1月 初詣
今日は一月一日、記念すべき新年初日だ。
肌寒い朝に目覚めたアタシは、ひよこ柄のパジャマ姿の上に急いでドテラを羽織ると、居間を目指して駆け足で階段を降りる。
そして自分よりも先に起きて、ソファーに座ってくつろいでいる両親に明けましておめでとうございます!と、元気よく新年の挨拶を行い、期待に目を輝かせて、待ちわびていたお年玉を受け取る。
流石に目の前で開けるのは体裁が悪いので、部屋に持ち帰ってからこっそり中身を確認することにして、昨日のうちにお母さんと一緒に準備した、手作りのおせち料理とお雑煮を家族揃って美味しくいただくのだ。
朝倉家ではお神酒は大人だけなので、アタシは梅ジュースにチビチビと口につける。色とりどりの具材に舌鼓を打ちながら、テレビの向こうから新年の活気を感じる。
食事も終わり和気あいあいとした朝倉一家団欒の時間を過ごしていると、朝早くにも関わらず、玄関のインターホンが押されたピンポーンという音が聞こえた。
「あら? こんな朝から誰かしら? ちょっと見てくるわね」
新年の初日は大体が家族でゆっくりと過ごすはずだ。間違っても呼ばれてもいないのにお宅訪問なんて真似をするわけがない。何より朝倉家の周囲には田んぼか畑ぐらいしかなく、他所の家とはかなり離れている。
以上の点から考えて、訪問してきた人は普通じゃないということだ。
幸いと言っていいのかはわからないが、アタシにはそんな普通ではない人物を知っていた。お母さんが向かった玄関の扉が開いた音がして、続いて賑やかな足音がこちらに近づいてくる。
「明けましておめでとうですわ。智子ちゃん」
「よう智子、あがらせてもらってるぜ。朝倉おじさんも、明けましておめでとうございます」
「二人共明けましておめでとう。ひよこのパジャマも似合ってるね」
いつもの三人が慣れた様子で居間に入ってきたが、お母さんはまだ戻って来ないので、多分三家の大人の人と話しているのだろう。訪問者には何となく予想がついていたので、今さら動揺したりはしない。
嬉しくはないが、もうすっかり耐性がついたようだ。
「明けましておめでとう。それで新年初日から来るってことは、何か用があるんでしょう?」
新年早々遊びに来たと言われても信じられるぐらい、朝倉家に入り浸っている三人だ。初日の訪問は予想していても、お正月のおせち料理は実家で食べてくれたのは助かった。
月の名家を持て成すとなるとアタシはともかく、両親の負担が大きいのだ。そして着物姿の友梨奈ちゃん、正月用の黒い和服の裕明君と光太郎君、相変わらずよく似合っていた。
「智子ちゃん、これから四人で初詣に行きますわよ」
「んー…初詣はアタシも毎年行ってるけど。地元の小さい神社だよ?」
朝早く起きて初日の出を見る気力はないが、毎年欠かさずに地元の神社での初詣に行っている。今テレビに映っている番組にも、有名人が国内の大きな神社で新年の挨拶をしており、今年の抱負などのインタビューを受けていた。
「三人は名家なんだから、ちゃんとした所で神主さんからも清めを受けるのが普通じゃない?
