第38話 雑貨屋、待つ
「よし、じゃあ『やりたい事』探し! ……と、いきたいところだが、まずは仕事だな」
いくら『やりたい事』を探すと言っても、金が無ければ生活は出来ない。
とは言っても一応キマドリウスは、『老後に年金が要らない程度』の金は持っている。
しかし働かない事への不安感があるのだろう。
「よし働こう、ユカ」
「うーん。でも仕事って言っても具体的に何するの、キマ」
「それなら簡単だ」
そう言うなりキマドリウスは、インテリアの一部となっている本棚から本を取り出す。
そしてその本を持ったまま、カウンターのイスへと深く腰かけた。
「"待つ"事。これが俺達の仕事だ」
「えー結構退屈ー」
露骨に嫌そうな顔をするユカに対して見向きもせずに、キマドリウスは本の表紙を開く。
マジで読書する気のようだ。
「えー、雑貨屋さんって品物入荷したりとか作ったりとかしないのー?」
「俺の場合、物が売れない限りは追加する予定はないからな」
「まじか―。じゃああたし何すればいい?」
「本を読むか?」
「やだー」
「むっ」
これは困った、という風のキマドリウス。
だが考えてくれる事自体が、彼の優しさの表れだろう。
「そうだな……うーん……じゃあ魔術を教えようか」
「いいね、キマ!」
ユカは親指を立てて、喜ぶ。
そしてキマドリウスは席を立ち、そんな彼女に近づいたところで、言わなければならいない事を思い出した。
「あっそうだ」
「どしたの?」
「一応確認しておくけど、お前人間だよな」
「そーよ。逆にそれ以外あり得なくない?」
「あり得る。実際俺は悪魔だ」
「え……?」
ユカは唐突なカミングアウトにぽかんとする。
そして、
「あはは! んな訳じゃない! キマの見た目、思いっきり人間なんだけど!」
笑い出した。
「俺が特別人間に似ているだけだ。いわば例外だ」
「何その設定! あはは!」
「別に俺で笑うのは構わないが、客を見て笑うなよ」
「笑う訳ないでしょ! キマがふざけた事言うから笑ってるだけだし!」
「それと……人間である事を絶対に明かすなよ」
妙に真剣な表情のキマドリウス。
「それってなん――」
ユカがその理由を聞こうとした瞬間。
――カランカラン
と、ドアベルが鳴った。
「客だな」
「えっ!? 初めてのお客さんか!」
二人は音のした方――玄関の方へと顔を向ける。
そしてその時、ユカは目の前の存在に絶句した。
「……っ!」
そこにいたのは体長3メートル程の牛。
だが、ただの牛とは違い山羊の様な細い二本の足で直立し、人間の様な腕で扉の取っ手を掴んでいる。
その見た目は、一言で言うなら『化け物』。
人間とは程遠い、まさに異形の存在だった――
「……あ、あぁ……」
ユカは目の前の存在に対して、今すぐにでも逃げ出したい。
だが膝が震え、身体が動かない。
彼女としては、こんな絶望を今までに味わった事は無い。
スノウドラゴンの時はただただ必死に走っただけだし、車にひかれた時は考える暇すらなかった。
だからこそ、今が最上級の恐怖、最高級の畏怖。
そして、更なる恐怖を与えようとしてか、直立する牛の化け物は重々しく口を開いた――
「ウィっす! 元気にしてたか!」




