第39話 雑貨屋、客の対応をする
「ウィっす! 元気にしてたか!」
「え……?」
あまりにもフランクすぎる口調に、ユカは呆気に取られてしまう。
だが恐怖はまだ残る。
しかしその様子をみかねてか、
「久し振りだな、ノウルス」
キマドリウスはユカを守る様に、間に割って入った。
「久し振りキマドリウス。……あれ? そっちの子は?」
「バイトの悪魔だ」
「あっそうなんだ。てっきり人間の奴隷かと思ったよ」
「人を飼い慣らすような趣味は俺には無い」
「今時そんな事言ってるのお前だけだぞー。人間の奴隷がいたら仕事しなくて済むのに、何でそんな嫌がるんだ?」
「俺が奴隷にはなりたくないからな。同情というやつだ」
「ふーん、やっぱお前変なやつ」
ノウルスと呼ばれた化け物は適当に話を区切る。
そしてその様子を見て、キマドリウスは本題に入った。
「で、何の用なんだ?」
「いやー不死海月の霊薬が切れちゃってさー、買いに来たんだよー」
「それなら無いぞ」
「ありゃーそりゃ残念。でも作れないのか?」
「あれは『アイテム製作』スキルを持つ妹しか作れない」
「まじかー!」
悲しそうに肩を落とすノウルス。
そして、
「用がないなら、とっとと帰れ」
手厳しいキマドリウス。
それを見て、それまで静かだったユカがようやく口を開く。
「ちょ、ちょっとキマ。その言い方はないんじゃ……」
「何故だ? 用が無いのに居座られても困るだけだろ」
「そんな! お客さんだよ!」
「物を買わないなら客ではない」
「そ、そうだけど!」
「なら答えは出ているだろ」
一歩も引かないキマドリウスに、ユカは頬を膨らませる。
怒っているのだろう。
だがこのキマドリウスの対応は、悪魔としては当然の対応だ。
対価も払わない者に尽くす礼儀は無いし、対価を払ったとしてもプライドがあるので頭を下げない。
そして、それはノウルスも同じだ。
「……キマドリウス、その子おかしいんじゃねぇのか?」
「あぁ、大いにおかしい」
「おかしくないもん!」
バンッ! とユカは強く机を叩く。
だが、彼女はただの人間だ。
どこぞやの勇者とは違って、机にはヒビ一つ入らない。
「頭はおかしいし、力も無い。……今まで生き残ってこれたのが不思議だな」
「あぁ。だがお前には関係の無い事だろう、ノウルス」
「確かに……じゃあ俺帰るわ、頑張れよキマドリウス」
そう言うなり、ノウルスは背を向けて店から出て行こうとする。
そこへ――
「あ、あの! キマがすみませんでしたっ!」
ユカは頭を下げた。
「はあぁっ!? な、なんだこいつ!? プライドはねぇのか!?」
「失礼な事をしたら謝るのは当たり前です!」
「ま、マジかよ! き、気持ちわり!」
ノウルスは嫌悪を一切隠す事無く、顔に出す。
そして、そのまま店から出て行った……。
「……もう行ったぞ。頭を上げろ」
「……うん」
キマドリスに促され、ユカはようやく頭を上げる。
「……ねぇキマ」
「なんだ?」
「悪魔とか他の種族って皆、あんな感じなの?」
キマドリウスには、彼女の背中しか見えず、表情は見えない。
だが、声色は悲しそうだ。
「なんか、感じわる……」
「……そうか。でも分かっただろ、人間という事を明かしてはいけない理由が」
「……奴隷にされちゃうから?」
「それはまだマシな方だ。最悪食われるぞ」
「ホント最悪じゃん」
「だから、今回みたいな妙な真似はしない事だな」
それは善意からの忠告。
しかし、
「……する。あたし続けるもん」
キマドリウスの方を振り返り、ユカはそう告げた。
「はぁ……これだから人間は」
「人間だからとかじゃない! "謝るのに、人間も悪魔も関係ない"!!」
「……好きにしろ」
そう言ってキマドリウスは本を再び読み始めた。
◇◇◇
「――と、まぁ意外にもこの言葉が結構刺さったわけで」
領主キマは自身の記憶をしみじみと思い出す。
「ふーん。それであんたが謝りまくるようになるのね」
「いや、謝らないぞ」
「ええぇ!? これは改心する流れじゃないの?」
「流石にそこまでちょろくない」
「じゃあいつから謝り始めるのよ!」
キレ気味の剣の勇者。
だが慣れたのか、キマドリウスは普通に会話を続けた。
「うーんとな、かなり飛ばす事になるが、いいか?」
「ダメっ!!」「駄目です!」
剣の勇者とダンジョンコアの見事なハモり。
「……そうか。じゃあ普通に続きを話そうか」




