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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第二章【魔窟の主】
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第三章 1 【コベルニクス商業国への帰還】

「寂しくなりますね」


「ああ、長いようで短い時間だったからな」


 柔らかな潮風が吹き抜ける。太陽はオレンジに輝き、海へと落ちる直前の太陽は此処へと来る前に拝んだ夕焼け。


「元気でな、アキラ。()()()はカッコよかったぜ?」


 炎煉は軽口に肩をすくめ、


「失礼でしょ炎煉。」


「そ―言うなって、他意は無い」


 フィリアナはそれをたしなめて別れを告げる。

 ユーセラスへと仕事に来た冒険者チーム“白銀”――――彼等の後ろには、コイムジ船長が舵を取る黒船が控えており、来た時よりも活気を取り戻した港には、送別に『アキラ・トシカワ』とジャージを着た赤毛の髪で顔の上半分が隠れた彼女『リリアナ・ヘリス』の二人がいた。


「あんなことが、国の中枢であったんだ。辞別に来てくれるのは嬉しいけど……いいのか?」


「構わないですよローさん。十教皇城はレオル達が、街やルー爺さんの寝ている病院はタエギ嬢の率いる元冒険者が警備してますから。それに――――」


「それに?」


()()である貴方達を何の挨拶もなしに見送ることなんてできませんよ?」


 白銀と共に共闘を成した彼の言葉には、とても強い実感がこもっている。のだが、


「やめてくれ、アキラ。私達は単に手伝いとアドバイスをしただけだ」


 事実その通り。

 ロー、炎煉、フィリアナ、ニーナの四人はただ単純に仕事を依頼されて、こなしただけでそこに大義なんて物はない。

 あるとすれば、損得勘定と頼まれたから辿り着いた結果のみだ。


「人や国を救う為、最終的にあのペインキル姉妹を討ち取ったのは君だ」


「で、ですが…」


 ローの持論にアキラは渋い顔をし言葉を否定的に濁す。で、あるならと持論の見方を変えてみる事に。


「……うーん、そうだな――――――では、こう言い表そう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 つまりは、英雄と共に戦ったのならアキラ・トシカワもまた吟遊詩人に謳われる存在であるのだ。


「もうそろそろ出港の時間です!! 白銀の方々お早く!!」


 停泊した黒船より増強されたコイムジ船長の声が港へとこだまする。

 どうやら時間のようだ。そうして、渋い顔をしていたアキラの表情には自身を誇る光が差していた。

 

「無論、ここにはいない決死隊の彼等もだぞ?」


「分かっていますよ。それと、ありがとうございます。何だか心にあった靄が取れた気がします」


 アキラより差し出される右手は英雄、戦友(とも)への感謝の証。同時、別れの最後の挨拶。


「また会おう」


「ええ、お元気で」


 差し出される右手を握り返し、ローは別れを告げた。


「あ、あの…!」


「ん、何か?」


 後方にある船へと乗り込む直前に引き留める者あり。

 送別には二人しかいないので振り返って今一度確認する必要は無かったのだが、今初めて口を開いた彼女の言は驚愕に値する別れの親愛を込めてではないモノ。


「その船に乗れば、貴方の運命が確定してします―――――それでも、いいのですか?」


 未来(さき)を視る事の出来る少女からのは決して意味の無いものではない、確信を持った曖昧な宣告。


「構わないさ。月並みな言葉だが、定められた運命を乗り越えるのが“英雄”という者だからね」


 身を翻し、運命へ向かう歩みはゆっくりと。その背は、正に白銀の英雄と呼ばれる存在の一人であった。











「お、見えてきたのじゃぞロー様」


「…そうだな」


「ん? 元気が無いの」


「イヤイヤ、ソンナコトハナイヨニーナチャン」


 一日を宿泊部屋で過ごして時間はお昼をまわったころ。

 ユーセラスからコベルニクスへの帰路では特に邪魔をするカトラクスクも当然の事ながらにおらず、一時の遅れも無く到着しようとしていた。


(はぁ……着いてしまったか…いや、悔やんでも仕方がない! 当たって砕けろだ!!)


 後ろめたい気持ちからくる腹の引き絞られるような冷たさを深呼吸する事で無理矢理に抑え込み、気持ちを落ち着かせる。


(ニャルトリアさんになんて言われるか……―――でも、仕事自体はこなしたしー………)


 実はの話。

 ユーセラスの魔法さえをも阻害する毒の霧が晴れ、復旧作業とアグァン掃討作戦を完了した落ち着きを取り戻した後、


(いやいやいや、どんな言葉を取り繕っても大局的に見て失敗した事実は変えられない)


 本当ならば、通話魔法の<コーフォル>で簡易的な報告をする筈であった。しかし、ユーセラス市国において『魔呪全書(スペルブック)の存在』と『グレゴール・ライフマンの強襲』という二つ件は、その報告を渋らせてしまい船に乗って到着する寸前の今に至る。


(前者はニャルトリアさんも知らなかったそうだし、まあいいとして。―――――あの意味不明な強さの青年を殺せなかったのは………英雄ともてはやされた私自身の失態でもあるし、俺達(プレイヤー)にとっても痛手だ)


 太陽が照らす空を仰ぐ。どう言い訳しようかと、額に脂汗を描きながら算段を組み重ねるも思い浮かばずのお手上げ忍者。


「あら。港にいるのはヨトゥルと…ニャルトリア殿では?」


「ホ、ホントダナー…」


 まだ船は港に着いていないので、今だ遠くに見える程度ではあるが見知った二人の姿形が確認できた。ついでに覚悟も決まった。


『予定通りペントの港へと我が船は着港致しました。降りる際は、足元にお気を付けください』


 少しばかりの時間が経てば、するりとすぐさま船は着く。港より波に揺れる船へと桟橋が架けられ、沢山の乗客が下りて行くのでロー達もそれに続く。

 下船客は意外にも多く、これならとニャルトリアをスル―できるだろう。と、唐突に閃いたローの浅知恵は呆気なくにいともたやすく侍女を連れる彼女に見つかってしまう結果に終わる。


「あー、久しぶり」


「う、うん…」


 何故かは知らないが、ローに次いで彼女も歯切れ悪く苦い顔で私達を出迎えてくれた。


「あ、あのですね」


「?…?!―――――………。」


 端から覚悟は決まっていた―――ただ、ちょっぴりの失態をさらけ出す勇気が無かっただけで、ここまでくれば後は口にするのみだろう。

 息を深く吸って、決心はついた。若干に相も変わらず苦い顔で何か言いたそうに驚いている彼女の目を見て、口を開くのみだ。


「実は魔呪全書がユーセラスにあったんだけど、グレゴールという男に取られてしまった」

「実はローさんが危惧していた問題なんだけど、あれもっぱらボクの責任だったんだ」


 深く、然して浅すぎずのお辞儀の後に続く言葉は、


「え?」

「え?」


 二人の目を驚愕に見開いて点にさせ、疑問の一文字を口から洩らすほどに。

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