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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第一章【白銀の英雄】
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第一章 24 【双角の英雄】

「報告します。過半数の憲兵を住民の護衛として残し、規定通りにコルコタ自然公園へと住民の避難完了しました!! 避難誘導と救助を終えた残る冒険者と憲兵が応援にこちらへと向かっている模様!!」


「時間は?!」


「おおよそ三十分かと思われます!!」


「…クッ、そうか。聞いたかお前達?!  残り三十分、応援が来るまで…死に物狂いで踏ん張り続けろォッッ!!」


 商業都市コルコタ、旅人区と歓楽街区に挟まれた東門に通ずる大通りの中腹にて。

 三組づつに分けた鉄製の拒馬を道幅一杯に段々と設けて、瓦礫も含めた最終防衛線。

 ()()()()()と、気付かぬまま。拒馬を軽々と超えて来る死肉の触手群(それら)を退けるは、鶴翼に陣を組んだ冒険者と憲兵だ。


「「「応ッッ!!!」」」


 その中心ともいえる彼が雄叫ぶように鼓舞すれば、皆は応じて高々と声を上げて手や足を動かした。

 左手には冒険者の勢力があり、手慣れたように炎の魔法や弓で迎撃を。

 右手には憲兵達の勢力があり、その息の合った槍での連携は悉く死の尖兵を撃退し。

 左右が討ち損じれば、陣形の最奥に居る男とその私兵が多少硬い動きながら倒し切る、押し留める。


(いける…か?)


 ただいまの総勢、五十名。現場で対処するは第四級以下の冒険者。であっても、応援が来たならこの終わりの無い戦いに勝てるのではないかと男は思った。

 男は彼等の総大将であり、冒険者でもなく、憲兵でもなく。

 雑に切っていながらもツヤのある白髪交じりの金髪、恰幅も良く着ているのは装飾に凝った軽鎧。見てくれや立場的に言えば『上流階級』という言葉がピッタリで、前線で現場の指揮を執るなんて事はあり得ないだろう。

 男の名はラダク・トードウ。商業都市コルコタの都長であった。


「トードウさん?!」


「わかっておる!! フンッ―――!」


 人の形となった死肉の触手の頭蓋をカチ割り、渾身の一撃で真っ二つ。

 コルコタの都長。しかして、その立ち回りや斧の振り方に雰囲気と死肉の触手を倒す様は内勤とは思えぬほどに戦闘経験のある動きで、忙しいながらも部下から僅かに歓声がある。


(しっかし…なぜワシが―――)


 上に立つ者として町の危機に率先して立ち向かい現場で直接の指示を出す、部下と共に魔物を撃退していく。

 尊敬される働きをしながらに、トードウの心中は真反対。現状況に物凄く悪態をついていた。


(―――…毎度毎度()()()()に代わって貧乏くじを引かねばならんのか?!)


 ()()()()とは、旧知の間柄で元は同じ冒険者仲間(チーム)であった冒険者組合コルコタ支部長、魔法組合コルコタ支部長の事である。

 ウォルド・バークとルーデン・ハルトス。コルコタの防衛において憲兵長ともに他の三箇所を任せている二人。

 憲兵長はともかくとして、あの両名が絡めばロクな事がないのは冒険者時代によく理解しており『貧乏くじ』と言ったのも所謂ソレだ。

 例えば、コウヒンという種類の雌鹿を五匹納品する際にウォルドの弓が運悪く、鹿を同じように狙っていた六足の黒熊“グバオス”の尻に刺さって、追い立て役を買って出た自分のみが追いかけまわされたり。

 例えば、依頼された錬金魔法の材料として魔石を取りに行った時には、ルーデンがその強欲から魔石を多く取ってしまい山の主である“ドグラグ”という竜を怒らせて、何故か自分だけに泥のブレスが直撃したりと。