アタシはお賽銭を入れてお参りしたら、道草を食いながら歩いて帰って来るだけだし」
朝倉家から歩いて行けるぐらい近場の神社だ。その代りに規模も小さいので、早朝のピークを過ぎたお昼近い今の時間には、神主さんも社務所に引き篭もり、訪れる参拝客も殆どいなくなる。
そんな場末のは言い過ぎかも知れないが、世界的な名家が小さな神社で初詣を済ませるのは、体裁が悪い気がするのだ。
「僕たちは早朝に総本社で済ませて来たから、智子ちゃんと行くのは二回目の初詣だね。
お正月の全国放送で大きく取り上げられたと思ったけど、見てないの?」
「あー…アタシ、今朝は起きるのは遅かったし、両親もローカル放送派だから」
どうせ初日の出は見に行かないのからと、前日の夜に年越しそばをすすりながら大晦日恒例の歌番組を両親と一緒に視聴し、その後お風呂に入って歯を磨いた後に、ようやく布団に入ったのだ。当然朝に目が覚めるのも遅くなる。
「そっか、残念だよ。智子ちゃんがテレビを見てると思って、新年の抱負は智子ちゃんに相応しい男になる! …って、大声で宣言したんだけど」
「ちなみに俺の抱負は、ライバルより先に智子を振り向かせる…だ」
「わたくしは、智子ちゃんとの仲を深める…ですわ」
三人の抱負を聞いて、アタシは口を開くことも出来ずに痛む頭を手で押さえる。居間でくつろいでいるお父さんも、何も喋れずに憐れむような視線をこちらに送ってくる。
やはりアタシの気持ちをわかってくれるのは、愛する家族だけのようだ。
「わかった。いや、わからないけどわかったよ。初詣に行く準備をしてくるから、ちょっと待ってて」
今はとにかく、アタシへの溢れんばかりの愛を全国放送でぶちまけられた、何とも言えない恥ずかしい空気を入れ替えたかった。
階段を慌ただしく駆け上がって二階の自室に戻ったアタシは、ドテラとひよこ柄のパジャマを脱いで、外行きのニットの白色セーターにパパっと着替える。
相変わらず身だしなみにはこだわらないので、歯を磨いて顔を洗って終了だ。
既にお昼近くで、今日は晴天で風も穏やかなため、もう一枚上に羽織るコートは必要ないだろう。
そのまま一階に降りたら、お母さんが子供たちにお年玉を渡した後にホットココアを出して、仲良くソファーに座らせていた。
三人共お金の入った封筒を持って、とても嬉しそうだ。朝倉家の両親から貰ったお年玉は特別な宝物なのだ。
何となく微笑ましく感じながら、アタシは各家の大人が居ないことに気づき、きっと隣の別邸に移動して、新年早々だらけきっているのだと納得した。
「お待たせ。一応聞くけど、そっちの準備は?」
「当然バッチリですわ」
自信満々な友梨奈ちゃんに続いて、二人も軽く頷いたので、アタシは両親に行ってきますと一言告げて玄関に向かう。友達もホットココアのお礼を言ってから後に続く。
玄関の扉を開けるとエアコンの暖かな空気が消えて、冬の寒さが直接肌に触れる。
「歩いてれば、すぐに暖かくなるかな」
今日は両親が家にいるので鍵はかけずにそのまま出発する。
新年の初日ということで、見える範囲でアタシたち以外に歩いているのは護衛の人以外にはおらず、地元の神社にはアスファルト舗装の道より、田んぼのあぜ道を突っ切ったほうが早いので、何も植わっていない田んぼや畑の間を四人でのんびりと歩く。
自転車で行ってもいいのだが、着物姿の友梨奈ちゃんは大変そうし、距離はそんなに離れてないので問題ない。
「智子ちゃんは何をお願いしますの?」
「抱負じゃなくて? 願いごとは人に教えると叶わなくなるって言うし、秘密かな」
「確かにそうですわね。うーん、残念ですわね」
残念そうに頬を膨らませる友梨奈ちゃんに、家族皆が健康でありますようにという願い事だと教えてあげてもいいが、本当に叶わなくなると困るので黙っておく。
その後は他愛もない雑談に花を咲かせ、特に何事もなく小さな神社に到着する。社務所の神主さんは、ただ今本社に出払っているといった内容の張り紙が、玄関の扉に貼ってあった。
