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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第二章【魔窟の主】
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第二章 5 【岩窟帝都にて】

 ギルド【ジパング】のギルド拠点、“超高機動型自立式要塞・アマテラス”第二階層【岩窟帝都】。

 天井にはごつごつとした岩肌と散りばめられた裸電球。西洋かぶれの石畳を走るのは茶色く丸い路面電車、六角形の巨大な空間にはド派手なのぼりや色合いにカタカナ、漢字にひらがなと大正浪漫の溢れる建造物が建ち並ぶ市街地。

 ここは、商業都市や商業国の街並みの原点。

 何処を取っても見ても、外界(そと)では真似が精一杯と分かるぐらいに、真似したくなると納得できるぐらいに【ジパング】の面子(ギルドメンバー)の嗜好が散りばめられて造り出された居住区画(ロマン)である。


「じゃ、私用事があるから後でね二人共」


「うん。そっちは任せるよマナさん――――せっかくだローさん。食事の前にこの街を案内しておくよ」


「分かったよニャルトリアさん」


 マナと別れてローとニャルトリアがまず最初に向かったのは岩窟帝都の目玉であり、唯一の移動手段の路面電車だ。

 直径八メートルの宙に浮かぶ球体こと全方位殲滅機神“トロイデ”漂う十字路の中央広場を横切るように一本、街中を反時計回りに一本のレールが敷かれていて今回乗るのは後者。

 四角いトタンの飾り屋根と券売機、それと道路と区別させる為のコンクリートの緩やかな段差が無人の駅をより()()()造形へと完成させている。


「ローさん。足元気を付けて」


「そんな爺さんじゃないんだから。…それにしても、券売機で乗車券買わなくていいのかい?」


「もち、必要ないさ。一応機能しているがそれは飾りだからね」


 やって来た路面電車は、車のバンよりも大きく縦長で楕円形。後部の入り口から乗車すれば室内は意外にも広く、あえてくたびれさせた薄茶のソファの座り心地はまずまずと言った所で歌謡曲やら舞台やらのポスターが車内に貼られているのは、なんとも作り手のこだわりを感じさせてくれる。


「飲食店には最後の駅で降りるから、それまでに各要所を道すがら紹介しておこう。まずは……“兵営”だ」


 居住区画の外縁部を見渡せるようにニャルトリアと共に座って、まず一時から二時の方角。到着したのは戦闘用NPCが住んでいるという“兵営”。その有り様は、飾り気のない病院のように白く四角い巨大なホテルだ。

 曰く、大浴場とだだっ広い食堂が他には負けていないらしいが、それ以外には特に何かある場所ではないとの事。


「で、ローさんみたいな客人が泊まるならこっちの“すめらぎ”を使うといいよ」


 電車が再び走り始めて九~十二時の方角。電車の停止した駅の目の前には見事な瓦屋根と蒸気の漂う煙突が由緒正しき日本を感じさせてくれる温泉旅館“すめらぎ”。そして、十時と十一時の方角には温泉と数珠つなぎで建築されたブラウン基調のスポーツジム“マルス”と帝都劇場“クワイエット”。

 元々はプレイヤーの能力を向上させたりする施設だったが、今は見た目通りの経営をしているそうだ。


「ボクら【ジパング】の中には建築大好きの人がいてさ。戦闘用NPCの住居と非戦闘用NPCの宿舎がその人のおかげで分かれてるんだ」


 九~七時の方角、そこにあるのはこの第二階層や第一階層を掃除する非戦闘用NPCの宿舎に加えてプレイヤーの同人作品やゲーム内書物等を収めた帝都第九書庫。加えて、戦闘用NPCの駐屯地とゲームではNPCのレベル上げに使われた訓練場の四つ。

 六時の方角に第三階層へと続く階段がある為、有事の際はここに勤務する戦闘用NPCが繰り出す算段らしい。


「“アムリタ”に着いたね。さ、行こ」


 三時から五時の方角にあるのは、様々な店が立ち並び美味しそうな臭いの立ち込める繁華街“アムリタ”。元はキャラメイクの為に造られたネイルサロン、エステサロン、洋服屋、マッサージ店などに始まり、有利効果(バフ)を得る為に必要だった飲食店も多々ある。

 食事によって有利効果(バフ)を付ける事はできるものの、平穏な今は和食に洋食に中華に…果ては紀元前の料理までも楽しめる食の宝庫に様変わり。

 街灯には淡い光を放つ行燈、見上げれば立体映像(ホログラム)で金色の龍や水の妖精が宙を泳ぎ、店のジャンルはオリエンタルから公序良俗を踏み倒す一歩手前のジャンクなモノまで様々。その勢いにて景観を毅然と保つ繁華街である。


