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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第二章【魔窟の主】
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第二章 22 【山岳魔導都市“ユーセラス”】―2

 タエギ・ショウジ嬢の管轄にある町の三分の一を占める倉庫。壁は漆喰塗りの様々な物を置いている倉庫には専用の事務所がある。

 ユーセラスが未曾有に危機に陥った今、倉庫事務所は捜索隊、物資補給班の人員を取り決めを行う“作戦会議室”となっており、今は九人の者らが部屋を使用している。


「では、改めて自己紹介を。自分は『アキラ・トシカワ』という者で、元々は十教皇管轄の()()()()()()に所属していました。―――ですが、今現在は避難してきた人達への捜索、物資補給等の指揮を取っています」


 アキラ・トシカワ―――年齢は二十歳を過ぎたばかりで、黒髪、黒目にひし形の丈の短い藍色コートにオーバーオールみたいな紐がコートに付いた半ズボンを装着。

 腰にはほど良い大きさの雑嚢を装備し、隙間から見える中身は透明な瓶がいくつか並んでいて何か砂のみたいな物が詰められている。


「そして儂が十教皇の一人―――ルージェス・アルゴ・ナセル・リスカである。名は長いので“ルージェス”で構わんぞ、白銀の方々」


「意外にも若い人なのですね」


「ははは、そう言ってもらえるのは嬉しいぞ。儂も今年で二百八十歳だからな」


「あれ? ルー爺さん二百七十歳じゃなかったけ?」


「おや、そうであったかの?―――――まあ、些細な事じゃ。気にするでない」


 年齢故にかアキラの隣に座っている老人は、ユーセラスの事実上最高権力者の十教皇の一人――ルージェス・アルゴ・ナセル・リスカである。

 清潔な白髪を後ろで纏めて、質の良い灰色の魔術ローブと、黒と赤の美しい装飾をしたストールを身に着けたその姿は六、七十の初老に見える男。だがしかし彼曰く、先程言っていたように実年齢二百八十歳だそうだ。

 彼が避難所に到達したのはごく最近の事で、なんでも元々は『毒の霧』をばら撒いた張本人達に捕まっていたらしく、そこから隙を見て逃げてきたんだとか。


「では、そうします……所で、()()()()()()とは?」


 ひねりのない安直すぎる部隊名にローは頭を傾げる。


「コレですよ、ローさん」


「おっと…、これは?」


 アキラから投げられたのは手のひらに乗るほどの小さな黒い箱だ。何の変哲もない鍵の掛かった箱で、魔法による施錠もされていない。


「確かめましたね。じゃあ、渡してください」


「?」


 言われた通り彼に鍵の掛かっているただの箱を返す。すると、彼は箱を開ける為に“力”を発動させた。


「<パルプ・フィクション・ガム>」


 アキラの呼びかけに応じ、彼の両手が分裂して箱を掴む。いや、正確には付け根と姿が半透明の鋼色の腕が彼の肩辺りから出現。その“出てきた腕”は所狭しに銀色の歯車が腕の一部となって食い込み、同化している姿で、彼のもう二つ目の(ギフト)である。


「自分の“(ギフト)”<パルプ・フィクション・ガム>はこの腕で触れた無機物を分解、再構築する事ができます。―――――あ…ただ、魔法関係のアイテムや施錠については干渉できません。魔力自体がどうやらギフトの邪魔をしているらしいので、」


 (ギフト)を使って見せたアキラから再び黒い箱が投げられる。手に取って確かめてみると、彼の力によって箱の鍵が解錠されていた。


「自分のギフトで出来る精々はこれぐらいです。他には…まあ、遠い所にある目覚ましを腕を伸ばして止めれるなどですかね」


「つまり…“ギフト持ち”を集めた部隊という事ですか」(便利……?!)


