第二章 プロローグ
ビ――……。
ビ――…ビ――…ビ――――…………。
けたたましくも人を呼ぶ仕事を淡々とこなす呼び鈴。
聞こえている、聞こえているぞと頭の中で返事はするが未だ止まないそれには、全くもって五月蝿すぎると目を開けるよりも先にため息が出るほどだ。
まず最初に足先、次に手先、心臓を意識して三秒後。身体が起床の準備を終えたところで、未だ家中と頭に響く玄関チャイムの音で目を覚ます。
(10時半……帰ってそのまま、眠ちまってたのか………)
時間を見終えて暗くなった携帯の画面に映るのは夜勤明けで剃る暇のなかった無精ひげ、青シャツにネクタイは黄色と白の縞模様。
ズボンはというと、寝ていたベットの右隣。趣味に耽る用の椅子に雑な形でかけられていた。
「はーい、今出ますよ!!」
椅子に掛かっていたズボンを履いて最低限の身なりを整え、鳴りやまないけたたましいチャイムを止めるべく、階段を下りて玄関に向かい扉を開ける。
「おはようございます。時田センパイ」
見知った顔。もとい、仕事以外では会わないヤツが家の玄関口に現れた事で、時田と呼ばれた彼の表情は、眠気も相まってより一層悪くなる。
つまり、今現在会うのが面倒な存在。対して、皮肉と邪険の面持ちな時田の一言はこうだ。
「…なんで、お前が?」
サッパリと切り整えられた黒い髪型は清潔感を通り越して無機質に、その顔も同義だがわずかに茶目っ気があるのが救いか。
服装はシンプルな紺色と緑色のラインが入った遊びのある新世代のスーツを着ている。
彼自身、邪険に扱われたとはいえ分かりきっていたことなので、くしゃっと笑みをこぼす表情を変えることはない。
「電話かけても繋がらなかったので来ちゃいました!」
答えになっていない一応の後輩の回答に『時田 正』は深々と溜息を吐いてから、明確な…これも分かりきった回答を得る為に会話を続ける。
「今日は休暇だってのに………――――それで、灰原。オレを至福の睡眠時間から無理矢理起こしたのは…、例の事件か?」
溜息交じりに確信を突いた返答によって『灰原』と呼ばれた後輩は同意するように「ハイッス」と元気よく返事をして頷いた。
「ハァ…ちょっと待ってろ」
夜勤明けで気絶するように眠り五時間しか寝ていなかった身体に活を入れ、時田は出勤の準備をするべく、玄関から回れ右をして洗面台に急ぐ。
「3時間前に通報がありました。場所はここから8km先の住宅街ッス」
淡々とした玄関からの報告を肩耳にたっぷりの洗剤とお湯で顔を洗い、軽くうがいをしてから調子を整え、消臭抗菌スプレーを施し服装も正して準備は万端。
「……行くか」
杞憂ながらも仕事はないがしろにはせず、時田警部は灰原警部補を連れて現場に赴く。
○
パトカーの中で後輩の用意していた軽食にありつき、少し遅めの朝ごはんを済ませて、渋滞に悩まされることなく案外早めに二人は現場に到着。突然の出来事である今回の事件、突然であるからして人だかりが沢山と。
現場にはブルーシートと通報を聞いたパトカー、鑑識の車が合わせて四台ほど。おまけに周囲には何処から嗅ぎつけてきたのかマスコミが群がっている。
聞き耳を立てれば、現場となった一軒家に住む彼は特に目立った人間でもなく、挨拶も欠かさない普通の好青年だったようだ。
人だかりに杞憂な表情を浮かべつつ、灰原はランプを光らせた乗用車を現場近くの道路脇に止める。
「灰原。装備は後ろか?」
「ハイ、トランクの中ッス」
頭髪を落とさないためのネット付きの帽子、新品の白い手袋、靴を覆う吸着式のシューズカバー、マスクをトランクから取り出した二人は現場へと向かう。
「東京ダースの荒川です。今回も例の殺人事件とお聞きしましたが?」
「さあな。」
生返事でTV記者を押し退け、闖入者を制止する仕事を黙々とこなす警官に馴れた手つきで手帳を見せ、電光のテープを通って現場入り。同じくして後ろを灰原が付いて来く。
