第三章 20 【潜む者】
「戦闘民族『ファグタモ』がああも簡単にやられるとは……やるじゃん」
「カッ、言ってる場合かヌーベック」
“白銀”のいる場所から約四百メートル。巨人の大腿の巨大な枝に彼等を双眼鏡で見下ろすは枯草色の外套制服を着こなす一人とリーダー格である男、自前の瞳で“白銀”を観察しながらリーダーに悪態をつく若干老輩の彼。そして、ヌーベックと呼ばれる男に首を垂れる者が一人と居座っていた。
「申し訳ありません……あの男、かなりの手練れで」
肌の色は褐色、瞳の色は黒―――戦闘民族『ファグタモ』とは砂漠の民であった。
現在でこそ金剛月華会傘下に与しているが、素早さを追求した恰好と刃物の装備には二世代前の戦闘技術ながらに銃を扱う金剛月華会が大敗を期した侮れないシロモノだ。
そんな彼等が容易く赤子の手をひねる様にやられたのは正直言って目を見張るし、首を垂れたままの頭目を放置しておく訳にもいかないだろう。
「いや、そんな畏まらなくてもいいって。シャパニ達を責めてるわけじゃないから」
部下の噂通り“白銀”の予想外な力を目の前に、若干の苦笑いで両手を振ってシャパニを軽くなだめつつ。
「クガカ…やっぱりお前らじゃ勝てねえよな?」
穏やかではないと。なだめるヌーベックの傍らで唾を吐くように皮肉をつぶやくは、“白銀”への報復心でこの場に立つ男――――その“力”を得た為、姿形と人間性を犠牲に変色した灰色の髪と目を持つ『プレクト・ビレッジ』である。
「…プレクト。お前の見立て通りなのは認めるが抑えておけよ、発動するのは…―――」
「―――今じゃない。分かってるって」
そう言うとプレクトはリーダーへと手を振って問題ないと了承の意を示す。
「分かってるならいい」
元々『プレクト・ビレッジ』はギフト持ちではない人間、ギフト能力を欲しいとも思わないただの人間だった。
彼がこのような事態に陥ったのは簡単な話、初仕事の魔獣育成で失敗をしたからだ。
金剛月華会の利益となる戦闘魔獣の育成、楽な仕事ではあるが失敗は許されない仕事――――だがまあ、初仕事であんな外道と組むことになったのは同情の余地があるというものだろう。
結果的に彼の失敗は、金剛月華会の知名度をこちらの大陸に広げるという利益にはなったが、上の者達はソレを許さず。
失敗をした人間にはそれ相応の処置が下され、処罰という名目でプレクトは実験台に。
実験とはギフト能力の人工的な発現で、実験はあえなく成功。
プレクトが言うには、骨の釘の様な物で胸を刺された途端に胸の内へと湧き上がる報復心、その熱より爛れ始める皮膚と共にギフト能力が開花したらしい。
「で、どうするね?」
二人の討論にしびれを切らし、結論を急がせるのは金剛月華会のギフト持ちが一人。
口元にスカーフを巻いてニット帽を被り、自前の左目は機械化された狙撃が得意な老骨『ルゥジ・アフトマット』。
「変わらず話しておいた通りに、だ。」
そうして彼の質問に今回の作戦のリーダーらしく、頭巾から砂色の髪がちらつく『ヌーベック・ジェロアーゾ』はあらかじめ立てておいた作戦を淡々と再確認する。
「今回の魔呪全書奪取において、分かっているのはエルフ国新王が魔呪全書表紙を持っている事」
シャパニ達斥候からの情報によれば盗賊、白銀、金剛月華会、救世主と四つの陣営が今の所エルフ国に確認できており、
「分かたれたページはファグタモの皆と先に潜入したガモン達が依然捜索中だ。……一枚は盗賊が所持している事が判明しており、他のページは遺跡にあるだろうと推測が付く」
敵対勢力の動きから見て、我々が尤も魔呪全書の分かたれたページの場所に目途が立っているであろうと任務を有利に進められるのは確実。
「作戦通り、私は盗賊に仕込みをしてから例の救世主連中を追う―――奴らには借りがあるからな。それで、プレクトはともかくとしてルゥジは…―――」
「ああ、プレクトに付いて行くさ。危なっかしくて見てられん」
「分かった。また、新王の城で落ち合おう…それと」
確実に有利であるからこその再確認は終わり、リーダーとして『ヌーベック・ジェロアーゾ』は皆に今一度の注意を促す。
「我々の存在や火器が他の勢力に気取られる、知られるという事は避けなければならない。任務の脅威は早々に排除しなければならない。それらを踏まえた上で、金剛月華会において失敗は死よりも重いと肝に銘じておけ」
「ここが遺跡近くの村か!?」
「うん、そうだよ!」
道中には先程の吊り上げ罠や落とし穴がそこらかしこに仕掛けられており、その全てが人間用に作られたシロモノだらけだった。が、幸いにも索敵に長けた者や道を知っている者がいた為に難なくとロー達は村へと駆け急いでいく。
自分らが襲われたのは村近くの林道。周囲に蔓延る罠、洗練された恐らくは盗賊共…状況から見て、村がどうなっているかは予想ができる。
「ちょ、…はや…いって!」
「気張れ、ナガマサ。あとちょっとだ」
「見えたぞ、ロー・ハイル」
副隊長の指さす先。村へと近付いていく内に険しかった道は舗装されたモノになっていき、平らな大地が見えてきた。
「え…」
イャチェの村に比べれば、簡素な村であった。
建物自体はイャチェ村で見たような楕円型の建築物がまばらに、村の周辺に“巨人の大腿”の樹は無く、その代わりにか広大な畑や果実園などの放牧地が設けられている。
つまるところ、だ。
「おや、旅の方ですかな?」
流暢な公用語を話す恰幅の良いエルフが現れ、ロー達を何事も無いように歓迎する。つまるところ、先のアラビアンな奴らの姿は見えず村は平和そのものであったのだ。




