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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第二章【魔窟の主】
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第二章 4 【異世界女子会】

 獄炎火煉、ニーナ・レイオールド、フィリアナ・ルーゲル・フェンドルド。

 容姿に年齢に性格にクラスと、客観的にも主観的にも性別以外に共通点の浮かばない三人。だからなのか、この席に着いたのは必然であった。


「甘くて美味しいですね。これ」

「あまうまだな」

「うむうむ。“ボーノ”じゃの!」


 翡翠色の彼女は紅茶を片手にバリバリとした食感の円環状の菓子パン、スーシュカを一口と食べて広がるアクセントに驚きつつも手は止まらず。

 焔色の彼女はその左手に置かれたシンプルな苺の乗ったショートケーキに頬を緩め、二口三口。

 至極色の少女はいつぞやのイタリア語のオマージュで、そのつまようじに突き刺したきなこもちを褒めちぎる。

 どれもこれもが甘味物。

 ()()にとってごく普通かも知れない甘味を、三者三様の()()()は故に好むのだった。

 ついでに言えば、若葉色の髪をした彼女も“5000カロリー”とラベルの張られたジョッキで甘めの謎ドリンクを飲んでいる。


「お褒めいただき光栄です。料理長もお喜びになるでしょう」


 ここは、ギルド【ジパング】の拠点“超高機動型自立式要塞・アマテラス”第二階層【岩窟帝都】の一角。夜はバーとして、昼は『甘味処』として赤いのぼりが目立つ二面性を持ったカフェ“ノワール”。

 落ち着いたゴシック調の雰囲気漂う内装で、天井には木製のシーリングファン。中に入ると右手にはチーク材のバーカウンター一式が構えられて二足歩行する巨大でまん丸な黒猫の料理長が可愛くエプロンをかけて、コック帽を被り、ガラスのコップをふきふきと。

 左手には団体様がやって来た際、人数に合わせて仕切りを撤去できるテーブル席が八つ。椅子は壁のソファと合わせて一テーブルに付き四つである。


「それにしても何で爆発時の効果音を?」


「バッカモーンッ!! それは“ボンッ”じゃろうて? 妾はただ、この甘味を褒めていただけじゃ!」


 店内最奥のテーブル席にて、ニーナ・レイオールドはきなこもちをつまようじで刺し、右に座った案内役の彼女、ルトへと猛る。


「褒める? 今の言葉がですか?」


 刺したきなこもちを頬張って食べ終えたニーナは、若葉色の髪を揺らして首を傾げるルトの疑問に答える。


「うむうむ。ロー様が言うにはナントカ語をオマージュした褒め言葉らしいのじゃ」


()()()()()ですか……なるほど。そういった言語も外にはあるのですね」


「いや、その言い回しは単にソイツが覚えてねぇだけだと思うぞ」


 ニーナの正面に座る火煉は呆れたようにして隣のフィリアナへと目配せし、スーシュカを右手に持って彼女は無言で肯定の意を表した。


「むッ。そんな事ないのじゃよ! ―――――それより、ルトよ。妾らをもてなすにはよき塩梅じゃが、どのぐらいここに居ればよいのじゃ? あと、妾らに何か用向きでもあるのか?」