「お、きたきた! こっちこっち!!」


 駅から徒歩五分。ネオンの看板や電飾の散りばめられたスタンド看板が立ち並ぶ入り組んだ繁華街の街路をニャルトリアと共に歩き、目的地が眼前に見えてくればライダーズジャケットを羽織る友人が店先に仁王立ちで待ち構えていた。


「マナさん。先に着いてたなら電話してくれればよかったのに」


「いや~、二人の邪魔とか出来ないし~」


「電話? 持ってるんですか?」


「おや、知らなかったかい? 魔呪全書(スペルブック)に電話の機能がついてるんだよ」


「ホラ。ここ」


 と、二人は虚空から魔呪全書(スペルブック)を取り出して参加者の数字が書かれたページの一つ前をローに見せる。


「へぇ~…こんな機能があったんですね」


 そのページに書かれていたのは“連絡先”という題名(タイトル)と下には友人の名前。試しにニャルトリアがそれを指でなぞれば、マナの魔呪全書(スペルブック)震え出(バイブレーション)し、耳に添えれば通話が可能な電話仕様。

 殺し合いの為に作られた一冊だというのに、他のプレイヤーと連絡が取れるのは何とも矛盾している様な気がするも二人が殺し合いに積極的でない以上、現状で気にしても仕方あるまい。


「連絡先はあとで交換しておこう。今後、必要になるだろうからね」


「あ、私も私も!!」





 繁華街“アムリタ”の曲がりくねった裏路地にその店はある。

 掲げるは『痛天飽食』と書かれた看板、その周りには出せる料理の名前がネオンの光で刻まれて。赤い暖簾をくぐって入ると電灯が照らすは、空腹の客人をいつでも出迎える六つの丸椅子と埃やシミが一つも無い赤漆のカウンター。

 少々手狭な店内で、焦げた色合いの壁には木製のメニュー札とビールを持った水着の女性のポスターが貼られており、内容をまじまじと観察すれば掲げた看板よろしくラーメンが主体の中華料理屋だと認識できる。 

 雰囲気良し、漂う臭いも腹の虫を唸らせる塩梅。入口からニャルトリア、ロー、マナと着席して店主が一礼ご挨拶。


「いらっしゃいませ、ボスにマナ殿…あー、それと……?」


「こちらはボクの友人、ローさんだ」


「初めまして、ロー・ハイル・ヘルシャフトです」


「ああ…ボスが前に話していた人ですか、これはどうも。拙者はクダンと申します、今後ともご贔屓に」


 ちょいと古めかしい口調で丁寧な接客をするその店主は、当然か意外か人間ではなかった。

 調理に扱う腕は四本、残りの四本は足として機能している。肌の色合いはヌルヌルテカテカの黄色と青の蠢く斑模様で、頭…というより外套膜にはこの店の名前が刺繍された赤色のバンダナを巻き、一応にも上半身に黒いTシャツを着込んでいる。

 ゲーム的には【旧き者(オールドマン)】や【脳吸い(ブレジュースラ)】と仰々しく呼ばれる種族だったが、どう見てもその外見は二足歩行する()()()()ヒョウモンダコであった。


(この世界に来てから海洋生物系の種族は初めて見たな……あのバンダナに服、意味あるのか?)


 外套膜と上半身?のムチンを防いだところで手や足から分泌されるのではないか。

 と、思うが。

 それは野暮だとローは無言を貫いて、郷に従いつつ彼から手渡されたおしぼりで手を拭く。


「で、何食べますか?」


「“辛裸王(からおう)”を三つ」


「……ボス、よろしいので?」


「キミの得意料理、頼まないワケにはいかないだろ?」


「………分かりました」


 ニャルトリアの注文に深々と頷いた店主は黙々と作業に取り掛かる。

 壁のメニュー板を見る限り、どうやらこの店のオススメを彼女は頼んだらしい。なら、料理ができるまでの間、出来る事と言えば話の続きか。


「ニャルトリアさん。地上で区切った話の続きだけど……」


「えーと……ユーセラスの話だったよね」


「そう。察するに、プレイヤーの件は地上であまり話題に出したくないんでしょ?」


 ローの言葉にマナは合点がいったのかポンッと握った右手で左手を打つ。


「なーる。私達プレイヤーだし、参加者だし、ニャルニャルがここに無理矢理移動したのもそれが理由なのね!」


「そういうことだよマナさん。万が一、あんな眉唾な話を真に受けた連中がどこぞで聞き耳を立ててるか分からないからね。今回の件については特に、だ。――――ま、ご飯食べたかったのは否定しないけど」


