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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第二章【魔窟の主】
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第二章 27 【攻防衛戦】

 身を隠す場所は無く、背を守る外壁も無い。広い道幅は自由に動ける環境ではあるが、防衛(ディフェンス)を任された側としては最悪な戦況。

 しかし、この場に残った九人の彼等には当然の事に時間を稼ぐ策があった。


「十二時方向に三、七時方向に四じゃッ!」


『了解ッ!!』

 

 辺りにある建築物からの強襲、四方八方囲み攻め入る魔虫(アグァン)共。

 ニーナの声は敵の位置を正確に指し示してナイフを放ち、レオル含めての三人はソレに合わせて魔弩を撃ち放つ。

 装填された魔法は低燃費、高威力の<電矢(ライトニング・ボルト)>。そして、残り五人でドーム状に<魔法の壁(ヴァント・マギア)>を構築する事で奴ら怪物の攻撃を防いでいく。

 

 ニーナ達の順調に数を減らす完璧な攻防戦略。

 

 それを見る<調教師(クルカティッカ)>――トヅマ・ノイ――は右手親指の爪を噛み割る程に苛立っていた。


(クソ、埒が明かねぇな……)


 <電撃弾(ライトニング・ボルト)>を五発ほど撃ち込まれ、絶命する魔虫(アグァン)共。向こうさんの物資も無限ではない為、町中のアグァンをここに集めれば数で奴らを殺せるのは明白―――――とは言えないのが先の現実。

 

「…………やるしかねぇか」


 しゃがみ込み、屋根から全て戦況を俯瞰する彼は、今のままでは負けるであろうと痛感していたと同時、“アレ”を使ってしまう事を決意する。

 


 彼の本質は“几帳面な抜身の刃物”と言い表すのが妥当であろう。

 

 盗賊団の副リーダー的存在で計画を練り、時間通りに物事を推し進め、気性の荒い野郎共を従わせる。

 逆に従わずの役立たずな者に対してはそれなりの罰を用意。例えば、顔の部位全てを削いだり皮を剥いだりと、ある程度の見せしめ及び趣味趣向に耽っていた。その人柄、時間厳守、行動厳守の方針にタナ・ジエンも高評価。

 

 盗賊なんかは案外勝手が良い物で、人攫いや暗殺の仕事はとある筋からよく入ってきたものだ。

 

 依頼人の金払いは良く、ユーセラス周辺に拠点を置くのなら追っても来ない。自由に人の目を気にせず、甚振り殺す事ができる環境は彼にとって好都合―――ではあったが、狡猾に悪逆なトヅマ・ノイは二度とヘマをした。

 

 一度は、ユーセラスの人類守護部隊に捕まった事。

 二度は、あの姉妹に出会ってしまった事だ。


 罪人として捕まったのは仕方ないといえる。彼自身、客観的な視点を持っており自らの行動も罪に当たるとは分かってはいた…それだけならまだ良かった。

 ペインキル姉妹は削ぐ、引く、足すの三拍子―――――言い得るのなら()()()()()()()()()をその華奢な腕に持ち合わせていた。

 ソレは…その光景は、彼に『おぞましい』と言わせるほどに悪逆にして、時間稼ぎに行っていた演説の内容も全て事実。

 トヅマ・ノイは『ああはなりたくない』という恐怖によって突き動かされる。



 飛び火しない安全圏である屋根の上から、彼は迷いなく降りてニーナ達へとゆっくりと向かう。


「あやつが下りたぞ!!」


 ニーナの号令にトヅマへと<電矢(ライトニング・ボルト)>が一斉照射されるも、<調教師(クルカティッカ)>の号令によりアグァンは肉壁を構築。

 

「ッ?!! 今のは……」


「ほー、向こうも派手にやってるようだな――――じゃあ………」


 ニーナ達は防衛に回っている以上、この壁を崩す事は出来できず。そして、遠くに聞こえるはお頭とあの男の戦闘音。

 姉妹から忠告を受けてはいたが、ここまでの力とは思いもよらなかった。

 あの巨人となったお頭とタメを張る一人の男、そしてその仲間である黒髪の少女(ガキ)。聞いた以上に力を持つ人外の奴らに勝って()()()()()()()には、“アレ”しかないと()()()()()()を発動させた。




