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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第三章【争奪戦】
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第三章 16 【群雄割拠】-2

 夜も更け、月に星々は暗雲と風に揺れ動く“大腿”木の葉に紛れ込み、辺り一面真っ暗と。テントの前の火も消えて、聞こえる音は虫の声と川のせせらぎ。


()()は……夜明け間近だな」


 “巨人の大腿”群生地とはいえ、太陽光を“大腿”が全て吸収してるわけではなく、植物の性質として彼等が作為的に作った“隙間”により草木生い茂る森林の地は肥えている。

 赤く興味をそそられる手のひら大の実を付けた細い枝の木々、針葉樹の如く刺々しい葉をもった膝位の丈しかない草むらの茂み、“大腿”に寄生するように巻き付いた黒い種子を宿すつる植物。

 ありとあらゆる植物は夜であるからして息を吹き返し、茂みに隠れるその男も同じように息を巻く。


(………)


 その男の服装は周辺国家やエルフ国において、類を見ない稀有なモノであった。

 上半身には袖を長く、衿と身頃の付け紐で右前に着こなすは、藍色甚平もどきのどちらかと言えば作務衣の様な服装。下半身においては縞模様のもんぺと底を分厚くした地下足袋を。

 おまけ、物珍しさを際立たせる為か。丸刈りの頭にちょこんと乗った暗い橙色は、男の隠れている茂みのように刺々としている。

 男の名は『ナガマサ・モトシタ』。史上最高の大泥棒(自称)にして、


(しかし、ユーセラスではどうなることかと思ったが、やっとこさ()()が向いて来たな)


 ユーセラス大規模テロ時に逃げ出した脱獄囚である。

 そして、大泥棒ナガマサが見も知らない“白銀”と“案内人”(ロー達)盗み(しごと)の目を付けたのは、とある確信――――端的に言えば見ていたのだ。

 ローが四人全員を抱えて<龍飛翔>で飛び降り、着地する様を。良い素材や煌びやかな装備を。五人が床に就く簡素な防備のテントを。


(大量の黄金金剛石(ゴールディダイヤ)ゲット、最初の一歩といきますか)


 それらからして、今日の食事や金目の物にありつけるのは自明の理。


(じゃあ、ま。待ちますかね……)


 草むらに隠れたナガマサは自身の仕事の準備を入念に、ばれない様にと床へ就く。



 そうして、しばらく後―――。



 現時刻、時間にしてはおおよそ七時間後。

 テントに常設されたステルス(透明)仕様の石像魔(ガーゴイル)にボコボコにされて、ふん縛られた『ナガマサ・モトシタ』は“白銀”の四人とレンバルに囲まれている現状であった。











〔とのことで、コイツはユーセラスから逃げ出した囚人らしい〕


 太陽も目を覚まし始める、少し肌寒い早朝。

 川のせせらぎと木々のざわめきが耳に心地よい最中、ローの耳元には可愛らしくもしっかりとした女性の声が響く。


〔なるほどねー……〕


 ローの報告が淡々としていたせいなのか、コベルニクスの女王陛下は渋々な感じで指示を出すのをためらっているのは聞いて取れる。


〔私も全滅したであろう囚人の件には驚いているが、十教皇のルージェスが憑りつかれていたんだ。こういった情報の誤差もあるさ〕


 若干の皮肉めいた冗談を試してみたが、それでも反応は悪い。代わり、囚人の護送を提案すればすぐさまに否定される始末で、どうやら代案を言い辛くあったらしい。


〔いや、いや、それには及ばないさ。〕


 深く息を吸い、息を吐き。ニャルトリアはどうやら“嫌な代案”を提示する決心がついたようで、

 

〔ユーセラスは現在進行形で復興中。正直に言ってあの国とは仲良くしたいからね、タエギ嬢やアキラ君に迷惑をかけたくないし、彼等には今更死んだはずの()何処かの誰か()に構っている余裕はないだろう〕


