第32話 領主、オーガによく似た仲間を得る
「うえぇーん! 右手が痛いよぉー!」
キマドリウスは領主の屋敷の自室で、泣く……ふりをする。
「おろおろ……領主様、かわいそうなお姿に……」
それを見て、アオイは悲しむ……ふりをする。
三文芝居、大根役者――
それが彼らに相応しい言葉だ。
そしてそれを見て、
「何してんのよ、あんた達」
お見舞いに来た剣の勇者は疑問を投げた。
「見て分からないのか! 右手が痛むんだよー!」
「そうですよ、剣の勇者様。この領主様のおいたわしい姿を見ても、なんとも思わないのでしょうか?」
「あんた回復魔術かけてたでしょ! 少なくとも、もう痛みは引いてるでしょ!」
「そんな事言われると……うっ! また痛みがっ!!」
キマドリウスはベッドの上で、右手を抱きかかえるようにしてうずくまる。
「下手くそな演技ね……。子供たちのお遊戯会の方が、まだいい演技するんじゃないの」
「本当に痛いのに……うぅ……。いつだって加害者はそうやって自分の罪を軽くしようとするんだな……」
「えぇ!? 本当に痛いの!? そ、それは……ごめん」
しおらしく謝る剣の勇者。
その姿を見て、キマドリウスも満面の笑みを浮かべる。
「いい謝罪だ」
「……その上から目線、ムカつくわね」
剣の勇者の眉が「ピクッ」と動く。
彼女が声を荒げずに怒りを抑えているのは、やはり相手が怪我人だからだろう。
……だが、すぐに怒りの抑えなんて消し飛んでしまう。
キマドリウスの一言によって。
「本当は痛みなんて無いぞ☆」
「……は?」
「だってこうでもしないとお前謝ってくれないんだモーン」
「……」
取ってつけたかのような語尾に触れもせず、わなわなと震える剣の勇者。
下を向いているので表情は見えないが、おそらく……キレているのだろう。
「フハハ! 素直に謝れば、お前の気持ちも晴れやか、俺もお前を許せる。一石二鳥で皆ハッピーだ!」
「……」
「"謝る"という事も存外悪くないだろ、剣の勇者」
「……」
――チャキッ
「……え? 剣の勇者さん? なんで剣を抜いているのでしょうか?」
不穏な空気に、キマドリウスの口から敬語が出てしまう。
「ちょ、ちょっと、落ち着きませんか! 剣の勇者さん、俺ケガしてるから!」
「……教えてあげるわ。嘘をつく相手を間違えると"死ぬ"という事を――」
剣の勇者はその輝かしい剣を構える。
そして剣先はもちろん――キマドリウスの方を向いている。
「マ、マジで!?」
危険を察知し、キマドリウスはベッドから起き上がる。
「マジよ。……覚悟しなさいッ!」
剣の勇者は思いっきり腰を落とす。
すると彼女の剣に光が集束し始め、剣を更に輝かしくさせていく。
「しゃ、しゃれになりませぬうううぅぅぅーーー!!!」
――――バリンッ!!
と大きな音を立てて、キマドリウスは逃げ出した。
……2階の窓から。
「うおおおおぉぉぉぉ!!! 『緩衝の緑床』ッ!」
高速で地面へと落下しつつ、彼は詠唱する。
すると地面からふんわりとした植栽が生えてくる。
そして、
――ドサッッ!!
と植栽をクッションにして、安全に地面へと辿り着いた。
「う、うぐっ……! う、うおぉぉぉ!」
クッションがあったとはいえ、相当な痛みが襲い掛かる。
だがキマドリウスは直ぐに立ち上がり、走り出した。
屋敷から、そして剣の勇者から離れるように。
「……あいつ、超元気ね」
「ですね」
全力疾走する彼の様子を2階の窓から眺める剣の勇者とアオイ。
悲しい事に、その表情に心配や憂慮は一切ない。
「まるでゴキブリね」
「いえ、クマムシでしょう」
「く、熊虫……?」
単語の意味が分からず、「ほへ?」となる剣の勇者。
だが意味を知らないのは恥ずかしいと思ったのか、
「あ、あぁ! あれね、あれ! わ、わかるわよ!」
スキル?『知ったかぶり』を発動した。
「絶対に分かっていませんよね」
「わ、分かるわよ! そ、それよりも、あいつがなんで生き残ってたか分かった気がするわ」
「生き残った?」
「え? 聞いてないの? あいつ"元"魔王よ」
「なっ!? 人間では無いと思っていましたが、まさか魔王だったなんて……!」
あまりの衝撃に、アオイは驚きを隠せない。
「これ、言っちゃいけないやつだったかな……?」
「……少なくとも領主様は隠していましたよ」
「ふぅ……ま、いっか! 嘘をついたあいつが悪いんだし!」
あまりにも無責任。
そして唯我独尊にして自分勝手な振る舞い。
だが、これこそが六大勇者の一人、剣の勇者の生き方だ――