 二人が絡めば運が無い事この上ないラダク・トードウ。現状を鑑みれば今回も残念ながらその通りであった。


「怪我をした者は前線を後退し、後方にいる治癒専門の神官や魔法使い(ウィザード)に治療を頼め!! 治療費は我らが持つ。死霊対策にありったけの聖水も持ってこい!!」


 有事の際、コルコタを含むすべての商業都市には都市災害に対しての手引書(マニュアル)がコベルニクスより支給される。

 今回の事例。その手引書(マニュアル)に従い、ルーデンは西門大通りを、ウォルドは北門大通りを、憲兵長は南門大通り及び住民の避難を担当している。


(このまま持ちこたえればよいが、楽観視はいかんな。こちらに比べ、軍勢で攻めてくるやつらの勢いは全く衰えておらん………)


 そして、西と北と南での攻防は終わり。残るはここ東門への大通りのみ。

 つまるところ、死者が欲し、死霊が恨む、生者の大群が手に届く範囲で居るのはここだけ。となれば死者死霊の“餌”…ないし、欲するモノにやつらが押し寄せるのは当然の帰結。


「まったく…」


 他の三箇所もここの比ではないが激戦だったと聞いている。激戦を無事終えた働きを貶す訳ではないが、やつらを食い止める“貧乏くじ”は変わってほしかったと、ラダクは攻撃を凌ぎながらに余裕無く言葉を吐き捨てる。

 ある日、この商業都市コルコタでコベルニクスの女王より、仲間と共に都長に見初められたラダク・トードウ。

 その矜持と意地で持ちこたえている現状況、傾き始めたのはこれより一呼吸おいてからだった。


「一体なぜ、こんなにも死者どもが…――――」


 自然発生したモノならば、そろそろ数が減ってもいい頃合いだろうと。

 目に見えて三十は越える数の死の触手群。生者を渇望する呻きを上げながら襲い掛かってくるそれらを一蹴しつつ、ラダクは答えの無い疑問を口に出す。


「と、トードウさん……敵、死霊退いていきます」


 死者死霊には()()という概念は無く、挑むのならば短期決戦でなければならない。

 これは、死者死霊を相手取る場合のもっとも初歩的な知識の一つ。そして、ラダクの指揮する防衛線はこの知識に倣っていなかった。

 では、どうなるか?簡単だ。

 防衛線を維持する皆の疲労が困憊し、思考は鈍り、やつらの有利は確定である。


「な、なに…?」


 だが、やつらはしゅるしゅると蛇のようにその身体を後退させていた――――疲労困憊という訳でもあるまいに。

 その異変。何なのかを理解するのに、そう時間はかからなかった。


「な、あ…」

「え…?」

「…おいおい」


 建物を燃やし続ける炎とその煙、暇のない戦闘の最中で彼等には見えなかったヤツの正体…全体図。

 細身ながらも大きく、血みどろながらも健康体。いや、血肉の全てが死者の坩堝“死肉の巨人(レクディオプ)”。鉄製の拒馬を文字通りに飲み込み、慣れない足取りで仁王立ち。

 死者であるままに、恐怖の存在のままに巨人が一体。その姿を見た途端、冒険者や憲兵が口々に震える声上げ始めた。

 その時、彼等は理解できた。

 今の今まで苦戦を強いられていた触手群は、()()()()()()()であった事を。


「…………ッ」


 死者死霊系の魔物について彼等の知識は、死肉鬼(ゾググ)や吸血鬼に血を吸われた非童貞・非処女がなる屍鬼(グール)、吸血鬼のなりそこない吸血屍鬼(ヴァング)など有名なモノばかりで相対した実例も少ない。

 これは冒険者の決まり故の弊害で討伐した魔物の処理を徹底する為に、死者死霊が自然に湧きずらいのだ。

 死者が迷わずあの世へと向かうのはそれこそ正しくて良いことではあるが、今の彼等にとってその経験不足は仇となっている。加えて、冒険者の手引書でも資料の少ない上に出会うことがない珍しい魔物“死肉の巨人(レクディオプ)”への対処法は、死者死霊と同じように火に弱いというのが共通認識。