「あ。話そらした」


 急な話題の替え方に言葉をこぼす火煉であったがニーナの疑問はごもっとも。

 急いでいる訳でもなく、このもてなしも嬉しい。が、ギルド拠点という外部に秘密の漏れない場所に連れてきたのだから、何かしら『話すべき事』があるはず。

 そんな火煉の考えを見越してか、ルトは微笑を浮かべると背中に手を回して虚空からあるモノを取り出した。


「フリップ~」


「……?」

「?」

「??」


 どこぞの耳の無い猫風味なロボが如く、彼女が意を決して取り出し掲げるは『暴露トーーク』と文字の書かれたチープなデザインの板紙が一枚。


「ボス、ニャルトリアは言いました。『これから付き合いが長くなるんだから、くっちゃべって親睦を深めなさい』と」


「……えーと、本当に?」


「ハイ、本当です」


「それだけ…でしょうか……?」


「ハイ、それだけです」


「好きなキノコは?」


「……シイタケッ、ですかね。カサの部分に肉とチーズを詰めて加熱すれば美味しいんですよ」


 存外にもノリの良い彼女にしっかりと確認し終えた所で、おもむろに至極色の少女が手を挙げた。


「どうしました? まさか、好きなキノコを答えただけでは飽き足らないと?!」


「違うのじゃのじゃ。おかわりじゃ」


「何か今の早口言葉みたいですね。流行ってるのですか?」


「ワザと言って見ただけじゃ……それより」


「ええ、分かってます。―――――カジュロ!! ニーナさんにきなこもちを!!」」


 バーカウンターで仕事をしていた料理長“カジュロ”は頷き、黙々と作業を始める。

 ソレを目視した四人は視線をテーブルに戻して『暴露トーーク』と文字の書かれたフリップを注視。


「……」

「………」

「……」

「…………」


 そうして、沈黙が一同を襲う。

 誰一人として客人が口を開かない様にはルトも予想外で、チラチラと出方を窺うも一向に沈黙は解かれず。不可思議に思い、ならばとルトは疑問を口にした。


「あの皆さん。急に黙ってどうしました?」


「いや、だって、なぁ?」


 火煉は視線を泳がし、気が付けば一同の視線はフィリアナに――――だが、彼女も困り顔で首を振った。


「暴露と言われましても……私達、そこまで何かあるという訳でもありませんので」


「じゃの。“死肉の巨人(レクディオプ)”の一件も報告書と喋ることは同じじゃしな」


「そう、なの、です、かッッ……?!」


 全くもっての予想外。

 自身の種族は【機械生命体(オートマトン)】の最終進化【機械仕掛けの女神(マキナ・テア)】…つまりは完全無欠な人造系女子。そんな自分が完璧な話題と場所を提供したはずなのに、まさかその根本から不完全だったとは。

 これにはルトもジョッキを持つ手が震えてしまう(バイブレーション)―――無論、中身をこぼすワケはないが。


「おまちど」


 と、ずんぐりむっくりとした二足歩行する料理長の黒猫がきなこもちのおかわりをお盆に乗せて持ってきた。


「話すなら自分から話しゃいい」


 企画倒れに震える同僚へとアドバイスもついでに。


「え?!」


「お皿、下げとくぞ」


 ヒソヒソと彼女に耳打ちした彼は颯爽と皿を片し、


「うむ、ご苦労。良く働く猫じゃな」


「……オラはカジュロだ。今後ともよろしくな、白銀」


 コミュニケーション能力抜群に颯爽とニーナ達に自己紹介し、カウンターへと戻っていった。


「そうですね、では私から……――――」


 ルト自身、コミュニケーションが苦手というわけではないが護衛兼秘書という仕事上、つい寡黙な時間が多く。また、口数も少ない為にふとした事で他人に勘違いされることが多い。

 なので、用意したるはこの話題カード。

 自分自身は機械なので書いてある話題に紐づけられた会話をすぐさまに引き出すことは可能、これにより邪険に思われる事も少なくなった――――まさに自身の特性を生かした対処法だ。

 カジュロのアドバイスを受けて意気揚々に、単語カードならぬ話題カードを机の下で左手に構え、器用にめくって無難なモノを選び準備は万端。


「あるぞ」


「……え?」


「じゃから、この場で暴露できそうなことがあるのじゃ」


 「さぁ来い」と「この牙城は崩せまい」と意気込んでいたルトに飛んできた言葉は、まさかの『暴露トーーク』の話題があるとニーナからの進言であった。


「む? 何か言いたそうじゃな」


「ど、どうして無言だったんですか?」


 ある種、難攻不落の牙城が裏口から呆気なく崩されてしまった城主(ルト)は動揺を隠せず、ニーナに食い入るように聞き迫った。


「少し考えよっただけじゃ。妾とて場を凍らせるブラックすぎるジョークは嫌じゃからの」


 とのことで。

 ニーナの落ち着きっぷりには「そ、そうですか」とルトも言うしかなく。フィリアナと火煉に至っては意外にも、身内の話に身を乗り出して聞き耳を立てている。


「珍しいな。何話すんだニーナ?」


「そうね。貴方、あまり自分の話はしないから正直言って私も興味が湧いたわ」


「うむ。そうじゃな、暴露といえば女帝だった頃の話じゃろうて……その代わり、お主らも何かしら準備しておくように」


 ニーナは若葉色の彼女にウィンクで「任せよ」と言わんばかりの表情を浮かべ、ソレを汲み取ったルトは感謝感激に机の下で熱く握手を交わした。


「それにしても……()()ですか?」


 兎にも角にもニーナの助太刀で親睦を深めるという任務が無事に進展しつつ、意外なる情報にはルトも感謝こそあれ困惑気味で聞き返せば、ニーナは頷いて順を追うように過去のとある失態を話し始めた。


「前の前の世界にて妾は一国を治める女帝じゃった。その頃のヘマを暴露しようかの」





 魔人種とは広義的に“亜人”とも呼ばれるが、その実はエルフやドワーフの様に人間に類似した系統樹の枠組みではない。どちらかと言えば魔物と呼ばれる理性無き存在から進化した新たな人種だ。

