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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第二章【魔窟の主】
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第三章 2 【帰還報告詳解】

「ふむふむ、ほうほう……」


 表面加工を施した木製の床、机とソレを挟むように配置された赤黒のロングソファ。ひび割れや隙間の無い土壁に囲まれた無音の客間に一枚、一枚と良い材質の紙をめくる音がこだまする。

 三人のいる部屋の窓より望むは、さんさんと太陽のきらめきを穏やかに映し出すどこまでも広がる大海原。

 ここは、港町ペントに位置するコベルニクス海軍の本拠地の談話室であり、

 

「…………」


 今、最後の一枚をコベルニクスの女王は読み終えた。


「グレゴール・ライフマンという男………そして、彼の目論見を最後の十教皇であるルージェス殿が自身のギフトを用いて防いだ」


 ぴくぴくと頭の上にある本物の猫耳を動かし、彼女は天井へと仰向けた顔の眉間を左手でつまむ。そうして、少しばかり頭の内で情報をまとめた後、今一度に向かい合う自分へと確認するかのように報告書の内容を大まかに言い連ね続ける。


「ギフトを用いた当の本人は外傷はないものの、意識不明の重体。一方でグレゴール・ライフマンは何かを思い出したのか、ボク達と同じように空中から一冊の本を取り出し、突然にその場から消えた…―――――差異は無いね?」


「一言一句、ニャルトリアさんの言った通りだよ」


 冒険者の仕事は終わり、事が事なので残る作業は報告文の作成と提示のみ。

 炎煉、ニーナ、フィリアナの“白銀”全員がわざわざ女王陛下に謁見するまでもないので、三人には一足先に用意された家の下見として帰らせた。


「ヨトゥルはどう思う?」


「はい。ニャルトリア様の言った通り、コベルニクス(ここ)でも金剛月華会(あちら)でもない、第三の勢力かと」


「しかしまぁ…世界の」


 枚数にして計百枚。侍らせている秘書と言葉を交わす彼女が手に持つは、“白銀”とユーセラス市民が体感した出来事を百枚にまとめたこの報告書(レポート)

 今回のペインキル姉妹による魔霧事件は、国家間での救援活動、物資等――――いわゆる国交であった為、報告書の内容は七割近くが防衛費や物資の主な流れと事実確認について書かれており、白銀と人類守護部隊の活躍は三割程度に凝縮されていた。


「二人共、ちょっといいかな?」


「?」

「?」


 報告書にある事実―――結果としてはニャルトリアから受けた仕事は成功に終わったといえるであろう。しかしながらに、自身はソレが許せない。


「今回の仕事に関して…知らなかったとはいえ、私には敵を取り逃がしたという失態がある。―――――そこで、魔呪全書の件やグレゴール・ライフマンに連なる者の情報があればすぐさまに向かおう」


「ローさん……」


 責任を取る言葉は濁さず、はっきりと若干に姿勢を低く。その言葉を聞いた彼女はただ深く息を落とす。

 仮にも“白銀”の英雄であるなら、相手の力量を測ることができなかった、一つの反撃も出来ずいつの間にか瀕死まで追い詰められた。なんて事は、民の目に鮮やかに写る“英雄”として許しがたい、あるまじき所業だ。


