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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第二章【魔窟の主】
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第二章 12 【冥府の大森林】

 “超高機動型自立式要塞・アマテラス”第七階層の名は【冥府の大森林】。各階層と色を変えるようにして、ここには取り立てて珍しいものがあるというワケではない。

 天井には毎日変わらず鼠色に染まる曇天の空、ヒノキに似た背の高い針葉樹が霧と共にうっそうと立ち込める不気味な森、三角の陣形にて植えられた二百メートル程度の巨木が三つ。そして、()()守護君主の命によって姿を表すことのない自然に湧く(POPする)魔物(モンスター)と、三角の中心には次の階層へと続く階段が備えられた大きな金色の鐘を吊るした鐘塔(しょうとう)

 これが、第七階層【冥府の大森林】の全貌である。


「よーし、よーし。揃ったな……」


 その男は、北にある巨木が一本。二百メートル上空に位置する巨人の腕の様な木の枝の上に居た。

 簡易的な床のみのコテージを設けて、折り畳み可能なデッキチェアの上で足を悠々と広げて寝そべり、右手の小さな丸机の上には紅茶の入った銅色の水筒。

 一・二キロ先の標的を双眼鏡で確認するその姿は、一見して余暇をバードウォッチングにて浪費する人間だろう。

 しかして、彼の装備を見れば彼が余暇を楽しむ人間でないことは明白であった。

 特徴的な光の無い据わった黒目、サイドを刈ってトップを多めに残したモヒカンよりの丸刈り頭、顎には灰色の無精ひげ。

 モスグリーン色の野戦服に同じ柄のフード付きマントをその上から羽織り、装着するは黒の軍用ブーツ。

 足元には枯れた緑の迷彩に染まった元は銀色の二脚が備えられた対物(アンチマテリアル)ライフル。

 軍人のような見てくれをした狙撃手の名はサイハラ。“超高機動型自立式要塞・アマテラス”の第七階層【冥府の大森林】の守護君主である。


「負傷者出して士気を落として餌を作るのが先か……? ――――いやいや、逸るなよオレ。せっかくの客人だ、まずは自己紹介からだろう」


 超常なる者として、敬意を払うべき存在として(マナ)さんの言葉を思い出し、呟き、仕事の準備を整える。

 一メートル弱の狙撃銃を二脚を使って楽に構えつつ、銃身右側の遊底(ボルト)をガチャリとスライドさせ、戦車を貫く銃弾を装填。


「お、草むらに隠れて身を隠したか……いいね~、随分とカンがいい。こりゃ、()()()をする甲斐があるってもんだ」


 訳もわからず何処とも知れない場所に突然飛ばされて、的確な動きにて安全を確保する。

 第七階層【冥府の大森林】の守護君主(サイハラ)は今からの獲物(てき)であり、これからの部下となるかもしれない者達の行動に口元を歪ませて喜んだ。

 彼の言うテストとは選別である。

 まこと許し難き害虫こと今回の侵入者。だが、ボスの友人(ヒーロー)の一計でその者らを確保し、我らの手駒とする事となった。


「双眼鏡はもういいか……」


 手駒として光る者がいれば現場(こちら)の裁量で決めて良いとのこと。しかし、サイハラの戦闘方法は銃撃、狙撃が主で侵入者にとっては未知の戦術。

 故に今回の選別(テスト)、“手を抜け”と命令された彼が持つ対物(アンチマテリアル)ライフルには敵を覗く単眼鏡(スコープ)が無い。

 それは、単眼鏡(スコープ)によって光が反射し自分の位置の発覚を防ぐ為と自身が守り切る領地だからこそ事も無く敵を屠れる、という慢心からだ。


宣戦布告(ルール説明)といくか…」


 双眼鏡に蓋をして虚空(インベントリ)にしまいつつ立ち上がり、腰に着けていたバックパックから黒く小さな無線機(トランシーバー)を取り出すとサイハラは一呼吸置いて口を開く。


