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第42話 雑貨屋、謝る

「んーおいしー!」


 ユカはパニーニを頬張りながら、その味に舌鼓を打つ。


 服屋を出た後。

 二人は早めの昼食を取っていた。

 それも何故か――テラス席で。


「うぅ……さ、寒い……。昼食にするのはいいが、何故テラス席なんだ……」


「えぇーオシャレなお店のテラス席って座りたくならない?」


「流石に積雪の横には座りたくならない! それにお前は寒くないのか?」


「まぁ寒いけど、真冬でもタイツとか履かないしーやっぱオシャレに対する意欲がキマとは違うね」


 ドヤ顔&上から目線。

 だが、寒さの中ではそれすら気にならない。


「そ、そうか。なら意欲が違ってもいいから、早く暖かい所に行こう」


「いやだー」


「うぅ……」


「はぁ……そんな寒いなら、それ飲めば?」


 ユカが指差すのはティーカップ。

 おそらく中身は温かい紅茶だろう。


 そしてキマドリウスは当然それを手に取り、飲んだ。

 ……中身も確認せずに。


「ぶっふほおおおぉぉぉ!!」


「きゃああああぁぁぁぁ!!」


 勢いよく中身を噴き出すキマドリウスと、それに悲鳴を上げるユカ。

 そしてテラス席の横にあった積雪は茶色く染まる。


「げほっ、げほっ! ぐおぉぉ!」


「だ、大丈夫キマ!?」


「これコーヒーじゃないかあああぁぁぁ!!!」


「ひっ!?」


 急に大声を出して怒るキマドリウス。

 だが、それはユカの心に恐怖を植え付ける結果にしかならない。


「……っ!?」


「い、いやこれがコーヒーだったから……そ、その驚いてだな……」


 言い訳も無駄だ。

 ユカは先程までの明るさを失い、完全に怯えきっている。


 元々それ程恐怖に強い子では無いのだろう。

 だからノウルスの時も服屋の店員の時も恐怖し、怯えたのだ。


 しかし何度恐怖しようと、常にキマドリウスが彼女を助けていた。

 もしかすると、彼はユカにとっての唯一の心の支えだったのかもしれない。

 なのに彼は、怯えさせてしまったのだ。


 (……たかが大声を出して怒っただけだ。……だが、俺にとっては"たかが"でもユカにとっては違うのだろうな……。なら――)


「すまない、ユカ!」


 キマドリウスは謝罪と共に頭を下げた。

 それが悪魔にとって有り得ない行動と知りつつも。


「大声を出した俺が悪かった!」


「……」


「だから……許してくれ!」


 謝る事以外にも取れる方法はあったかもしれない。

 だが、生真面目で優しい彼にはこの方法しか思いつかなかった。


 それはとても不器用で、下手な生き方。

 だが、いやだからこそ、


「……いいよ」


 人間には伝わる。


「本当か!?」


「ホント。……それより、こっちこそ驚いちゃってごめんね」


 ユカもキマドリウスに頭を下げる。


「い、いや! 今回悪いのは全面的に俺だ!」


「そんな事ないよ。あたしにも落ち度はあるもん」


「違う! ともかく悪いのは俺だ!」


「違う。悪いのはあたし」


 互いに謝り合う二人。

 それを不思議に思ってか、


「見ろよ! あのカップル謝り合ってるぜ、変なの!」


「ホントだ! "ちわげんか"ってやつだ!」


 周囲の子供が二人を馬鹿にする。


「なっ!? カップルではない! そもそも俺が謝るのにもきちんとした理由があってだな……」


「やーい! 馬鹿なにいちゃーん!」


「な、なんだと!? 子供風情が俺を馬鹿にしやがって……! 許さないからな!」


「うわー! 馬鹿なにいちゃんが追いかけて来た! 逃げろー!」


「待てえぇ!!」


 子供たちを追いかけ始めるキマ。


 だがユカはそれに気が付きもせず、食べかけのパニーニをじっと見つめる。

 そして惚けたかのように、


「……あたしとキマが……か、カップルか……」


 そう独りごちるのだった。


 ◇◇◇


「――その後、子供を捕まえようとして俺は雪に突っ込み……」


「ストップ」


 領主キマは、再度剣の勇者に止められる。


「どうした?」


「もういいわ。一週間後にまで飛ばして」


「えー。これからさっきのカエルの店員がやって来て、除雪してるゴブリンと抱き締め合って雪に飛び込むのにー」


「何があったのよ!?」


「ほら~聞きたいだろ~」


「ぐっ! ど、どうでもいいわよ!」


「本当か~?」


 妙にノリノリのキマドリウス。

 だが、


「本当よ! 何で延々と昔の敵のラブコメを聞かなくちゃいけないのよ!」


「ら、ら、ら、ら、ラブコメちゃうわ!」


「どう聞いたってラブコメじゃない! あれがラブコメじゃなきゃ何なの? オークの鳴き声? 犯罪者の断末魔?」


「ただの思い出話だ!」


 その後。

 二人は口論は続き、実に1時間にも及んだ。


 そして最終的には――


「ほら、もう時間もないし重要な所まで飛ばしなさい」


「ひゃい……」


 キマドリウスの顔が殴られ過ぎで、倍にまでふくれあがった。

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