「………分かった。君が望むのならそうしよう」


 瞳の中の真意を汲み取った彼女は、どうしようもなくただ納得し、多少返答するのに時を掛けながらも聞き入れる。


「それじゃ、ボクの番かな。」


 計百枚の報告書を今一度手に持ち、彼女は机の上でまとめて隣に立つヨトゥルへと預けた。代わり、ニャルトリアは深呼吸し、申し訳なさそうに頭を下げた。


「すまない。やっぱりジグ・ドグゥ公爵の仕業じゃなくてボクのせいだったよ」


「ちょ、え?!―――――べ、別にいいからッ」


 女王陛下に頭を下げ刺すなど、三人しかいないこの場であっても気の引ける案件。


「この前の侵入者、あれは王国に潜入させているボクの部下によるモノだった。それと、テルガスの娘の件なんだけど…厄介なことになったんだ」


 突然の謝罪を慌てて両手を振りながらにローは押しとどめる。


「いやいや。実際、王国が相当オニを目の敵にしてる分かったしさ?――――ともかく、何があったか聞かせてくれないかい?」






 ニャルトリアが白銀の四人を見送った後、頼まれた事をこなす為に部下の伝手でジグ・ドグゥ公爵の領地へと向かった。


「いやはや、このような弱小貴族の所へコベルニクスの女王陛下が来るなぞとは…思いもよりませんでしたな」


 庭園付きのだだっ広い公爵の邸宅に到着後、門前払いされるかと思いきや意外にも()()()は友好的に。しかして、客間に面と向かい合ってその顔を見れば、彼の接客は上っ面のみでギリギリに国家間での軋轢が入らないよう抑えていたのだろう。

 来訪した女王に対して侮蔑、軽蔑の一色に厚顔は塗り固められており、口を開くのも億劫な目をしていたのだ。


「聞いたよ、公爵殿。何でも、()()()()()()()()を買っているそうじゃないか?」


「……どこでその話を、女王陛下?」


 億劫な彼の表情にほんの少しだけ、眉を動かす程度の亀裂が入る。

 卑下た感情は微々たる動揺と自身に情報の抜け目のあった怒りに代わって。


「いやなに、商売ごとには目が無くてね…ま、企業秘密というヤツさ」


「亜人である女王陛下が()()ですか………まあいいでしょう。では、その話を持ち出していかがなさるのです?」


 こういう輩に言葉を飾るは面倒だと、ニャルトリアは指を鳴らす。


「単刀直入に言おう。その亜人を買いたい」


 合図によって、棒立ちに待機していたヨトゥルが手に持ったスーツケースの中よりとても重い革袋を取り出す。

 重さ約五キロ。それを両者が挟む机に丁寧に置き、中を開いて(あらた)めさせる。


「これは…」


 目の色が変わり公爵は、わざわざと手袋を装着。そうして、革袋から取り出したのは黄金に輝きを放つ円盤だった。


「不純物の無い金――――いわゆる“純金”さ。その金を担保に亜人の娘と交換したい」


「駄目ですな。」


「なっ?!」


 金に目がくらみ、二つ返事で了承するかに思われた公爵の意外な返答。さっさとここから立ち去れるだろうと思っていたニャルトリアは一蹴され、否定的な返答にはつい驚いてしまう。


「些か語弊がありました。金が駄目という訳ではないのです――――それではつまら………いいえ、私に一つ考えがあります」


 五キロの純金を軽く交換に出せる経済力と、その金が取れるであろうコベルニクスの土地の価値。双方を知り得たジグ・ドグゥ公爵は金を革袋に戻し、指を添えて突き返すと同時にある提案をするのであった。


「あの獣が欲しいのでしたら、今度の“闘拳死合”に貴方様の国から腕自慢の誰かを出場させてみてください。優勝商品にアレを用意しますので―――――まあ、無理でしょうが。」






「だから、ローさんにはその“闘拳死合”…もとい闘拳会に出て優勝して欲しいんだ」


「闘拳死合………出る事は別に構いませんが、何故です?」


 字面から察するに、恐らくはボクシングの様な肉弾戦を旨とした試合なのだろう。幸いにも素手を得意とした職業(クラス)修めているので、テルガスとの約束を違えることはない。しかし、