「ふー、ふー………ッッ!!」


 対処法は単純かつ正解。ただ、それは喜ばしい事ではない。

 人間種、ゴリブ、エルフ、蜥蜴人(フラシュト)竜種(ドラゴン)邪眼怪魔(マカラサヌ)などなど…それらすべての死に様、怨念、肉、全てを内包した存在――“死肉の巨人(レクディオプ)”――に対しての無知とは…“知らず”とは即ち、恐怖という感情に直結する。

 鶴翼の陣形を組んだ歴戦とはいえずとも、それなりな実力を持つ第四級以下の冒険者と憲兵。

 ある者は奥歯をガチガチと鳴らし、またある者は全身を震わせて、呼吸は乱れて震え、地獄の底のような一体の死霊にくぎ付けとなり。


「――――――あ」


 ただ、息をするだけ。

 ただ、息を飲むだけ。

 ラダクさえも言葉出せぬ状況。皆の緊張が最大限に張り詰められた瞬間、名も知らぬ誰かが恐怖から持っていた剣を落としてしまった。


「いぃぃいいいいいやややぁあぁああッッッ!!!」


 それを始まりに、とある憲兵による恐怖の産声は瞬く間に陣を組んでいた全員に響き渡り、伝染した。

 死を体現した地獄の底を前に、全て腐り淀み恨む死の巨人の威圧感に、蜘蛛の子を散らすかの如く我先にと震え、皆は踵を返して持ち場を捨てて逃げて行く。

 知りたくない。

 見たくない。

 死にたくない、と。


「み、皆ッ、怯むな!! <精神鎮静(スピリ・スタブ)>の魔法で―――――」


 ラダクの横を甘ったるい死肉の臭いが通り過ぎれば、


「オレは、生きて帰ッ――――――クヒャ」


 いの一番に逃げていた男の情けない断末魔が聞こえた。


「止め…――――」


 這いつくばるように逃げていた者の制止も、虚しく終わる。

 死肉で出来た触手の群改め、死の末端の軍勢は百を超す数と暴食ともとれる勢いで阿鼻叫喚に逃げ惑う彼等を食い散らかす。

 突き刺し。

 切り刻み。

 頬張り。

 ありとあらゆる手段で残酷な死を撒き散らしていく。


「トードウさん…!!」


 陣形を崩さず何とか首の皮一枚の精神力で現状を保持しようとするラダクとその私兵―――――いや、周りで起こりゆく地獄に対処できなかっただけだった。

 部下の一人に声を掛けられてもラダク・トードウは一言も声を上げることはできず。


「き、きたぁッッ?!!」


 遂には巨人が動き、街をも飲み込まんとする巨大な一歩をラダクの眼前に踏みしめてレクディオプはやって来る。

 それも強力な魔物を連れて。


岩石龍(スロクト・ドラゴ)………?!」


 ラダクが目にして叫んだのは紛れもなく竜種(ドラゴン)の上位種である龍種(ドラゴ)、その首が一本。

 緑の鱗に猛々しかったであろう眼孔は潰れており、恐ろしく鋭利だった牙はボロボロに抜け落ちて、芋虫のように蠢く岩石龍(スロクト・ドラゴ)

 動く者を追う習性でもあるのか、その健在な石化のブレスは理性を立て直した冒険者や憲兵の矢に魔法を石に変えて悉く撃ち落としている。

 器用に宿主を守るその様。

 見てくれこそ悪いが、おとぎ話でよく聞いた龍が守護する城であった。

 

『ぐぅうるうるるうう………』


 亡者となった岩石龍(スロクト・ドラゴ)が遂に動かぬラダクの一団へと、目は無いものの視線を移す。

 城を守護するドラゴンは口を開き、狙いを定めて、深々と息を吸い込んだ。


(いかんッッ――――!!)