アタシは取りあえず入り口の湧き水で手を清めて、続いて境内に置いてある賽銭箱に五円玉を投げ込み、本坪鈴を鳴らすのは好奇心でウズウズしている三人にお任せし、その間に二礼二拍手一礼を行い、静かに目を閉じる。
「さて…初詣も終わったし、そろそろ帰ろうか」
三人のお参りも無事に終わったのを確認したアタシは、朝倉家に帰るために鳥居の方に顔を向けると、先程まで静かだった神社の入り口に知らない人が集まっており、少し騒がしくなってきたことに気づく。
「アレはテレビ局だな。何処から嗅ぎつけたやら」
「人気者は辛いね。それで、何処のテレビ局かな?」
「ああ、その通りだ。多分大和テレビだな。それでどうする?」
裕明君がどうするのか聞いてきたが、取材を受けるか逃げる以外にアタシたちが取れる選択肢はない。
昔から遊んでいた小さな神社なので、周りの雑木林から少し進めば、何処からでも田んぼのあぜ道に出られる。自分一人だけなら多分逃げ切れるだろう。
「三人の服を汚したくないし普通に帰ろうか。取材の目的は、別にアタシたちじゃないかも知れないし」
「わかった。智子がそう言うなら正面から堂々と帰ろう。しかし、それは望み薄なようだな」
自分でもわかっているが、少しぐらいは希望を持ってもいいと思う。鳥居の外で騒がしく話していた取材陣は、明らかにアタシたちを目指して爛々と瞳を輝かせて迫ってくるのがわかる。
こちらが真ん中の通路を譲るように横にそれて帰ろうとしても、ピッタリと正面に向かい合うように近づいてくる。やがてテレビ局のスタッフの中からマイクを持った若い女性レポーターが進み出て、アタシに直接声をかけてくる。
「大和テレビの者ですが、少しお時間よろしいでしょうか?」
「すいません。アタシたちは今急いでいるので、これで失礼します」
何とか切り抜けようと答えを返しても、テレビ局のスタッフに常に正面の位置を取られており、思うように抜けられない。
いっそ護衛の人にお願いしようかなと考えたが、庶民のアタシを頼みを聞いてくれるとは思えないし、独断で排除のために使ったら、後で月の名家から何を言われるかわかったものではない。
「まあまあそう言わずに、少しだけ…数分かかりませんから! 無理を言っているのは承知ですが、本当にお願いします!」
「はぁ…わかりました。…アタシはいいですけど」
どうやら目の前の女性レポーターさんは、正月早々ディレクターから無茶振りされたようで、相当崖っぷちのようだ。もしかしたらアタシが断ったら、番組から干されるかもしれない。
同情心からつい許可してしまったが、月の名家の三人に視線を送ると、皆軽く頷いたので問題はないようだ。質問は庶民のアタシではなく名家の友達に行くので、インタビューが終わるまで自分は数歩後ろに下がり、静かに待っていればいい。
「ありがとうございます! それでは最初の質問ですが、智子ちゃんの好きな食べ物は何ですか?」
「えっ? アタシ? うーん、お母さんの作ってくれたカレーかな」
今の友達と関わるようになって高級料理を食べる機会も何度かあったが、やっぱりお母さんが愛情込めて作ってくれた料理には敵わない。アタシも手伝えるときは一緒に台所に立っているが、まだまだ追いつけそうにない。
「なるほど、家庭的なのですね。それでは智子ちゃんに次の質問ですが」
「あれ? 他の皆には聞かないの?」
「月の名家の方々の情報は、既に公開されていますから」
「そっか…じゃあ仕方ないね。…えっ? ……ええっ?」
てっきり三人組の取材に来たと思っていたアタシは、レポーターの返答に驚いてしまう。つまり今回の取材はアタシを狙い撃つためだと、はっきり宣言したのだ。
インタビューも殆どが友達が中心になるか、もし外れても四人に分散すると予想していたからこそ、少しぐらいなら受けても大丈夫だろうと、そう楽観視していた。
「ちょっ…ちょっと待ってっ!」
「智子ちゃんの現在の趣味は何ですか?」
「趣味は読書で、小説や漫画を…あと、あちこちに遠出するのも好きだよ」
