日に描くことが多い。

 勉強机の引き出しからスケッチブックを取り出して、それを咲夜に渡す。すると、咲夜はスケッチブックをテーブルの上に広げる。


「花とか猫のスケッチが多いね。どれも上手……」

「こういう絵を見て思い出したけど、前に、猫にあまり触れないから、颯人は少し遠くからノラ猫をスケッチしたことがあったよね」

「そうだな。たまに離れそうになるから紗衣に撫でてもらって、ノラ猫にその場に留まってもらうこともしたよな」

「やったなぁ」


 当時のことを思い出しているのか、紗衣はクスッと笑った。


「スケッチブックの絵を見ていると、颯人君に何か絵を描いてほしいって思っちゃうな。でも、今はあまりお金持ってないや……」

「サッと描く程度でいいなら、特別にタダで描くよ。それに絵の話したから、俺も何か描きたくなったし。あと、こういったことに金を出そうという姿勢、俺は好きだな」


 必要な時間や技術に対して、お金をしっかりと出す人は素晴らしいと思う。

 好きという言葉を言ったせいか、咲夜は頬をほんのりと赤くして口元を緩めていた。


「……えへへっ。でも、いざ何がいいか考えると全然思いつかないな……」

「……じゃあ、俺に任せてくれ。咲夜と紗衣が来て、色々と話したことで思いついたアイデアがあるから」

「そうなの? じゃあ、それを描いてくれますか?」

「分かった」


 俺はパソコンとペンタブを起動し、頭の中にイメージしているものを描いていく。

 咲夜達に見られながら描くのは緊張もするけれど、それよりも楽しさの方がよっぽど勝る。なので、スラスラと描くことができた。


「はい、完成」

「うわあっ、かわいい! さすがはお兄ちゃん!」

「上手いなぁ、颯人は」


 俺が描いたのはネコ耳カチューシャを付けている咲夜の顔。咲夜の顔は写実的にではなく、漫画のイラスト風に描いてみた。


「咲夜は猫が好きだから、いつものオレンジのカチューシャじゃなくてネコ耳カチューシャにしてみたんだ。どうかな、咲夜」

「……自分がモデルだけど、漫画みたいに描かれているからか可愛いな。凄く好き」

「それは良かった。俺も可愛く描けたなって思ってる。じゃあ、この絵を咲夜のスマホに送るよ」


 俺が描いたネコ耳咲夜の画像を、パソコンから自分のスマートフォンに転送し、それをLIMEというSNSアプリを使って咲夜にプレゼントした。


「ありがとう、颯人君! 大切にするね」

「そうしてくれると嬉しい」


 今のお礼の言葉を、このイラストを描いたお代ということにしておこう。

 また、紗衣や小雪もほしいと言ってきたので、モデルとなった咲夜の許可を得た上で2人にも送った。2人とも嬉しそうな様子をしていた。

 昨日は紗衣の家にあったアルバムを見たこともあってか、その後は俺の部屋にあるアルバムを見ることに。特に小さい頃の紗衣や小雪の写真やノラ猫の写真を見て、咲夜は可愛いと大喜びだった。

 初めて咲夜が来たので最初は緊張したけど、結構楽しい時間を過ごすことができたのであった。

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