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2月 バレンタインデー当日

 二月十四日のバレンタインデーの当日、アタシはいつものように学園に向かうのだが、今日だけは卯月家に朝の送迎をお願いした。

 と言うのも用意したチョコカップケーキの量が多すぎて、自分一人で抱えて登校するのは不可能だったのだ。当初の予定と同じ、一年一組と学園の関係者だけならそれも可能だった。


 しかしアタシがバレンタインデーの準備をしていると知った他のクラスの男子生徒が、自分たちもどうしても欲しいと、涙ながらに訴えてきた。

 一瞬この人たちにはプライドがないのかと思ったが、可哀想なのでそこまで言うなら…と、仕方なく作ってくることを約束すると。さらなる希望者が殺到し、一度許可した手前断わりきれずに、結果的に初等部の男女含めた全生徒のチョコを、一手に引き受けることになった。


 中等部と高等部も朝倉智子のチョコカップケーキの配布運動を起こしたが、こちらは学園長が間に入ることで何とか押さえ込み、配るのは小学一年生から六年生の全生徒だけで済んだのは幸いだった。

 しかし被害が抑えられたとはいえ、用意する数が桁違いに多いことは変わらないので、アタシが大忙しなのは変わりなかった。


 結局騒動が発覚した後に友梨奈ちゃんに泣きついて、追加の食材の手配と手伝ってくれる料理人さんを朝倉家の別邸に送ってもらい、アタシは混ぜ合わせた材料をカップに注ぐだけで、後は全部プロの料理人さんに作ってもらった。


 念のために四人で味見したら文句なしに美味しかったので、正直に感想を伝えたら料理人の皆さんにはとても喜び、次もアタシのために美味い料理を頑張って作ると張り切っていた。

 しかし自分から月の名家にお願いすることは本当に稀だし、友達の家に迷惑をかけたくないので、ありがとうございます。もし機会があったらまたお願いします…と、短くお礼を返しておいた。


 このような経緯があって、バレンタインデーの日は送迎の車とアタシ付きの使用人さんを、荷物持ちのためだけに手配してもらい、朝のホームルームから初等部のクラスを順番に回っているのだ。

 最初は職員室に持っていき、各クラス担任に持たせれば終わりだと考えていたが、どうしてもアタシの手で直接渡さないと駄目だと、訳のわからない理屈で学園関係者が満場一致で却下された。

 その後何処からともなく学園長さんが出てきて、授業は出席扱いにするので、よろしく頼むと言われたので、仕方なく一年一組から順番に配るハメになったのだ。


 自分のクラスは躾けが行き届いているというか、皆がアタシに従順なのかは知らないが、滞りなくスムーズに進んだ。問題は他のクラスだ。


「ありがとうございます! 一生の宝にします!」

「いや、生菓子だからちゃんと食べてよ。

 包装も簡単だし保存料も使ってないから、今の季節で常温保存だと保っても数日だからね」


 教卓の前に立って、アタシは使用人さんから差し出されるチョコカップケーキを、バケツリレーのように、列になっている初等部の生徒たちに順番に手渡していく。

 低学年から順番にクラスを回っている最中で、今も直接受け取った男子生徒が感動の余りに泣き崩れている。こんな時にはどういう反応をすればいいのか、まるでわからない。


 授業中でもお構いなしにお邪魔するのだが、学園長からの許可を取っており、バレンタインデーの特別イベントとして企画が通ったので、廊下の扉を開けたアタシが教卓に移動するより先に、誰一人文句を言わずに先を争うように綺麗な列が出来上がる。


「あのっ! お姉様と呼んでいいですか!」

「駄目。はい、次の人どうぞ」

「女子陸上に興味はないですか! 智子ちゃんなら、確実に世界を狙えますよ!」

「家に帰ってからも色々と忙しいから、部活をする時間がないの。ごめんね」

「この式の答えを教えてください!」

「長方形は縦かける横で面積を求めるからね。1cm四方の正方形がいくつ入るかで考えると色々応用が効くよ。ちなみに答えは12平方cmだね」


 このような感じで、チョコカップケーキを渡すたびにひっきりなしに話しかけられるので、どれだけ会話を短く切り上げても、結局午後の四時過ぎまでかかり、ようやく初等部の生徒と学園関係者の全て配り終えることが出来た。


