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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第二章【魔窟の主】
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第二章 29 【不死身の巨人】

(傷が塞がってゆく………ふん、そうか。そういう仕掛けか)


 “白銀の英雄”ニーナ・レイオールドは串刺しにした虫を前に自身の四肢が治りゆく様を観察する。

 意外にも深手であった右腕の切り傷は塞がり、脇腹太ももの抉れた箇所と解れ溶けていた半身は元の形に戻って(再生して)ゆく。

 これは彼女の種族が粘液(スライム)種の【黒毒の粘液女帝ゼラチナス・エンプレス】であるからだ。

 粘液生物系統の種族には基本的に再生能力(アビリティ)が備わっている。しかも、ニーナの場合は種族値を最大に上げている為、治りが早いのだもん。


「アグァンに傷つけられた者は、傷を付けた魔虫を殺せば呪いは解ける…――――ん?」


 存外にも楽なカラクリのギフト<調教師(クルカティッカ)>。

 治りゆく手を眺めつつ呟いていると落ちてきた方角から声が響き、藍色で無駄のない戦闘服に身を包んだ二人の男がバシャバシャと水を踏みしだきながらやって来る。


「こっちだ、急げ!!」


「お主らは…」


 飛び散る肉片、穴だらけの白い魔虫と力なく仰向けに寝るレオル。この場の惨劇と負傷した仲間、状況を理解した彼等は即座に応急処置と周囲の警戒を開始する。

 軍服もどきの恰好をした二人はニーナと同じ決死隊の一員なのだが、今ここにいるのは違和感がありすぎる。


「あのアグァン二匹は……?!」


「倒した。―――――それよりも、地上のアグァンとトヅマ・ノイはどうしたのじゃ?」


 それもそのはず。

 ニーナ達三人が上水道施設に落ちる前、魔虫の魔法によって隊が混乱に陥った際。ここにいるソウジとシガミには負傷した仲間を連れて、近くの小屋で体勢を立て直すようにと指示を出していたのだ。

 本当ならニーナ達も小屋に入っていたが、ウーバとヌーグの策によりこの(ざま)。分かたれた隊は今頃、籠城戦を強いられている筈であろう。


「いや、それがな……」


 首を傾げるニーナの質問に驚くべきか、喜ぶべきかの不明瞭な表情を作りつつも、辺りを警戒するソウジは律儀に答える――――トヅマ・ノイが逃げていったのを、だ。


「な、逃げた?!!」


「ああ。突然何を思ったのか、踵を返してアグァン共と霧の中に消えていった。それでまだ無事な俺達は負傷した奴らに一人護衛を付けて、お前達を探しに来たって寸法さ」


 レオルを処置しているシガミも彼の言葉に肯定の姿勢を見せる。

 優位に在ったトヅマ・ノイが逃げた理由、駆け付けた二人は分らずじまい。しかし、彼らの状況とその話を聞く限り、ニーナには一つ心当たりがあった。


「…あの囚人が逃げたのは、恐らく<調教師(クルカティッカ)>の力でこやつらの状況が逐一分かっていたであろうということじゃな」


「じゃあ、あれかい。トヅマ・ノイが逃げたのはそこに転がっている魔虫が死んだからか?」


 彼は穴だらけにある白色の虫の死骸に近寄り、蹴って再度死んだことを確認。片方は文字通り、跡形もなく爆散しているので確認する必要はなし。


「そうじゃ。――――あ、いや、待て。という事は………」


 白銀の彼女が考察した答えは納得のできる物で<調教師(クルカティッカ)>が有利な戦況をわざわざほっぽり出した理由は解明された。

 状況からすればこれ以上の禍根を残すこともないだろうが、ニーナの考査する頭に引っかかる懸念すべき事柄がただ一つあり。

 それはトヅマ・ノイの逃げ去った行き先。

 優秀な兵を失い、ソレを認識した人間が次に取る行動は“補充”か“要請”の二択。ウーバとヌーグを倒されて、その二択をしないのであれば第三の選択“合流”を選ぶだろう。

 <調教師(クルカティッカ)>の力で生み出していない巨人ならば、従えているだけの最大戦力の無事を確認するのなら、逆境を覆す為にアグァンを連れて合流する手筈だろうさ。


(ヤツが魔虫たちを連れて向かった先は巨人の()る場所、急が――――…ッ!!?)