変異体殻(ナーギャヒン)―――<人型(フィージェ)>』




 高らかに右腕を上げ、生き残るべく使いたくはなかった“(ギフト)”を発動。

 声は響き、魔の虫は六本の足を使って喜々とした産声を上げながらにトヅマ・ノイへと喰らい付く。











「な、何だアレは…?!」


 <魔法の壁(ヴァント・マギア)>を張っていた一人の言葉にニーナを含めた全員が驚愕し、同意する。その様は正しく“異様”だ。


「使役者を食っている……??!」


 皆の視線の先に映るのは、魔虫に群がられて一つの塊となった囚人の居た場所。彼の血は彼を喰らう魔虫共の隙間から溢れ出ているが、肉片は一つとして飛び散っておらず。


「み、見てっ!?」


「おいおい…冗談だろ…」


 魔弩を構えていた一人が指をさす。その隣にいた彼は「信じられない」と口を覆い眉間を歪ませる。

 トヅマ・ノイを貪り食うアグァンの数はおおよそ四十匹。最初の変化が見られたのは中央付近にいる魔虫の色で、トヅマが“お頭”と呼んでいた巨人みたくアグァンの肌色、性質が変わっていったのだ。


「あー………お前ら喰い過ぎだ。」


 息を荒くしながら悪態をつく囚人の声が聞こえた途端、彼に群がっていた魔虫はブブブブと気持ちの悪い羽音を背中から響かせ、今度は彼を囲うよう着地し、レオル達へと向き直る。


「魔力もないヤツが………使い魔に力を与えるのには、二つ…の方法がある…。一つは自分の魂を分け与え…、分霊箱として使い魔…を扱う事……。そしてもう一つは………肉…体を、与える事だ……。」


 満身創痍だろう。見れば、トヅマ・ノイは右腕全てと繋がっていた肩の部分を喰いもがれていた。自身の返り血でオレンジの囚人服はドロドロの赤に染まって、代わりに眼鏡の掛かった顔面は青白くあった。

 そして、アグァンは本物の魔虫に成り果てる。


「立った…アグァンが立った!?」


 自分の足で初めて立った者を見たようなリアクションでニーナが指摘した点も、十分に驚く点だが変わっていたのはそれだけではない。

 二足歩行となったアグァンは鉄色の硬質な肌に変化し、戦闘態勢は“お頭”と同じ形を取る。四本指の手にはいつの間にか鉄色の武器を握って、半数は双剣を、もう半数は魔法の杖を装備。

 正に昆虫、正に魔虫。

 色は統一化され、背には羽と羽をしまう甲殻が。腐りきった獅子頭はぱっくりと下顎が分かれて、黄色く発光する六つの目が顔に現れた。

 

「キキキキ……ヨッポド、女王ガ怖イヨウダナ」


「ダガ、代価ヲ支払ッタノハ事実。加勢スルゾ、<調教師(クルカティッカ)>」


 そうして駄目押しにと、止血を施すトヅマの影から異様な魔虫(アグァン)が二匹と湧き出る。


「ウーバ、ヌーグ。失敗したら承知…しねぇぞ」


「キキキ、コワイコワイ」


「水ノ多イコノ町デハ我ラハ無敵。失敗ナドセズ、確実ニ暗殺シテミセルワ。」


 影から突然に湧き出た二匹。形こそは他のモノと同じであるが、その姿。全ての部位が真っ白の配色で、おまけにサソリの様な先端に針の付いた尻尾をその二匹だけが持っている。

 準備は整った。

 右腕と少し犠牲にもした。

 残された<調教師(クルカティッカ)>としての行動は、命令を下すだけ。


「再度オレは命令する――――――遊ばず、確実に仕留めろ。」











 迫りくる怪物は魔窟の底から溢れ出てくるように、しかして隊列を整え、計画的に魔虫(アグァン)は蠢く。


「駄目だッ……このままじゃ障壁が壊れる!!!」


「分かってるって、せかさないで!!」


 戦士型のアグァンは隊列前方に、魔法使い型のアグァンは隊列後方に蠢く虫はレオル達を取り囲み、先程の様に防衛に徹する決死隊は怪物へと電撃の矢を放つ。

 しかし、意とせず。

 自身の羽を覆う甲殻をもいで下部の手に構え、盾として使うアグァンはそれを防ぎ切り、徐々に距離を詰める。魔法使いの魔虫も盾を構えた同族に続いて<火球>を放ちながら、じわじわとレオル達へと近づいてくる。