〔あー、つまりは…〕


〔…ホントはローさんにこんなことを提案したくはないんだけど――――、囚人の処理はそっちで自由に決めてくれ。女王として黙認しておく〕


〔成程…了解だ、女王様。通信アウト〕


 さてと、腕を組んで右手を口元に添えてローは優雅な思案に時間を浪費。


「ロー様、コイツどうするのじゃ? 溶かすか?」


「いや、そんな物騒な事しなくてもいいからね」


 可愛らしくのじゃのじゃとニーナは処理の方法を提示するが、こんな囚人に流血沙汰ひいては彼女たちの手を汚す訳にもいかない。――――となれば、


「レンバル君、少し向こうに行ってなさい」


「え?」


「いいから………ああ、そうだ。今日の夕食の食材を確保してくれないか」


 健やかな笑顔の提案にレンバルも囚人一歩手前であった以上、何か思う様子であったが案内役の仕事を渋々と優先。

 周辺に同じような者がいないとも限らない為、フィリアナ三人には彼の護衛を任せ、自分一人となった今は“黙認される仕事”を果たすのみ。


「三つほど聞いておきたい。」


「…………」


 ナガマサ・モトシタは口を開くことは一切せず、相づちを打つ事も無く。察したであろう彼に対し、構わずローは質問を続ける。


「お前の仲間は? お前の目的は? 何故、俺達に目を付けた?」


「………」


 絶えず、ナガマサ・モトシタは口を開くことは一切せず。全部話しただろうと、こちら睨んでいるだけだ。


「ハァー……そうか。しかし、逃げ出した囚人にも魔呪全書の件を話しているとはな。グレゴール・ライフマンは何がしたいんだ?」


 そうであるのなら、そうであろうと。聞く事の無くなった悪い人(囚人)に対して、ローは仕事をこなすべく、背中の空間から“凶戦士の刃”を掴み取る。

 そうして、狙いが逸れぬよう一撃で終わらせる為に首元へと刃を添えた。


「ちょ、ちちょ、待て待て待て!! お、おれを殺すのか?!」


「当然、ユーセラスに関しては私も当事者の一人だ。彼等の不安要素である“悪人”の処理はある種、私が残した仕事とも言えるだろう」


 狙いをしっかりと付け、後は刃を振るうだけ。ローは刃を横なぎに、首を挿げ落とさないように振るった。


「と、取引だッッ!!!」


 かに思えたが、刃は寸でのところで速度を落とし、ナガマサの首はつながったまま。


「取引……? 一応聞いておいてやる。言ってみろ」


 突然に提示された“取引”の二文字はローの刃を再び背中に戻し、ナガマサは起死回生の一手を興じるのであった。


「おれが欲しいのは黄金金剛石(ゴールディダイヤ)、アンタらが欲しいのは魔呪全書(スペルブック)。どうだ、おれの腕を買ってみないか?」


「腕…?―――ニーナちゃんいるし隠密系は…まあいい。何ができる」


()()()()()()()はできるさ」


 驚くべき事にローが一時も目を離していないナガマサ・モトシタは、スルスルといつの間にか縛られていた両手両足、身体のロープを解いてから両の手上げて降伏ポーズを取ったではないか。


