終身刑者は思い耽る
監獄島。
日本だった時代に「四国」と名付けられた土地である。
そこはその名の通り罪人の島であった。
罪の重さはまったく関係なく。死刑囚から終身刑、暴行、万引きなどの罪の重い軽いや大人子供まで関係なく罪を犯した男性なら懲役期間を終えるまでこの島に送られるのだ。
この島の周りは渦潮と荒波により超える事は不可能であり、昔架かっていた橋は既に壊され移動手段は飛行機のみであった。
そんな完全封鎖地帯には約100万人の男が収容されている。
しかし、収容とは言っていいものなのだろうか。
彼らは牢屋に繋がれているわけではない。
朝も好きな時間に起き
好きなように食事をとり
好きな時に寝る
何にも縛られない自由な暮らし
そう
好きな時間に殺し
好きなように餓死し
好きな時に殺される
これぞ自由である。
そんな自由な暮らしを満喫しない男がいた。
身長は160センチぐらいだろうか。
身体は細く栄養どころか食事すらまともに取ってはいないのだろう。
特徴的なのは
ボサボサの白髪に首筋にまで伸びたもみ上げ部分は薄いピンク。
睡眠を取っていないのか目の下のクマは酷く。瞳孔が開ききった真っ赤な瞳は死者の様に光をうしなっている。
唇は栄養不足からか紫になっている。
彼の名は吉良 以蔵である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
吉良 以蔵
20歳
終身刑
罪名:窃盗・恐喝・殺人
貧民街出身。計36人の男性を殺害。女性には手をかけていない為、死刑ではなく終身刑の判決を受ける。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
余談ではあるが死刑は女性の殺害及び暴行をした男性にのみ判決を下される。
そして以蔵は生きる為に人を殺してきた。
戦後から20年が経ち本島の方は復興が終わっているが、以蔵が産まれた戦後すぐのヒノクニは貧困が激しく生活が困難ゆえに子供を捨てる親もいた。
そんな親を持ったのが以蔵であった。
しかし以蔵は運が良かった。
捨てられたのは3歳の頃、これが産まれたばかりであったら死ぬしかなかっただろう。
さらに運がいいのは子供を使って盗みをする集団に拾ってもらった事だ。
初めての人殺しは13歳。
殺したのは以蔵を拾った親分だった。
物心ついた頃から
食うために盗み続け
生きるのに邪魔だから殺し続けた
嬉しいなんて知らない
楽しいなんて思った事もない
毎日空腹と大人達に怯えて生きてきた。
あの時、3ヶ月前に捕まったあの日までずっと
あの日の事は耳と脳に焼き付いて離れない
あの時の警察の声が…いやあの時の警察官の歌が
以蔵の心を潤わせていく。
3ヶ月前にもかかわらず今でも目の前で起きている様に鮮明に思い出す
あの歌
あの声
生まれて初めての感覚だった。
あれだけ強かった空腹感や苦痛が満たされる様な感覚。
あの歌を思い出すと胸が張り裂けそうで食べ物も飲み物もほとんど喉を通らない。
以蔵はそんな感情を寝る間も惜しんで堪能し続けているのだ。
以蔵の心をこれ程までに動かしたその警察官は別に感動的な歌を歌ったわけではなかった。
「joker」
日本政府が開発したマイク型特殊音波兵器である。
声をマイクに通して特殊な音波を放出する兵器である。
声の感情により、相手を萎縮や戦意喪失。最悪死に至らせる程の強力な精神干渉兵器である。
23年前に日本政府が国民の政府への反感感情を抑える為に作られたが精神干渉威力が強く、相手の精神力が強くなければ廃人、もしくは死亡させてしまう事により開発を凍結していた。
現ヒノクニ首相が凍結していたjokerを使用し諸外国を追い出したのだ。
最近になりjokerの改良と量産性に成功し精神干渉の威力が調整され、未だ戦後の混乱から抜け出せない地域の治安維持のために広く使用されている。
そしてその治安維持の名の下に警察官が以蔵にjokerを使ったのだ。
その時の警察官の声の感情はどんなものであったか我々にはわからないが…以蔵には鮮烈な美しさを感じていた。
当時の彼は強力な音波を全身に受け、目から耳から鼻から口から血を吹き出して、その紅蓮の瞳を恋する乙女の様に輝かせて喜んでいたという。