第二章 14 【ダンジョンフォールEND】
(危ない危ない。ケガするところだったぜ)
一メートル弱の狙撃銃を負い紐にて背負い、空いた両手を用いてサイハラは巨岩が直撃した真下の枝にぶら下がる。
「まさか、あんな大仕掛けを仕込んできたとはな……」
手は抜いている、全力は出せていない。しかし笑みはこぼれる、楽しいという風に。
なんにせよ、一泡吹かせられたのだと。
加減しつつも大手を振って狙撃の術を振るえる事実に、甘く見ていた侵入者のまさかの攻勢にサイハラは再評価する。
今までは可愛そうな敵兵であったが、これからは獲物が一匹づつ。狙撃者らしく侵入者に狙いを定めるだけだ。
「へぇ」
枝に掴まる彼の頭上を影が覆ったと思えば、降ってくるのは恐らくは巨岩に乗せられてやって来た『竜牙ノ戦士』が一体。
見えているのかいないのか分からないが空虚で赤色な眼窩をこちらに向けて、朱色の手斧を振り下ろし。
赤い骨身が落下してくる。自身の身体も省みず、敵を仕留める為だけに後の事は考えず。
逃げ場はない。しかして、それは常人の話。
第七階層【冥府の大森林】が守護君主、サイハラにとって…人間種でないレベル百二十の人造偽天魔にとって、回避するのは容易。
「来いよ、骨蜥蜴」
上から降って来るなら、手を放して下に落下するのみ。
もちろんのこと、サイハラの身体は地面へと真っ逆さまだが、叫ぶ必要性も恐怖する試しもない。何故なら“理解”していたから。
理解しているからこそ落ちる覚悟はできるし、次の対策も練れている。
(……)
負い紐を左手で胸に固定し、余った右手で腰に装着した軍用の雑嚢の右側に手を添える。
銃弾の収納された箇所、用途によって小分けされた魔道具の入った箇所の隣。
「は……っと」
ボタンを外して右手に持ったのは銃剣が一刺し。
刃渡り二十センチ、厚さ十ミリ。サイハラの持つどの中にも装着できるように改造されている敵対生物を斬り、突き刺すのが目的の黒い刃。
クルリ、と翻し。
逆手に銃剣を装備し直して、巨木へと突き立てることで本来の使い道とは正反対なものの、彼の落下は停止した。
「ま、言われたからには来るよな。命の無い『竜牙ノ戦士』なら当然…むしろ、そうしないとおかしいってもんだ」
落下の軌道からずれたサイハラを、赤色の竜牙は同じようにして幹に斧をあてがい追い詰める。
命綱なしのバンジージャンプに守護君主は笑みを浮かべた。
「いいぜ、付き合ってやるよ」
大樹に突き立てた銃剣を引き抜き、大の字に身体を広げて敵を迎え入れる。
強襲するは斧を振りかざす赤色の骨の戦士。
対する守護君主は銃剣を右手に受けの姿勢。
落下していく中、サイハラは自分を切り伏せようとする斧を必然的に弾き、流し、躱され、絡めていなす。
ただ一度とて竜骨の牙は届かない。
(召喚した『竜牙ノ戦士』で遠距離の敵を強襲するのは妥当な考えだ。だが―――)
約二百メートルからの自由落下。
いくら百二十レベルの守護君主であろうと能力やスキルを自ら封じている今、装備重量も相まってこの高さから地面に激突すれば瀕死は免れない。使い魔分の重さを計算に入れれば、尚更。しかし、誘いに応じたのは考えあっての行動だった。
(妥当過ぎて、安直すぎるぜ)
コンマに満たない攻防の末。サイハラは逆手持ちの黒い刃をクルリと持ち直し、そのままの流れで使い魔の肩関節の両方を削ぎ落とすと、肋骨に銃剣を突き立てて一回転。
蛇のような見てくれとなった使い魔の上に乗り、組み伏せて無力化する。
(さぁて……命令出されて動いてるだけってセンはアタリか)
両腕を失い組伏された『竜牙ノ戦士』はそのまま戦意を喪失し、さながら蛇に睨まれた蛙であった。
これは『竜牙ノ戦士』のやる気が消失した訳ではなく、無機物系の召喚される魔物の欠点をサイハラが熟知していた故だ。