「大丈夫か!?」


 加勢をするべく早足に急ごうとすれば、足は絡まり頭痛と眩暈に姿勢は崩れ、立て直すべく四肢に力を入れるもままならずの浅い水路に尻もちを搗く。

 どうやら、完治していたのは外見のみで体力(HP)も低下しており、かなり負傷(ダメージ)を受けていたようだ。


「立てるか…?」


「すまぬ、手を貸してくれ」


 差し出された手を掴み、何とか立ち上がる。

 先程よりも回復はしたが、歩くので精一杯の体力しかないのはいただけない。加勢に向かえないというのは、歯がゆいもの。


「そろそろ地上に戻ろう。リベルの死体も回収しないといけないし」


 重症の火傷を負ったレオルの処置を終えて、荷物の様に背負うシガミは大穴のニーナ達が落ちた場所へと足を進める。


「だな。――――ニーナちゃんは歩けるか?」


「大丈夫じゃ。問題ない」


 首を振って、五体満足何ともなしの無事だと伝えると、男は了解したようでニーナを心配しながらに前を歩くシガミへと続く。


(ロー様なら無事であるだろう……なんたって、妾が惚れた男じゃしな!!)











「おいおい、マジか…」


 大砲型の魔弩により土手っ腹に風穴も空けて、防御に回った両腕をも吹き飛ばした。にも拘らず、巨躯を射抜く強大な一撃に貫かれた下部の両腕は再生し終えている。


(どうしたものかね……)


 度し難いほどにしぶとい奴に対して、呆れる笑いがこぼれてしまう。

 煙を出しながら構築、再生された腕は地面に突き刺さったショーテルを掴んでおり、元の戦闘態勢へと巨人は移行する。

 だが、腹に風穴が空いたのは流石に堪えたのか、その動作はひどく遅い。四本の腕で刃物を構えるのも正に、手一杯と見える。


(いや、今ならやれるか…?!)


 ならばと、攻めに攻めるのが好機であるならと。大砲魔弩をヤツの方へとかなぐり捨てて、剣を上段に構えてから<次元飛翔(スイフト)>で一気に距離を詰めた。


「これでッ―――!!」

 

 正面切っての狙うは、存在しない頭蓋から股下までの一刀両断。

 重力任せ、意外な上空からの一刀は敵の不意を衝くことができる決定打、流石に死ぬだろうとの一撃。


『ウォオオォォォオォオオッッッッ―――――!!!!』


 しかして、ソレは()()()()()()()()()

 死地にあるのならまだしも、優位にあった今では愚直としか言いようのない手段。“活路”ではなく“勝利”を見出すのなら、ソレはいただけない。


「なにィッッ!!?」


 巨人の動きがすっとろく()()()()()のはローからの視点で、決して遅くあったわけではない。


『フンッッッ』


 理性のない怪物ではあるが、知性がない事は無いのだ。

 理解し、学習する。そうして、ローの一太刀を後ろへの跳躍で避けきり、跳躍の反動で前方へと四刀を思い切り、斬り込む。


「こいつ、まだ余力がッ!!!」


 四本同時のショーテルによる立体的で高速の斬り上げは避ける事の出来ぬ上空へと彼を追い込み、無残に切り裂くだろう。

 

『ムゥ…?!』


 ただ、“同時”というのは隙のあるモノ。

 ローの刃は振り下ろしの一刀。だからこそ二撃は刃を下ろし盾にする事で防げた。三撃目はそこからの跳躍で避け、四刀目は()()()


「くゥッ……?!」


 即死を避けて、致命傷に至らずともこれは痛い――――左足首を斬り飛ばされるというのは。


『ウォオオオオォッッッ!!!』


 だからといって攻撃の手が止む事は無く、続けざまに対象を捉えた確実に仕留めるべくの“みじん切り”が始まった。

 倒壊寸前の建物は振動によって崩れ落ち、辺り一面には建物を形作っていた木材や石材の瓦礫が散らばる。

 瓦礫類の強度はそれなりにあるが巨人からすればただの石ころ、ただの枯れ木で裂く事は容易い。


『ム?』


 気付けば刃に捉えていたはずの敵の姿はいつの間にか消えて、刃に伝わる感触も瓦礫のモノのみ。結果、みじん切りによって煙が辺りに立ち込めるのは幸運だった。


(理性のない怪物で助かった……)


 見えないよう瓦礫の影に隠れて左足を手に持つローは、ふくらはぎ辺りに包帯をきつく巻き付け、血管を圧迫する事で止血は完了。


(治らないか…困ったことになったな)


 額からは冷汗がにじみ出て、一度落ち着いた事により段々と斬られた部位に痛みの感触が戻ってくる。

 <調教師(クルカティッカ)>の支配下に置かれた怪物、及びアグァンの能力は魔法の効力を阻害するモノで、見る限りローの指輪と能力(アビリティ)も阻害される様だ。


(何か、ないか……あー…)


 現状打破に必要なのは、最低でも足を使えるようにすること。

 周囲を見回し、ローがこれだと青い顔で発見したのは瓦礫となった木材に突き刺さっているコの字型の両端の曲がった大釘(カスガイ)


(やるしかないか………)