 と、ニャルトリアの相方が納得した所で、まず初めに話すのはコベルニクス商業国と同盟を締結しているユーセラスについて。


「正式名称を魔術国家“ユーセラス”。山岳に居城を置き、そこから沿岸部までを町とした魔術を極めんとする賢者が集まる国、本土からすれば流刑の地、人類が住む最北端……場所もさながら偏屈な国でね。ある程度信用を得てこちらがプレイヤーと明かすまで、ずいぶんと外交には苦労したよ」


「でもでも、私達はその苦労の末に重大な秘密を手に入れたのです!!」


「それが……プレイヤーがそのユーセラスを造ったていう事実?」


 胸を張るマナはローの言葉に頷き、ニャルトリアが言葉を続ける。


「そう。地上(うえ)に居た時は念のため『多分』って言ったけど…あの国の地下深く、出入り口を魔術によって隠蔽している空間に一冊の本……魔呪全書(スペルブック)があるんだ」


魔呪全書(スペルブック)が?!」


「うん。それでもって魔呪全書(スペルブック)についてだけど、ローさんが現れたおかげで得心のいった事がある」


 少し昔話をしよう、とニャルトリアは出されたお冷を飲み干して口元を隠すように手を組んだ。


「あれは、火山地帯に大量発生したエンシェントドラゴンをギルドの皆で討伐していた頃――――考えるに、アレが八周年記念のイベントっていうヤツなんだろ?」


「ああ、そうだ。というか、その記憶はあるんだね」


「まあね」


 【ブレイスラル・ファンタズム】八周年記念に行われたイベントは、エンシェントドラゴンの討伐数上位百位に【ブレイスラル・ファンタズム・リユニオン(仮名)】という景品が現実世界にて無料で贈られるとても豪華なゲームの祭事。

 ただ、この上位百位…つまりは百人と明記されているが、実際は団体(ギルド)個人(ソロ)での参加に分けられていた。

 団体(ギルド)は一組につき一人から十人までを対象とした五十五名。

 個人(ソロ)団体(ギルド)の応募数から引いた四十五名。

 計、百名。

 個人(ソロ)勢の不満を抑える代わりに団体(ギルド)参加勢には、人数によってまちまちだが基本的に三倍の討伐数が求められていて、ゲーム自体も公平に外部モジュールやプログラミングボットを使用するのならそのプレイヤーは永久追放という徹底ぶり。しかも、検挙率は百パーセント。

 その苛烈な生存競争の中で、ニャルトリアの率いるギルド【ジパング】は並み居る強者を押し退け下から四番名、つまりは団体(ギルド)参加勢で四人のリユニオン版参加権を獲得したそうだ。

 ギルド【ジパング】はオークションやアイテム売買、拠点制作等が主体のゲームを楽しむ者ら(エンジョイ勢)が大半を占めており、他のように戦闘経験が豊富な者からそうじゃない者まで揃い踏み。

 その為、リユニオン版の参加権は公正なくじ引きによって恨みっこなしで取り決められたようだ。


「もちろん、くじもギルド内で作った物を使わずショップにみんなで買いに行ったんだよ」


 因みに、他のリユニオン版参加権を獲得した上位ギルドは参加権を組員での戦い(PVP)で取り決めたり、課金額で決めたりと様々だったらしい。


「そうそう。ボクを先頭にギルドの全員が一番最初の町に押し寄せる光景は後にも先にもあれだけだったね」


 一人目は、ギルド【ジパング】の総支配人(ギルドマスター)“ニャルトリア”。

 商人系職業の上位【ビルキース】と柔軟なサポートにチクチクと相手の気力(SP)体力(HP)魔力(MP)を削る【陰陽呪符師】を修めたプレイヤー。

 二人目は、ゲームを始めた頃にニャルトリアと知り合った“マナ・イーター”。

 銃火器を操る事に特化した職業【リベリオン】を修めたプレイヤーだが、回復や攻撃等の魔法をまばらに覚えており、彼女の戦法が敵に刺さればその敵は後方に戻れないほどの深手を瞬時に負うであろう。

 三人目は、ギルド内にてトップの物理火力を誇る“東西南北(トウセイミナホ)”。

 地面に足がついている間は体力(HP)が自動回復するという持ち前の常時展開(パッシブ)能力(アビリティ)で、多人数での戦闘では敵陣に斬り込む役目を担っていた。

 種族名は【ダアム】。人種と石の巨人(ゴーレム)合の子(ハーフ)小石人種(クーベゴレム)だ。習得している職業は太刀や大太刀のような日本系の武器に防具を扱う【モノノフ】と防御面にてカウンターに特化した【コノエ】の二種。赤備えの装備で固めていたそうだ。