「非番に事件とは災難でしたね。時田さん」
「ああ、ホントにな。で、何があったんだ?」
二人を出迎えるかの様にブルーシートの向こう側に居たのは、とりあえずの現場保存の指揮を執っていた警官の一人―――時田の同僚で年下の、くせ毛が目立つ『佐野島 良二』だ。
「でも丁度よかったですよ。鑑識の仕事もだいたい済んでますから」
彼は持っていたタブレットを操作して、適当に書き連ねられた調査記録を時田に提供。
「……通報されたのは7時頃。発見者は仕事先の上司、一週間の有給休暇から戻ってこないので様子を見に来たら死体があった。事情聴取と現場の状況から見て…」
「例の如く証拠なしの殺人事件か……」
「ま、見た方が早いでしょうね。二人とも現場入りの装備は持ってますか?」
「もちろんッスよ佐野島さん。ジブンちゃんと準備してきましたんで!」
ズビシッとサムズアップする灰原警部補を後目に時田はそそくさと準備、完了。灰原も多少焦りつつマスクとヘアキャップをかぶり、手袋をはめてシューズカバーを靴にかぶせて空気を抜けば現場立ち入り用の服装に変身完了。
三人はビニールの歩行帯を歩きブルーシートをめくって玄関から中へと入る。
家の中は結構広く、二人や三人が住むことで丁度良い大きさ。木造と瓦、室内には土壁と昔ながらの造りと言えるだろうが、乾いた大量の血液がその一部を彩っていては台無しである。
今は現場を調べる鑑識が出張っているので室内は案外狭く感じるものの一人で暮らすには少し手の余る広さだ。
「害者の名前は『十川 四朗』。年齢は22歳で、配偶者やおらず独身。両親は海外旅行の際に不幸な事故にあって4年前に死去。死亡推定時刻は5日ほど前、死因は首を刎ねられたことによる出血性ショック死で、凶器は今のところ不明…―――」
「そして、今回で5件目ッスね……」
佐野島の説明を片目に、見慣れた光景、というよりも現場には見慣れた物があった。
物証の目印として置かれたナンバープレートではなく、被害者の一部と倒れていた場所に描かれてあるチョーク・アウトラインでもない。
八つの柱が建てられた円形のウォークマシーン。鳥かごの様な見かけをしたソレは、前四件を調べてた際にもあった代物だ。
「そういえば灰原。前に頼んでいた件はどうだった?」
現場にて右往左往と首を振って自らの所感をメモに留めていた灰原は声を掛けられて苦い顔をして振り向く。
結果がなんにせよ、聞かれれば答えなければならず。灰原は「あー…」と言い含み、メモのページをパラパラと戻す。
「駄目でした。『ライフ&ピースマン社』に問い合わせた所、【ブレイスラル・ファンタズム】のプレゼントキャンペーン顧客の名簿記録を持った担当は海外出張に出ているそうです」
「バックアップデータも無かったのか?」
「はい…あ、でもデータが無かったには無かったんですが、2日後に出張した社員さんが帰ってくるそうなんで希望はあるッスよ!」
嫌味を言ったつもりではないのだろうが死体の前でガッツポーズで“希望”とか言うのはちょっと違うのではないかと、その空気の読まなさに時田と佐野島はちょっとばかし頭を抱えてバツ悪く溜息を吐いた。
「まあいい、それより今回はお前にどう見えている?」
「そっスね~……」
空気も読めず、若干人とずれている灰原だが刑事の素質は申し分なかった。
転勤早々この事件を担当することになった運の無い灰原警部補だが、彼の才能ともいえる特技には教育係である時田も舌を巻くほどだ。
「死亡推定時刻は確かに5日前。11月という事もあり、死体はあまり腐敗していなかった。場所もここなのは確定でしょう」
黒い手帳に書き連なれた文字とゲンジョウを見比べて、灰原は現場を再現するかのように歩行帯の上で右往左往しつつ演劇みたく説明を始める。