毒が効かず、呼吸も不要で飲食などする必要のない土くれの巨人など有機物でない魔物類は全体的に“頭が固い”…物理的にも、知能的にも。
遠隔操縦されているならまだしも一個体では大雑把な命令しか遂行できず、術者が傍らに居なければ細かな動き一つとしてすることができないのが、無機物から生まれた魔物の宿命。
つまり、両腕をもがれた『竜牙ノ戦士』は敵を殺す命令を出されていたが、遂行に必要な体の部位を無くしてしまった事で、命令を遂行できずに静止したのである。
「ホイっと、な!」
【冥府の大森林】の大樹は葉が少なく枝が多い枯れ木で、落下の速度を落とすには丁度いい。
組み敷いた姿勢から銃剣をしまって『竜牙ノ戦士』の足を掴むと、眼下に見えた枝の一本に武器を振るうかの如くその骨身を思い切りぶつけて有効利用する。
――――ギシャリ。
使い魔の肋骨と背骨が悲鳴を上げて砕けて散るものの、これではまだ足りず。
(もういっちょ)
速度を落とすのにはもう一声が必要。
ゴミ同然となった使い魔の下半身、尻尾の部分を鷲掴んでフックを掛ける様に大樹の枝を捕まえた。
「おっ……と?」
地上まで約十メートル。
やっぱり耐えられないか、と内心を吐露する溜息の後に握っていた骨の尻尾は粉々になり、また落下。
速度を落とすことに成功したものの身体は再び地面へと迫る。
自身の不手際で落下するのであれば、あとの捻挫程度は我慢すればよい。ただ、今は戦いの最中でそんな殊勝なことは言っていられない。
対策はしっかりと、だ。
「……」
背負っていた狙撃銃を両腕で挟み、地べたに直行。
地面には最初に足裏から到着し、身体を丸めて地面に転がる。
両手で挟んだ狙撃銃は邪魔にならないよう器用に回しつつ、脛の外側から、尻、背中、肩を流れで横に転がり五点接地。
「さて、と……」
教本に乗ってもいいぐらいの見事な五点接地を終えて、拍手を送る者は皆無。代わりにと待ち構えていたのは、二人の不遜で人外の侵入者。
右手に立つのは赤茶色の鱗で、木と骨で出来た服装を身に纏う蜥蜴人。
左手に立つのは蜥蜴人の身長の半分しか背丈が無いものの、気迫は倍とある厚手の革の手袋にコートと腰まで伸ばした白髪の先を丸く縛った女ドワーフ。
「それがアンタの武器かい?」
女ドワーフが狙撃銃を指さしてくる。当然、答える義理はないが気分の良い今は別だ。
「ああ、そうだ。狙撃銃でアンタらの仲間の頭をぶち抜いたんだぜ」
本当に気分が良いとフードを取ってサイハラは見せびらかすように銃身を小突く。
ここまで敵と差し迫ったことは今まで一度として無く、サイハラに対して問答のできる侵入者はいなかった。いついかなる時でも、狙撃して呆気なく終了するからだ。
だが、今の状況は全くの正反対。
手を抜いているとはいえ、刺し違う距離まで追い詰められている。健闘賞として彼等の質問に答えるのもやぶさかではないと呂律を回すは必定とも言えよう。
「そうだな……コレをアンタらの知識で言い表すならさしずめ“携帯できる大砲”ってところか。この穴があるだろ? ここからズドンと砲弾…というか銃弾を撃ち出すんだぜ」
「……じゃあ、最後にもう一度確認するけどさ。アンタがターバとリルを殺ったんだね?」
眉間に皺を寄せて静かな怒りを持って女ドワーフは睨んでくる。隣の蜥蜴人も同様に、だ。
元はと言えば、そちらが“アマテラス”に侵入してきたのが悪いのだろう。と、文句の一つ言いたくはなるが、気分が良いので嘘偽りなく答える。
「ご名答……――――ッッな?!」
瞬間、サイハラの身体は思い切り左から突き飛ばされる。
(そうか、これはオレの判断ミスだな……)
突き飛ばしたヤツに目を向ける。そこに居たのはあり合わせで造られたような、ひび割れた骨身が痛々しい四本の腕の『竜牙ノ戦士』。
左右の上腕には一本づつ斧を携えており、合点がいった。