 四人目は、嫌がらせをさせたら右に出る者はいない粘液生物(スライム)の最上位種【ププルブ・ダークマター】の“アンコクウブッシツ”――――通称を“アンコ”さん。

 種族値を伸ばしつつタンク系の最上位職業が一つ【不動王】を会得しており、種族専用のスキル<呪腐>をタンクとしての役割をこなしながらに発動すれば、相手の装備している武器や防具の状態を壊滅的にすることができる。

 しかもそのスキル、戦闘から離脱または神官系の解呪を専門とした者がいなければ、装備品の状態は壊れたまま治らない<呪い>付きである。


「で、この四人で転移したはずなんだけど……――――」


東西南北(トウセイミナホ)さんとアンコさんの姿は無かった」


 少しばかし悲しそうな表情を明るく取り繕いニャルトリアは言葉を続ける。


「でも、私達が五百年前に来たんだから…―――」


「―――()()()()()()に二人がいる可能性は十分高いんだよ」


「……()()()?」


「うん。ローさんはアロイアという国を知ってるかな?」


 “アロイア”…何処かで聞いた名だとローは五秒ほど考え込み。そう言えばと、ルイとケイナに初めて出会った時の事を思い出した。


「確か、この大陸の東にあるドワーフの国だっけ?」


「せいかーい! このマナちゃんが飴を進呈しよう!!」


「え、どうも…?」


 マナからイチゴ味と書かれた飴を手渡されて、ローが聞かされたのはほぼ情報という情報の無いアロイアの向こう側の話だった。


「アロイアはね? ドワーフの国であるのと同時に巨大な鉱山の並ぶ山岳地帯なんだよ」


「それで、その山岳地帯を超えた先…こちらを西大陸とするのなら、あちらは東大陸――――そこには広大な砂漠と巨大な砂嵐があったのさ」


 この世界に来て国ができた頃、マナとニャルトリアはこの西大陸をまず事細かに調査したそうだ。

 実地調査方法は、飛行型のゴーレム等の壊れても痛手にならないアイテムを未知の領域へと飛ばして危険が無ければ、人などに擬態できる種族で探検するというモノ。

 無論、西大陸が終われば東大陸へと調査の目途を立てたのだが、大陸を隔てる様に休むことなく吹き荒れる砂嵐で東大陸の調査は現在進行形でままならないそうだ。


「なるほど。つまり、二人は向こう…東大陸に居るという事ですか?」


「希望的観測だけどね。――――そうじゃなくても、東大陸に何かがある事は確定だ」


 そう言って、ニャルトリアは自身の“得心”をつまびらかにする。


「キミの心当たり、山下導だけど…彼がプレイヤーならこの減った数字にも、魔呪全書(スペルブック)の数にも得心がいく」


 しかし、ローは彼女の答えに疑問を添えた。


「あの時はああ言いましたけど、ヤマシタシルベがプレイヤーの線は低いと思います」


「どうして…?」


 ヤマシタシルベを討伐した時を思い出して、彼をプレイヤーとなぞらえるにはいささか疑問が残る。

 この世界に来る発端は【ブレイスラル・ファンタズム】八周年記念に行われたイベントにて、エンシェントドラゴンを沢山狩った者に限られる。

 エンシェントドラゴンのレベルは百二十レベル。ヤマシタシルベの手腕や装備の質から見て、一体でも討伐する事はどんなに甘く見ても土台無理な話だ。

 あの時は色々試したいことやロー・ハイル・ヘルシャフトという肉体の凄さに興奮して、彼のプレイヤー発言を流すように納得したが、あの実力では参加権すらないに等しい。

 ただ、そのローの所感。


「今、魔呪全書(スペルブック)の所在を確認できているのはローさんとマナさんとボク、そしてユーセラスにあるので四冊目。残る二冊は東大陸にある可能性が高い」


 ニャルトリアは横に首を振って否定した。


「この時点で六冊…つまり残りは“6”人。ホラ、山下導がプレイヤーなら数字が減ったのも頷けるだろ?」


「いや、そうじゃなくて……あの実力じゃあ―――――」


「確かに聞いた実力じゃあエンシェントドラゴンの一匹すら討伐できないだろうが、この際関係はないんだ」


「え?」


「試しに聞くけどローさんが最初にこの世界に来た時、魔呪全書(スペルブック)の数字はどうだった?」


「………“7”だったはず」


 ローの言葉にニャルトリアは会心の笑みを浮かべた。


「なーる。じゃあ、ニャルニャル。転移してきた時期も関係ないってコト?」


「うん。それはローさん自身が証明してくれた通りさ」


「……えっと、いまいちピンときてないんだけど?」


 マナとニャルトリアが納得している中、蚊帳の外でローは熟孝。

 ヤマシタシルベがプレイヤーだという確証を二人は得たと言い、その確証は減った数字にあったという。なら、注目するのはそこで彼の実力は見ないモノとすれば………、


「あ?!」


 ヤマシタシルベがプレイヤーだという線が濃厚である事実がそこにあった。


「転移時期ってそういう……」


「分かったようだねローさん。あの最初に聞いた機械音声は最初から百人と銘打っていた。つまり、魔呪全書(スペルブック)には最初から“100”と明記されていたはず。で、その証明として五百年前から“7”の数字が一切変動していないのが何よりの答え。――――――どういったカラクリで山下導がこの世界に来たのかは知らないが、ローさんが彼を倒して数字が減ったなら……プレイヤーだった道理は十二分にあるだろう?」


