第21話 勇者、面接をする
数日後。
剣の勇者はとある扉の前で緊張していた。
「ふぅ……せっかくなけなしの金で服まで買ったんだから、頑張らないと」
彼女の出で立ちはいつもの服装ではない。
何故なら、これから面接だからだ。
そしてその服装というのも、ただ清潔感があるだけの物とは一味違う。
あたま:なし
どう:りくるーとすーつ
くつ:りくるーとぱんぷす
あくせさりー:りくるーとばっぐ
これぞ、乙女の対就活専用装備。
剣の勇者は本気で就活ダンジョンに挑むつもりだ。
「さぁ、いくわよ! 見せてやるわ、勇者の就活というものをね!」
剣の勇者は自身に気合いを入れる。
そして拳を握り、
――コンコン
と優しく扉をノックした。
威力、破壊力、衝撃、その全てを抑えた完璧なノック。
彼女の友人がこのノックを見たら、驚きのあまりに卒倒するだろう。
だがそんなノックでさえ、返事が返ってくるとは限らない。
「……」
「あれ?聞こえてないのかな?」
剣の勇者は頭の上に巨大な"?"を浮かべながら、再度「コンコン」と扉をノックした。
すると、ようやく返事が返ってきた。
「……お入りください」
「わかりました!」
剣の勇者は意気揚々と扉を開いた。
そして頭を下げて、部屋に入った。
「はぁ……通常、ノックは三回です。二回はトイレですよ」
すると、いきなり面接官からのダメだし。
席についてすらいないというのに、これでは先が思いやられる。
「ご、ごめんなさい!」
「まぁいいでしょう、こちらの席にどうぞ」
「はいっ!」
剣の勇者は慌てて席に近づき――座った。
「あのぉ……座っていいとは一言も言っていないのですが」
「す、すいません!」
怒られて、瞬時に立ち上がる。
だが、失敗した後ではもう遅い。
確実に悪い印象を与えてしまっただろう。
「はぁ……では、お名前をお聞かせして頂いても宜しいでしょうか?」
「はいっ! ルイズス・リヒテナウアーです! 宜しくお願いします!」
剣の勇者は深々と頭を下げる。
「それでは、今度こそお座りください」
「はい……」
勇者は再度席に着く。
それも知ってか知らずか、きちんと左側から。
だが正しいマナーとは、出来て当たり前の前提条件だ。
だから面接官は一切気にもかけず、面接を始める。
「はい。では早速ですが、弊社を志望した理由を簡潔に教えてください」
「お金が欲しいからです! 卸売り業なので儲かってると思いました!」
「……正直なのは良い事ですが、正直すぎるのも考え物ですね……」
「ありがとうございます!」
「褒めてませんよ」
「えええ!?」
相手の発した言葉の意味を正確に読み取れない。
これは明らかな減点だ。
「ふぅ……では、長所を教えてください」
「攻撃力と防御力が高いです! それに破壊力バツグンのスキルがたくさんあります!」
「……短所は?」
「うーん……ありません!!」
面接官は頭を抱える。
とんでもない奴が面接に来た事を、実感したからだ。
「はぁ……特技などはございますか?」
「テラスラッシュとゴッズスマッシュです!」
「それは弊社に、どのように利益をもたらすのでしょうか?」
「ぐっ……! も、モンスターを駆逐できます!」
「弊社はモンスターと戦いませんよ。はっきり言って無駄ですね」
「ぐあっ!」
剣の勇者の精神に5000ダメージ。
彼女は情けなく椅子の上で呻く。
「これは……はい。分かりました」
「待ってください! 何が分かってんですか!」
「では後ほど合否の程を遅らせて頂くので今日の所はお帰り下さい」
「ま、待って! お願いだから!」
「いえ、これから通常の業務ですので……」
「嘘だッ! 絶対私を帰らせたいだけですよね!」
「……」
面接官は静かに顔を逸らす。
無言で、正解の意を伝えたのだろう。
「くっ……! わ、私これでも元勇者ですよ!」
「関係ありません」
「ほ、ほら、見た目も可愛いですよ!」
「中身が追い付いていません」
「な、何でもしますから!」
「求めていません」
完全な拒否。
ここまで拒否される事もそうそうない。
……それだけ彼女が『いらない存在』という事だ。
「な、なんでよ……」
床に崩れ落ち、地面を見つめる剣の勇者。
表情は絶望に染まり、諦めが心を支配する。
絶望の悪龍でも、魔王キマドリウスでも成し遂げられなかった光景を、面接官は言葉だけで成し遂げたのだ。
だが、面接官に喜びはない。
「いつまでいるんですか……。早く帰ってください……」
ただそう切に願うだけだ。