「……」


 流石のコレには口をへの字に、その手癖の悪さにローは感心。その才能は惜しいとも思う。ただ…、


「えーい」


「え」


 悪人の同伴を許すにはそれなりの制約、規約が重要。

 間の抜けた声と共にローが懐から取り出して、ガチャリとナガマサの首にハマったのは黒色のチョーカー…というよりはペットに着ける首輪である。


「それは本来、魔獣などに着けるテイマーリングだ。確か、主人に悪意のある行動をとったりすると………――――」


「すると?」


「ああ、そうだ! 爆発する」


 突然の恐ろしい事実にナガマサはあっけらかんと青ざめ、すぐさまに首輪を外そうとするがミリとして微動だにせず。


「おい、これ外せないの?!」


「当たり前だ。というか、囚人の同伴を許すならこれぐらいはしないとな」


 確かにそうであるが、と納得しかけたナガマサは自身の取引による詰めの甘さを恨み、億劫に半ば諦めてうなだれる事が精一杯の不服感。


「変な事をしなければいいだけの話だ。よろしくな、天下の大泥棒(自称)」


「はいはい、わあったよ。命あっての物種、てね」











 同時刻、“白銀”と大泥棒(自称)の会合時。

 エルフ国の国境から更に南下した“巨人の大腿”がまばらに群生する事で背丈の低い木々が土地の大半を占める人の住みやすい場所。

 いわば原住民の通り道である獣道を青色鋼の鎧を着込んだ十人は早々に進軍し、辺りの見渡せるだだっ広い空間で歩を止めた。


「十五分の休憩を取る。各自、身体を休めておけ」


 代わって王国青鋼騎士団。魔呪全書及び黄金金剛石(ゴールディダイヤ)探索の指揮を執る『クアゴ・トウダ』は、率先して部下を休ませ警戒に当たる。


「隊長も休んだらどうですか、あの山登り以降ずっと働きっぱなしじゃないですか?」


 鎧に身を包んだままのクアゴの心配をしつつ、休憩の提案をするは副隊長。その“(ギフト)”から衛生兵(メディック)に選ばれた『ジェーム・キク』。

 兜を脱いで、灰色交じりの(アッシュ)ブロンドの髪を露わに。衛生兵からの進言は一考する物であったが、クアゴはソレを否定。


「私の能力(ギフト)は不意の攻撃に絶対的な有利を得られる。私が休むのは、もう少し先にあるはずのエルフの村に着いてからだ。お前も休むといい」


 実のところ『クアゴ・トウダ』は、一度だけこちらに南下した(来た)ことがある。

 彼がまだユーセラスの市民であった時、ギフトの件もあり十教皇に錬金術等の材料を依頼されて“エルフ国”国境の西側、誰も寄り付かない“魔窟”に向かった際。

 千差万別の魔物が住まうその湿地帯でギフトの奮闘も虚しく、魔物から逃げる様に南下し彼がエルフ達に助けられたのは有難く、同時に苦い思い出だ。

 その後、長い月日が経過。

 ユーセラスに帰ろうと今更と顔向けもできず、仕方なく王国に向かえばちょうど徴兵の時期で、流れから兵役と昇進を繰り返し、今では城の警備を任される青鋼騎士団に落ち着いた。―――のだが、


「何の因果か。またここに戻ってくるとは」


 つい口からこぼれた小言を取り繕うとするが、いつの間にかジェームも休憩に何処かに行ったようで姿が見えない以上、用を足しに行ったのだろう。



「へー、王国の城を守る青鋼騎士団ねぇ……」



 クアゴ・トウダは自身の目を疑った。

 彼は隊長であるからして周囲の環境に気を配るのは当然であるが、周辺の警備は休み休みに部下に任せていた。

 部下が着こなすのは青鋼の鎧。我らが同じく、城を守る責務を任された同胞。今はエルフ国の調査に向かってはいるが、その注目すべき姿を忘れる筈が無い。


「何者だッ!?」


 だからこそ、分かりきった当たり前の言葉を唐突に現れたこの男に対して言い放つ。

 刺々しい藍色の長髪、金具が沢山と付いた白い服と頭髪とは正反対の下半身。そして、男が持つは青鋼の鎧を着込んだ()()()部下。


「オレか? オレは……世界の救世主」


 男は焦げ炭になった部下を放り捨てたかと思えば、身体に纏うは紫電の雷光。


「くわばら、くわばら…て、祈れば?」


 太陽も目を覚まし始める為、少し肌寒い早朝。エルフ国のとある場所で、紫電の光(パープル・ブリッツ)が舞い踊る。

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