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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第三章【争奪戦】
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第三章 19 【フラテク・ライャセ】

「ロー ムュセ。セデエゥ グモーデ セモ?」


 食事後、炎煉達と明日の行動を計画しつつ話し合っていれば、時間はあっという間に過ぎていき。

 夜も深く村明かりも消え、魔物に備えて僅かに見張りをするエルフ達の足音が大きい真夜中だ。


「村長…! 良いですよ、どうぞ」


 十川四朗の時(まえ)にあまり飲まなかった酒を食事でたっぷり飲んだせいにしたい今日この頃、火照る身体故に寝付けぬローは“樹の内の家(テケーチェ)”の最上部で涼む只中。

 気持ちの良い涼しげな風と風景に黄昏ていると、温情ある真夜中の来客は新たな酒瓶ならぬ酒瓢箪を持ってやって来たのはビィウェ・イャチェ村長。

 恐らくは隣に座ってもいいのかと聞いてきたらしく、断る理由もないローは手を隣に差し伸べて承諾の意を示し、村長が隣に座る。


「デライ セモ?」


「いえ、今はいいです」


「モフシ…」


 隣に座った村長からの計らいとして駆け付け一杯と言った所だろう。

 イャチェは木製のコップに酒を注いでローへと進めてくるが、火照る身体を沈めようとしている彼には毒であるので遠慮のジェスチャーとして両手を振ると残念そうにコップの酒を飲み干すのであった。


「レェベラ ベララ セイムュ フモーウェウ……――――セイモ」


 言葉こそ通じてはいないが、村長の真摯な思いは伝わってくる―――彼は、孫のレンバルが心配なのだろう。

 レンバルから商業国に何故来たのか、あらましは聞いている。何年も連絡が無い兄を探して商業国にやってきたらしい。

 だからこそなのだろう。

 もう会う事ができないと行方の分からない兄の次に、レンバルに会えなくなるのは村長としても育ての親(里親)としても、きついモノがあるのだ。


「ロー ムュセ。レェベラ ポォレュエー……ポォレュエー イャセケ」


 だからこそ“白銀”たり得る彼は、ビィウェ・イャチェ村長の手を取り握手の形でローは宣言する。


「大丈夫ですイャチェ殿、“白銀”なる私の名に誓ってレンバル君は無事に帰ってきます。約束しましょう」


「ウェウイャ……モフシ」


 人の意志に弊害は無く伝わるものだと―――村長は“白銀”の彼の言葉を心から信じたのであった。


「ねぇ、降ろしてくれない?」


 ナガマサは吊るされたままだった。











『イャウェモォ ラエテクウ!!』


 レンバルの故郷『イャチェ(ヴァタグ)』を、“白銀”一行は村人全員に見送られながら早朝に出発し、太陽が眩しく照らす昼下がり。彼等を先導するのは案内役のレンバル君、周囲へ気を配るのは白銀の仕事で、


「さて…もういいか」


「? どうしたのヘルさん」


 その甲斐はあったようだ。と、ローは足を止めて、くるりと身体を真後ろに向けたのだった。


「そろそろ出てきたらどうだ?」


「?」


 何の変哲もない草むら(ジチェ)にロー達の視線があり、レンバルも不思議そうに注意を向ければ二人の人間が観念したように現れた。その二人の顔をレンバルは知っている。


「ちぇ、ばれちまったか」


 両手を見えるように上げるのは、頭にちょこんと乗った髪の毛と薄着の様で厚着な服を着た野菜泥棒こと『ナガマサ・モトシタ』。 


「………」


 そして、彼より後に出てきたもう一人。眩く目立つ青鋼の鎧にアッシュブロンドの短い髪と整った顔立ちでロー達を見るや否いや怪我人のいる一室から追い出した『ジェーム・キク』。

 何故かジェームはロー達“白銀”へと睨みを利かせて、ナガマサは何故か子犬の様な澄んだ目をしており、可愛げは一切ない。


「ローちゃん、おれを置いていくなんてひどくなーい?」


 確かにローは取引をした。しかし、野菜泥棒となれば刑期が終わるまで置いていくしかないだろうと考えてはいたが、ロー曰く。


「……あ、忘れてたわ」


 頭の隅にあったものの完全に忘れていたのである。


「し、()ドイ…!? ここまで折角逃げてきたのに……」


 頬を膨らませて嘘な涙を浮かばせるナガマサは絡むのが面倒なので、ほおっておくのが正解なのだろうと自然にロー達の関心はジェームへと移るのであった。


「ナガマサは良いとして…オレらに何か用かい、青鋼えーと…?」


「騎士団副隊長だ」


 敵意丸出しの視線は相変わらずだが、育ちが良いのかジェームは炎煉の良い淀む答えを素早く訂正。そのまま勢いで胸元に右腕を当て、礼節を掻かず単刀直入に事を述べた。


「王国青鋼騎士団副隊長『ジェーム・キク』と申します。隊長の命により、あなた方“白銀”に同行するように命じられました。昨日の今日で図々しくありますが、ご同行を許可願えますか?」