「ハロー、ハロー。“超高機動型自立式要塞・アマテラス”第七階層【冥府の大森林】にようこそ、侵入者の皆々様方。オレはここの守り人…守護君主のサイハラだ」


 無線機(トランシーバー)に吹き込まれた言葉は鐘塔に備え付けられた拡声器によって第七階層全体に響き渡り、聞き逃す者はいない。


「今からオレは侵入者であるお前達を遠慮なしに殺す。が、それじゃあツマンナイので、お前達が勝てる様に二つのルールを設ける」


 そう。手を抜くように命令こそされているが、これは選別(テスト)だ。

 ただ殺すだけでなく、しっかりと相手が勝てる機会を与える。


「一つ。このオレに指一本でも触れるだけで勝ちとする――――触れた瞬間に、オレはそれ以上の殺人はしない」


 狙撃手が白兵戦を持ち込まれる事=狙撃手として敗北。となるので、実に道理に適った勝利条件だ。


「二つ。オレが手を下すのは今弾倉に入っている五発、それと装填した一発で……つまりは六回。矢よりも速い攻撃を逃げ切れば勝ちだ」


 計六発の弾丸にて自陣で仕留められなければ、狙撃手の名折れ。

 錆びつきながら磨きに磨いた自身の腕の調整(試し)には絶好の機会であろう。


「因みにだ。上や下の階に続く階段は植物の蔓が塞いでいて逃げる事は出来ない。もし、その蔓を燃やしたり危害を加えたりした場合は……オレよりも速くその植物がお前らを殺すだろう―――――ま、ルールに沿って動くのが賢明だってことさ。じゃあ、以上を踏まえて存分に足掻け」


 言うべきことを言い終わったサイハラは無線機(トランシーバー)を元の場所に戻し、周囲に散らばった狙撃に不必要なものを足蹴にどけて虚空(インベントリ)に収納して狙撃に必要な場所を確保。

 後、右側にあるクランクを回してコテージ全体を傾け、寝そべるように構えつつ銃身の二脚を調整し、銃床を右肩に当てて。右手はグリップを握り、地続きにトリガーへと指を添える。

 安全装置は解除した。

 残るは鐘塔(しょうとう)の大きな金色の鐘にて開始の合図を鳴らすだけだ。


「んじゃ、ま。敵兵狩り(ガールズハント)と洒落込むか」











 ゴーン、ゴーン。

 ゴーン、ゴーンと。

 金色の鐘が重く五月蠅く、鬨を告げる。

 彼等はその鐘の音の意味は知らずとも、あれだけの宣言の後の音色はすぐさま何かと理解ができた。


「草むらに隠れたはいいが、これからどう動くんだリーダー?」


 辺りを警戒しつつ、右手のダガーに手を添え臨戦態勢のままでポック・ラパッチは声を潜めて指示を仰ぐ。

 ターバ・ポリオ、リル・ウィル、フシュ・レ、ブーケ・ジアル、ポック・ラパッチ。

 第七階層【冥府の大森林】へと<転移陣(ウェプト)>によって転移したシーカーチーム“レスレア”の五人が合わせてこの大人の背丈ほどある草むらに頭を低く潜むのにそう時間は掛からず。

