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第19話 勇者、酒におぼれる

「ぷはぁ~!」


 剣の勇者はジョッキを「ガンッッ!!」と机に置く。

 そのあまりの威力に机はひびを生み出し、ジョッキは悲鳴を上げる。


「あたし達勇者よ! 何でクビになのよー!」


「ふひひっ……」


「だいたい王も王よ! 私達がこの世界にどれだけ貢献してきたか分かっていないんじゃない?」


「……へへっ」


「あ゛ー!! これからどうしろってのよー!!」


 口が文句製造機となった剣の勇者と、気味の悪い笑みを浮かべる杖の勇者。

 近寄りたくないタイプの酒飲みトップ2だ。


 しかもそれだけでなく、


「うわあぁ! 大金、美酒、美男子! どれも遠ざかっちゃったじゃない!!」


 剣の勇者は叫び散らしながら、地団太を踏む。

 すると「バンッッ! バンッッ!!」という強大な音と共に、床に亀裂が走る。


 更にたちが悪い事に、迷惑なのは彼女だけでない。


「ふひひ……『滅せ』」


 ――ボッッ!!


 と、杖の勇者は炎を手の平に出現させる。

 そして、


「……暗澹、暗愚、暗黒、暗鬱……」


 ブツブツと何かを呟きながら紙を燃やす。

 そのメラメラと燃え盛る炎、それが彼女に不敵な笑みをこぼさせる。


「……ふひっ」


「何でよおぉ! これからどうしろっっていうの!」


 ……はっきり言って、両方ともやばい客だ。

 というか業務妨害はなはだしい。

 いくら勇者と言えど、こんな客を放っておくはずが無い。


「……あのー、すみません」


 ついに、ハゲた店主は二人へと話しかけた。

 それも屈強な黒服のハゲ3人と共に。


「なに? サイン? 転売しないなら書いてあげてもいいわよ」


「いえ、そういう事ではなくてですね……」


「ふひっ……クレイジートロールの目玉でもくれるの?」


「そんなもの取り扱っていませんよ……」


「じゃあ、何の用なのよ! こちとらクビにされたばっかで、落ち込んでんのよ!」


 完全な逆切れ。

 剣の勇者は勢いよく席を立ちあがる。


「落ち込んでる……んですか? まぁ何でもいいですが、出て行ってくれませんかね」


「は? なんでよ」


「あなた達のせいで、客が逃げてしまうんですよ」


「そんな事……」


 そう言いかけた所で、彼女の口が止まった。

 周囲を見てみれば、客が一人残らずいなくなっていたからだ。


「ま、まぁ……お腹でも痛くなったんじゃない?」


「見苦しい言い訳ですね」


「ち、違うわよ! 事実よ事実!」


「はぁ……もうわかりました」


 剣の勇者に話し合いの余地はない。

 ついでに杖の勇者には話しかけたくも無い。

 こんな二人の末路は当然、


「おい、つまみだしてくれ」


 強制バイバイだ。


 ハゲ店主の指示を受け、屈強なハゲ3人は勇者二人に歩み寄る。


「なっ!? こんな善良な客にそんな仕打ちをするの!?」


「ふひっ、有り得ない話、あやまれあやまれ」


 何故か猛反発する二人。

 黒服ハゲの一人は剣の勇者に手を伸ばすが――


「私悪くないもん!」


 ――バンッッッ!!!


 目にも止まらぬ速さで放たれた張り手によって、店の壁にまで吹き飛ばされる。


「……ぐはっ!」


「なに! こいつ抵抗したな!」


「違う! い、今のはちょっと押しのけようとしただけよ!!」


 彼女としては本当に押しのけようとしただけだろう。

 だが彼女の物差しは、一般人とは遥かに違い過ぎる。


「もう手に負えん! おい、衛兵を呼べ!」


「わかってるぜ!」


「待って待って! お願い呼ばないで!」


「次は無い……ひひひっ」


「知るかよ! この犯罪者め!」


 黒服ハゲの一人は走り出す。

 このまま見逃せばここに衛兵が現れ、二人は確実に捕まる……抵抗しなければ、の話だが。


「くっ! どうすれば……っ!」


 剣の勇者は顔をしかめる。

 これからの行動次第で未来が決まるからだ。


 そしてそんな彼女が取れる行動は――


 たたかう

 にげる

 ぼうぎょ

 どうぐ


 の4つ。

 何故かコマンド風だ。

 それに、選択肢が人間とは思えないくらい少ない。


 そして彼女はそんな選択肢を、足りない脳みそで吟味し、


「こうなったら――」


 拳を強く握り込んだ。


「やめろ! お前に殴られたら死ぬだろうが!」


「へへっ、やっちまえ」


 ざわめく周囲。

 だが彼女の耳には一切届かない。


 故に剣の勇者は駆けた、殴る為に。


「うおおおぉぉぉ!!」


「やめろおおぉぉ!!」

「うわあああぁぁ!!」


 そして、渾身の力で殴った――――壁を。


 ――バンッッッ!!!


 剣の勇者の強力な一撃によって大穴を穿たれた壁。

 巨漢でも余裕で通れそうなその穴には、驚きよりも戸惑いを感じる。


「な、なぜ壁を……?」


「ふっ……。教えてあげるわ」


 そう言いつつ、剣の勇者は杖の勇者を持ち上げて、小脇に抱える。

 そして、


「逃げるためよおおぉぉ!!」


 壁を通り抜けて、走り出した。

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