 その日最後の授業を途中から受けて、友梨奈ちゃん、裕明君、光太郎君の三人には、疲れてるから勉強会はお休みだと伝え、クタクタの状態で一人で歩いて帰宅した。


 しかし朝倉家に辿り着く前に、別邸の玄関前で人が大勢整列して待っているのに気づいて、思わず数歩後ずさってしまう。

 それでも先に進まないわけにはいかず、通り過ぎる前に、こんにちはと軽く頭を下げて、早足に本宅の玄関に向かう。


「おおっ、智子ちゃん。ようやく帰ってきたね」

「何か用…でしょうか? 卯月家当主様」

「この場に集まっている者たちには、智子ちゃんと月の名家の関係をよく知っている。だからかしこまらずに、いつも通りでいい」


 あと数歩で玄関だというのとに、その途中で人集りからアタシを呼び止めたスーツ姿の卯月おじさんが、嬉しそうにこちらに近づいてくる。

 今日は疲れたので、今すぐ汗を流して自室のベッドでぐっすり眠りたいので、面倒ごとは勘弁して欲しいのだが。


「はぁ…それで何か用? 今日はもうお風呂に入った後にすぐ寝たいから、早めに解放してくれると嬉しいんだけど」

「いやいや、それは不味いよ智子ちゃん! いくら小学一年生でも、一緒にお風呂なんて!」

「別に卯月おじさんと一緒に入るわけじゃないんだけど。それより早く用件を言ってよ」


 疲労のために冗談交じりの会話をするのも億劫になってきたので、早く用件を言って欲しいと少し強く口に出すと、慌てて佇まいを正して真面目に話しかけてきた。


「智子ちゃん、月の名家の皆にチョコカップケーキを配る約束、忘れてないよね?」

「あー…忘れてた。でも疲れてるから明日でいい? 別に一日ぐらいなら腐らないでしょう?」

「駄目だよ。自分も妻も、そして使用人の皆も、この日を楽しみにしてたんだ。疲れてるだろうけど、…頼めるかな?」


 それを言われると辛い。アタシは無言で別邸の玄関の鍵を開けて、適当に靴を脱いで奥に入って行き、空き部屋に置いておいた月の名家の皆の分と書かれたダンボール箱を、両手でよいしょっと持ち上げる。


 歩みを止めることなく一分程度で玄関まで戻ると、脱いだ靴を靴棚に入れて、フカフカの高級玄関マットの上に、重いダンボールを乱暴に置き、上部を開いて個別にラッピングされたチョコカップケーキを一つ取り出し、卯月おじさんを手招きした後に、大きな声でお礼を言う。


「ハッピーバレンタイン、卯月おじさん! いつもありがとう! これからも奥さんと友梨奈ちゃん、そしてお家の使用人さんたちとも仲良くね!」

「ああ、勿論さ! 智子ちゃんから手作りのチョコを貰えるなんて、嬉しいなぁ!」

「アタシだけじゃなくて、友梨奈ちゃんとの合作だよ。それに月の名家の料理人さんや護衛の人、使用人さんたちの大勢に手伝ってもらったんだからね」


 自分がしたのはカップに注ぐのと、直接手渡しているだけで殆ど何もしていない。アタシ以外の皆のほうが余程頑張っているので、感謝するならそっちだろう。


「ああ、そうだね。ありがとう智子ちゃん! 皆にも今までどれだけ助けられていたことか! 自分は本当に幸せ者だよ!」

「卯月おじさん。ついでで悪いんだけどチョコを渡した人の中から、何人か手伝って欲しいから手配してよ。今のアタシじゃ列を捌くのがキツくて」


 初等部と違って数百人規模ではないものの、それでもチョコカップケーキを渡す人が大勢いるのは違いない。手の空いている人を一人か二人貸してくれるだけでも、かなり楽に配れる。