 気が付けば全員が合流し、草むらに潜み、<転移陣(ウェプト)>についてリル・ウィルが説明している最中に先程の宣言。そして、鐘の鳴る音。

 宣言を要約すれば六度の攻撃で、こちらの五人全員を殺すとの事。

 対し、勝利条件はサイハラという宣言をしてきた男に触れるか、六度の攻撃を躱すかの二択。


「……触れるだけでこっちの勝ちになるなら、もちろん触りに行くさ」


「て、簡単に言うなよな……大体、ここの地理に関しちゃ敵さんの方が知識は上なんだぜ?」


「分かってるよ。でも、そうする他に生き残る道はない」


 ターバ・ポリオは簡潔に述べ、ポック・ラパッチは彼の言葉に腕を組んで口を噤む。

 反対意見はない。しかし、肯定する意見もない。

 皆が重苦しく考え込む中で、真っ先に手を挙げたのは木と骨の服装が妙に周囲の雰囲気に溶け込んでいる赤茶色の鱗の蜥蜴人(フラシュト)、フシュ・レ。


「ですが、リーダー。サイハラという守護君主、宣言通りの攻撃でワレらを無事に帰すとは思えませぬぞ?」


「反故にするって事か?」


「然り」


 フシュ・レの言い分は尤もだ。

 サイハラという守護君主はそう宣言しただけであって、侵入者に対してそうする必要はない。つまりは、レスレアを各個撃破する為に誘い出す方便…虚言であるという可能性。

 ただ、レスレアのリーダーたるターバ・ポリオはソレを踏まえて彼の意見を「いや」とスッパリ否定する。


「それはないさフシュ・レ。今の状況こそ相手が宣言通りに動いている証拠だからな」


「……なるほど。そういう事ですか」


 ターバの言葉に納得するフシュ・レ。対し、その他三人はどういう意味なのだと首を傾げて。

 「ふむ」と前置きをし、その意味を告げるのは納得した赤茶色の鱗の蜥蜴人(フラシュト)


「そうですな。例えとして……ワレワレの狩りの一つに、沼地の適当な魚群に向かって石を投げ入れ、そこから魚群の行く先を誘導し、皆で網の張った場所に追い込むモノがあります」


「………?」

「………」


 フシュ・レの例えに二人が困惑という名の沈黙に押し黙るも、合点がいったと白髪のドワーフの彼女、ブーケ・ジアルは相づちを打って理解を示した。


「と言うとアレかい? ヤツが宣言通りに動くって信じているのは追い込み(ソレ)をしてこないからと?」


「然り、ブーケ殿」


「えーと……つまり、現状況から鑑みて一網打尽にする気があっちにないってコトか?」


「然り、ポック殿。この土地を知り尽くした敵であれば魔法なり、矢なりでワレらを追い込むのは容易でしょう」


「ま、そういうことさ。それにこっちには第四階級魔法の使い手がいる。しかも幻惑系が得意な魔法使い(ウィザード)がな」


「分かったわターバ。任せて頂戴」


 リーダーの決断、フシュ・レの例えは尤もで納得も出来る。

 ただ、レスレアにおいて斥候を担うポック・ラパッチの胸には、こんなに調子づいているにも関わらず一抹の不安が突き刺さっていた。


「………」


「どうしたポック。らしくないな?」


「いや、リーダーの言う通りなんだが……なんか腑に落ちないっていうか」


「はは、心配し過ぎだ。幸い、リルの教師のナントカってヤツはいないし、第四階級の幻惑魔法を容易く見破れるヤツもそうそういないだろ? 大丈夫さ」


「それもそうか…」


 リルの元教師や第四階級以上を扱える最高位の冒険者がこんなところに居るはずもなく。

 ポックは一旦溜飲を下げて、指針を一つとしたレスレアは行動を開始した。


「決まりだな。リル、魔法を」


「ええ。<幻惑空間(イミティセプ)>」


 リル・ウィルが杖を軽く振って呪文を唱えると、彼女を中心に十メートル程度の正方形の結界が貼られる。

 第四階級魔法<幻惑空間(イミティセプ)>は、使用者を中心に外部からの視覚情報のみを遮断する結界を作り出して外部を外の景色と同調させ、あたかも透明人間になった様な感覚を覚える魔法。

 だが、光の屈折率を弄る高位の魔法とは違い、カメラで撮影した動画をそのまま映し出している様なモノで使用者の魔力の燃費は悪い。しかし、幻惑系が得意なリル・ウィルの場合はその例に当てはまらず長時間の使用を可能としている。