(どういうことなんだ…)


 王国青鋼騎士団クアゴ・トウダ隊長に命じられたのは同じ目的を持つであろう“白銀”と協力関係を築き、王命である魔呪全書(スペルブック)及び黄金金剛石(ゴールディダイヤ)の入手。

 隊長は怪我が治り次第、すぐに追いつくとは言っていたが彼等の能天気さには、こちらも目的が達成できるのか不安になるばかりだ。


(我々の事を警戒していないのか? いや、王国に出向いた事がない以上、噂を知らないのも当然か…)


 正直言って彼等に私はいい印象を与えた事がない。あの時は隊長が意識不明の重体で注意散漫に彼等を邪険に扱ったのは記憶に新しく、理由として彼ら“白銀”のチームメイトには王国を苦しめた()()がいる。

 同一個体でないにせよオニを警戒するのは当然。だが、最高位冒険者と呼ばれている故か“白銀”はそんなことを気にも留めずジェームの同行を二つ返事で了承し、森の中を警戒しながら歩く現在(いま)


「そうだ。二人に今後の方針を話しておきたい」


「方針…ですか?」


 エルフの少年の後ろを付いて行く“白銀”のリーダーがおもむろにこちらを向き、淡々と説明を始めた。


「ああっとその前に……副隊長殿の()()はどっちだ?」


 眉唾の魔呪全書(スペルブック)か、現実問題価値のある希少鉱石黄金金剛石(ゴールディダイヤ)か?

 聞かれるであろうと思っていた質問にジェームは誇りある青鋼騎士団副隊長として、答えつつも“白銀”から情報を引き出すべく、穏便に受け答え。


「王より命じられたのは黄金金剛石(ゴールディダイヤ)の回収だ――――…まさか貴方達も?」


 王命による主目的は希少鉱石黄金金剛石(ゴールディダイヤ)の回収であり、願いが叶うという魔呪全書(スペルブック)は二の次。


「いいや、我々の目的は魔呪全書(スペルブック)だ。黄金金剛石(ゴールディダイヤ)は好きにして構わんだろう」


「言われなくてもそうするつもりだ。」


 しかしながら“白銀”の目的は魔呪全書(スペルブック)。これならば、無事に協力関係を築きつつ、目的が達成できるであろうとジェームは安堵するが、つい口調が強めになってしまうのは自重しなければならないと自分を諫めるのであった。


「で、だ。我々が今向かっているのは、現地の言葉で“フラテク・ライャセ”。意味は“森の遺跡”だ」


「何故、遺跡に?」


「…一応聞いておくが、目的の在りかを知っているのか?」


「………いや」


 そういえば、と。

 エルフの国(こんなところ)に入ってから、色々とあって忘れていたがジェームや騎士団への王命は調査の意味合いもあり、何処にあるかなんてのは知らない。

 自身の軽率な発言に耳が赤くなるが、察した彼は「まあいい」と言葉を続けた。


「情報も無い遺跡に直行するのはあまりにも愚か。だから、今日は近くの村で遺跡の事を聞き込み、身体を休め、明日に遺跡(ダンジョン)の攻略を開始する。同行する以上、危険を承知で協力してもらうぞ」


「わかった。」


「ならいい」


 軽い笑みを浮かべて“白銀”のリーダーは進行方向へと向き直れば、何かに気付いたのか道案内を両の手で掴んで押し留めた。


「へ、ヘルさん?」


 彼を押し留めておいたまま、ロー・ハイル・ヘルシャフトはウォリス師団長が笑い飛ばしていたであろう背中に背負った噂の刃を装備。ただ、戦闘をするわけではなく軽く右手で持ち目の前の地面を二、三回と叩いた。