こちらの静止も聞かずに質問してくる女性レポーターに、反射的に正直に答えてしまったが、ここまで踏み込まれておいて不自然に逃走を図るのは、いくら何でも情けなさ過ぎる。
となれば家族に迷惑がかからない範囲で、出来るだけ誠実に答えていくしかない。元々嘘や誤魔化しはアタシの性格的に無理なので、馬鹿正直に返答するしかないのだが。
「社交界では釣りや木登りの経験もあると、言っていましたものね。
ちなみに、具体的な本の題名を教えてもらっても?」
「あっ…はい。最近特にお気に入りなのは…」
頭の中ではアタフタと取り乱しながらも、表にはなるべく出さずに、一つ一つ噛み砕いて言葉にしていく。後ろの三人は我関せずという感じで口を挟んで来ないが、アタシが正面突破を選択したので、こっちで全部何とかすると思っているのかも知れない。
「智子ちゃんは大人向けの文学書を、何冊も読まれるのですね。具体的にその本の何処がよかったとか、ありますか?」
「リアルな戦争において、敵味方を問わない命の軽さ、末期戦のどうにもならない暗く沈んだ絶望感。それでも部隊の仲間たちと足掻く、人間の強さとしぶとさが伝わってくるのが良かったです。
あとは戦時中の食事事情が事細かに書かれているのも気に入っています。アタシが手探りで料理を再現する動画も、公式ホームページに投稿されていたはずです」
戦争物の書物の知識だけを頼りに、朝倉家の台所でアタシがすいとんを作っている動画が、すっかりお馴染みとなった月の名家のホームページ内にある、朝倉智子ちゃんの軌跡に投稿されている。
何となく気まぐれで料理してみようかなと思い立ったアタシに、当然のように三人がくっついて来て、おまけにシンデレラ以降からアタシ専属のカメラマンが付き、毎日のように何気ない日常風景を撮影することになった。
とは言え、流石に四六時中ではないが、ホームビデオのように気まぐれで撮影し、撮りためた中から見栄えのする場面を切り抜いては、定期的に公式ホームページに投稿している。
ちなみにアタシに配慮して若い女性カメラマンだ。自分にとってはそういう問題ではなく、黒歴史のホームビデオとして後世に残すのを止めて欲しいのだが、願いは天に届かないのが悲しいところだ。
おまけにアタシと友梨奈ちゃんの出会いからこっそり撮影が続いていたらしく、過去から現代までの動画も順次投稿予定とのことだ。
両親は楽しみにしてくれているが、やはり恥ずかしいし、どの動画も再生数が億越えのため、言葉では言い表せない大規模な工作に恐怖すら感じてしまう。
視聴者サービスとは無縁のただの庶民の動画が、億超えの大人気なわけがないのだから。
「ああ、あの動画ですか。料理にやけに手慣れていましたし、ポニーテールとひよこ柄のエプロンも可愛かったですね」
「それは…どうも。では数分過ぎましたし、アタシはそろそろ行きますね」
「えっ? もうですか? なら、お願いします! どうか最後の質問に答えてください!」
インタビューは数分を予定しているとのことだが、とっくに時間は過ぎているのでさっさと帰りたいアタシは、強引に囲みを破ろうと一歩踏み出すと、慌てたレポーターが止めに入る。
これ以上は契約違反になるので道を開けないと悪評が広がると思うが、最後の質問と言質は取ったので、堂々と帰れるなら素直に答えてもいい。
「最後の質問ですね。いいですよ。どうぞ」
「あっありがとうございます! では最後に、智子ちゃんの好みの男性と女性のタイプを教えてもらえませんか?」
「……はぁ? ええと…冗談?」
「すみません。本気なんです。…この質問」
アタシのような庶民の好みのタイプなんて知りたがる人がいるのか。友達の三人は意味不明なぐらい慕われているのでまだわかる。
そして好みの男性も理解出来るが、女性のタイプというのを何故知りたがるのか。
マイクを持ったレポーターも心底申し訳なさそうな表情を、こちらに向けている。これ以上考えても頭痛が酷くなるだけだし、頭の悪いアタシがアレコレ考えても無駄だと割り切り、さっさと結論だけ伝えることにする。