(忘れてたぜ。無機物系の魔物は同種の死骸やそこらの石ころからでも再生できるってのをなッ……)
不意は突かれたがなんて事はない。受け身を取って態勢を整え、狙撃銃を呼吸をする様に構える。
その銃を構えるという動作。拳銃ならば瞬時に相手の頭蓋を撃ち抜けるであろうが、サイハラが持つのは一メートル弱の対物ライフル。
「ムンッッ!!」
よって、フシュ・レの必殺が繰り出される隙が十二分にあった。
●
「うおっと危ない」
赤茶色の鱗の小さな竜は追い詰めた獲物を鋭き爪で引き裂かんと振るう。
右の爪は横なぎに、胴と首を真っ二つにするべく。
左の爪は下から上に掬い上げ、顎から脳天までを一つにしてやろうと。
「ハッ、まあまあだ」
彼奴の対処は見事で余分が無い。
右から迫る腕に対し、“携帯できる大砲”を予め縦に構えて爪に添えて、速度を落とさせて威力は皆無に。
左の腕に対しては寸での所で一歩後退。あの様な重装備にもかかわらず、軽々と後方転回してフシュ・レの鋭爪は空を裂く。
当てようとも当たらず。
小さき竜の猛攻は第七階層【冥府の大森林】の守護君主にとっていともたやすく見切れる連撃。
「詰みだ……!」
絡められ、弾かれ、距離を取られる。
ルールの通りに相手に一部でも触られぬよう狙撃銃を曲芸の如く扱い、『竜牙ノ戦士』の追撃も躱し、スルリといつの間にか銃口はフシュ・レの額に向けられる。
「よそ見してんじゃないよ!! <鋭石弾>!!」
その巨体故に大振りなフシュ・レの隙をカバーするのは、サイハラと一定の距離を取るブーケ・ジアル。
彼女の呪文が聞こえるのと同時に赤茶色の蜥蜴人は身を屈めて後退。そうして、下手な刃物よりも鋭い石の散弾が守護君主を襲う。
「……っは」
蜥蜴人との戦闘に集中しすぎて直撃は必須。
このままでは触れられる機会を設けてしまい敗北も必然。
「チッ、防いだね?!」
突き刺さるのが確実なのであれば、と。
モスグリーン色のマントを翻して、サイハラは散弾みたいな鋭石を包んで威力を殺しつつ地面へと叩き落とした。
「<レ・カムヤオよ。ワレが血肉に汝の剛力と風の如き俊敏さを授けたまえ>……!!」
両手を合し、翻して祈りを捧げたフシュ・レに祖先の力が一時的に宿る。
その剛腕、その脚力。正に竜らしく加速されて強化されて、『竜牙ノ戦士』と共に二人同時の攻撃。
「使い魔との連携……」
両者の爪、牙…武器を剥き出しに獲物に喰らい付く。
「いいねぇ~……でも、それだけだ」
前方と後方の逃げ場を無くされた守護君主。避けるとしたら左右のどちらかに回避しなければならないが、そう思って対策は立てている。
もし、右へと避けるならフシュ・レの強靭な尻尾が仕留めるであろう。
もし、左へと避けるなら後ろに回った『竜牙ノ戦士』が斧を振るって腸を切り刻むであろう。
弧を描きつつも正面に捉えた接敵。どちらに避けようが必中の一撃となり、<鋭石弾>も待ち構えている。
「まずまずだな……」
ポツリと一言。
守護君主は言い残し、小さな竜の眼前から消えた。
「?!」
「フシュ・レ!! 上だよ!!」
そう。【冥府の大森林】の守護君主はその重装備に反し、猫の様にとても身軽だった。
挟まれたとてスキルや能力を使わずとも、軍人をモチーフに形作られて鍛え上げられた四肢が彼を高々と跳躍させる。
「小細工、笑止!!」
挟み撃ちでフシュ・レの武器である爪は一段と素早く柔軟性もあり、瞬時に上空へと向きを変えて突き刺す。
『竜牙ノ戦士』もこの距離で魔力のつながりがある為、即座に切り替えて頭上の得物に斧を振りかざす。
「……フッ」
迫る挟撃に対してサイハラは口元を僅かに歪ませて、動く。
「なッ……?!」
まるで羽の様に軽やかに。
左手に狙撃銃を握ったサイハラは後ろから迫っていた朱色の骨斧に右手の人差し指を添えて軸とし、難なく着地。