 プレイヤーの転移時期は関係なく、玉座争奪戦の定員は最初から100名。つまり、数字が減る事こそあれど、増えることが無い。

 ロー・ハイル・ヘルシャフトがこの世界に転移しても数字は増えないままで、ヤマシタシルベを殺したら数字が減った。そう考えると実力を除けば十分に状況証拠は揃っており、ヤマシタシルベがプレイヤーでも不思議ではない。

 そうでなくとも、と言葉を置いてニャルトリアは数字が減った事実に、命を狙われる危険(プレイヤー)が少なくなったのを喜ぶ。


「邪魔するぜ、クダン」


 と、話が一段落すれば『痛天飽食』の引き戸がガラガラと音を立てて勢いよく開かれた。


「食ったヤツはここに……――――おや、珍しいですね。姉さんにボスに……」


 予想外の来客にマナの光翼はバサリと広がり、ゆらゆら揺らしていた尻尾をニャルトリアはピンと立てて耳をピクリと動かす。

 四角い金属の箱こと岡持ちを左手に店先に立つのは、モスグリーン色の野戦服に同じ柄のフード付きマントをその上から羽織る男。

 特徴的な光の無い黒目は据わっており、サイドを刈ってトップを多めに残したモヒカンよりの丸刈り頭に顎には灰色の無精ひげ。

 おまけに黒の軍用ブーツと全体的に“地味”の一言で言い表せる男の容姿。しかして、一点だけその右肩に掛けたソレは“地味”とは言い難い。


(あの銃の名前は、確か対物(アンチマテリアル)ライフルだったけか……?)


 男が右肩に携帯しているのは主に戦車の装甲を貫く為に造られた全長一メートル以上の銃口が金槌みたくなっている狙撃銃(スナイパーライフル)

 しかもソレを敵意剥き出しで不審者(ロー)に対し、今まさに構えようとしていた。


「待てサイハラ。この人は昨日の各階層への通達で説明したプレイヤーのローさんだ。第七階層の守護君主であるキミが忘れたとは言わせんよ?」


「………あー、そう言えばそんな事言ってましたね。第七階層に来ると思ってませんでしたから、忘れてましたよ」


 ニャルトリアの取り計らいでローに向けられんとしていた銃口を、サイハラは敵意と共にゆっくりとやる気なく収める。


「む。その調子だと他の階層の守護君主も忘れてそうだな……――――よし、サイハラ。キミは第七階層に戻るついでに各守護君主にローさんの事を伝えておくように!」


 ボスと称える主君の思い付きに、サイハラは態度こそやる気ないが岡持ちを置いて深々と一礼。


「了解だよボス、姉さん……それと()()()()。では、また」


 皮肉めいた言葉と岡持ちを置いて残して、サイハラはそそくさと『痛天飽食』を後に去って行った。


「彼、いつもあんな調子?」


「ん、まーね」


()()()にはマナさんの弟だから、多分ローさんに嫉妬したのかも……?」


 客人に敵意剥き出しであったサイハラの出現に残された三人、特に女性人二人はバツ悪く歯切れ悪く。

 場の空気を変えようとローに振られた話題もすぐさまに完結してしまう。

 どうにもこうにも出来ないこの始末。だが、助け舟はやって来た。


「“辛裸王(からおう)”の並三つ。ロー殿には鰐肉のチャーシュー、おまけしておきましたよ」


「うーん、良い匂ーい!!」


「相変わらずおいしそうだよクダン」


 器用に触腕を用いてクダンがロー達の前に並べたのは、出来立て熱々の“辛裸王(からおう)”という名のラーメンが完成された朱色のどんぶり。


「ありがとう。それにしても…こ、これは……」


 “辛裸王(からおう)”。

 そんな商品名(タイトル)が付けられる看板メニューとはいかほどのモノかと思っていたが、目の前に並べられた一品は正しく名を体で表していた。

 赤くそれでいて澄み切ったスープは辛さが香るものの、忌避される臭いではなく食欲をそそる様な芳ばしさ、刺激を漂わせている。

 麺は標準的なものよりも細く、豚骨などで使われている細麺。

 刻んだ万能ねぎ、半熟の煮卵が三つ、分厚い鰐肉のチャーシューが散らされて赤のスープに浸っている。


(凄くおいしそうだ!!)