「ああ、手伝いが欲しいなら自分がやるよ。日頃からお世話になってるしね。智子ちゃんのお願いなら、喜んで引き受けるさ」

「いやいや、おじさんは卯月家の当主でしょう? そんな偉い人を庶民のアタシが顎で使うなんて無理だよ。会食やキャンプじゃなくて雑用だからね?」


 それでもやる気を見せている卯月おじさんを軽くスルーして、アタシは卯月家当主の後ろの、立派な服を着た白髪交じりのおじいさんを呼んで、お祝いの言葉とラッピング済みのチョコを渡した後、手が空いているのなら手伝ってもらえませんかと声をかけると、一にも二にもなく快く引き受けてくれた。


 だが次の人も、その次の人も、チョコを渡した後に何か手伝うことはないかとしつこく聞いてきたので、最初の数人には申し訳ないけれど、アタシの補助をお願いさせてもらった。


「智子ちゃん、私にもお仕事をもらえないかしら?」

「卯月おばさんのお仕事はないよ。それ以前に手伝いは数人でいいって言ったのに、もう三十人目なのに何で未だに手伝いたがるの? ワーカーホリックなの?」

「皆、智子ちゃんの役に立ちたいのよ。当然私もね」


 別にアタシは庶民の小娘であって、群れを死ぬまで働かせる女王アリではないのだが、片目をウインクして可愛らしく意味不明の答えを返した卯月おばさんをスルーして、さっさと次に進もうとすると、思わぬ爆弾が投下された。


「それに卯月家の先代当主が楽しそうにお手伝いしてるのだから、その使用人が手伝わないのは不自然と考えたんじゃないかしら?」

「卯月家の先代当主? 誰が?」


 卯月おばさんが無言で視線を送った先には、アタシの隣で次のラッピング済みのチョコを取り出し、そって手渡す白髪交じりのおじいさんが居た。

 ひょっとしたら自分はとんでもないことをしているのではと、身を強張らせながら彼に顔を向けて、恐る恐る質問する。


「あのっ、おじいさんは卯月家の先代当主様なんでしょうか?」

「違うぞ。ワシは可愛くて第二の孫娘のような智子ちゃんを愛でたいだけの、何処にでもおるしがない隠居爺さんじゃ」

「卯月おばさん、おじいさんは違うって言ってるけど?」


 取りあえず本人は一応否定しているので、ただのおじいさんで押し通してチョコ配りを終わらせて欲しいと思ったが、いつの間にか目の前のおばさんだけでなく卯月家当主、そして周囲の人達の目が真剣になっていた。


「嘘よ智子ちゃん。お祖父様、お戯れはその辺りで止めてください」

「いっ…いや、ワシは本当に先代当主じゃないぞ。信じてくれんのか?」

「卯月おばさん。止めようよ。おじいさんが可哀想だよ」


 卯月家先代当主と呼ばれたおじいさんは、周囲の皆から責めるような視線が送られており、これでは針のむしろだ。アタシはお年寄りを苛める趣味はないので、視線を遮るようにそっと前に出て老人の姿を隠す。


「こんなに優しい女の子を騙すのですか? これ以上智子ちゃんを困らせるのなら、私たちも容赦しませんよ」

「はぁ…わかった。降参じゃ。智子ちゃん、騙すような真似をして悪かったのう」


 薄々気づいていたけど、目の前のおじいさんは本当に卯月家の先代当主様だったようだ。何故アタシを騙すような真似をしたのかと聞くと。


 学園の入学式の後から、孫の友梨奈ちゃんが目に見えて明るくなり、卯月家も皆が楽しそうに会話するようになった。

 その際には毎度のようにアタシが話題に上がったが、おじいさんは話について行けずに、相槌を打つだけの寂しい思いをしているとのこと。

 しかしアタシは家柄も地位もお金も無い無い尽くしの一庶民だが、裏の情報は卯月家、睦月家、弥生家、ひいては国のトップシークレットでもある。既に引退したとは言え、世界中から注目されている卯月家の先代当主が、気軽に会いに行ける相手ではない。