「よし、フシュ・レ。『竜牙ノ戦士』は後どれぐらい作れる?」


「……この魔力からするに、残りは五体。竜牙虫は踏まえた上で四体ですな」


「じゃあ『竜牙ノ戦士』を二体用意してくれ。かく乱に使う」


「承知」


 頷いたフシュ・レは交差させた両手を胸元に構え正座の体勢を取り、両手を合し、翻して地面に。

 へりくだり、天に乞う様に告げた。


「勇敢なるワレらが祖、勇猛なるワレらが御霊、レ・カムヤオよ……その血脈より、鋭く気高き竜牙の戦士をここに招来し給えッ!!」


 祖先への感謝と助力、先祖に代々と伝わる畏怖と敬意を兼ね備えた呪文。唱え終わるのと同時、紅色に光る竜の頭蓋を模した魔法陣が地面に描かれて。

 そこから魔力によって構築されるのは大きな蜥蜴人(フラシュト)の骨格のみを模したかのような赤い無機物が二体、骨の右手に同様の骨で出来た手斧を持った『竜牙ノ戦士』だ。


「それと、ブーケさん。何か羽織るもの持ってないか?」


「ああ、持ってるさ。どれぐらい入用だ?」


「同じ柄の物を三枚お願いしたい。オレとフシュ・レの『竜牙ノ戦士』の姿が分からないようなモノがいい」 


 彼女は「あいよ」と返事をすると、そそくさ背嚢から大きな無地の布を三枚取り出しターバ達にあてがう。


「よしよし、安全な拠点は出来た。相手の攻撃方法を知る手段は得た。―――――じゃあ、ブーケさん、ポック……二人はサイハラの攻撃方法を草むらに潜んで確認してくれ。オレは『竜牙ノ戦士』と共にここから向こうの木陰まで飛び出すからさ」


「了解だ。リーダー」

「了解さ、ターバ」


 レスレアのリーダー、ターバ・ポリオは手渡された布を頭から被り『竜牙ノ戦士』と一列で並ぶ。

 向かうは向こうの木陰、目視で十五メートル程の距離。後ろを振り返れば「いつでもいい」と言わんばかりにこちらに手を振るブーケとポック。

 同じ見た目で大きさも合わせた三体の短距離走(ダッシュ)。もし、迷いなく攻撃をしてきても当たる確率は三分の一。

 敵が攻撃をすればすぐさまにブーケとポックが音や光を頼りに敵の位置を割り出す陣形。


「皆……準備はいいな?」


 小声で目配せをすれば、皆が頷いて準備は万端。

 いける、いけるぞ。とターバ・ポリオはシーカーチーム“レスレア”のリーダーらしく覚悟を決めて、右手の指でカウントダウンを始める。


(五、四……三…………)


 見せるように指折り数えて後二秒、一秒――――ゼロ。

 

「行くぞッ……――――――」


 ターバの掛け声と共に布を被った三つの人影が<幻惑空間(イミティセプ)>から勢いよく飛び出した。


「……えっ?」


 と、同時。

 爆発のようで大砲のような衝撃音が森の全土に響き渡り、ターバ・ポリオの頭蓋と脳みそは地べたにまき散らされる。

 赤い肉片、ぶよぶよとした僅かな欠片(なかみ)が彼の最後を彩った。


「い……」


 嗚呼、悲しいな。

 この世界においてご都合主義は存在しない、この“超高機動型自立式要塞・アマテラス”において地上の道理は一切通用しない。

 ましてや。『第四階級の幻惑魔法を見破れない』という甘い考えなんぞ。


「イヤヤヤァァァァッッッ……―――――!!!!」


 恋をして愛したリル・ウィルは彼の死に間際を即座に理解し、錯乱し、絶叫する……()()()()()()

 姿形を片鱗だけでも表すのは、ましてや絶叫するのはいただけない。

 姿を現した一瞬だけでも勝敗は決する。第七階層【冥府の大森林】とはそういう場所である。


「あ…」


 間髪入れずの発砲音。

 意識が痛みを感じるよりも先に、彼女の頭蓋と脳みそは愛する者と同じく湿った地面を血溜まりに染め上げて身体を沈めた。

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