 見て取れる、嗅いで取れる情報は申し分ない。


「じゃ、いただっきまーす!」

「いただきます。」

「いただきます……」


 ならば、後は食すだけ。

 マナの号令にてニャルトリアとローも合わせて合掌し、備え付けの割りばしを構えて、いざ実食だ。


「………ッ?!」


 最初に。具材を押し退けてがっしりとスープに浸された細麺を箸で絡め取り、熱々の内に麺を啜れば、口の中へと広がるのは火炎の如き辛み。

 口を走り、喉を走り、胃に到着すると暴れ狂う熱。しかして、存外にも苦ではなく少し固めな麺を次へ、次へと啜りたくなるような美味さ溢れる激辛だ。

 見た限りだと、麺にも辛さを持たせる為に香辛料を混ぜ合わせているのだろう。


(お、おぉッ…?!)


 次にローが手を出したのは、レンゲで掬った澄んだ赤のスープ。

 口に含み、味わって。広がる味はトウガラシやハバネロなど辛さの代名詞たるスパイスを用いた落ち着いた豚骨…に似ているが、それにしてはやけにあっさりとした風味。


「もしかして、鰐の出汁か?」


「ほう。流石はボスとマナ殿のご友人……一口含んでスープのベースを当てるとは、このクダン。感服しました」

 

 ふと、記憶手繰りの当てずっぽうを口にすれば、どうやら正解したようだ。


「いや、まあ…鰐自体は前に食べた事があっただけだ」


 腕を組むこの店の店長の表情は蛸そのもので不明だが、声色からするに感心しているのだろう。

 そんな店長の粋な計らいで鰐肉のチャーシューが三つから四つに増え、ローは示されるように具材達へと箸を伸ばした。


(なるほど、半熟卵で味を変えることができるのか……)


 刺激的な辛さも素晴らしい。が、半熟卵を溶かして加えてみれば、味はがらりと変わってまろやかな舌触りで具材の味を引き立てるラーメンが出来上がり。

 相も変わらず舌にピリリと辛味は来るも主役は一旦ナリを潜めて、自然と白く透き通ったチャーシューを箸で掴んで口いっぱいに頬張れば、脂の甘味、みずみずしさが溢れて、食べるものの食欲を今一度興奮させる。


「…………」

「………」

「……」


 黙々と。

 黙々と。

 三人はスープを味わい、具材を食み、麺を啜る。

 旨味と辛味の絶妙な組み合わせを前に、どれだけの大事があろうと。今のローとマナとニャルトリアはこの“辛裸王(からおう)”に全能力を持って集中、飽食。











 替え玉を九玉食べ終えて腹九分目に突入したロー・ハイル・ヘルシャフト。

 小食な二玉にて食事を終えたニャルトリア。

 ローに負けじと九玉目を目指すも、八玉目で断念したマナは口を押えながら用事があると席を外し。

 ニャルトリアとロー、二人は『痛天飽食』から徒歩五分のカフェ『ヴェネ』のテラス席にて。食後の紅茶を楽しみながら交わす言の葉は女王として、対し冒険者としての真剣なモノであった。


「実のところ、プレイヤーの件だけでローさんを招待したわけじゃないんだ。女王として今回、君達に斡旋する仕事……あまり表沙汰にしたくないんでね」


「なるほど。国から出ずとも俺達の事を確認できたのに、わざわざ書簡を送って呼びつけてギルド拠点に招いたのはそういう事ですか」


 ニャルトリアの弁にローは納得の面持ちで頷いた。

 コベルニクス商業国を作った張本人が、友人に似ている冒険者の真贋を確かめる為だけに書簡にて招待…というのは些か性急すぎる。

 魔王の玉座争奪戦に巻き込まれている以上、評判や素性が確かとはいえ無暗やたらにプレイヤーを招待するのは危険極まりない。加えて、彼女らにはギルド拠点があり、安パイは踏めるだけ踏んだ方が得策であろう。