 この話を聞いたアタシは、もしかして自分は月の名家よりもよっぽどヤバイ奴なのではと身震いしたが、でも何の力も持たない一庶民だったと思い至り、数秒かからずに正気に戻った。


 既に三家の親子がアタシと親密なのは公式動画として全世界に広まっているが、卯月家の先代当主とは全く接点がなく、そんな雲の上の自分が一庶民の少女の家に、招かれてもいないのに押しかけては世間体が悪い。

 どうしたものかと考えていた時に、卯月家と使用人が一同に集まり、アタシからチョコを受け取るイベントを企画していると聞いて、そこに自分も混ぜてもらうことにした。


 ただし先代当主だということは伏せて、目立たずに大人しくして、アタシを遠くから観察するだけという条件を付けた。いくら家の周辺の情報統制がしっかりしていても、これ以上アタシや朝倉家に、余計な気を使わせたくなかった。


 しかしアタシが先代当主のおじいさんにお手伝いをお願いして、孫と同じ年頃の女の子と共同作業を満喫させるのは、流石に不味かったらしい。

 その理由が偉い人を顎で使ったことではなく、卯月おじさんは書類審査お断わりされたのに、正体を隠した先代当主がイキイキとした笑顔でアタシを手伝っているのを見て、周りの人たちが嫉妬の念に駆られたのだ。


 なので卯月おばさんも我慢出来ずにおじいさんの正体を躊躇なくバラした。ちなみにおばあさんも来ているらしく、アタシが何処にいるのと聞いたら、集団の中の一人の落ち着いた老婆が、にこやかな笑顔でこちらに手を振ってくれた。


「先代当主のおじいさんは解雇で」

「そうは言うがな。智子ちゃん、まだ全員分を配り終わっておらんぞ?」

「あと少しだし、自分一人で何とかするよ。ここまで手伝ってくれてありがとうね。これはアタシの本当の気持ちだから」


 卯月家の先代当主に深く頭を下げて、アタシは夜の闇が広がるなか、玄関の灯りを頼りに残りのチョコを配るために新しいダンボールを開けると、突然何台もの車の音が立て続けに聞こえきて、その全てが朝倉家の前に停まる。


「ふむ、あれは睦月家と弥生家じゃな。しかも懐かしい顔ぶれも見える。今すぐ同窓会が出来そうじゃな」


 隙間からチラリと覗くとたった今配っている人たちの数倍近くの人が、真っ直ぐこちらに向かって歩いて来る。

 どうやら覚悟を決めるときが来たようだ。しかし、黙ってやられるアタシではない。当然力尽きるまで必死の抵抗をさせてもらう。


「卯月家のおじさんとおばさん、そしておじいさんとおばあさんは、新しく来た偉い人の接待をお願い。

 アタシ一人でチョコを配ってると、どうしても暇を持て余す人が出てくるから」

「ようやく出番だな。智子ちゃん、具体的にはどうすればいい?」


「奥の倉庫にバーベキューセットとキャンプ用の折りたたみ椅子があるから、それを全部引っ張り出して。

 飲み物と食材とお菓子は近くの商店、椅子やキャンプ道具の補充は近場じゃ手に入らないから、少し遠いけどホームセンターでお願い。

 それまでは別宅にあるものを使って間を保たせてよ」


 アタシとの夏のキャンプが楽しすぎたためか、次の旅行まで待ちきれずに、三家それぞれが最新のバーベキューセットを一式買い揃えたのだが、今まで使う機会が一切なく、倉庫の肥やしになっていた。