 気は進まないが、あの巨人を倒す為には必要な事。彼は覚悟を決めて、カスガイを五つほど引き抜いて手に取った。


「―――…ッッッ?!!」


 切断面が綺麗だったのは幸運で、足を使える様にする為にはくっつける事が必要。角度を合わせ、形を合わせ、カスガイを一つ一つと埋め込んでいく。

 ジュグジュグと肉に捻じ込んで、少量に血液が流れにじみ出る。一つ、また一つと異物が自身の身体に突き刺さるのは耐えがたい悶絶する苦痛。

 痛みから体中に冷や汗と片頭痛もやってきた。無茶苦茶痛いがローは歯を食いしばってそれらを何とか耐えきった。


「はぁ……はぁ………よ、し。」


 “処置”し終えた左足を包帯で巻き見てくれは悪くない。足には依然、激痛が走るが我慢せねばならんだろう。


「あれ…音が消えた?」


 応急処置にローが専念してた為に巨人の行動音を聞き逃す“隙”は、巨人がみじん切りを止めていつの間にか、こちらに陰りを作る“隙”にとって代わる。


『ウオォォッ!!』


「クッ!!?」


 雄叫びと共に振るわれる業物を間一髪に避けきる。―――――ああ、凄い痛い。

 体勢を立て直し剣を構え、改めて巨人へと向かい合う。両者瓦礫の上、片方は五体満足に足場が不自由な事は無く、もう片方は激痛と共に足場不安定に自身の状態を軽く調べる。


(利き手には大穴、左足は無理矢理くっつけての激痛……――――なおよし、か。)


 歯を食いしばっての笑顔を作り、真正面での斬り合いに挑む。

 死地にこそ活路を、()()()()()()()()()を。

 

「<魔法の壁(ヴァント・マギア)>」


 左手を掲げ構築するのは魔法の守壁。その様は剣と盾を構えた騎士の様で、彼が一番得意とする剣術でもある。ただ、今扱う剣術ではないのは確か。


「………」


 双方じりじりと距離を詰めている。一歩、また一歩と、


『ガァァァァッッッ!!』


 しびれを切らし、緊迫した空気を断ち切ったのは強大で巨大な巨人の刃。駆ける足音は地に響き、もはや理解した青白の壁なんぞ、(おそ)るるに足らず。

 巨人との距離は瞬間に縮まって、あの連撃が繰り出される。


「…………ッッ」


 高速に振るわれる四刀を耐えきるには、この負傷は少々堪える。

 掲げる左腕は徐々に下がり、無理矢理にくっつけた左足にも衝撃が伝わり血があふれ出るのは、傷口に塩を塗り込む所業。


(いかん…はやく決着を付けないと)


 目の端で追う斬撃に陰る眼に、手足の先端部から身体も冷えてきた。――――どうやら、時間が迫っているらしい。

 狙う気は一瞬、腹に力を込めて歯を食いしばり活路を見出す。


「今だッ!!」


『ウグゥゥゥ…』


 揃う攻撃は四刀同時の剣戟で、動作を見切り要領同じとタイミングを合わせ<魔法の壁(ヴァント・マギア)>で弾き返す。

 魔法の壁は打ち消され、ただただ剣を振るうのみ。


『シィッッ!!』


 ただ、巨人は理解していた。当然だ、一度と二度と同じ事をされたのだから。

 四本の刃は振るわれるも、僅かに着撃ずらし左上腕のみ別に動く。弾かれたような動作の後、巨人は刃を振り下ろした。


「<次元飛翔(スイフト)>」


 ただ、これは彼も読んでいた。だからこそ、がら空きにある右側に飛翔する。


「お返しだ」


 そばにあった大砲を血の滲む足で蹴り上げ、直撃しヤツの姿勢は崩れた―――好機。であるのなら、狙うは左足。


『ムゥゥゥッッ!??』


 横なぎに斬り払い、巨躯が沈みかける。沈まぬように刃を地面に突き刺したのは“隙”である。


(このまま…押し切るッ!!)


 横なぎの姿勢からのすかさず切り替えで上部、下部の腕を切り落とす。その刹那、更に体勢は崩れてローは身を翻し、脇腹を抉り裂く。


「うおおおおおォォォッッ!!!」


 倒れ込む巨躯を手に持つ刃で突き刺しにカチ上げる。堪らず、巨人は仰向けに寝転びローは追い打つべく、治りかけの土手っ腹に着地。そのまま一気に、刃を突き立て切り刻む。

 横に縦に斜めにと縦横無尽に掻っ捌き、蹴り上げた大砲が落下するので装備して、


「これで、終わ――――――」


 これだけ刻めば再生もおっつかないだろうと思っていたのは失態だ。ぐちゃぐちゃの腹に乗っていた彼は斬ったはずの腕両方で殴り飛ばされたのだから。

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