「はい。活動内容は主に、周辺地域の魔物討伐や人の手に余る魔道具の回収などで……とは言っても、現状ルー爺さんを含めた四人しかいませんので“部隊”と言うのは程遠いですがね」


 ハッハッハッ、と十教皇ルージェスと部隊長のアキラは苦笑するのであった。


「他には誰が?」


「別室にいるリリアナ・ヘリスと、ここにいるレオルです。」


「れ、レオルです。宜しくお願いします」


 緊張しているのか、アキラの右隣りにいるレオルと呼ばれた少年は栗色の髪を弄りながらどもどもと受け答える。


「どうした、レオル? いつもなら悪戯の一つや二つ客人に向かってするだろうに」


「う、うるさいなルーじいちゃんはッ」


 赤面する彼を傍らに見知った二人の笑い声が部屋にこだまする。そして数秒の後、この場を仕切る所に立つ彼は一呼吸おいて話し始める。


「さて、この忙しい中お集まりいただき……―――――」


「建前とかいいから、アキラ君………まず聞きたいんだけど、アタシまで呼び止めた理由は何よ?」


 会議に入るべく建前から会話に切り出したアキラは真っ先に出鼻を挫かれて、理由(わけ)と本題に入るよう『お嬢』に催促されるのであった。


「すいません、タエギさん。『救援』に来た“白銀”の皆さんを改めて紹介しておこうと思いまして」


 捜索、物資補給の陣頭指揮を取る彼に対して催促をするのは、この倉庫を避難所として()()()()()()()商人ギルド最高権力者『タエギ・ショウジ』嬢その方である。

 この場で最も目立つピンク色のつなぎを身に着けて、褐色肌にその金髪を後頭部で一つにまとめた女性。上半身部分は裏返して上手い事腰に巻いていおり、中には黒紅色のタンクトップ。

 商人気質で気が強く、なんだかんだで手を差し伸べる様な女性。という所感を(いだ)くローであった。


「ふーん―――んで、この冒険者チーム“白銀”てのが『救援』…?」


 彼女の半信半疑の茶色の瞳が我々に向けられる。

 それもそうだ。

 王国のオニの件はここでも噂程度聞いているだろうし、ましてや彼女は商人。“白銀”の素性を知っていたとしても、突然やってきた人間を有無を言わさず避難所(倉庫)に入れて、予知された『救援』だ。と、陣頭指揮を取るアキラに言われた商人の彼女が、リスクの見極めに一応の疑いを持つのは当たり前である。

 ならばと、冒険者チーム“白銀”のリーダーとして、改めての挨拶を切り出し、信頼・信用に足るであろうモノを提示するまでだ。


「『調査』という名目でここに来た私ですが、『救援』の話はいまいちピンときていないので取り合えず自己紹介を。冒険者チーム“白銀”のリーダー、ロー・ハイル・ヘルシャフトです。そして――――」


「フィリアナ・ルーゲル・フェンドルドです」


「獄炎 炎煉だ」

 

「ニーナ・レイオールドなのじゃ!」


 四人の名乗りを聞き終えて、タエギ・ショウジ嬢は深く考えた(のち)に疑いの目から一気に渋い顔をする。 


「エルフに鬼に幼女(ロリ)……アキラ君、これがホントにリリーちゃんの言っていた『救援』なの?――――どっちかと言うと旅芸人の一座じゃないかしら?」


幼女(ゥロォォルリィィ)言うな。あと旅芸人じゃないのじゃしー」


「いや、どう見たって子供(ロリ)でしょう?」


「ああー……いやいや、そんな事ないですよ。自分が見た彼らの実力は本物ですし、何より『救援』に来た証拠がある。――――で、ですよね、ローさん?」


「アキラ君……そういう事を言ってるんじゃなくってね…」


 不名誉な称号を付けられたニーナは幼女(ゥロォォルリィィ)と頬を膨らませ巻き舌で言い放ち、真っ向から名付けた張本人をしかめ面で睨みつける。

 両者譲らず、引かずの展開にアキラが困りながら証拠品の提示をローに催促する。


「…勿論、コレを見てください」


 ローが所持アイテム内(インベントリ)から取り出したのは、ただの赤い宝石が埋め込まれたブレスレッド。


「…そういう事かい――――“白銀”のリーダー……一応聞いておくけど、ソレ。何だか知ってる?」


 盗んだモノならば用途を知らず、貸与された物ならば委細承知済み。


「コベルニクスの女王、直々の依頼等で貸与(たいよ)される身分証。同盟国であり、姉妹国であるユーセラスのお偉方なら一目見て分かる()()()…これで、いいですか?」