「犯人の物証はありそうか?」
劇団ハイバラは人間らしく、否定の思考として首を横に振り説明を続けた。
「いつもの通り、被害者は84gのVRヘッドセットを装着。争った形跡や侵入した痕跡は皆無。ですが、被害者の彼には少しおかしな点があるッス」
あの一瞬で現場検証を終えたキャリア組の言葉に、時田と佐野島の二人は首を傾げる。
佐野島からタブレットを拝借し、ガイシャの情報を改めて時田は確認。
「高卒で平凡なフリーターの男。両親が海外旅行での事故で他界してから、一人暮らし――――何も目立った所は無いが…」
「いいえ、時田さん。注目すべきは彼の身体ッス」
「?! 何か見つかったのか」
犯人に繋がる証拠かと現場の全員が灰原の言葉に視線を向ける。ただ、たじろぐ位に灰原の調べた結果は予想の斜めをいく答え。
手持ちのブルーライトをポケットから取り出し、警部補は死体のその違和感を指し示した。
「腹部に3か所、背中に8か所の銃創。左肩と胸には切創を即席で縫った痕があります。――――かなり前の痕ッスけど、これらの怪我はとても普通の人間ではないッスね」
当の本人が驚きもせず淡々と済ませる報告に皆が口々に「どういう事だ?」と疑問に疑問を呼ぶ中で、時田はすかさず灰原のブルーライトをかすめ取るように奪い、示された個所を確認。
「………マジか。うっすらだが本当にある」
検視の為に服をめくられて露わになった遺体。
本当にうっすらと。そこにあったのは、触らなければ認識できないような気付くこともままならない、ほぼ完治しているクレーターのようになった間延びしている傷跡。
「それにこの家にも……―――――」
「ちょ、待ってください?! 今は…!!」
まばらな行脚がドタドタと。玄関先が騒がしいかと思えば、大人数を引き連れて誰かが唐突にやってきた。
そのリーダー格であろう男は率いていた連中が通れるよう思い切り襖を開き、現場に似つかわしくない軽いトーンでご挨拶。
「進捗どうですかな、時田さん?」
聞き覚えのある声色ながら聞き覚えしかなくこの場に似つかわしくもない彼には時田のみならず、鑑識の仕事を黙々とこなしていた彼等の視線も、同じくして声の主へと一斉に集まる。
「辰巳警視正……ッ、どうしてここに? それにそいつら……」
男の名前は『辰巳 兼定』。
インテリ組の期待の星で優秀かつ日の打ちどころのない天才。固めた髪は揺れ動くことなく、時田とは十二歳と年の離れた若い男。
「いやですね。署長って呼んでくださいよ、警部殿」
厭味ったらしく笑みを浮かべる辰巳署長だが、まだここにいる理由も聞いていないし、後ろの軍用装備の連中のことも聞かされていない。
時田含めて鑑識も作業の手を止めるほど異常も異常な事態に、或いは空気を入れ替えようと水を差すかの如く、これまたもう一人。署長とは違うベクトルでこの場に似つかわしくない人間が現れた。
「辰巳殿。からかうのもそこまでにしましょう。何より仕事で来たのですから物事を解決へと迅速に導くのが君たちの仕事でしょう」
この場にそぐわない様な見てくれをした、例えばモデルの様な顔立ちの人間。
恐らくはハーフだろう金髪碧眼に欧米色のある顔立ち。白シャツにジーパンとラフな格好をしている。
「皆さん初めまして。私は、了。『護帝 了』という人間です」
「“護帝”って、あの“護帝”ッスか?!」
灰原の驚きを隠さない一言でもはや周囲は仕事の雰囲気ではなく動揺と緊張感に包まれる。
無理もなかった。
元は京を守るべく闇と影と血だまりの中で現代に至るまで国に奉仕していた存在―――かつ、先の世界全ての電子機器が一斉に不具合を起こした『2038問題』の際に霞が関を占拠し、自分たちの歴史の公開と政治家の汚職の一斉検挙…という名の粛清を行った一族。
