ダークマター
コックと一緒に接客をしていると、ふとあることに気づいた。バイトが居ないことに。
「バイトのやつ...何処に行ったんだ。てか、さっきコックと一緒にいらっしゃいませって言ってたよな?」
「さあ?知りませんよ。どうせいつものことです、競馬に負けたら戻ってくるでしょう。」
「あいつ...こんなときに限って...」
バイトが行方不明になってしまったが客が来ているのだから今は後回しでも良いだろう。あとでこってり絞ってやれば...などと考えていると、さっきまですぐそこで接客をしていたコックまでもが居なくなっていた。
「どこ行ったんだ、あいつ?まさかバイトみたいに...」
言いながらふと厨房へ目をやるとコックが調理の準備を終わらせていた。仕事が早い。
「コイツ...もしかしたら仕事はちゃんとやるタイプなのか...一瞬でも疑ったことをあとでちゃんと謝らないと...な、ん?」
そう感心していた矢先、目の前の景色がそんな気持ちを消え失せさせた。調理台の上に置かれていた黒々とした肉のようなもの、鼻をえぐる程の悪臭を放つ味噌のようなもの、その他多くの...所謂ダークマターと呼ばれるものの数々。それらをコックは何の躊躇もなく鍋の中に放り込んだ。