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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第二章【魔窟の主】
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第二章 31 【加虐と嗜虐】

 リリアナ・ヘリスの<未来視(ヴィジョン)>に指し示されたのは道筋ともう一つ、二手に分かれた決死隊の合流地点だ。

 そこはユーセラス北西の十教皇城の麓に建てられた、見た目以上に堅固な作りで鉄製の柵もある広い庭付きの屋敷。ただ、家主や仕える執事が居ない為に庭の手入れはされておらず、漆喰塗りの外壁は黒くすす汚れていた。

 立地はロー達が駆け抜けた街よりも高い場所にあって、周りの屋敷も同じような「豪邸」と呼んでも差し支えのない邸宅の並ぶ場所。

 もちろんの事、家主には作戦前に許可を取っている。所有者は納得のいく商人ギルド最高権力者『タエギ・ショウジ』嬢その方だ。


(流石は<未来視(ヴィジョン)>の名を持つ(ネームド)ギフトか…。周囲に魔虫の反応もないし、もし襲撃されたとしてもこの屋敷なら大丈夫だろう)


 合流地点周辺の安全をくまなく調べ上げ、特に異常もなかったので屋敷の方へと踵を返す。


「どうでしたか?」


 ノブに手をかけ扉を開ければ、別動隊であった藍色軍服もどきのアキラ・トシカワがお出迎え。

 特に報告する事もなかったので「異常なし」と両の手をひらひらとさせてジェスチャーで返答、歩きながら気に留めておくべき隊員達の状態を窺う。


「問題はなかったですよ。――――それよりも、皆の容体は?」


「…自分達の隊はアグァンに出くわさなかったので怪我人は魔法で治癒し終える事ができました。ですが、レオルの隊はアグァンの呪いにより半数以上が重体、隊長であるレオルは未だ目を覚ましていません。」


 名持の(ネームド)ギフトを持つ三人の囚人と戦いで分かったことが二つある。

 一つ目はトヅマ・ノイの言葉通り、ペインキル姉妹の掌に我々がある事。二つ目はアグァンの持つ魔法阻害の呪いは傷を付けた魔虫を倒せば解呪されるというものだ。


「レオル君の怪我はかなり酷かったので仕方ないでしょう。しかし…―――」


 戦力の大幅低下(ダウン)に、こちらの情報が常に洩れているというのは思った以上に芳しくない。

 右手を顎に添えて考えを駆け巡らせるが、なかなかに安全策は出ず。気晴らしの安全確認も意味をなさず、当初の作戦のままに目的の部屋へと二人は到着するのであった。


「炎煉。修理は終わったか?」

 

 目的の場所とは決死隊の全員が集合している館の一室。そこから、地続きにある唐紅のカーテンで区切られた空間で、


「ちょうど終わったとこだぜ」


 胡坐をかいて『凶戦士の刃』を抱える炎煉(カレン)が小槌で刃をこつんと叩けば、少しの刃こぼれにひび割れ等を音もなく直し、最後の修理を丁度終えた所。


「ありがとうございます、炎煉さん。」


「いいって事よアキラさん。――――はい、ロー様も」


「いつも、助かる」


「よせやぁい。照れるわ」


 口元がほころぶ炎煉から刃を受け取り、背負って携え装備は万全。


「それじゃあ、いきましょうか。」











 少し前、決死隊の全員が合流地点に集まった時の事だ。


「な、我々はここで待機ですと?!」


「その通りです。ペインキル姉妹を倒すのには我々“白銀”とアキラさんで赴きます。」


 戦力の大幅低下とギフト持ち一人の脱落は決死隊にとって相当の痛手であり、この情報は筒抜けにある。ならばと話し合いの結果、これ以上の犠牲出さないよう五人を除く彼等には負傷者の手当てと拠点の守護を名目に、この屋敷に留まってもらうことに。

 動ける者から少しばかりの反発もありはしたが、大局を見てのローとアキラの言葉に彼等は頷くしかなく、その代わりにとアキラの提案で屋敷から倉庫までの安全な道の確保及び、捕らわれた人々を救出する人員補充を残った彼等に無理なく任せる事にした。




「受付には誰もいないようですね。こっちです」


 <未来視(ヴィジョン)>に指し示された屋敷は決死隊の合流地点で目的の場所ではない。

 タエギ・ショウジ嬢所有の豪邸近くにはユーセラス随一の漆喰塗りの劇場施設が建てられており、目的の場所とはズバリここだ。――――いや、しっかりと言い表すのなら、十教皇城(目的地)に行く為の一番の近道と言えるだろう。


「しかしよ。城の麓にあるとはいえさ、非常口をここに作る何て思いもよらないよな?」


「自分も最初に聞いた時は驚きましたよ」


 道案内をするアキラに続く“白銀”の四人は、暖かな色合いの絨毯を踏みしだきながらに軽口を交わす。

 治める者の居城というのはどこかしらに必ずしも非常口(隠し通路)を作るモノだ。それが、劇場内にあるとは意外ではあったが。


「施設内に入っても敵の姿は無し、か」


「奴さんの実力が相当で待ち構えてるかも知んねーぜ、ロー様。―――――だがま、オレ達四人とアキラがいるんだし大丈夫だろうさ」


「油断は禁物よ、炎煉(カレン)


