第6話 領主、領民を集める
そうして、キマドリウスがダイーオの領主になってから1週間後。
ダンジョンの主となった翌日。
「アオイさん、準備は出来てるか?」
「当然です。全領民252人の内、246人をダンジョン前に集めておきました」
「ありがとう、助かるよ」
そう言うとキマドリウスは席を立ちあがり、ダンジョンへと向かった。
屋敷からダンジョンの入り口までは一時間。
そこの前にはすでに領民たちが立って待っていた。
「あれが新しい領主様かえ」
「そのようじゃの~」
「わしは早く麦の様子が見たいわい」
「まぁまぁそう言わんと」
領民たちはお喋りをしている。
キマドリウスはそれを割る様に話し始めた。
「よく集まってくれた。この俺がこのダイーオの新領主となるキマだ、よろしく頼む」
今までのくせでマントをはためかせる動きをした。
しかし服装は領主らしい正装に着替えてたためマントが無かった。
「っ!? ……こほん。まぁ何はともあれ君たちを呼んだ理由を早速話そう。それは……あのダンジョンにある!」
キマドリウスは、石造りの四角い箱の形をしたダンジョンの入り口を指差した。
「単刀直入に言おう。君達にはこのダンジョンの周辺に移住して欲しいんだ」
「そんなの無理でい」
「おらたちの畑はどうなるんだ」
必然。
領民たちは声を荒げる。
「まぁまぁ落ち着いてくれ。ダンジョンが出来た今、ここはどうなると思う?」
「うーんと……冒険者が来る?」
「そうだ。そしてそんな彼らを目的として商人が来たり、宿屋が建ったりする。それによってお金が発生する、というのは分かるな」
「わかるだ」
「もし移住しないなら、外から来た人間が宿屋や商店の役を担う事になるやもしれんがいいのか?」
キマドリウスの言っている事は酷いかもしれない。
だが事実だ。
この事を言ってあげているだけ優しいのだろう。
……ダンジョンを作ったのが彼でなければ、の話だが。
「な、なら……移住しようかな……」
「いや、おらは残るぞ。畑があるからな」
「でも畑仕事しなくてもよくなるんだぞ」
領民たちは悩んだ。
「別に今すぐに、という訳では無い。君たちが移住した方がいいなと思ったタイミングでいい」
「なら、今のところはいいか」
「だな。優しい新領主様でよかっただ」
領民は安堵の表情を浮かべた。
「俺からの要件はこれで以上だ、帰っていいぞ。ただ大工と、数学が出来る者には少し残って欲しい。宿屋に関しては今すぐ必要な物だからな」
キマドリウスのその言葉を聞き、領民たちは帰っていく。
そしてダンジョン前にはキマドリウスとアオイ、そしてドワーフとホビットが二人ずつ残った。
「ドワーフが大工で、ホビットが数学の心得があるもの、という認識でいいのだな」
「あぁそうだ」
ドワーフの男が返事した。
「なら聞いておきたいのだが、宿屋を一軒つくるのにどれ程の時間がかかる?」
「少なくとも半年だな」
「そうか……」
あまりにも長すぎる。
ダンジョンの情報についてはそう遠くないうちに広がる事だろうし、冒険者はすぐに来る。
そう考えれば半年は長すぎる。
「……なら、これでどうだ」
突如。
キマドリウスが手を向けると大地が隆起した。
それは徐々に建物を形どった。
そして土が石に代わり、やがて宿屋になった。
「おぉ! これなら内装や細かい点だけでいいな」
「すぐに終わりそうか?」
「もちろん。これなら1週間もあれば終わる」
「では宿屋は君たちに頼もう」
キマドリウスは腰から金貨を取り出し、ドワーフとホビットに渡した。
「え? どういうことだい新領主様」
「ん? 材料費や君たちの賃金分だが」
正当な報酬を出したつもりのキマドリウス。
だが経験と常識は常に合致する訳では無い。
「領主様。その程度でしたら、賦役という税金の一種として課すのが常識です」
アオイがキマドリウスに助言した。
「うーん……ま、いいよ。受け取っておいて」
「わしらは構いませんが、いいんですか?」
「いいよ。目下の所、憎き冒険者どもからお金をはぎ取るつもりだしね」
キマドリウスの周囲には黒い障気が立ち込める。
「そ、そうですかい。じゃ、じゃあ早速作業に取りかかりますね」
ドワーフとホビットは道具片手に宿屋へと向かった。
「上手くアメとムチを使い分けましたね」
「まぁ領主になる前から人の上に立っていたからね」
正確に言うと人ではないが。
「ではこれからも期待していますよ、領主様」
「あぁ。じゃあ俺も今日の昼飯を期待しようかな、アオイさん」
二人は屋敷へと帰って行った。
◆領主生活9日目
領民:252人
ダンジョン:5階層