「確か、ジパングの守護者に肉弾戦が得意な者がいたのでは?」


 思い返すは、女王ニャルトリアの住まう『黄金地下帝都ジパング』に土足で侵入してきた、ローが早とちりに対処することになった原因の者達。

 その際、侵入者迎撃に駆り出された守護者の中で辺獄に住む彼は肉弾戦を主にしていたのを憶えている。


「紅の事かい?―――ああ、本当なら彼を出すつもりだったんだけど…」


「だけど?」


「この機に、逆にだ。ローさんとボク達の関係をいい機会だと思ってさ。」


 つまりは、ロー・ハイル・ヘルシャフトが闘拳死合に出る事により、冒険者チーム“白銀”とコベルニクスの女王は同盟、及び協力の関係にある事を確定させ、


「先のように私達に手出しができにくくなる…」


「そゆこと。闘拳死合には金持ち連中や、貴族が来るからね。きっといい判断材料になると思うよ」


「おや、客人ですかね?」


 と、話していれば。一つしかない出入り口の扉がヨトゥルのこぼした小言の後に三度とノックされた。


「失礼します。第二中隊所属、伍長マエカワ・チノリです。白銀のロー殿にお届けものです」


 短い黒髪の青い軍服。腰にはユーセラスで見た魔弩を装備した彼が、小脇に木箱を抱えながらに敬礼しつつ入室する。


「一体誰から?」


「ハッ! 先程自分が宿舎に戻る際、奇妙な桜色のドレスの女性がこれをと。何でも、ロー殿のファンだそうで」


 木箱はスイカが三つ入る程の大きさ。これといった異臭はしなく、見た限りであれば中に入っているのは生き物(なまもの)ではなさそうだ。


「ファンか。それも私にとは、珍しい」


 コルコタでは押しかけファンが沢山といたが、ほぼほぼ炎煉目当ての者が多かったのを思い出す。

 木箱を受け取り、まじまじと調べてみるが特に異常はない。中身がとても気になるので、木箱の蓋に手をかける。


「あれ、ここで開けちゃうの?」


「こういうのは気になっちゃう性分でね。しかも、私のファンとは嬉しいことこの上ない―――――あーと、伍長さん。私はまだ女王陛下と話す事があるので、コレは受付にでも置いといてください。取りに行きますので」


「了解です。」


 若干の鼻歌交じりに木箱の蓋を豪快に開ければ、中の物に掛けられていたシーツも同時に取れる仕組みになっており、


「なッ?!!」


 木箱が開かれたのと同時、生臭い鉄の臭いが一気に部屋へと充満する。

 布に包まれていた箱の中身、その者らは見知った血まみれの頭が四つ。穴という穴から血が噴き出て、眼窩は虚ろに、そこにある(モノ)は無く。


「影女郎ッ!!?」


 叫ぶような驚愕の声を同じくして、四つの血まみれにあった球体が反応したかのように微動し、四散する。


「くッ」


 四散した肉片と血液のシャワーはいの一番に覗いていたローへと覆い被さり、彼を血みどろにすれば、


「何者だ!」


 影女郎の頭蓋が砕け散る事が合図だったのか。海を望む窓が割れ、黒い影が二つほど現れる。

 ヨトゥルは急ぎ、ニャルトリアの前に。

 伍長は転じて素早く魔弩を構え、血反吐まみれのローは口の中まで入った残骸を唾棄している。

 その混乱に乗じ、部屋へと侵入してきたは、髑髏の仮面を―――いいや、ソレはまがい物で本物。闇に紛れるべく黒の布に身を包んだ髑髏の亡者。


「…………」


 砕け散らばった窓ガラスの破片を踏み潰しながら、口を開かずは当たり前であるかの如く、虚空の眼窩に殺意在り。

 亡者二体はどこから取り出したのか、逆手に持った刃を両手に持ち、動く。


「遅い!!」


 しかして、馬鹿正直に正面から文字通り刃向かう様。

 一方はマエカワ伍長に撃ち落とされ、もう一方はヨトゥルの正拳を避ける事できず。その頭蓋は粉砕される。


「さ、流石」


「言ってる場合ではないですよ、伍長」


 ハッと、瞬時に装備していた符を懐にしまったニャルトリアは、厳とした女王として命令を下す。


「その通り…言ってる場合ではないぞ伍長―――――すぐさま元帥殿に通達し、コベルニクスの海域と各関所に厳重な警戒態勢を。この荷物を受け渡した者はまだコベルニクスから出てはいないはずだ」


「りょ、了解!!」


 慌てながらにしっかりとした敬礼の後、マエカワ伍長はスグサマに行動を開始する。


「うぇー………」


 口や鼻に入った肉片を吐き出したローは、今の自身の様にすごい嫌悪感と気持ちの悪さに悲しくなってくる。


「取りあえず、風呂に入ってきなよ。ローさん」


 どんなに綺麗になるアイテムでも拭えない嫌悪感は、洗い流す事が最善であろう。と、ローはニャルトリアの指示に従うのであった。

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