第29話 領主、一番会いたくない相手と会う
翌日。
キマドリウスは特に用も無く、宿屋の扉を開いた。
「よぉ、キマ」
「あぁ、お前かマッキー」
すると、そこにはマッキーがいた。
なので彼はマッキーのいたテーブル席に同席した。
「よいしょっと……そういえば昨日の5人はどうなったか、知っているかマッキー?」
「商人なら着々と店を開く準備をしているさ。大工の方はゾレムに色々教わってるんじゃねぇの?」
「そうか、それはよかった」
徐々に、ではあるがこのダイーオも発展してきている。
その事実にキマドリウスもつい笑みがこぼれてしまう。
だが、そんな甘美な時間も長くは続かず、
――バッンッッッ!!!
と急に扉が開かれた。
……というより、ぶち壊された。
明らかに物が壊れる音が響き、扉の蝶番は完全に、はがされる。
「な、なんだ急に!?」
「お、おい、急になんなんだ!!」
二人は驚いた様子を見せるが、彼らには扉を開いた人物が見えない。
何故ならその人物は、『ぶち壊した扉を持ち上げたまま中に入って来る』という意味の分からない行動を取っているからだ。
「うわーやべー。また壊しちゃったか……」
「お前は誰なんだ!」
「おい! 何が目的なんだ!」
声を荒げる二人。
「あ? 私の事? 私は――」
声の主は扉を片手で、宿屋の外へと投げる。
すると、二人にも声の主の姿が始めて確認できた。
声の主は短く赤い髪をした少女。
その容姿、怪力からも分かるように、彼女は――
「――剣の勇者よ」
かの魔王キマドリウスを打倒した人類の英雄、剣の勇者ルイズス・リヒテナウアーその人だ。
「……なっ!? 何故お前が……ッ!」
「ん? え? あっ! あんたは……っ!」
キマドリウスと剣の勇者は予期せぬ再開に、険しい顔つきとなる。
「……久し振りだな」
「えぇ、そうね」
「……何をしに来たんだ?」
「あんたの首を取り来た……と、言いたい所だけど、今回はダンジョンを攻略しに来ただけよ」
「ほう。なら――」
「見逃さないわよ」
緊迫した空気。
まさに今の状況は一触即発だ。
流石にこんな状況となっては、マッキーも介入せざるを得ない。
「おいおい。いくら剣の勇者様とはいえ、急に現れて領主様と対峙するなんて失礼すぎないか」
「は? こいつが領主? マジ?」
「本当だ、剣の勇者よ」
「……そう。変われば変わるものね」
「そういう台詞は彼氏にでも言ってくれ」
「いないから、あんたに言ってんのよ」
剣の勇者の眉が一瞬、ピクっと動く。
彼氏というワードが気に障ったのだろう。
普通の魔王なら、このまま舌戦で冷静さを奪っていくのだろう。
だがキマドリウスは違う。
彼は、
「すまないな」
すぐに謝った。
「あら、意外と素直に謝るのね」
「その方が良いと昔友人に言われたからな」
真剣な顔で答えるキマドリウス。
その姿は、威厳のある魔王でも、情けない領主のものでもない。
確固たる意志を持った一人の人間のものだ。
そしてその姿に、剣の勇者は険のある表情を止めた。
「はぁ……まぁいいわよ、見逃してあげる」
「いいのか?」
「私に二言は無いわ。それにあなたが昔と違うように、今の私も昔とは違うの」
「……そうか」
「そうよ……私はもう勇者じゃない」
剣の勇者はそう言い、キマドリウスに背を向けた。
「じゃあね、私はダンジョンに行くわ」
「……剣の勇者」
「何よ」
「最下層で待っているぞ」
「……りょーかい」
剣の勇者は面倒そうに手をひらひらと振り、その場を去った。