そして、『竜牙ノ戦士』の後ろに立つと握っていた狙撃銃を左手のみで乱雑に構えて引き金に指を掛ける。
「今度こそ詰みだぜ……」
当たれば即死、狙いは必中。使い魔の頭蓋を通して眉間に向けられたほぼゼロ距離の銃口からフシュ・レは逃れる事は出来ない。
「<鋭石弾>ッ!」
「チッ……」
ただ、それは一対一での話だ。
ブーケの散弾によってフシュ・レは後方に飛び退いて一命を取り止める。
「助かりました!」
「フシュ・レ。アタシが抑えている内に何とかしなッ……!! <鋭石弾>ッ!」
続けて、二撃三撃と一呼吸の間も置かずに鋭石の散弾をブーケは発射。
もちろんの事、サイハラは防御にマントを翻す。
「承知ッッ!!」
両手の斧を振りかざし、刹那の隙を狙うのは召喚者に命を出された赤骨の戦士。
“自身と相手の位置が遠ければ、直接手を下すよりも使い魔に命令を出した方が早い”とは、当然の考えだが、そんな横着はいただけない。
「……邪魔」
迫りくる斧の連撃と石の散弾をサイハラは後ろへと二度、三度飛び退いて何となしに躱す。
「あ、ヤバッ」
気が付けば彼の背には北の巨大樹が一本。
逃げ場はない。ブーケ・ジアルとフシュ・レは逆に追い詰めた敵を倒す勝利を確信した。
「な~んて、なッ!」
しかし、それは『竜牙ノ戦士』と<鋭石弾>を煩わしいと思った彼の算段。
狙撃銃から手を放し、取り出したるは黒色の銃剣。数秒にも満たない間に『竜牙ノ戦士』の両腕四本を削ぎ落し、思考の停止した案山子をまず盾とする。
<鋭石弾>をそれで防いだのなら、後はレベル百二十の脚力でその盾を蹴り飛ばすだけ。
「……フゥ」
呼吸を整えて地面に落とした狙撃銃へと手をかけ、右手を突き出すように早打ちの姿勢で狙いを付ける。
飛んできた『竜牙ノ戦士』を避ける為に左右どちらかに移動する瞬間をサイハラは待つ。その瞳が捉えるのは自分の邪魔をし続けた女ドワーフ。
その後の処理は簡単だ、問題ない。
勝利への確信をもってサイハラは引き金を、
「ん?」
引く前に。
ふと、違和感を覚えた。
戦闘に驚喜していて気が付かなかったが、一人足りないという違和感。
「まさか……?!」
“超高機動型自立式要塞・アマテラス”第七階層【冥府の大森林】が守護君主、狙撃手の名はサイハラ。
その実力故に、勝利を確信した彼には自分自身の装備の欠点に気が付かなかった。いや、その傲慢から気付けなかったと言ってもいいだろう。
スキル不使用、能力不使用。次いで、裸眼でのみ――肉眼での視覚情報のみ――で狙撃に当たるのが彼の今回の仕事だ。
つまり、狙いを定めるという前方のみを注視する行為は“あえて追い込まれた巨木の下”で言ってしまえば、もう遅い。
退路と背を巨木で守られた彼の唯一の死角、音も無く真上から落下するポック・ラパッチの鋭く輝く二刀のダガーは守護君主の脳天を貫いた。
●
「ポック! 無事かい?!」
「ああ。お前らこそ、作戦通りにヤツを木の下に追い込んでくれてありがとな」
「ふむ。ポック殿を<岩石弾>の中に入れての射出…………一時はどうなることかと思いましたが、成功して良かったです」
ポック・ラパッチの作戦とは、所謂“奇襲”で彼の一撃に掛かった綱渡りの戦法だ。
構築された<岩石弾>の外に『竜牙ノ戦士』を配置し、中にはポックが潜む。こうする事で守護君主のサイハラには『竜牙ノ戦士』を差し向けただけと思わせ、勘違いさせる。
背水の陣で行った作戦は見事成功し、シーカーチーム“レスレア”の勝利を持って戦いは幕を引いたのであった。
「……いやー、負けた負けた。岩の中に隠れてたのね、気が付かなかったよ。実技は合格って事だな」
これが物語の一節ならば、素晴らしい作戦に声援を送られようがここは現実。
一人の男による拍手と称賛だけが許されるのであった。