「――――……おーけー分かったわ。アタシはアンタらを認める。反論はなし、これは確定事項よ」


 “避難所の持ち主”を納得させてから議題は本題へと進む。


「……では、初めに情報の共有といきましょう」











「ペインキル姉妹の執政に彼女らを守護するギフト持ちの囚人ですか………」


コベルニクスからの使いである“白銀”と指揮官であるアキラ・トシカワらとの情報共有の末、ローが目を付けたのは二つの事柄。


「いえ、正しくは()()()()()()()()()囚人です。」


 “ペインキル姉妹の執政”というのは文字通りの意味であった。ユーセラスを猛毒の霧で包んだ姉妹はその初日に、


『ユーセラスは(ワタシ)達の支配下に置かれます。(ワタシ)達から貴方(アナタ)達への法律(ルール)は一つだけ………家から出ない事です、以上』

 

 という声明を発表して、破った罰などを特に忠告される事は無かった。が、しいて言うのなら姉妹によって何人かの人間が連れ去らわれている“(じじつ)”が、為政者となった彼女らの考えた罰なのだろう。

 それ以外の罰は特にない。街全体の水や火や魔力などの生活生命線(ライフライン)を切られることはなく、シャワーも浴びれるし、飯も炊くことができる。しかし、だ。家にある物資は有限であって、外の怪物がいつ雪崩れ込んでくるかわからない。

 (ゆえ)にタエギ嬢の提案により、休暇でたまたま街にいたアキラ達が率先して市民を倉庫に避難させたのである。

 

()()()? ギフトとは後天的、先天的の差はあれど人工的に授かるものではないと聞いていますが…?」


「確かにそうじゃ……じゃがの、儂らの情報にある三人の囚人はギフトなぞを授かっていなかった。それにそのような兆候があったわけでもない、()()()()()()()()()()()


 霧に包まれてからの十日間、リリーの<未来視(ヴィジョン)>もあったことでアキラ達の避難誘導は何事もなく上手くいっていた。

 目に見える変化があったのは、その次の日の事。

 ユーセラスを跋扈する魔獣(アグァン)共が突如として組織化し、効率よく()()を行うようになった。原因は単純明快――――陰で…というよりは堂々と霧の中で毒も受けずに魔獣を操っているオレンジ色の囚人服を着た人間が一人、その傍に二人と居たのだ。


「ユーセラスで犯罪を起こしたり、他国で罪を犯した指名手配者は儂らの十教皇の城の真下にある刑務所で服役することになる。―――――儂も、あそこに捕らえられていたが……その時に牢にいる囚人共の顔と名前は覚えておった」


「…つまり、どういうこったじーさん?」


「つまりじゃ、炎煉殿。毒の霧に対して何の防護もしていないその三人は捕まえておったはずの三人である。ということじゃ」


「…ギフト持ちと分かった経緯は?」


「単純な話、儂の魔法で遠目から調べたのだ。―――儂ぐらいの魔法使い(ウィザード)になれば、ギフト所持者を探すのなど朝飯前よ」


 

 ペインキル姉妹の居城への道筋を守護する囚人の素性は解明済みである。

 一人目はユーセラス付近の山を根城にしていた盗賊団の頭―――タナ・ジエン。六十を過ぎた彼は魔法を使えず、唯一の武器は両手持ちでショーテル二刀のみを扱っていたらしい。

 二人目はタナ・ジエンの副官―――トヅマ・ノイ。いつも眼鏡を掛けている彼は魔法に武器の扱いと、それなりに秀でており、狡猾さに至ってはタナ・ジエンよりも悪逆である。

 最後の三人目は前者二人に関係のない、帝国で指名手配されている懸賞金の掛かった首を持つ男―――ノバン・シェンド。

 指名手配されている理由は、何でも帝国の弱小貴族の一人娘に手を出してしまい、追ってから逃げている内にユーセラス(ここ)まで逃げてきたのだとか。



「――――――以上三人が儂らの“敵”となる者共よ。」


「……成程、そちらの状況は粗方(あらかた)理解しました。それで私達が『救援』として、される依頼は?」


 コベルニクスの女王(ニャルトリア)からの依頼内容は“調査”という名目であった。しかし『救援』と<予言>されて、答えてしまうのが英雄と称された冒険者チーム“白銀”の常。

