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第1話 魔王、敗れる

 向かい合う二つの陣営──


 その一方は人間のパーティー。

 剣を持った少女と、杖を持った少女と、弓を持つ少年の三人組だ。


 もう一方は圧倒的な数を誇るモンスターの軍団。

 その中央には人間のような見た目をした悪魔がおり、彼が魔王である事は簡単に分かる。


「ついに辿り着いたわよ、魔王キマドリウス!」


「よくぞ辿り着いた、六大勇者!」


 魔王キマドリウスは勇者たちと言葉を交わした。


「私達はあなたを倒して世界の平和を勝ち取るわ!」


 剣を持った少女は、キマドリウスそう言い放った。


「フハハ!! このダンジョンの最深部──100階層に来るまでに3人も仲間を失ったというのに、まだ戦うか! 大人しく諦めた方が身のためだぞ!」


「えぇ……確かにここに辿り着くまでに、デタントとスキーザとライムヒルツが死んでしまった……だからこそ、だからこそ負ける訳にはいかないのよ!」


 剣を持った少女は悔しそうに顔を歪ませた。


「フハハ!! いい顔だ、剣の勇者!」


 キマドリウスはここぞとばかりにマントをはためかせた。


「くっ!」


「しかし安心しろ! お前もすぐに仲間の元に送ってや──」


「『死ね』」


 ──ゴオオオォォォ!!!


 キマドリウスがまだ話している最中。

 杖を持った少女は、その頭上に地獄の業火を凝縮させた巨大な炎の塊を召喚した。


「え!? い、いや、待ってよ! 俺まだ話し終わってないんですけどーー!!」


 しかし彼が情けなく声を荒げるのも無駄だ。


 杖を持った少女は容赦なく、その炎の塊をモンスターの軍団へと飛ばした──


「「「グオオオオォォォォ!!!」」」


 ダンジョンの最深部に響く無数の悲鳴。

 そしてその悲鳴を飲み込み、燃え尽くす地獄の業火。

 爆発的に広がるその炎から逃れられる者は誰一人としていなかった――


 ――。

 そして炎が収まった時。

 たった一撃でモンスターの軍勢は塵芥と化してしまっていた。


「……ぅ……ぐ……くそぉ、『死ね』が詠唱とか普通思わないだろぉ……」


 周囲は黒焦げの大地。

 キマドリウスはかろうじて生きていたが、周囲に彼の仲間は一人もいない。


「あら、まだ生きてたのね魔王。もう諦めたら?」


 剣を持った少女は降伏勧告をした。


「……諦める? フッフッフ、私があ――」


「なに笑ってんのよ、もしかして脳の回路が焼き切れた?」


「違う!! というか、何で俺の話をきちんと聞かないんだ!! 普通なら決戦の前の熱い語らいとかあるだろ!!」


「うわぁ……男のヒステリーって最悪ね……」


「うぐッ!」


 キマドリウスの精神に5000のダメージ。


「ひ、ヒステリーじゃないもん! た、ただかっこいいやり取りとかしたいだけだもん!」


「はぁ……分かったわよ、存分に話しなさい」


「……そう言われると話したくなくなってくる……が、まぁ良い!」


 キマドリウスは胸を張り、ぼろぼろのマントをはためかせた。


「多少傷は負ってしまったが、あの程度で勝ったと思うなよ六大勇者!」


「……」


「実はまだ、俺は25%の力しか出していないのだ!」


「……」


「俺にはまだ幻の第二形態が残されているのだ! ワッハッハッハッハ!!」


「……」


 返事は一切かえってこない。


「ハッハッハ……って、聞いてます?」


「……ん? あぁ、もう終わった?」


「あ、はい。終わりました。なので変身させて頂きますね」


「うん、ちゃっちゃとしてよね」


 剣を持った少女は面倒そうに、手をひらひらと振った。


「では見せてやろう!! 見れば決して生きては帰れぬ第二形態というものを!!」


 キマドリウスがそう言うと、暗黒の光が彼の身体を覆い尽くしていった。


「生きて帰れぬ……その意味を貴様等の身体にとくと分からせてやるッ!」


 暗黒の光は強くなり、彼の頭に二本の角が生えてきた。


「フハハ!! 後悔するがいい! 諦観するがいい! そして絶望す――」


 ――ドスッ!


「……え? これ、は……?」


 キマドリウスが自身の胸元を見ると、そこに刺さっているのは一本の矢。

 そしてそれは確実に彼の心臓を貫いていた。


「俺が放ったんだ」


 弓を持つ少年は口角を吊り上げた。


「……ぐっ! ……変身中に攻撃とは卑怯な……」


 キマドリウスは片膝をついてしまった。


「『威力強化』『貫通力超強化』『猛毒追加』を加えてある。いかに魔王といっても苦しいだろう」


「……うぐっ! はぁ……勇者が毒とか使うのかよ……」


 キマドリウスの呼吸は苦しげ。

 それに動きもどことなく鈍い。


「よし、魔王。そろそろ終わりにしましょうか」


 剣を持つ少女は剣を高く掲げた。

 すると彼女の剣は白く光輝き、ダンジョンの暗闇を照らしだした。


「……ここまでか……だがッ!!」


 キマドリウスは最後の力を振り絞り腕を前に突き出した。

 そして二つのスキルを発動した。


「何してんのよ! あなたはもう終わりよ!」


 手を前に突き出す彼に、少女が勢いよく剣を振った。

 それによって彼の身体は、一瞬にして聖なる光に包まれた。


 ――そうして魔王としてのキマドリウスは死んだ。

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