 魔物と魔人。その区別は大雑把で、二足歩行か、理性はあるか、社会性を築く事が可能かの三つの内の二つが当てはまっていれば、即ち魔人種となる。


「千年魔境の大瀑布……太古の千年間、神々も近寄らぬ星の亀裂。国としての名は“アヴァリ・ヲグ”」


 二足歩行で毛むくじゃらの怪物――――これも魔人種。


「妾が執政を行っていた頃は世界に未曽有の危機が訪れててな?」


 理性のある触手群――――これも魔人種。


「その対策に妾は心血を注いだが、当然に政治の世界は一枚岩ではない」


 社会性を持ち合わせた上半身が魚、下半身が人の者――――これも魔人種。


「よって、三つの派閥に分かれおったのじゃ」


 多種多様な魔人種。

 ニーナ・レイオールドは、先代の執政に倣いそれを上手くまとめ上げた。が、先代の執政は所詮、未曽有の危機を想定していない平和な世の為の政。女帝の匙に意を投げ掛ける者も多くいた。


「ドゥーケレスの率いる保守派、ファララスの率いる中立派……そして、昆虫系魔人種を多く従えた過激派。率いるはテムレという若造じゃった」


 ピンク色のテカテカヌルヌルとした触手の塊のような肉体を持つ種族の長、ドゥーケレスの思想とは千年魔境の大瀑布“アヴァリ・ヲグ”の守りを堅固に徹底的にこの厄災を生き残るというモノ。

 人間の上半身に馬の下半身を持つ女傑、ファララスの思想とは最終的に国を捨てての安全圏に脱出というモノ。だが、それは最終手段でどちらに着くかは吟味中の姿勢を取っている。


「まぁ、癖のある連中でな……―――――委細は省くが、妾は何とかドゥーケレスとファララスを自陣に引き込む事ができた」


 鋭い爪と牙を持った鈍色の武闘派獣人、テムレは一貫して“アヴァリ・ヲグ”の全勢力にて未曽有の危機を取り除くというモノ。


「じゃが、それ故にテムレを追い込んでしまった。なにせヤツは親の期待を背負った功名餓鬼じゃったからの」


 テムレの親は“アヴァリ・ヲグ”に初めて到来した未曽有の危機より最前線にて国を救った英雄。

 しかし、その代償は大きく、テレムの親は四肢を食いちぎられて隠居の身となった。


「……さしずめが未曾有の危機、凶ツ星の病を倒せるものと踏んでの思想を子に刷り込ませんじゃろうが、故にテレムはあり得ない計画を行動に移した」


 ドゥーケレス、ファララスという年長者であり政治に長けた人物に親の威光を背負ったテレムが敵うはずもなし、彼が行ったのは彼の親が正しいとされるべく思想の()()()()―――――言うなれば現政権の崩壊、()()だ。


「テレムがどういった取引をしたのかは知らぬが、秘密裏に妾の側近である昆虫系の魔人種、ウーバとヌーグを抱え込み妾に差し向けた」


「それで、どうなったんですか?」


 おずおずと聞き入るルトにサムズアップでニーナは答えた。


「妾がここに居るのがその結果じゃ。テレムを処刑し、ウーバとヌーグは最前線へと差し向けた」


「いや、そうではなくて………」


 ルトが聞いているのはどうやらその後のことらしいが、この茶会でニーナ・レイオールドが話せるのはここまでだ。


「国がどうなったかじゃな? それは、まだ答えるに値せぬ。仲良しポイントを貯めて出直してくるがよいわ」


「ポイント?! なるほど……コミュニケーションとは、そういうのもあるのですか」


「いや、ねぇだろ」


 奥深いとしみじみに思うルトに火煉は斬り込むように的確なツッコミ。

 それからニーナは緑茶を一杯と煽り、落ち着いてから“次”を促す。


「さて、妾が話せるのはこんなところじゃ。お次は誰が話す? 火煉か、フィリアナ、それとも…ルトかの?」


「わたし、ですかッ、ヨロコンデ!!」


「なんでカタコトなのじゃ?」


 準備万端、興奮気味にスタンドアップしたルトはその豊満な胸元から五十枚の写真を息荒く、勢いよく、取り出した。


「ボス、ニャルトリア様の隠し撮り写真集~!!」


 何処か目の焦点の在っていない彼女が魔力にて宙に浮かべたる写真はどれもこれもが、グラビア一歩手前の恰好に極まれりのニャルトリアの痴態…ないしオフモードの姿の数々。


「アンタまだそれやってたのか……」


「カジュロは黙ってなさい!! やはり親睦を深めるのならボスの事を知ってもらわなければなりませんからね!!」


 ビームが出そうなぐらいに瞳孔ガン開きで飽きれるカジュロを叱咤し、ルトはその中でもお気に入りの十枚を手に取って机に並べて()()()()紹介し始める。


「こちらが昼休憩時の寝顔で、こっちが書類仕事に疲れて背伸びをした時、でこっちが………―――――」


 眼差しこそ怖いが、大好きなものを語るルトの表情は喜びに溢れていた。


「緩和剤には良いの」


「だな。ニーナの辛気臭ぇ話よりかはマシだ」


「そうね。じゃ、まずはルトのお気に入りの写真を語ってもらいましょう」


 ニーナ・レイオールド、獄炎火煉、フィリアナ・ルーゲル・フェンドルド。そして、ルト。

 異世界での女子会はまだまだ続く。

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