表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/48

第44話 雑貨屋、見つける

 それからキマドリウスは疲れも忘れて走った。

 足に絡みつく雪も、頬を冷やす冷気も関係ない。


「はあっ! はっ、はあっ! はっ!」


 白い息を何度を吐きながら、彼は走る。

 そして気が付けば、雪が降ってきた。


 それは白くも淡く、純粋にして可愛らしい。

 まるで彼の心を突き動かす少女のよう。


 だが降る雪はいくら可愛らしくとも、必ず積もるもの。

 幼く小さな命は、白き地と混ざり合い溶けてしまう。

 そして、その果てには何一つ残らない──


 だからこそスノウドラゴンとユカが彼の目にようやく入った時、彼の心は焦燥感で包まれ、喉は自然と咆えていた。


「ユカーーーッッ!!」


 彼が走りながらも咆える先。

 そこにはいるのは、結界を背に膝を震わせるユカと、彼女を追い詰める白い巨龍、スノウドラゴン。


 その頭の大きさだけでも人間の背丈以上あり、全長で言えば家屋数軒分はある。

 そしてそんなスノウドラゴンは、今まさにその大きな口を開けて、獲物の命を刈り取ろうとしていた。


「UGAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」


「……き、キマっ!」


 キマドリウスはその状況を見て、足を止める。

 だが恐怖を感じて止めたのではない。

 魔術を行使する為だ。


「『永劫の闇、終焉の──」


 彼は腕を伸ばし、詠唱を口にする。

 しかし……彼の詠唱は間に合わない。


「UGYAAAAAAUUUU!!」


 スノウドラゴンは巨大な顎でユカに噛み付く。

 そして、


 ――グチュッッ!


 と彼女の右腕を噛み千切った。


「ゆ、ユカッ!!」


 キマドリウスは詠唱を止め、声を飛ばす。


 いつもの彼なら詠唱を最後までやり遂げ、確実に魔術を行使するだろう。

 だが、今の彼は明らかに冷静さを失っている。

 それ程までに深く、ユカの存在が彼の心に染みついているのだろう。


 ならばこの惨状に目に、怒りが芽生える。


「……ぐっ!」


 彼は顔を歪ませ、拳を固く握る。

 すると、不思議と彼の身体には暗黒の光が纏わり始める。


「UGAAAU!!」


 獲物の右腕を堪能する暇は無く、スノウドラゴンは背後を振り返る。

 長年つちかってきた野生の勘が告げたのだろう、「この悪魔を放置は出来ない」と。


「振り返りさえしなければ、楽に死ねたものを」


 気が付くと、キマドリウスは人間らしい見た目を捨てている。

 彼の頭には二本の角が生えている。


「まぁ良い。これでお前も悔いる事が出来る」


 すっ、と彼は腕を再度前に突き出す。


「さすればスノウドラゴンよ、冥府で悔いろ……この俺の大切な人を傷つけた事をなッッ!!!」


 瞬時。

 詠唱すらなく彼の腕から魔術が放たれる。


 それは一言で言うならば『暗黒の奔流』。

 闇が極限にまで凝縮され、ただ龍の命を奪おうとする様は、まさにそう言えよう。


 だが、龍はその一撃をただただ静観している訳では無い。


「UGAAUUUU!!」


 魔術によって周囲の雪を舞い上げ、自身の身に纏う。

 即席とはいえ、スノウドラゴンの雪の装甲は魔力が通され、実に鋼鉄にも近い強度を誇る。

 そして、


「関係ないッ! 砕け散れッ!」


 暗黒の奔流はそんな雪の装甲にぶつかる。


「うおおおおぉぉぉぉ!!」

「UGAAAAAAA!!」


 キマドリウスは全魔力を注ぐ。

 対してスノウドラゴンも必死になって雪の装甲を維持する。


 これでこの戦いが決まると言ってもいいだろう。

 もしキマドリウスが攻め切れなければ、魔力と共に戦う力を失い、もしスノウドラゴンが守り切れなければ、その身体は闇に飲まれ消え去る。


 まさに"必死"。

 そして、互いに一歩も譲れない攻防の末に残るのは──キマドリウスだった。


「UGAAAAAAA!!!」


 圧倒的な威力に耐え切れず、雪の装甲は瓦解する。

 そして守り切ることの出来なかったスノウドラゴンは、身体に大穴を開けられ、地を震わす咆哮と共にその場に倒れた。


「はあっ……はぁ……」


 これで終わりだ。

 だからキマドリウスは走った──ユカのもとへと。


「ユカっ! ユカっ!」


「……き、ま……」


 すると彼女はまだ、息をしていた。

 だが、失った右腕から大量に血を流し、力無く地面に倒れている様を見れば誰だって分かる。

 彼女はもう、助からない。


「……すまないユカ。俺が留守にしたばっかりに」


 キマドリウスはしゃがみ込んで、ユカの左手を握る。

 だが、その力は弱い。

 降る雪にさえ解かれかねない。


 ユカはそんな彼を見て、


「……いいんだよ。……キマは、悪くないもん」


 無理やり笑みを作る。


「……それより、今のキマ……ちょー悪魔っぽい」


「当然だ。だって俺は冷酷無比な悪魔だからな」


「ふふっ……それ、嘘でしょ」


「本当だ。だからお前を一人にしてしまった……」


 キマドリウスの瞳から涙がこぼれる。

 そしてその涙はユカの左手へと滴る。


「……泣かないで、キマ」


 ユカは彼の頭を撫でようと懸命に右肩を動かすが、その先は無い。

 それがたまらなく空しくて、悲しい。

 しかし死にかけの身体では涙すら出てこない。


 あまりにも無力。

 だからこそ、唯一動く口を開くしかない。


「……ねぇキマ」


「……うぅ……なんっ、だっ?」


「……結局『やりたい事』は見つかった?」


「……あぁ……ひっく……」


「……教えてよ」


 この頼みを断れるはずが無い。

 だから彼はゆっくりと口を開く。

 そして漏れる嗚咽を抑えながら、しっかりと言葉を紡いだ。


「俺の『やりたい事』は……いつまでもお前といる事だ、ユカ」


「……そう、ありがと」


「ひっく……」


「……じゃあ、最後に……私からもいい?」


「……当ぜっ、んだ……」


 その言葉を聞いて、ユカは安堵して瞳を閉じる。

 そして、


「……好きだよ、キマ」


 そう言い残して動かなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