 石化のブレスは魔法をも撃ち落とす一撃で、加えて生前と変わりない威力だろう。

 防御の布陣で持ち場を守るラダクを含めた十名。恐怖からかラダクの判断は遅く、今からでは広範囲の生物を石化させるブレスより逃げる事は当然に叶わず。


「ああ…」


 矜持なんぞかなぐり捨てて、逃げておけばよかったと末期の彼は悟った。


「セリャァァッッッ―――――!!!」


 その雄叫びのような声が響くまでは―――。

 鉄火の如き一撃が見てくれの悪い龍を屠るまでは―――。


「よォ。応援に来るにゃあ、丁度いい頃合いだったか?」


 亡者たる岩石龍の生首があった場所には、美しき炎と空の色を飾った小さな戦槌が振り下ろされて粉々に。

 手のひらよりも少し大きい武器を振るうは、朱色の下駄とだぼっとした深緑の脚衣を履き、焔の装飾を施した藍色の羽織、胸にサラシを巻いた燃え滾る様な瞳と髪を雑に上げた女性。

 そして、その胸元には駆け出し冒険者の証『銅で作られた金属板(ブロンズプレート)』。

 そして、その額には立派な赤黒い角が二本。


「双角の魔人…?! いや…」


 彼女が岩石龍をすり潰した事で死肉の巨人の二歩目が止まり、ラダクの()()()()()()は周囲に響くぐらいに聞こえた―――いや、聞こえてしまった。

 二本の角を生やした彼女の事は聞き及んでいたが、いざ目の前にすればラダクの口からその言葉が漏れるのは必至。さすれば、理性を魔法や自力で取り戻した冒険者と憲兵の視線が一斉に彼女、獄炎火煉の元へ集う。


「あ、あぁ~…どっかで額当てが脱げてたっぽいな」


 その視線に火煉はバツの悪そうに額を擦って苦笑いをするものの、彼等にとって双角の魔人への恐怖心はたった二十年前の出来事。

 “青霧の晩”という王国在住でなくとも、その恐ろしい話を知らぬ者はいない。冒険者であるならば、町を守る憲兵であるならば尚更だ。

 岩石龍を退けた一時の暇によって、彼等は顔を突き合わせ答えの出ぬ疑問を口々にしはじめた。

 類まれなる彼女の強さよりも、額の二本角(まじん)という恐怖へと“不安”という材料を持ってして。


『うぅうららららあぁぁっっ――――!!』


 そうこうしている内に動きを止めた死肉の巨人は体勢を立て直し眼下を望むと、更なる死の軍勢を十、二十と火煉へと()()()

 呻きながら真っ直ぐと。戦士や弓兵の真似事をした亡者が火煉目指してやって来た。


「そぉらッ!」


 双角の魔人という不安分子に動ける者がおらぬ今、渦中の火煉は振り返り亡者共を一振りで叩く、潰す燃やす焦がすの大仕事。


「トードウさん、彼女は味方なのですか?!」


 あれだけ苦戦を強いられていた本体の末端を悉く退ける彼女の勇姿。それを見た私兵の一人が、ラダクに問いかける。

 

(………だが)


 部下の疑問、答えを簡潔に述べるのなら「そうだ」と言えよう。

 新人冒険者の情報については商業都市の都長として一応に目を通すようになっていて、最前線で戦っている彼女…冒険者チーム“白銀”に所属する獄炎火煉の事は知っているし、友人二人から話も聞いている。

