第36話 雑貨屋、少女と朝食をとる
翌日の朝。
少女は眠たげな眼をこすりながら、リビングへと向かった。
すると、そこではキマドリウスが先に席に着き、ご飯を食べていた。
「おはよーキマ」
「おはよう、朝食はもう用意してある」
「ありがとぅー。結構キマって家庭て……」
そう言いかけた所で、少女は動かなくなった。
「……どうしたんだ、急に」
「えっと……これ何?」
少女は指を指す。
その指の先にあるのは2人分の皿。
そしてその上に盛られた、
「イモリの串焼きだが?」
「ええぇー! マジで無理ー!!」
「何でだ!? 味は確かにアレだが、魔力が回復するし、朝食には打ってつけだぞ!」
「いやほんと無理! 見た目がヤバいもん!」
完全な拒否。
食べている本人としては、良い気がしない。
力にものを言わせて、無理矢理口に生イモリを突っ込んでもいいが、流石に彼も大人だ。
人間と価値観の相違がある事くらい理解している。
「はぁ……仕方ない、少し待て」
キマドリウスは席から立ち上がり、棚の中を物色する。
そして、その中からパンをいくつか取り出した。
「ほら、これでいいだろ」
「あるなら最初から出してよ、キマ」
「お前がイモリを食うと思ったんだよ」
「絶っっっっ対無理!!」
そんなやり取りをしつつ、二人は席に着いた。
そして何気無い会話をおり交ぜつつ、朝食を取る。
「もぐもぐ……そういえばさ、キマ」
「なんだ?」
「魔力がどうのこうの言ってたし……もしかしてこの世界って魔法とか使えるの?」
「この世界? というのはよく分からんが、魔術なら使えるぞ」
「え、マジ!?」
少女はらんらんと目を輝かせる。
魔術にいくばくかの興味があるのだろう。
「あぁ大マジだ。昨日、お前を暖めた光の玉も魔術だぞ」
「えー! 最新の暖房かと思ったー! 他にも魔術見せてくれない?」
「あぁ、いいぜ。『光よ、この手に』」
キマドリウスは詠唱と同時に、人差し指で天井を指す。
すると、その指先から小さな光の玉が出現する。
「おぉ! すごいじゃんキマ!!」
「そ、そうかぁ?」
隠しつつも、内心では褒められて喜ぶキマドリウス。
……ちょろいのかちょろくないのか、よく分からない。
「もっと魔術見せて! というか教えてよ!」
「ふっふっふ、いいだろう。……だが、先に仕事だ」
ガタッ、とキマドリウスは席から立ち上がる。
「ちょっと待ってよー。まだ食べ終わってなーい」
「気にするな。お前のペースでゆっくり食べろ」
そう言ってキマドリウスは背を向けるが、
「待って!」
「次はなんだ?」
「ユカ!」
「床?」
「ユカっ! 私の名前!」
「そうか、お前の名前か。覚えておく」
「『覚えておく』じゃなくて、ユカって呼んでよ。いつまでも"お前"で呼んで欲しくない」
「……分かった」
「絶対呼ばない反応でしょー、それ」
ジトーっとキマドリウスを見つめるユカ。
こうされると、流石のキマドリウスも弱い。
「分かった分かった。ユカって呼べばいいんだな」
「そー。はい、呼んでみて」
「……ゆ、ユカ……」
キマドリウスは顔を逸らしがらも、きちんと言葉を紡ぐ。
こうした妙に律儀な所も、彼らしい。
だが、
「ふー! 恥ずかしがってて可愛いー!」
返って来る反応は煽りに近い。
「うるさい! 俺は先に降りてるからな、ユカ!」
ドカドカ、と大きな足音を立てて部屋から出ていくキマドリウス。
そして一人取り残されたユカは、
「もぐもぐ……キマとユカってどっちも二文字よね。……相性最高じゃん」
馬鹿な事を呟いていた。
◇◇◇
「――という風な朝を迎えたんだ」
ソファに腰掛ける領主キマはそう言い終わると、背もたれに身体を預けた。
逆に剣の勇者とダンジョンコアは微妙に前かがみで、食い入るように話を聞いている。
「へー、魔術も知らないなんて変な子ね」
「そうだろ、イモリの串焼きも食べないんだぞ」
「いや、それ食うのあんただけだから。流石に悪魔でもそんなゲテモノ食べないわよ」
「そんな事ないぞ! 子供の頃、妹が『皆食べてるよ』って言って教えてくれたんだぞ!」
「……騙されたのよ、それ」
「いや、そんなはずない!」
と強く反論しているが、実はイモリの串焼きは悪魔でも食べない。
彼は妹に騙されているのだ。
だがその事実を知り落ち込んでいる所へ、剣の勇者に「あんたホント馬鹿ねぇ~アハハ!!」と笑われるのは、また別のお話である……。
「そういえば、主様」
「なんだダンジョンコア」
「前に妹さんのせいで雑貨屋を継いだって言ってましたけど、それって主様がなりたくてなったんですか?」
「……いや、正直言うとなりたくなかった」
苦笑いするキマドリウス。
本当になりたくなかったのだろう。
「まぁ、その辺の話は丁度今から話すから」
「お、楽しみね!」
「早く聞かせてください」
もう、彼の話の虜となった二人。
これにはキマドリウスも気を良くしてしまう。
「では話そう。昔々あるところにおじい――」
「いや、そういうのいいから」
「すいません」
小ボケを怒られしゅんとする元魔王。
そして、今度こそ続きを話し始めた。




