表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/48

第37話 雑貨屋、一階に降りる

 朝食を食べ終えたユカは、1階へと向かうために、部屋から出て階段を下りる。


 この『雑貨屋オソビニウス』では1階が雑貨屋、2階が生活空間となっていて、住環境の全てが2階に集約されている。

 だから仕事をするためには1階に降りる必要があるのだ。


 そしてユカは1階に降りるなり、


「おぉ、結構おしゃれじゃん」


 そんな言葉が口から漏れた。


「えーなんか大人な空間って感じー」


 雑貨屋の雰囲気は一言で言うなら"シック"だ。


 全体的に薄暗い照明、高級そうな木材で出来た家具や陳列棚。

 商品でさえワイングラスや香木といった、妙に気取った物ばかりが取り揃えられている。

 そしてこのシックな空間の店員は――


「別に俺がデザインした訳じゃないけどな」


 スーツ姿のキマドリウス。


「おぉ! キマ、かっこいい!」


「そ、そうか?」


「これが『馬子にも衣裳』ってやつなのかな?」


「それ、褒めてないぞ……」


 苦笑いするキマドリウス。


「あはは、まぁいいじゃん! 似合ってるんだし! それでその制服、私の分もあるの?」


「無いぞ。だってこれ制服じゃないし」


「えぇ!? じゃあ、そのスーツは?」


「これ前の職場の制服だぞ」


 キマドリウスのスーツは魔王城勤務の悪魔の制服だ。

 だがそんな事をユカが知るはずも無い。


「……もしかしてキマってリーマンだったの?」


「りーまん? よく分からんが、人間で言うなら下級貴族に近いな。一応城に勤務してるし」


「マジ……上級国民ってやつ!? え、えっ!? じゃあ何でこんな所で仕事してんの!? 何で辞めちゃったの!?」


「妹が駆け落ちしてな。やりたくも無いのに、継がなくてはならなくなったんだ」


「えぇー災難ー。でもやりたくないんでしょ?」


「まぁ気にするな。これも運命だ」


 割に達観したキマドリウス。

 だが、年若い少女にその考えが理解できるはずも無い。


「『運命』だとか言い訳して、自分の道を閉ざしちゃうの?」


「むっ」


 少女の発言が癇に障る。

 だが反論もせずに、キマドリウスは黙って聞く。


「辞めたいなら雑貨屋なんて辞めちゃえばいいし、本当にキマがやりたい事をやればいいじゃん!」


「……」


「何かないの? キマのやりたい事とか、将来の夢とか」


「……無い」


 悲しそうに告げるキマドリウス。

 本心から「無い」と言っているからこそ、こんな表情が出てしまうだろう。


「……」


「そう……」


 流れる気まずい空気。

 だが、


「……それなら、探そうよっ!」


「え……?」


「ほら! 世の中って広いし、キマのやりたい事が絶対あるはずだよ! あたしも手伝ってあげるし、絶対見つかるから!」


 あまりにも下らない台詞、現実はそんなに甘くない。

 それに下手な話し方、おそらく頭に浮かんだことをただ口にしているだけだ。


 ……だが……いや、だからこそ伝わる。

 だからこそ刺さる。


 人間とはそういう生き物だ。


「……ふっ! フッ! フハハハハ!!」


「ど、どうしたの!?」


 急に笑い出したキマドリウスに驚くユカ。

 自身が彼を動かしたとは微塵も思っていないようだ。


「き、キマ?」


「フハハ! 面白い事を言うな、ユカ! ならばこの俺に『やりたい事』とやらを見つけてみるがいい!」


 ありもしないマントを、はためかせる仕草をするキマドリウス。

 その表情は笑顔だ。


 そして、元気になったキマドリウスを見て、ユカにもつい笑みがこぼれる。


「……ふふっ。あたしが見つけるんじゃなくて、一緒に見つけるんだけどねっ!」


「当然分かっている! フハハ!」


 シックな空間には似つかわしくない笑い声が、響いた。


 ◇◇◇


「――という風に、俺達は二人で『やりたい事』を探すことにしたんだ。ふぅ……ごくっ」


 休憩がてらに、砂糖たっぷりの紅茶を飲む領主キマ。


「えー、でも以外ね」


「何がだ?」


 キマドリウスは剣の勇者に、眉をひそめがら聞いた。


 こういう時。

 大抵剣の勇者の口からは、ろくでもない言葉しか出てこない。

 そして今回も、その例にもれなかった。


「あんたの事だから、『俺のやりたい事はお前と……うへへっ!』とか言って襲いかかると思ったわ」


「俺を何だと思っているんだ!?」


「変態の犯罪者」


「それはお前の事だろ」


「あ゛ぁ!?」


「す、すいません……」


 とっさに謝るキマドリウス。

 その様子を見て、剣の勇者も溜飲を下げた。


「はぁ……あんたホントすぐに謝るわね」


「仰る通りです、剣の勇者様」


「でも主様」


「なんだ、ダンジョンコア?」


 剣の勇者"様"とダンジョンコアでは急に態度が豹変する。

 だがダンジョンコアに、その事を別段気にした様子はない。


「そういえば、この頃の主様って全然謝りませんよね」


「そうだな。……でも、そろそろ謝る事へのきっかけみたいのなものが出てくるぞ」


「おぉ、なんと。それでは是非続きを聞かせて下さい」


「……仕方ないな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