 おまけ、彼女の執政を見ていれば対物ライフルや電車などが国中に出回っておらず。技術にせよ武力にせよ秘匿できるモノはなるべく秘匿しておく、という指針が窺える。

 要は、慎重派で堅実派な女王陛下がここで話す事と言えば……それだけ切羽詰まった案件か。


「ああ。まずは話を聞いてほしい―――――受けるかどうかの返事は皆で話し合った後で構わない」


 白いパラソルの下でガラス張りの丸机にニャルトリアが並べたのは、文章に数枚の写真が添付された資料だ。

 タイトルは“魔術国家ユーセラスの現状況について”。


「春の月、今から三か月前の事だ。同盟国の魔術国家ユーセラスに不可思議な霧が発生した」


 ニャルトリアの説明を聞きながらローは机の上の資料を手に取り、添付された写真と文章に目を通す。

 そこに記述されているのは、紫の霧の成分と破損したゴーレムの積み重なったガラクタの山。


「向こうの首脳…七教皇と魔法での連絡が取れなくなって三日後。飛行型のゴーレムを調査の為に飛ばしたが写真にある通り、海の藻屑の出来上がりさ」


「都市部の写真は無いのですか?」


 紫色の霧の成分は鉄と水と塩で三割、後の七割は不明と書かれている。

 飛行型のゴーレム、目玉にコウモリの羽が二つ付いたタイプでゲームでは偵察の定番アイテム。それのどれもこれもが、霧に触れた途端に壊れたそうだ。


「……残念な事にこれ以上の接近は不可能だったよ。陸路にて昆虫系の使い魔をユーセラスに向かわせたけど、そのまま行ったきりで帰ってこない。所謂、異常事態さ」


 霧の範囲については、小国ユーセラスの全体を包むほどにあって感知系のスキルでも霧の中は見えないとのこと。

 一通り資料に目を通して、確かにと。

 積乱雲が如き霧の塊が国を丸々包んでその場に留まっているのは、異常が過ぎる事態である。


「で、私達“白銀”に依頼するのはユーセラスの調査及び問題解決ですか?」


「その通りだよローさん。ボクとマナさんの立場ではコベルニクスから離れるのは不味いどころの騒ぎじゃない。だから、一番信用できる人に同盟国を任せたいんだよ」


「……別にこれぐらいなら受けても構わないですが…」


 仕事としては少々危険かもしれないが真っ当な案件で、プレイヤーが作った国というのも興味はある。

 別段、断る理由は無い。


「え、いいの?!」


「もちろん、フィリアナ達は後で説得しますよ。ですが、こういった依頼の報酬ってどうなるんですか?」


 本来なら冒険者組合が仲介業者となって依頼人と依頼料を決めて張り出したり、商人や民間人などの依頼者と冒険者が直接話して依頼料を決めたりする。が、今回の直談判している相手はコベルニクスの女王。

 つまり、一国の主との密会による商談の相場なぞ全くもって不明瞭。がめつく当たっている訳ではないが、誠意ある仕事には正当なる報酬が必要なのだ。


「大丈夫。抜かりはないよ」


 そう言ってニャルトリアが手渡してきたのは直筆の署名付きの紙が一枚。


「……え、えぇッッ?!」


 簡潔に、一人頭五十万ルティの報酬と富裕層の暮らす土地にて一軒家の贈呈、と書面にはそう記されている。


「こここ、こ、れ…ホント?」


「びっくりした? でも、それ今後の個人契約の前金も含めてだから」


「個人契約?」


 第十から第一まで十段階に分かれられている冒険者の階級。

 その中でも第八級以上の実力者や特例にて定められた冒険者は国や町と個人的な契約が可能で、契約すればその場所お抱えの冒険者となれるそうだ。

 分かり易い例えが四天教や王国、帝国に所属する“蘇生魔法”の使い手であろう。


「じゃあ、この仕事を受ければ“白銀”はコベルニクス商業国お抱えの冒険者ってこと?」


「そ。今後に備えて私達と連携が取りやすい方がいいでしょ?」


 今後、とは争奪戦の事を指しているのだろう。

 知己のプレイヤーの信頼、国という巨大な後ろ盾。こんな好条件を断る理由は無く、フィリアナ達を納得させる言い訳を考えながらにローは了解の意として頷くも、ニャルトリアが慌ててそれを止める。


「商談成立。ってトントン拍子で進んだから言いそうになったけど、ボクはまだ今回の一件の全貌を語ったわけじゃない……ホラ、今一度資料を見てごらんよ。頷くのはその後でもいいさ」


 彼女に言われて資料を見つつ。少しばかり考察すれば、ふつふつと興味として湧き上がったのはユーセラスを包む霧についてだった。


「この霧、ゴーレムや探知スキルにて内部状況を知れない所から見て外部と内部の情報を遮断する意図は明らか…つまり、人為的なモノで間違いないはずだ。――――どこがやったか……もしかして目途が立ってる?」