 ただ、それだけの情報で“青霧の晩”の恐怖を拭い去る保証にはならないのだ。

 もしかしたら、あの亡者の塊と彼女は繋がっているのかもしれない。

 もしかしたら、敵対はしているものの次に狙われるのはこちらかもしれない。

 この商業都市コルコタを治める都長として軽率な言葉で困惑する、恐怖する冒険者たちを諫めることは正直って難しい。


「オイ」


「は、はイ!?」


「邪魔だぜアンタら。逃げるなりなんなりしろよな」


 未だ最前線で戦槌を振るう火煉よりドスの効いた声で諭されて、押し黙る事しかできないラダク・トードウの返事は思わず上ずってしまう。


「………ッ」


 全くもっての正論に、亡者一匹も通さない彼女の勇姿に。ラダクは上に立つ者として、悔しさと自らの不甲斐なさをバネに頭をフル回転させた。

 “誰が敵で、誰が味方か”。

 魔人に似た冒険者と亡者。どちらに付くこともままならない佳境でラダクの言葉よりも速く、後方より<火球(フォルボ)>の一撃が亡者に着弾する。


「おせーぞ、フィリアナ」


「ごめんなさい。少し手間取ったわ」


 亡者をいとも簡単に燃やし尽くしたのは、清廉な雰囲気漂う木の杖を携えている翡翠色の髪をしたエルフ。

 魔法使い(ウィザード)である彼女の事もラダクは知ってた。二本角の獄炎火煉と同じく“白銀”に所属する一人、フィリアナ・ルーゲル・フェンドルド。

 妻には敵わぬが、まるで女神の如く美しい彼女はそう言うと獄炎火煉の隣に立ち、魔法の杖を振りかざし思うがままに敵を燃やす。


「………クソッ!」


 突如、自らに活を入れるような吐き捨てる声が聞こえた。見ればそれは、首に鋼鉄の金属板(プレート)を下げている若い男の冒険者であった。


「銅板に負けてられるかよ!!」


 彼はそう言うと二人の真似をする様に戦いの最前線に並び、敵を斬り裂き後退させる。


「ええ、そうね」


 彼の仲間であろう第三級を示す金属板(プレート)を首から下げた女性は弓をつがえて。

 ヒュン、という音を立てて一矢を亡者の脳天に命中させる。


「…オ、オレも戦うぜ!」


「私も! だって二人は仲間よ、冒険者よ!! 例え魔人みたいに角が生えていようと、こんな心強い助っ人は居ないわ!!」


「ああ。恩人には恩を返さねぇとなっ!!」


 一人、二人と自らに言い聞かせるようにして双角を額に生やす獄炎火煉という人物を彼等は信用し、賛同し始めた―――――数人、まるで糸に操られたように或いは負けん気で空元気を震わせて。意識の渦は濁流となって一つに引き絞られる。

 もはや彼らの団結力に敵は無し。

 ラダクもこの勢いに乗じて、戦線を整える鬨の声を発した。


「各員傾注!! 私のいる位置を戦場の後方とし、怪我をした者や中距離支援に特化した者はこちらに回れ!!――――この戦い、勝つぞッ!!」


 終わりの見えぬ戦いに光明が差し、この場全ての人間の士気は怒涛の如く雄たけびを上げて高揚する。


「のう。お主」


「て、おうわッッッ?!!」


 鬨の声よりも小さいが、まあそれなりに腑抜けた声でラダクは唐突に現れた少女に困惑した。

 黒髪で金の目をした至極色の少女で、首には銅の金属板(プレート)。顔はもちろん知っており“白銀”の一人、ニーナ・レイオールドその人だ。

 このような目立つ身なりで脇に立っていたなら見逃すはずもないのだが、と思っていたら少女は見かねたように溜息をついて口を開いた。


「ロー様が黒幕を倒すまでの間、こちらは任せるとの事じゃ」


「く、黒幕?!」


 ラダクの驚きに少女は頷いた。


「うむ。黒幕は魔石を媒介にして、この“死肉の巨人(レクディオプ)”を操っているそうじゃ―――ま、その辺りはロー様が黒幕を倒してみればわかろうとて」


「そ、そうか、分かった。で、キミは…――――」


 ラダクが声を掛けようとすれば、左右を見渡しても少女はおらず。

 そうして、いなくなったニーナ・レイオールドに代わるようにか、レクディオプは本腰を上げてその巨体と死の軍勢を動かしてこちらへと進軍し始めた。


「…さぁてと。いっちょやろうか!!」


 人々と最前線で轡を並べたもはや双角の魔人ではない彼女、獄炎火煉は自前の戦槌をゆっくりと構え直す。


「ええ、そうね火煉。皆さんも無理をなさらないように!」


 慈愛の女神が如く、フィリアナ・ルーゲル・フェンドルドは火煉の横に立ち、皆を守る形で魔法の杖をふるう。

 商業都市コルコタ、旅人区と歓楽区に挟まれた東門に通ずる大通りの中腹にて。

 ただいまの総勢、三十二名。

 冒険者として最底辺、額には双角。本来なら疎まれるであろう彼女は英雄となって最前線へと加わり、死肉の巨人(レクディオプ)討伐作戦は最終局面へと至る。

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