ほとぼりの冷めた現在は“護帝院”の名を“護帝”と改名し、一政治家として一族が汚職議員と入れ替わる形で政に関わっているものの、実権は護帝の長『護帝 魍魎』にある。
「ええ、そうです。ですが、兄のように政治色は強くありません。今の私はただの一介の探偵ですので」
「やー、でも、今は……」
「大陸で戦争中にある、ですか? ご安心を。U連合国の勝利が確信された今では、内輪揉めを続けているC連邦の敗北は必至です。我々…ではなく護帝軍警察の仕事は戦火の火の粉がこちらに飛んでこぬよう防衛、監視を継続するだけですので」
探偵であることの証明と説明に名刺を渡されて「ほへ~」と両手で受け取って呑気に感心している灰原とは違い、皆の顔が青くなっているのは理由があった。
日本の海域にいくつかの海上プラントと無人島に基地を構え、有事の際には日本国内にて銃の携帯を許可されている書類上は民間軍事会社の護帝軍警察。彼らの粛清は、政治家のみならず、善も悪も清濁併せ吞む全てを粛清の対象とした。
その一つが警察組織である。
汚職、傲慢、警察組織に蔓延っていたそれら全てを洗い流し、現職の七割が牢屋か死刑か職を失い、代わりに銃を持たない護帝軍警察がその穴埋めをした法律を順守した大事件。
多少無理やりな捜査ながら首根っこを掴まれたままの裏取りは真実を白日の元へと晒し、護帝の一族が虐げられていた事もあって民意は警察の総意を上回ったのだ。
ただ、もちろんの事。
強硬な手段を取る護帝軍警察にはレッテルとして事実を歪めたのではないかと、警察内部から確証の無い噂が飛び交い「いつ牢屋に入れられるのか」や「突然首を切られるしまう」なんて大きな噂の尾ひれがちらつき、関係者各位は戦々恐々としているのである。
「辰巳殿、そろそろ」
意味深に今は探偵の護帝家関係者が署長に目配せをし、辰巳警視正はというと頷いておもむろに携帯を取り出し操作。
「ああ、ちょっと待ってくださいね」
「誰に電話かけてるんです?」
佐野島の質問に手をかざし、耳を傾け三度のコール。
集中していた警視正は繋がるや否や、物腰低く「お待たせして申し訳ございません」と一言謝罪を述べ、はいはいと相づちの後にこちらへと携帯を差し出す。
「時田さん。失礼の無いようお願いしますね?」
「……何だってんだ?」
怪訝な眼差しながらも時田は差し出された携帯を渋々と受け取り、耳へとあてがう。
「ハイ、もしもし。時田ですが………」
「初めまして時田警部。私の事は聞いているかね?」
先方の質問に時田は署長殿から何も聞いていないことを目配せで確認し、当の本人は下手にはにかんでいたので否定した。
「そうか……私の名は間宮、『間宮 達郎』この名に覚えは?」
「け…警視総監殿ッ?!!」
時田の綺麗なオウム返しには、能天気な灰原を含めたこの場の関係者全員も流石に動揺を隠せないでおり、電話越しに警察の最高権力者である警視総監『間宮 達郎』は周囲の状況を把握して聞く姿勢になったところで話を進める。
「辰巳君から聞いたよ。君は古い刑事だから書類で済ませるよりも肉声を聞かせた方が納得できるそうじゃないか?」
「いえ、私は……」
「そう謙遜しなくてもいい。あの粛清で職を失わないでいるのだから君は正しい人間だ」
「あ、は、はい! ありがとうございますッ」
思わぬねぎらいの言葉に時田は柄にもなく委縮して斜め四十五度の一礼。
「じゃあ、辰巳君が来た経緯を説明するよ。とはいえ、そこまで話すこともないのだけどね」
若干呆れた声音ながら態度は崩さない警視総監の言葉を一礼の姿勢のまま時田警部は傾聴。
「今回の事件、国会にも挙がっていてね。私は状況を鑑み、事件の早期解決を護帝軍警察に依頼した」
「な、なんですって?!」
護帝軍警察が現場に踏み込んでいる今の状況は警視総監が原因だと、思わず硬直していた姿勢を崩し、時田は電話に前のめりとなる。