「分かってるってフィリアナ」


「皆さん、着きましたよ」


 ユーセラスの劇場施設は複数の舞台が施設内部に作られており、事細かにスケジュールが組まれている。そうしてアキラが足を止めたのは、檄の予定表にあまり組み込まれることのない施設の一番奥に位置している舞台への扉。


「開けますよ…」


 彼が金メッキの取っ手に手を掛けるのと同時、“白銀”の四人は各々の武装を構え、


「行きます!」


 重量のある赤いクッションが張り付けられた内開きの扉を勢いよく体を使って開ければ、甘く酸っぱい酷い臭いとぬるいそよ風が揺蕩い、彼らすぐさまを包み込む。


「うッ…!?」


「………皆を連れてこないで正解だったなこれは…」


 腹の中から外に戻ろうとする物をアキラは顔をしかめて嗚咽で(こら)え、凄惨な光景に膝を付く彼の背中を擦りながらにローは驚愕すべき光景を静観する。

 舞台から観客席の椅子を半円に並べ、観客と舞台がしっかりと空間的に分け隔てられているプロセニアム形式。四階建てのかなり広い劇場で、左右と後ろには階数ごとの観客席が設けられている。

 それだけなら、まだ良かった――――異質、異常…どれだけ言葉で着飾っても『凄惨』と一言で言い現わせる光景が目の前にはあったのだから。

 高級そうな赤色の劇場椅子に天幕、そこから左右に伸びるのは天井から備え付けられたであろう階段―――――その全ては半壊しており、最奥にある舞台上には血まみれで皮を剥がれたユーセラス市民二百人前後が吊るされていた。

 それも、老若男女問わず。人皮の下にある筋繊維は露出し、ほぼ全ての吊るされた彼らは黒く腐りかけていて、おまけに僅かながら躍動しているその胸は“生きてる”証。


「あらあら、ワタシたちの舞台に害虫がいますわお姉様」


「そうねスティ。無駄に無残にも、霧の外から飛び込んできた“英雄(害虫)”さんよ」


 声が響いた。鈴なりの、しかして機械的な作られたような声が階段を下りる二人から向けられる。


「何者、とは言わんよ。お前たち二人がペインキル姉妹だな?」


 劇場内は音響設備が変に整っているのか、ローの声の張らない問いかけでさえ響き渡り、演劇の一幕であるとも差し支えのない演出。


「そうよ英雄さん。そして…―――」

「名残惜しいけど、貴方達を殺すこの国の女王サマよ。」


 その姿、色は違えど鏡合わせ。

 “姉”と呼ばれた彼女の瞳と髪の毛は若紫の色合いで、髪型は右目を前髪で覆うハーフアップ。

 “(スティ)”であろう彼女は対照的に左目を前髪で覆った、若葉色の髪と瞳。

 双方、美しくはあるがその姿は人工的で憐れな容姿。

 十字白亜の色合いが成された装飾に黒百合色のドレスは足の付け根までスリットが開かれて、その露出を隠すかのように足の半分覆うのは、これまた黒百合色のブーツだ。

 瞬間。“(スティ)”の二度の拍手で灯りは掻き消え、舞台の二人が重苦しく軽快な音楽と共に踊り始めた。


「嗜虐の痛みは生への渇望」


 手を取り合い、柔らかに蛇の如く。足を絡ませ腕をくねらせ、


「加虐の痛みは死への誘い」


 熱い躍動にその手で触れて、あらゆる所を蛇は蠢き、二人が遂にと口づけを交わす―――かと思えば、首筋へと口は触れて二人は同じに食いちぎる。


『痛みは約定、血は通貨。此の理を変えることはできず、今一度我らが手元に祝福を』

『痛みは約定、血は通貨。此の理を変えることはできず、今一度(ワレ)らが手元に祝福を』


 ともすれば噴水の様に湧き出る血に肢体は濡れ、血みどろにある中。彼女らの手先より命を狩り殺す死を模した、死の概念の鎌が現れ出でる。


『私達は痛みの死罪(ペインキル)。探求の者より作られし、最上位(ハイクラス・)人造(ヒューマノイド)悪魔(・デビル)――――!!』

(ワタシ)達は痛みの死罪(ペインキル)。探求の者より作られし、最上位(ハイクラス・)人造(ヒューマノイド)悪魔(・デビル)――――!!』


 鏡合わせに鎌を携え、可憐で無機質な死神女王は殺意を撒き散らし、


「サティ・ペインキル!」


「スティ・ペインキル!」


 名乗りを上げて、


「存分に、無残に、無駄ななく。そして―――」


「痛みに溺れて、殺し尽して差し上げます」


 殺しに(きた)る。

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