 ローが問いかけて、後はアキラからの『依頼』を受けるだけ。


「『依頼』ですか………冒険者とはそういうものなのですね。では、貴方達“白銀”に依頼します。―――――自分達の決死隊に加わって“山岳魔導都市ユーセラス”を取り戻すのを手伝ってください」











「どうだった、フィリアナ? やはり…―――――」


「駄目でした。ロー様の警戒している通り“ギフト”というものは厄介ですね」


 決死隊として身支度を整えるローにフィリアナは付けていた指輪類(アクセサリ)を渡して、ため息をつくように報告を済ませる。


「そうか…二度手間を取らせてすまなかったな」


「いいえ、ロー様の頼みであるのなら全然構いません」


 ローの労いに首を横に振る彼女へと頼んでいたのは怪我をした者の治療だ。

 フィリアナが修めている第九級回復魔法<完全治癒(ピュレ・グトラス)>は、ゲーム内でも重宝した魔法で第十級(超級)魔法を含む、全てのバットステータスを回復できる。

 因みにこれは超級魔法――例えば毒系など――での状態異常に対する運営の処置で、超級に対するカウンターは超級魔法。と、基本的にはなっているが、回復系の一部魔法にコレを適応してしまうと、必ずしも第十級の回復魔法を覚えなければならない事になる。なので、こういったシステムになったのだ。


MP(マジックポイント)の消費量を増加する事で、魔法の効力を倍増させる指輪を装備しても駄目だったか…)


 本来なら足のケガなど見る影もなく完治する筈であるが、“ギフト”とはサタナス・ロドスの知識の範疇外にあるモノ。

 アキラ達と最初に出会い、避難所に駆け込んだ時の事だ。

 フィリアナはすぐさま二人の治療に当たった。その結果、彼女の魔法でもパールやモリシカの怪我を治す事は叶わず、精々が止血処置を施すことができた程度――――――正確に言えば魔法は効いているのだが、魔獣(アグァン)にひっかかれた傷口の治る速度は自然回復の方が早く、魔法での治療はとても遅いである。


(個人の“(ギフト)”とは言え、従える魔獣にまでその力―――もとい呪いを付与するのは()()()厄介だな)


 魔獣を従える囚人の“(ギフト)”、傷の治らない呪い。これまで以上に戦うであろう敵へと警戒をするローは、同じく決死隊として身支度を整える彼女達を招集する。


「どしたンだ、ロー様?」

「妾の準備は完了じゃ。おやつは三百円以内に留めておる」


「いや、遠足じゃないからね?! あと、バナナはおやつに入らないから気を付けるんだぞ………――――――それよりも、だ。これから私達の知識の範囲外にいる敵と戦闘する事になるであろうから、一つ。戦いについてのコツを言っておこうと思ってな」


「それは一体…?」


 ロー達四人はチームとして完璧に作っている。

 火力を持った斬り込み隊長を兼任する盾役に、傷を癒して範囲魔法で辺りを更地にする魔法使い(ウィザード)。武器を直し、敵陣営で暴れる武力と隠密・暗殺の斥候。

 取得できる職業(クラス)の限りを見越して、ほぼ完ぺきに作り上げたチームは“個”ではなく“多”で真価を発揮する。


「フィリアナ、炎煉、ニーナ。個人での手腕も素晴らしいと私は評価しているが、相手は知識に無い能力を扱う敵――――そこで、コツと言うのはズバリ“応用”だ。」


「応用ですか?」


「そうだとも。戦いは今まで培ってきた技術の応用の連続であるから、一つとして同じ戦いは無い。―――――肝心なのは相手の裏をかいて意表を突き、勝利する事だ。肝に銘じておくように」


「もちろんなのじゃ!!」


 ニーナの元気の良い返事に炎煉とフィリアナは同じくらい元気良く同意するのであった。


「そろそろ良いですか、“白銀”の方々?」


 四人で話し込んでいるといつの間にか準備を終えた他のメンバーが周りに集まって、ローの話をウンウンと頷きながら傾聴していた。

 声を掛けてきたのは別動隊であるアキラ・トシカワ。彼も今しがた準備を終えた様子で、腰の雑嚢の中には(あらかじ)め『分解』しておいた武器の入った瓶を覗かせている。


「は、はい。構わないですとも」


 決死の覚悟で挑む救出作戦―――――霧の中、隠密に勇気ある彼等は今、歩みを進めた。

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