「どうする、ニーナちゃん?!」


「………待つのじゃ、今狙っておる。」


 袖下に隠れた両の手には、二刀の刃を携えた彼女。一見して、棒立ちとなっているその様は既に構えている暗殺者であった。


「そこ!!」


 両腕を同時に振り上げ、半球状に構築した<魔法の壁(ヴァント・マギア)>から二本のナイフが投げられる。

 狙うのはトヅマ・ノイの眉間と心臓。掠ったとしても猛毒の塊であるこの刃物は、何もかもを溶かしつくすほどに強力な猛毒。そして、ニーナの精製した武器で尽きる事は無い。

 

「キキキ、強力ナ毒デハアルガ詰メガアマイ」


「触レレバ溶カス毒牙の刃物……ダガ、ソンナ物ナゾ我ラニハ効カン」


 当たれば即死、掠れば絶命の猛毒塊。<調教師(クルカティッカ)>を守る白い二匹は何となしに尻尾で絡め取る。


「やるな、あやつら……―――なんじゃ?!」


 感心するのも束の間、構築している<魔法の壁(ヴァント・マギア)>に戦士型が白い糸を発射する。口から出る糸は蜘蛛の巣のようで、依然として動けないニーナ達は障壁を貫かない。

 不思議に思いつつ、周囲に気を配りつつの一瞬―――――たったそれだけの一瞬が防衛戦の勝機を分けた。

 

「今だ、やれ」


『<電撃(エレクス)>』


 後方に配置されていた魔虫が息をそろえて魔法を唱えた魔法は第三級魔法<電撃(エレクス)>。その字の通り、魔力で作った電撃を飛ばすだけではあるも、今の状態――魔法伝導率の高い糸がかかっている状態――では脅威となる。


「あ……」


 魔弩を使って魔法の障壁を張っていた一人が声をもらす。糸は魔力を増強し、絡めに絡めたソレにより、パリンと音を立ててから全ての全てが瓦解する。


『<火炎矢(ファイア・ボルト)>』


 瞬時。ガラス細工のように砕け落ちる障壁の先から、炎の塊が彼らに向かい―――――そして、着火。


「ああああああきがぁぁあぁぁあああッッッ!!!!!」


「ぎ―――――――」


「だれかぁ!!! だぼ、げあ…えじぇぐえ………」


 火に纏われその場で転げまわる者がいた。何の叫びもなく燃やし尽くされる者もいた。運悪く、頭のみに着火して喉を焼き切られた者がいた。彼らの半数以上がそうなっていた。


「今だ、畳みかけ……チッ、煙幕か」


 そして、助ける者もいた。


「ぷぅぅぅぅッッッ!!!」


 紫色の煙幕を張ったのは白銀の英雄である彼女。そしてニーナが吐き出したのは、持てる毒で一番弱い『麻痺毒液』―――燃える炎を鎮火させるための液体である事に変わりはないのだ。


「皆、落ち着いたかの――――では、あの小屋に入り体勢を立て直すがよい。」


 無事に無傷だった決死隊の彼らは、後ろの小屋に指をさす小さな英雄の言葉に頷き従い、仲間を背負ってその場を後に。


「ニーナちゃんは?」


「くっふっふー…」


 どや顔で振り返る英雄は、この不条理な状況を何とすることもなくいつもの調子でレオルの問いに答えてみせる。


「殿こそ、英雄の務め。さ、レオルも行くが良し――――」


「ニガサナイゾ?」


 煙の中から現れたのは高速に一匹の白い魔虫。カチカチと下顎を鳴らし、爪での一撃を放つ。


「ふん、遅いわ」


 しかし身のこなし軽やかに魔虫の一撃は呆気なく受け止められる。余裕にあった彼女ではあるが、それは本命ではない。


「ヤレ、ヌーグ」


爆発(エイヴァ)


 どもった声がもう一つと聞こえた途端に、


「の…? のじゃゃゃゃゃッッッッッ!!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁッッッッ…………―――――」


 爆発は地面を砕いて二人を闇へと突き落とす。

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