「なんで生きてる……?!」
シーカーチーム“レスレア”の三人は驚愕の二文字を顔に浮かべる。
脳天を刃物で突き刺された男は額の塞がりつつある傷口を親指でなぞると、不敵に笑った。
「そりゃ、オレの体力は多いからな。あんな致命傷の一発ぐらいじゃ、死なないもんさ」
「構えろッッ!!」
男の一言で背筋の凍ったポックは一瞬の判断で号令を出し、フシュ・レとブーケに武器を構えさせる。
不気味で不死身で、立ち上がったかと思えば傷口は塞がれていて。次いで軽口を叩く得体の知れなさすぎる守護君主。
至極当然、動けるようにしなければこちらが死ぬ。と、ポックの直感はそう判断したがサイハラに敵意は無かった。
「待った。オレに敵意はないし、ヤる気もないぜ」
「じゃあ何か? オレらを見逃すってのか」
両手を上げてひらひらと、狙撃銃は背負ったまま降伏のポーズで守護君主は頷いた。
「ああ。言っただろ? オレに勝ったんだ。上に行くなり、下に行くなり好きにしたらいいさ。植物の根はもう塞いでネーからな。意志も固いようだし、色々と面倒くさくなったわ」
「?……そうかよ。ま、好きにするさ――――二人共、行くぞ」
どうやら本当に第七階層の守護君主殿は何もしてこない様子。ならば、一刻も早く二人の死体を回収して地上へと戻らなければならない。
「あ。ちょっと待て」
立ち去ろうとした瞬間に声を掛けられ、思わず身構える。
すると、何かこめかみを押さえ独り言を発しているようで。
「え、マジですかボス……あ、ハイハイ…………」
落胆、溜息。
そういった行為が四度ぐらいと続き、第七階層の守護君主殿の顔色が変わった。
「すまねぇな。やっぱナシで」
サイハラが軽くパンッ、と手を叩けば地面が蠢き盛り上がり。そこから現れたのは爛れて青ざめた肌を持つ精気を感じさせない死体のような人のような肉の腐った何か。
二十、三十、五十……その増え続ける気色の悪い魔物達が“レスレア”三人を取り囲みつつあった。
「コイツらは吸血鬼の成りそこない、名を吸血屍鬼。屍鬼よりも上位の存在で銃ぐらいなら扱えるが、今は持ってないから安心しろ」
「だ、騙したのか?!」
「……いやいや、オレはお前らを知らぬ存ぜぬで見逃すつもりだったぜ。でも、ボスの命令があれば話は別だ。ま、人形師の肉人形が仲間にいたのが運の尽き。自分らが不運だったと思って死んでくれや」
死臭を撒き散らしながら腕を伸ばし、三人へとにじり寄る腐肉の塊。
サイハラの言葉は嘘偽りなく、彼はただ運の悪い三人を興味も抱かず見ているだけ。それが自身の役割だと言わんばかりに。
「<先祖返り>を使います!! お二人はお下がりをッ」
有無を言わせず腕を胸元で交差させたフシュ・レが祖先へと祈りを捧げる。
その祈りは地にへりくだるモノではなく、天へと正しく望んでレ・カムヤオという偉大なる御霊に祈りを捧げて、自らを竜の姿へと変える信仰の奇蹟。
即ち、その肉体は質量を無視して竜となる。
「<先祖返り>……? へぇ、おもしろ。あーあ、ホントもったいねぇな」
守護君主たる役割、侵入者の始末と顛末を見届けるサイハラの目の色が“興味”の一色に変わる―――――口調こそあざ笑うかのようだが、その内に秘めているのは熱く脆い願いのような。
「フンッ、舐め腐りおって!」
敬虔なる信仰をもって一人の蜥蜴人の肉体は、両腕を翼に変えた巨大な赤茶色の鱗の竜へと変貌する。
『ウォォオオオオオオッッッッ……――――!!!!』
竜は天空を支配する雄叫びを上げて、来る死肉の軍団に炎の息吹を浴びせる。
「よし行ける!! ブーケ、フシュ・レ……生きて生きて、生き残るぞッッ!!」
その後どうなったのかと言われれば話は単純。
“レスレア”のポック・ラパッチ、フシュ・レ、ブーケ・ジアルは自然に湧く魔物の軍団に抵抗虚しく殺されただけである。




