第17話 領主、人間の友人を得る
「ぷはぁ~。エールおかわり」
「はーい」
マッキーに頼まれ、ホビットはジョッキにエールを注ぐ。
「……ごくっ! マッキー、お前よく飲むな」
「これでも控えてる方なんだぜ。てか用って何なんだ?」
つい先刻。
キマドリウスは何かを思い出したかのようにマッキーを食堂に誘った。
当のマッキーはその理由を最初、『領主=ダンジョンボス』という事への口封じのためと考えた。
だがキマドリウスが連れていったのは食堂。
店番のホビットもいる状況では口封じもくそもない。
だからマッキーの頭の中では可能性が駆け回るだけで、これといった理由が思い付かなかった。
しかし、その理由はすぐ明らかになる。
「それはな、マッキー。お前をスカウトしようと思っているんだ」
「スカウト?」
マッキーはその言葉を聞いて、
(ダンジョンのモンスターと一緒に冒険者を撃退しろって事か?)
と考えた。
「……誘ってくれたのはありがたいが、俺も人の子だ。すまねぇな」
「そうか……。まぁ衛兵なんて仕事危ないから、しょうがないか」
「え? 衛兵?」
「ん? ダンジョン受付の衛兵だぞ」
「……」
絶妙に噛み合っていなかった二人。
それを理解したマッキーは席から立ち上がって声を荒げた。
「それを先に言えええええー!!」
「うおおぉぉ!! 急にどうした!?」
「俺はてっきりダンジョ――」
そう言いかけた所で、マッキーは危うくも冷静になった。
ホビットのいるこの状況で口が滑れば、キマドリウスに多大な迷惑がかかってしまう。
その事を彼はきちんとわかっていたのだ。
むしろ、
「だんじょ……なんなんだ?」
キマドリウスが全く理解できていない。
「だ……男女の間に割って入る仕事と思ったんだ」
あまりにも見苦しい言い訳。
そんな仕事がこの街にあるわけないし、あったとしてもニーズがない。
こんな言い訳を信じるのは馬鹿――
「なーんだ、そうだったのか。紛らわしくて悪かったな、ははは」
「……」
「どうしたんだ、黙りこくって」
「……呆れてものも言えないんだよ」
「ん? 言えてるじゃないか」
「はぁ!? ……ムカつく返ししてくるじゃねぇか」
マッキーの額にピキピキと血管が浮いてくる。
「まぁまぁ落ち着け」
「そ、そうだな……」
まだ腹の虫が収まらないが、マッキーは無理に溜飲を下げ、席に腰かけた。
「で、どうするんだ。やってくれるのか?」
「さっきまでの会話が無ければ二つ返事でやるんだがな」
「じゃあ三つ返事でいいからやってくれないか?」
「子供の屁理屈かよ……」
やれやれ、という風に頭を押さえるマッキー。
だが、彼は笑みを隠しきれていない。
おそらく彼の腹はとうに決まっているだろう。
というか、キマドリウスにスカウトされた事が何よりも嬉しかったのだろう。
ならば必然。
「はぁ……しょうがねぇ。やってやるよ、領主様」
「ありがとう。……それと、キマでいい。俺とお前の仲だ」
「わかった。じゃあこれからもよろしくな、キマ」
マッキーはジョッキを前に突き出す。
「あぁ。よろしくな、マッキー」
キマドリウスはそれに自身のジョッキをぶつける。
「うわっと! 強くやりすぎだろ、少しこぼれたぜ」
「フハハ! よいではないか、よいではないか!」
「それおもいっきり悪役の台詞だけど……ま、いいか、ハハハ!」
初の新領民、そしてマッキーという友人を得たキマドリウス。
だが、翌日。
地獄の二日酔い、そしてアオイからの叱責を得るとは、まだ思いもしないのだった――
◆領主生活16日目
領民:256人
ダンジョン:5階層




