監獄島の看守
政府の犬
ヒノクニ政府治安維持部隊の異名。警察や自衛隊などの事である。
上層部を除くその全てが男性で構成されている。
過去に日本政府が行った自国民への非道を許さず、政府の犬は武器を持つこと許されない。また暴力行為をすれば監獄島送りになる。
ではどのように治安維持をするのか。
そこで先ほど紹介した「joker」が使用されるのだ。
jokerは基本的には発した言葉を相手の精神に強く干渉させて屈服させる様に作られた兵器である。
改良を重ねられたjokerは威力が低く初期作品のように死に至らせる力はないが使用者によっては意識を刈り取るぐらいはできる。
そしてこの男、香曽我部 大和はそのjokerを所持する事を許された監獄島の看守であった。
配給された黒い看守服に身を包み
整った顔立ちと清潔さを感じる髪型。
黒縁眼鏡をつけるその立ち姿は男でさえも魅了してしまうほどである。
実際バレンタインの日には男しかいない監獄島にもかかわらずどこから入手したのか知らないがチョコレートが毎年大量に送られてくる。
さて話は戻り彼の黒真珠の様な瞳はここ一週間程一人の男に向けられていた。
吉良以蔵である。
以蔵の存在を知ったのは一週間前。
囚人の死亡者がいないか巡回していた時であった。
大和が見ている一週間に以蔵は食事はおろか睡眠すらほとんど取っていない。
いつも空を見上げ何かに恋するように嬉しそうに微笑んでいた。
声をかけたものは容赦なく殺す。まるでを何かを思い出すのを邪魔されたくないように。
大和は監獄島の看守であるが別に囚人達の生活を管理しているわけではない。
管理する事といえば囚人の死亡者チェックと今日の釈放者ぐらいである。
例え目の前で囚人が囚人を殺していても
例え目の前で明日釈放の囚人が殺されかけても
例え目の前で食い逃げの囚人が餓死しかけていても
大和は関わらずにそれを無視する。
否、看守は関わらずにそれを無視しなければならないのだ。
だから以蔵が一週間飲まず食わずで意識が刈り取られる一瞬だけの睡眠を毎日繰り返していても大和にはまったく関係ない。
ただ以蔵は何に対してそんなに思い馳せているのか。
それの興味だけであった。
だがその観察の終わりが唐突に来た。
以蔵が大和が観察していた間で初めて横になった。
一面緑の雑草に囲まれた平野の中に囚人服に身を包んだ男がパサリと人間にしては軽すぎる音を立てて
倒れたのだ。
当たり前である。
以蔵は大和が観察していた一週間ではなく3ヶ月間そのような生活を続けていたのだ。
大和は無意識に小さくため息を吐いていた。
それに気づいて口元を手でおおう。
監獄島の看守になってから多くの囚人を見てきた。多くの囚人を見て見ぬふりをしてきた。多くの囚人の死体を見てきた。
最早何も感じない。
そのはずだった。
なのに大和はため息を吐いた。まるで彼がいなくなる事が寂しいように。
大和は頭を振るう。
そして大和はその枯葉の様な少年へと歩みを進める。
死亡確認の為だ。
いつも通り死亡確認をして本部に報告。
これで終わり。
興味の対象が消えてまたこのクソみたいな世界に戻るだけ
「おい」
いつもの様に声をかける。
いつもの様に右足のつま先で囚人を軽く蹴る
「生きてるか?」
大和は初めて
『生存確認』をした。