「男性と女性の好みのタイプは同じです。近くに居てもお互いに気を使わず、自然体でいられる人です。自分が甘えても受け入れてくれると、なおいいですね。
口に出すのは恥ずかしいんですけど、アタシは外ではしっかりしようと気を張っていても、家では気を緩めて両親にベタベタくっついて甘えているので」
本当に恥ずかしかったので、その後は頬を少し染めながら、失礼しますと一言断りを入れて、テレビ局の囲みを縫うように早足で歩く。
後ろの三人も続いてくれて、思ったよりもすんなりと突破することが出来た。
テレビ局のスタッフは追ってこなかったので、本当に先程の質問を最後に取材が終わったのだ。ある程度神社から離れた後に一旦足を止めて軽く息を吐き、そのまま大きくグイーっと伸びをして、田畑に囲まれたあぜ道の途中で深呼吸をする。
「智子ちゃんは甘えたいですの?」
「そりゃそうだよ。アタシだって小学一年生で、まだまだ子供だからね」
「…どうぞ! たくさん甘えていいですわよ!」
友梨奈ちゃんが両手を広げて、ばっちこいとばかりにアタシの前に立つので、飛び込まずに軽く彼女の髪を撫でてあげる。体格的に中学生が小学生にのしかかるようなものだ。たとえ気持ち的に甘えられる相手だとしても、流石にそんな可哀想なマネは出来ない。
「あははっ、気持ちだけ受け取っておくよ。髪が乱れちゃったらごめんね」
「ぐぬぬっ! いつか子供扱いされなくなったら、思う存分智子ちゃんを甘えさせてあげますわね!
かっ髪は気にしなくていいので、もっと撫でても構いませんわよ!」
フンスフンスと鼻息も荒くしてアタシに撫でられるままの友梨奈ちゃんとは違い、光太郎君と裕明君の顔は耳まで赤く、何やらブツブツと小声で呟いていた。
「智子が甘える姿、いい。はぁ…俺に甘えてくれねえかな。家族ならいっそ養女に…いや駄目だ」
「甘える智子ちゃん。可愛い…持ち帰りたい。監禁してずっと愛でたい」
裕明君はまだ多少はまともだが、光太郎君はかなり危険領域に入っている。そのどちらも月の名家が本気になれば、簡単に実行できてしまう。
アタシはこれ以上は不味いと考えて、友梨奈の髪からそっと手を離して、強引に話題をそらすことにする。
「さっきの大和テレビだけど、やっぱり生放送だったの?」
「あっああ、そうだぜ。少しわかりにくかったが、スタッフが生放送中のカードを掲げていたしな」
「でも、一部地域だけだよね?」
「生放送は一部地域ですが、智子ちゃんの放送権は月の名家が独占していますから、すぐに何らかの手段で大和テレビから買い取り、公式動画として投稿されますよ」
何となくそうなるかもとは予想はしていたが、アタシの目立つ行動は逐一全国ネットに流れる宿命のようだ。
こんなことを続けていると自宅以外の精神的ストレスが大きくなり、ますます親離れ出来なくなってしまいそうだ。
「はぁ…何だか疲れたし、家に帰ったら冷蔵庫の中のプリン食べよう」
「まあ、おばさまのプリン、わたくしも好きですわ」
「だな。いつまでも寒い外に居るより、早く朝倉家に戻ろうぜ」
「僕も賛成だよ。神社から離れて月の名家の影響下に入ったとはいえ、いつまた智子ちゃん狙いの突撃取材に遭遇するかわからないしね」
取りあえず頭の中をプリンで埋め尽くして、田んぼのあぜ道を足取り軽く歩いて行く。
ウキウキ気分で今なら冬の寒さも気にならない。家に帰ったらまた両親にめいいっぱい甘えさせてもらおうと、アタシは心に決めた。
結論から言えば、冷蔵庫のプリンは食べられなかった。時間がお昼近くだったので、そのまま朝のおせちの料理の残りに少し具材を足したお昼ご飯を食べて、三時のおやつにいただこうとした。
しかしアタシたちが出かけた後に、朝倉家の別邸のお客様に出してしまったとのことだ。
結局アタシが子供たちの分だけではなく、家族と名家の分のプリンを全員分作ることになり、またも小学一年生による朝倉家の家庭料理動画が一つ増えることになった。
ちなみにプリンはとても美味しく出来て、皆にも大好評だった。