「事件を追う君たちの気持ちもわかる……だが、常に後手に回り結果を出していない事に市民は恐怖におびえている。よって、今日から護帝軍警察に捜査本部を移すことにしたんだ」
「ですが、移行といっても書類がまだ…」
「ああ、安心してくれ。後、5時間もすれば護帝軍警察の本隊がマシギ署に到着するだろうから、時田君たちは今から戻って引継ぎ用にまとめておけば問題はないよ」
「……………分かりました」
警視総監直々の“結果を出していない”という通告と予想以上の根回しに何の反論も許されず、時田はただ頷いて返答するだけであった。
「理解が早くて助かるよ。では切るよ、これでも忙しい身なのでね」
間宮警視総監との通話が終わり、見計らって辰巳警視正はうなだれる時田から携帯を取り上げて咳払い。
「あなたは古い刑事ですからね。書類じゃあなく肉声で説明かほしいと殴り込みにでも行かれたら困りますから、こうして総監殿に応対をしてもらった次第なのです」
これ以上言うことはないと辰巳署長は周囲を見渡し深呼吸。
「話は聞いた通りです」
そうして、この場の全員にに聞こえるよう少しばかり声を張った。
「皆さん! これからこの現場は護帝軍警察に一任する事となりました。よって今すぐ作業を中断し、速やかに帰署をお願いします!!」
●
「はぁ…何だってんだ……」
碌な仕事もせずハイ終了と言われた挙句、とんぼ返りで警察署に到着後の駐車場。時田正は無駄足と休日出勤のダブルパンチでどっと疲れた顔を拭う。
雲は陰り、雨音はポツポツと。うなだれたままの時田にハンドルを握る灰原はどうすればいいか分からず、何を言おうかと口を開けたまま迷走中だ。
「……灰原」
「ッはい!? どしたんスか?!!」
「うるせぇ。声落とせ」
「……ス」
事件は自分たちの手から離れて後は引継ぎ用の書類をまとめるだけ。だが、一点だけあの場で聞きそびれたことがあった。
「そういえばあの時、何言おうとしてたんだ?」
「あのとき……?」
「アイツら…じゃなくて署長殿が護帝軍警を連れてくる前さ。直前に家がどうとか……て言おうとしてたろ?」
「……あー、ハイハイ!」
ピコン、という効果音が似合うくらいに灰原は思い出した顔をしてサイドブレーキを引き、後部座席に置いてあったタブレット端末を手に取る。
「実は時田さんとの捜査前に家の間取りを自動的に書き出してくれるAIアプリの『Laplace』にゲンジョウの写真を食わせてたんですよ」
「AIアプリ……? 大丈夫なのかソレ」
怪訝な顔をする時田に灰原は笑顔でサムズアップ。
「自分のパソコンとタブレット端末だけのスタンドアローンなんで情報漏れの心配はないッス」
「あー、そうか。機械の事は詳しく分からんが…まあいい。それで、言わんとしてたことは何だったんだ?」
「これッスよ」
灰原から端末を受け取り、並べられた画像に目を通す。
家を東西南北から撮った写真、AIで書かれた間取り図と写真から生成された空から見下ろした家の画像。合計六枚の画像には赤線で灰原の注釈が書かれている。
「……確かにおかしいな。AIが正確じゃなくとも写真と見比べれば一目瞭然だ」
「やっぱそッスよね~。実際に中に入って改めて気づいたんスよ。いくら二階建てから平屋に改装したってこんな大きい物置にならないデットスペースなんて、消すに越したことにないんスから」
「それにしても……何の為にこんな場所を?」
才能ある灰原でこそ気づけた違和感。
人一人が優に入れる間取りの空白を見つめ、時田正は事件を追い求める自らの勘に従い、決意した。
「灰原、引継ぎの作業が終わったらオレはしばらく有休を取る」
「はいッス……て、エェ?! 時田さんまさか……」
「すまないがお前の教育係は佐野島に任せる。―――――この事件、どうやら終わらせようとしているヤツらがいるようだからな」