「うわっ?!」


 すると、エルフの少年が驚いたのと同じくしてロープのような細いモノが獲物を勘違い。しなる木を利用し空に()()()を跳ね上げた。


吊り上げ罠(スネアトラップ)、それも大きさからして人用の………―――――ッ?!」


 間一髪というべきだろう。レンバルを庇いローの大剣に金属のはじける音が三つほど、草木を素早くかき分けてナイフをこちらに飛ばした敵の数は総じて三人の人間。

 顔全体に布を巻き、目だけが出ている軽装な敵で非常に統率が取れており、足並みまでそろっている。いや、じりじりと隠れ潜みながら向けられる殺意にはジェームでもわかる。所感だが辺りに数十名の敵意。


「く、敵?!」


「ほう、魔法剣士か」


 投げかけられた言葉は敵のモノではなかった。片手で振るえる魔法の杖を装備したジェームへと関心を示しているのは、レンバルを庇うロー・ハイル・ヘルシャフトがご本人。


「なに?!」


「いや、何でもないさ。」


 この非常時に何、悠長な事を言っているのだろうかとそちらに敵意を向けたくはなるが、不意を突かれ彼から逆に向けられたのはエルフの少年の身柄であった。


「ちょ、どうする気だ?!」


 コルコタで英雄とまでもてはやされたのは、()()が理由なのだろう。ロー・ハイル・ヘルシャフトは動揺するジェームに有無を言わせず、最前線へ立ち下段に構えるは巨大なる刃。


「その子を頼む。こいつらは俺一人で十分だ」


 奴らが来た。草木生い茂る悪路ではあるが、その統率に一切に乱れは無くして“白銀の英雄”へと飛びかかった。


「シィッ…!!」


 周りにいる奴らも含め、飛びかかったのは悪手であったと痛感したであろう。

 呼吸を整え、息を吐いて、踏み込み、歯を食いしばり、下段から中段への巨大な刃による横なぎは飛びかかる敵の胴体を当たり前のように真っ二つ。


(す、すごい…)


 確かにその力を凄いとは思ったが、ジェームの着眼点は英雄の剣捌きだ。


(太刀筋が乱れていない…!)


 騎士団として魔法が得意な物であっても剣の稽古からは逃れられない。

 ジェームもその一人で才能があった為に幸い稽古にさほど苦労はせず、魔法に打ち込むことができた。しかしながら、ウォリス師団長直々の指導で魔法の善し悪しより、剣の上達により剣筋の善し悪しを見極めるのが特技に。

 彼女曰く、三人も一度に斬ったとされる彼の姿勢、剣先、踏み込む足先に至るまで全てがぶれておらず。

 純粋にすごいと思ったのは、久しぶりの感覚である。


「フゥー………よし。久しぶりに振るったが、腕は鈍っていないな」


 あの大仰な刃をもう一度振って、血を落としたローは見えずにあった敵へと視線を落とす。


「さて、次は?」


 ならばと、引くに引けぬようになった彼等が今度は五人でローを囲む。


「……」


 奴らも奴らで、凄かったとジェームは敵ながらに感心した。

 全身を布で覆ったような服に幾つか刃物を装備した敵は一切の言葉を発さずして、その連携を極めているからだ。恐らくは、目の合図で敵に悟られない様しているのだろう。


「あぶな……」


 ジェームの注意も間に合わずして、五人の敵の凶刃は英雄へと届く――――――かに、思えた。


「な…」


 終始無言だった敵もこれには驚きに声をもらした。


「は、こんあもんふぁ(こんなもんか)


 敵の扱う武器も統一されて形状的には斬り裂くように特化しており、インドの刀剣『タルワール』に近いだろう。

 迫る来たのは五つの刀剣、三百六十度からの唯一露出された首元を狙う必殺の一撃。であるからして、おのずと狙われる場所は把握されており、強敵と戦い続けた“英雄の一人(ロー)”にとっては簡単に対処できる。


「グッ…!!」


 歯で受け止めた刃二本をそのまま噛み砕き、左手で掴んだ一本をへし折る。後方から来た二つは普通の人間に無理な角度から持ち上げた『凶戦士の刃』を使い受け止め、ソレを空へと弾き出し。

 残る動作は敵がゼロ距離に近づいているのなら、身体を捻り刃を一周させるだけ。


「まだやるか?」


 肉塊を叩き裂く音の聞こえた後、ズルリと敵の人間の上半身と下半身が綺麗に分かれて斬られた順に地面へと落ちていき、


「………撤退」


 流石にこれ以上の損害は出せまいと思ったのか。ぽつりと退却の言葉が聞こえたのと同時、白銀一行を囲む殺意は消えていく。

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