 続けてローは、“金剛月華会”の名を例えとして出すもニャルトリアは否定する。


「ボクも最初はそう考えたけど、()()はどう考えても違うよ」


「どうしてそこまで言い切れるんですか?」


 曰く、金剛月華会は王国や帝国の裏側をその情報網や薬物の売買にて牛耳っていると噂されているが、実際のところはモンスター…いわゆる魔物に魔獣の捕獲や調教が主で、自分たち以上に大きな商売敵が居ない為にそう吹聴し回っているとかなんとか。


(意外…ではないか。テルガス達『獣人解放軍』にも死肉の巨人(レクディオプ)を渡していたぐらいだし……)


 故に、一国…それも流刑の地を紫色の霧で包むなど訳の分からない事をする。なんて、実益の無い徒労を行わないのが金剛月華会の性分だそうだ。


「それに金剛月華会(かれら)はほとんど証拠を残さない。王国や帝国に残っている取引の資料で金剛月華会(かれら)の足取りを追うも微々たる成果……だが、そのおかげでね。どの国や組織にも属さない()()()()の片鱗が見え始めたんだ」


「と、いうと?」


「…ローさんは“青霧の晩”を知ってるかい?」


 もちろん知っている、とローは頷く。

 二十年前に“双角の魔人”と呼ばれる火煉とは似ても似つかない化け物が王都テルンラシアにて暴れて、二百人弱の王国民が被害にあった事件。

 これのおかげで額に二本の角がある女性、言うなれば火煉がその魔人と勘違いされない為に角を隠させていたのは記憶に新しい。


「ユーセラスを包んでいる霧、“青霧の晩”。保管されている被害者の遺品に付着した事件当時の霧と今回の霧の成分、王国に居る仲間がその二つを調べた結果……規模こそ違えど全くもって同じ成分が検出されたのさ」


 そこまでいうとニャルトリアは深く息を吸って吐き、


「もう一度聞いておこう。今回の任務は、王都の一部やユーセラスを霧に包んだ正体不明の第三勢力と渡り合う可能性が高い危険な仕事だ」


 机に広げた資料を片付けると真剣な表情でローを見つめる。


「本来ならば、同盟国であるボク達が何とかするのが筋だが、第三勢力の片鱗が見えた以上、アマテラスの人員やコベルニクス国の兵士を裂く事は出来ない。なら、動けないボク達が動かすことのできる唯一の人員は、信用できる冒険者“白銀”の面々。――――――ボク達ができるのは往く道を作る程度。これでも、白羽の矢となってくれるかい?」


 プレイヤーでありコベルニクスという一国の主、ニャルトリアも後手の戦略を取るような未知の相手。

 ともすれば“死”という名の危険が伴う仕事―――――だがしかし、答えは決まっている。


「では、今一度言おう。この任務、快く受諾しよう」


「え、そんなあっさり…ホントにいいの?!」


「“報酬があり、国という後ろ盾を得れる”。冒険者としては申し分のない条件、断る理由はない。マイホームも欲しかったしね…」


 友人の頼みだから、とローは若干恥ずかしがりつつその言葉の後に付け加えてサムズアップで応じる。


「………“トモダチ”か……ありがとう。ローさん」


「いやいや、それほどでも。そこまで善良な人間ではない私だが、人助けが仕事なら喜んで遂行するのさ」


 腹ごなしの雑多な仕事の密談は終わり、角ばった身体をほぐしているとニャルトリアがふと提案する。


「どうだい? 仕事の話の済んだことだし、今日はココに泊まっていく?」


「いいね。宿泊するならどこがオススメ?」


「もちろん温泉旅館“すめらぎ”だよ! なんたって、建築大好きな“赤山五兆”さんと“東西南北(トウセイミナホ)”さんが特に力を入れた場所だからね。取りあえず―――――――」


 温泉旅館“すめらぎ”に思いを馳せながらに二人が立ち上がった次の瞬間、“超高機動型自立式要塞・アマテラス”第二階層【岩窟帝都】に響き渡るのは、けたたましいサイレンの警告音と眩しいほどに辺りを赤く点滅させる危険信号のランプ。


〔――――――侵入者、侵入者アリ。当艦、第十階層【甲板】より第九階層【迷宮(ラビリンス)】へと目下大多数の侵入者アリ。アマテラス防衛システムの完全起動まで残り六百秒、各員持ち場へと即座に着かれたし。繰り返します。侵入者…―――――――〕


 同時に【岩窟帝都】の全ての店を六十センチの隔壁が包み、慌ただしく戦闘用NPCと非戦闘用NPCが定められた持ち場に着き始めた。

 その中で総支配人(ギルドマスター)、ニャルトリアは深々と溜息をついて。女王らしく、統治者らしく可愛い顔から威厳ある表情に変わる。


「聞いただろローさん。愚昧にもこの【ジパング】に侵入者だ。取りあえず、ボクに着いて来てくれ」

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