 ちなみに釣り道具も揃っているが、こちらも同じく新品のままだ。


「チョコを受け取った人から順次、接待に参加すること。総責任者は卯月家当主に任命するよ」

「わかった! 任された! 火をつけるのは夏のキャンプから間が空いたが、何とかなるだろう!」

「別に火をつけるのは使用人さんに任せても…」

「いやっ、これは雪辱戦だ! 今度こそビシッと決めてやる!」


 本人がやる気になっているなら、わざわざ水を差すこともない。総責任者が楽しい雰囲気のほうが、皆も退屈しないで済むだろう。


「それじゃ、任せたよ! バーベキュー接待作戦開始!」


 アタシの号令と共に皆の返事が響き渡り、作戦が開始される。

 まずは体力に自信のある人が倉庫にバーベキューセットを取りに行き、そのまま建物から離れた庭の広いスペースに設置する。三家が一台ずつ購入したので、合計で三台置けば十分だろう。


 そしてやる気満々な卯月おじさんが炭への着火作業を行っている間に、朝倉家の離れにある材料を卯月家のお抱え料理人が総出で切り分けていき、他に手の空いている人は近場の商店と、ホームセンターまで車を走らせる。

 チョコを配り終わるまで場を和ませれば勝ちなので、商店の物を買い占めればギリギリ時間までは保つだろう。


 マイペースにチョコを配りながら隙間から庭の様子を伺うと、三台の焼台には卯月、睦月、弥生の三家の当主がそれぞれスタンバイしており、いつの間にか誰が一番早く着火して安定させられるかという、謎の競争が始まっていた。

 それとは別に、折りたたみ椅子に腰掛けたお年寄りの方たちは、皆和やかな笑顔で話に花を咲かせ、先代当主たちの井戸端会議が始まっている様子だ。

 使用人さんたちが家の中から温かな飲み物を運んできては、テキパキと配っており、各家の使用人同士が楽しげに談笑していた。






 やがて積み上げられたダンボール箱の殆どが空っぽになり、チョコカップケーキを配り終えたアタシは大きく息を吐いて、庭の状況がどうなっているのか再び確認すると。

 既に相当な人がお酒に酔っており、近くの小売店だけでは食材が足りずに別の店にも買い付けに行き、バーベキュー接待作戦は終わるどころか、ますます熱を帯びていた。

 肉や野菜も新しいものが次々と焼かれており、皆が飲めや歌えと大賑わいだ。


 朝倉家の周囲には田畑しかないので、誰もが気兼ねなく大騒ぎ出来るので気楽なのだろう。ふと空を見上げると、焼台から立ち上る白い煙の向こうに、冬の澄んだ空気のおかげか満天の星空が見える。

 アタシは大きく伸びをすると、体の節々がギシギシと鳴ったような気がして、今日は一日中働き詰めだったので、相当疲労が溜まっていたことを思い出す。


 この場から立ち去る前に一言かけてから行こうとも考えたが、皆が楽しそうにしているのに水を差すのは止めようと思い直し、アタシは庭ではなく別邸の通路を通って本邸に向かい、途中で台所で忙しそうに動いている料理人さんにお先に失礼しますと挨拶する。

 朝倉家に戻ってからは、お母さんが作ってくれた晩ご飯を温め直し、その後はお風呂に入ってから自室のベッドに潜り込むと、すぐに寝息を立ててしまった。







 なお、次の日の早朝のお隣は、予想はしていたがやはり地獄絵図だった。

 過去最高の大人数が男女問わずに別邸の全ての部屋で雑魚寝状態。

 おまけに廊下までもがゴミと汚物が散乱…まで確認した後、普段ならアタシが片付けるのだが、今度ばかりは自分の手には負えないと見切りをつけ、二日酔いでダウンしているであろう優秀な使用人さんたちにお任せすることにして、全てを見なかったことにした。


 今の季節の二度寝は最高に気持ちいいのだ。自室に戻ったアタシは、もう一度ベッドに潜り込み、何もかもを忘れて夢の世界に旅立ったのだった。

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